ミリタリー

世界最強の化学兵器ランキング15

「化学兵器」は材料が容易に入手でき、核兵器よりもはるかに小さなコストで開発・製造、そして敵に大規模な損害を与えることができる兵器といわれます。
各種条約で制限を受けながらも今なお世界中で使用され続けられている化学兵器。
今回はこれまで開発されてきた化学兵器のなかで、特に強力といわれる15種を選び、ランキング形式でご紹介していきます。

 

そもそも化学兵器とは?

15種をご紹介する前に、「化学兵器」そのものについて少し触れておきましょう。

そもそも「化学兵器」とはどういうものか?
化学兵器の廃絶をめざし1997年4月に発効された「化学兵器の開発、生産、貯蔵および使用並びに廃棄に関する条約(通称:化学兵器禁止条約)」では、以下のように記されています。

(a)毒性化学物質及びその前駆物質。ただし,この条約によって禁止されていない目的のため のものであり,かつ,種類及び量が当該目的に適合する場合を除く。
(b)弾薬類及び装置であって,その使用の結果放出されることとなる(a)に規定する毒性化学物質の毒性によって,死その他の害を引き起こすように特別に設計されたもの
(c)(b)に規定する弾薬類及び装置の使用に直接関連して使用するように特別に設計された装置

引用:外務省HP https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bwc/cwc/jyoyaku/pdfs/05.pdf より抜粋

少々難解な表現方法をしていますが、要するにまとめると「毒性をもった化学物質を利用し、その特性によってヒトや動物などを死傷させる兵器」である、ということを言っています。

 

化学兵器=毒ガスではない

「化学兵器」というと、最初に浮かぶイメージは「毒ガス」です。
それぞれの特性からみるとあながち間違ってはいませんが、厳密な定義をしていくと、必ずしもそうだとはいえないのがこの兵器の特徴です。

ガス、というのはある特定の物質が気体化したものですが、実は化学兵器の場合、毒性物質を気体化させたものの方が少なく、もともと液体や固体であるものを微粒子状(エアロゾル)化して放出するというものが大半を占めているのです。

ガスのようにみえますが厳密にはガスではないということになり、そこがややこしいところかもしれません。

 

「化学兵器の性能」を表すものは

引用:http://xn----7sbb4afccxgjthx0d2a.xn--p1ai/penza-khimoruzhiya-net.html

兵器の性能(破壊力)は、それぞれの兵器の特性により基準が異なっています。

銃や砲ではその口径(砲口の内径)や口径長(砲口の内径の○倍で表示し、砲身の長さを表す)、さらに発射速度や射程がその性能を表す基準として用いられていますし、核兵器などはその爆発力をTNT火薬の量に置き換えて示しています。

化学兵器の場合、その性能を表す基準として、1.毒性、2.持続性、3.安定性などが総合的に用いられています。

  1. 「毒性」については、「ヒト半数致死量」という基準が用いられています。
    これは、ある一定以上の数の集団に対して化学兵器が用いられた場合に、その半数が死に至るだけの化学物質の量を示すもので、空気1立方メートル(あるいは体重1キログラム)あたりのグラム数(キログラム数)等で表されます。

  2. 「持続性」は、用いられた化学兵器がどれだけその場所に対して作用し続けるか(地表やその地域の大気に)、を表しています。
    化学兵器は風などの大気の影響により、物質が拡散されてしまうと効果が発揮できません。
    また液体や固体の場合、その物質のもつ揮発性にも影響してきます。
    揮発しやすいかどうかを表す単位としてはミリグラム/m3があり、この数値が高ければ高いほど揮発性も高いことになります。

  3. 「安定性」は、その物質が大気や水、太陽光などとの接触で無毒化してしまわないかどうかを示しています。
    化学物質によっては、空気中では高い毒性を示すものの、水との接触で無毒化してしまう、などといったようなものもあります。
    有毒のまま安定した状態を保てるかどうかが一つのキーとなっています。

 

「化学兵器の分類」

引用:http://parstoday.com/ja/news/world-i1981

「化学兵器」は以下の5種類に分類されます。


・神経剤
・窒息剤
・びらん剤
・血液剤
・暴徒鎮圧剤

「神経剤」とは、有機リン化合物を主体としてつくられた化学兵器で、神経伝達機構を破壊しやがて死に至らしめるというものです。

「窒息剤」は、その名の通り、呼吸器系に作用して窒息状態を引き起こし、死に至らしめる化学兵器です。

「びらん剤」は、皮膚がずる剥ける状態(びらん状態)になる化学兵器で、致死率は他のものに比べると低めです。
戦闘能力を封じ、士気の低下をもたらすことを主目的に多用される傾向にあります。

「血液剤」は、化学物質が体内に吸収された後に血液を通して全身に行き渡り、そこで毒性を発揮する、という化学兵器です。

「暴動鎮圧剤」は、一時的に身体の機能をマヒさせて戦意の喪失を図るのを主目的とする化学兵器です。
ここでは「化学兵器」として扱っていますが、治安対策用であり軍事目的の兵器ではないとの理由で化学兵器扱いから除外すべきとの主張も一方では存在しています。

暴動鎮圧剤は、嘔吐剤、催涙剤(催涙ガス)、無気力剤などに分類されています。

嘔吐剤、催涙剤はその名の通り、嘔吐を誘発、涙が止まらなくする、という効果があり、無気力剤については、中枢神経に作用して一時的な興奮状態、躁鬱状態を作り出して身体機能を阻害、戦意を喪失させることを意図した化学兵器となっています。

 

世界最強の化学兵器をランキングするにあたり

以下ランキング形式で実際の化学兵器をみていきますが、評価をするにあたり前述の➀毒性、➁持続性、➂安定性に加え、④浸透性⑤使用頻度をオリジナルの判断基準として用いました。

④については、化学兵器に触れた際、皮膚や衣服などにどれだけ浸透するものかを示しています。

化学兵器には、それ自体を浴びても(吸い込みさえしなければ)異常をきたさないものもあれば、その成分がゴムをも浸透するものも存在しています。

そのようなタイプの場合には専門の装備が必要となり、特に戦場においては兵士の行動が大きく制約され、それが精神的なダメージにもつながります。
相手にダメージを与えれば与えるほど、兵器としては「優秀」となるわけです。

⑤は開発以後、実戦においてどれだけの頻度で使われてきているか、を示しています。

この5つの判断基準をそれぞれ★~★★★★★までで表示、その総合点でランキングを行っております。

 

世界最強の化学兵器ランキング(15位~11位)

ここでランクインした化学兵器については、使用例が少数であったり、既に配備を解かれてるものがメインとなっています。
また、その実態が不明なものもここに含まれていますので、今後何らかの形で全貌がわかったときにはランクが変動する可能性もあります。

 

15位 KOLOKOL-1

引用:http://ball.spb.ru/foto-nord-ost-terakt.html

①毒性   ★☆☆☆☆
②持続性  ☆☆☆☆☆(不明)
③安定性  ☆☆☆☆☆(不明)
④浸透性  ☆☆☆☆☆(不明)
⑤使用頻度 ★☆☆☆☆(モスクワ事件のみ)

分類:暴徒鎮圧用(無気力剤)
1970年代に旧ソ連で開発されたといわれ、2002年にチェチェン武装勢力によるモスクワ劇場占拠事件で使用されたことで明るみにでました。
化学兵器としては「新参」の部類に入ります。

現在においてもロシア側の情報公開がないため詳細は不明ですが、現場から麻酔剤として使用されるカルフェンタニルが検出されたことが2012年イギリスの研究者により発表されました。

この成分は、直接体内に投与された場合のヒト半数致死量0.012~0.025ミリグラム/m3になり、同じく麻酔剤として利用されているモルヒネの10000倍という強力なものです。

実際モスクワでの使用においては人質922人中129人が窒息もしくは中毒死しており、暴徒鎮圧剤としては致死率が異常に高いことから、その運用方法に対しては疑問が投げかけられています。

 

14位 BZ

引用:https://blog.goo.ne.jp/uejun8893/e/861dd8c56e160cd263fb62ce72ad5b62

①毒性   ★☆☆☆☆
②持続性  ☆☆☆☆☆(不明)
③安定性  ☆☆☆☆☆(不明)
④浸透性  ☆☆☆☆☆(不明)
⑤使用頻度 ★★☆☆☆(ベトナム戦争・ボスニア内戦)

分類:暴徒鎮圧剤(無気力剤)
1950年代にアメリカ陸軍により合成され、1962年より生産開始されました。
これまでのところ正式な使用例は報告されていませんが、ベトナム戦争やボスニア内戦での使用疑惑が取沙汰されています。

中毒量など詳細は不明で、吸い込んだときのヒト半数致死量は推定で毎分当たり200,000㎎/m3といわれ、また50㎍を吸い込んだだけで中毒症状が現れるということもいわれています。

症状としては、主なものとしては精神錯乱、また瞳孔拡大や口・皮膚の渇き、心拍数の上昇、幻覚や昏睡状態、運動失調症などが見受けられるといいます。

 

13位 ホスゲンオキシム

①毒性   ★★★★☆
②持続性  ☆☆☆☆☆(不明)
③安定性  ★☆☆☆☆
④浸透性  ★★★★★
⑤使用頻度 ☆☆☆☆(実戦使用なし)

分類:びらん剤
1929年にドイツの化学者プラントルとセネワルドが合成に成功して以降、ドイツとソ連において生産が開始されましたが実戦使用されず、現在に至るも実際に使用されていない、という化学兵器です。

常温では強い刺激臭を伴った水溶性の白色結晶粉末となっています。
ただ、常温でも容易に液体化する特性があって、その場合には黄色か褐色の液体となることが多いといいます。
水に溶けやすく、特にアルカリ性水溶液との接触で加水分解が促進されます。

毒性は吸った場合のヒト半数致死量が毎分当たり1500~2000ミリグラム/m3、皮膚に吸着した場合には毎分当たり100,000ミリグラム/m3
衣服やゴムに対する浸透速度は他の化学兵器よりも早く、また腐食性の性質をもつため、金属などについても、分解させながら腐食を進行させる特質をもっています。

遅効性のイペリットなどと異なり、びらん剤としては症状の発現速度が速いのも特徴で、浴びた直後からその部分に激しい痛みを感じ、眼や呼吸器には低濃度であっても強い刺激を感じるといわれています。

目においては、目の痛みから始まり、結膜炎や角膜炎、角膜障害、最悪では失明に至ります。
呼吸器系では、肺水腫、呼吸不全などにより致死に至る場合も想定されています。
皮膚については、周囲に痛みを伴うじんましん状の紅斑が発生し、それが1時間程度で浮腫んできて、翌日には褐色の水疱となり、これが壊れて膿が流れるようになります。

ただし、実戦での使用が行われていないこともあり、これらの症状についてもあくまで動物実験などによったものでしかありません。
この化学兵器の被害について詳細がまだわからないことが多いというのが現状で、今後の状況次第では上位にランクする兵器といえます。

 

12位 CR

引用:http://www.enginnier.com/history/

①毒性   ★☆☆☆☆
②持続性  ★★★☆☆
③安定性  ★★★★☆
④浸透性  ★☆☆☆☆9
⑤使用頻度 ★★☆☆☆(北アイルランド紛争・アパルトヘイト闘争)

分類:暴徒鎮圧剤(催涙剤)
1962年にイギリスで初めて合成されました。
北アイルランドでのデモ鎮圧や、1980年代には南アフリカにおける黒人暴動の鎮圧にも用いられています。

常温では淡黄色の固体で水に溶けにくい性質をもっています。
催涙作用は毎分当たり0.002ミリグラム/m3以上、吸い込んだ時のヒト半数致死量は毎分当たり100,000ミリグラム/m3以上となっています。

CNやCSと比べて催涙作用は高く、毒性も低いことから暴徒鎮圧用として多用されていた時期があります。
他の催涙剤と同様、浴びた時にはまぶたの痙攣、鼻の痛み、舌に灼熱感、よだれや嘔吐などを起こし、30分から数時間続きます。
皮膚についた場合には灼熱感や紅斑がみられますが、他の催涙剤のような皮膚炎や化学損傷は起きにくいといわれています。
ただし、大量に接触した際には致死に至る危険もあり、最近の研究では発がん性も指摘されていて、イギリス、アメリカでは暴徒鎮圧用の装備から外しています。

 

11位 アダムサイト

引用:http://www.enginnier.com/history/

①毒性   ★☆☆☆☆
②持続性  ★★★★☆
③安定性  ★★★☆☆
④浸透性  ★☆☆☆☆
⑤使用頻度 ★★★☆☆(ベトナム戦争・暴動鎮圧)

分類:暴動鎮圧剤(嘔吐剤)
1915年、ドイツの化学者ウィーランドにより発見され、1918年アメリカのロジャー・アダムスにより合成法が確立されたのがアダムサイトです。
吸い込むと嘔吐を引き起こす性質から、アメリカ軍ではゲリラ掃討戦などにおいて使用。
1964年のメコンデルタ南ベトナム解放戦線掃討作戦では、催涙剤のクロロアセトフェノンと混合して使用しました。

常温では緑系の黄色結晶状態、純度が高いものは無臭となっています。
推定嘔吐誘発量は、毎分当たり370ミリグラム/m3。本来致死性が低い暴動鎮圧剤ですが、このアダムサイトは高濃度になると致死性があり、吸い込んだときのヒト半数致死量は毎分11,000ミリグラム/m3となっています。

なお、アダムサイト自体は有機ヒ素化合物ですが、通常では砒素中毒は起こらないという特性があります。
アダムサイトを浴びたとき、主に目と呼吸器から薬剤が侵入し、比較的早く作用するといわれています。
毎分当たり20ミリグラム/m3ぐらいを浴びたときには1分以内に行動不能に陥り、眼に刺激感、涙、鼻や副鼻腔に痛み、鼻水や鼻づまりといった風邪に似た症状が現れますが、軽度だと30分程度で回復するといいます。
ただ症状が進み、頭痛や胸痛、胸部圧迫感から嘔吐に進み、使用環境によってはまれに肺水腫を引き起こして死ぬ場合も報告されています。

 

世界最強の化学兵器ランキング(10位~6位)

ここからご紹介するものからは、現在でも継続して使用されているものが多く入ってきています。
軍以外にも警察などが使用するものも含まれており、それゆえ、何らかの形で遭遇してしまう可能性もあるのが恐ろしいところです。

 

10位 CS

引用:http://www.sandiegouniontribune.com/opinion/the-conversation/sdut-john-lewis-bloody-sunday-selma-2015mar09-htmlstory.html

①毒性   ★☆☆☆☆
②持続性  ★★★★☆
③安定性  ★★★☆☆
④浸透性  ★☆☆☆☆
⑤使用頻度 ★★★★☆(キプロス紛争・ベトナム戦争・暴動鎮圧)

分類:暴徒鎮圧剤(催涙剤)
1928年にアメリカの化学者ベン・コーソンとロジャー・ストートンによって合成され、両者の頭文字をとってCSと名付けられました。
1950年代後半、英軍がキプロスでの暴動鎮圧に使用したのが最初といわれています。
1960年にはアメリカ軍が暴動鎮圧用に正式採用し、ベトナム戦争で暴動鎮圧、対ゲリラ戦で使用しています。

常温では白色の結晶状となっていて、胡椒に似た臭気をもっています。
催涙作用は毎分当たり0.004ミリグラム/m3と高い一方で、毒性は弱く、ヒト半数致死量は毎分当たり25,000~150,000ミリグラム/m3となっています。
現れる症状はCNとほぼ同じですが、頭痛の発生割合が比較的多いとの報告も出ています。
加水分解しやすいので、石鹸などで洗うことで無毒化できることが知られています。

 

9位 塩素

引用:http://www.msf.or.jp/news/detail/pressrelease_2060.html

①毒性   ★★☆☆☆
②持続性  ★★☆☆☆
③安定性  ★★★☆☆
④浸透性  ★★☆☆☆
⑤使用頻度 ★★★★☆(第一次世界大戦・IS(イスラム国)・シリア内戦)

分類:窒息剤
化学兵器としての塩素の使用は1915年ドイツによって行われました。
近年はイラクでのIS(イスラム国)の攻勢やシリア内戦での使用が度々報告されています。

常温では気体状態、緑黄色で強い刺激臭を伴っています。
7気圧以上にすることで橙黄色の液体へ変化するので、これをボンベにつめて保存します。

吸い込んだときのヒト半数致死量が毎分当たり19グラム/m3で、これは窒息剤の中では最も毒性が低く、さらに持続時間も短いため、低濃度のものであれば多少浴びても致死に至らないことが多いともいいます。
しかし、大量に浴びた場合は、肺水腫などを引き起こし、咽頭痙攣や咽頭浮腫による低酸素血症、チアノーゼを伴い、呼吸停止に至ります。

吸入した直後は、眼や鼻、口に灼熱感、涙が止まらず、嘔吐や頭痛、めまいといった症状がおこり、吸入濃度があがるにつれて、咳や呼吸困難、胸部灼熱痛や窒息感を感じるようになるといいます。
中濃度以上のものを吸い込んだ場合、幸い死に至らない場合でも、肺機能障害が残る場合があることが報告されています。
皮膚に付着した場合、紅斑や疼痛、水疱形成などから、高濃度のものに触れた場合には塩素ざ瘡を引き起こすこともあります。

 

8位 タブン

引用:http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/1980--a345.html

①毒性   ★★★★☆
②持続性  ★★★☆☆
③安定性  ★☆☆☆☆
④浸透性  ★★★☆☆
⑤使用頻度 ★★☆☆☆(イラン・イラク戦争)

分類:神経剤
タブンは1937年ドイツで開発された世界初となる神経剤です。
1944年より量産が開始されたものの使用されずに終戦。
1984年のイラン・イラク戦争において、イラク軍が初の実戦使用を行いましたが、今に至るも詳細はわかっていません。

常温では無色または暗褐色の液体で、空気より重いため蒸発しにくい性質です。
基本的には無臭ですが、アーモンドのような果実臭があるともいわれています。
ガスを吸い込んだ時のヒト半数致死量は毎分当たり150~400ミリグラム/m3で、皮膚に接触した場合は、液体状態で1グラム、ガスでは毎分あたり200~300グラム/m3となっています。

風雨などの天候では最大でも6時間ほどしか効果が持続しませんが、晴天時では最大で2週間ほどの効果持続があるといわれています。
それでも神経剤の中では毒性が弱い方であるといわれています。

タブンを浴びた際に現れる症状としては、瞳孔の収縮、視覚障害や呼吸困難からはじまり、濃度が濃くなるに従い、意識消失、痙攣、発汗、大量の鼻水、筋肉の萎縮や尿失禁などの諸症状を経て、嘔吐や下痢、最終的には無呼吸から死亡となります。

 

7位 クロロアセトフェノン(CN)

引用:https://www.gizmodo.jp/2011/02/post_8424.html

①毒性   ★☆☆☆☆
②持続性  ★★★★☆
③安定性  ★★★☆☆
④浸透性  ★☆☆☆☆
⑤使用頻度 ★★★★☆(日中戦争・ベトナム戦争・暴動鎮圧)

分類:暴徒鎮圧剤(催涙剤)
1871年ドイツの化学者カール・グレーべにより初めて合成に成功し、1918年アメリカにより化学兵器化。
旧日本軍も第二次世界大戦前に生産を開始し、中国戦線において「みどり剤」の名称で使用したとされています。
ベトナム戦争時にはアメリカ軍・南ベトナム軍がアダムサイトとの混合で使用しています。
軍や警察が暴動鎮圧に使用する以外に、護身用スプレーの材料としても用いられています。

常温では無色または黄色、茶色などの結晶性固体をしており、刺激臭があります。
催涙作用は毎分当たり0.3~0.4ミリグラム/m3以下で、催涙剤の中では作用が強いというわけではありません。
ただし、毒性は催涙剤の中でも強く、ヒト半数致死量は毎分当たり10,000ミリグラム/m3とCSやアダムサイトに比べても高くなっています。
これを浴びた直後から目に灼熱感を覚え、痛みや涙が出るようになります。
効果はだいたい数十分ぐらいでおさまりますが、まぶたが痙攣するなどの症状が2日以上にわたり続くこともあるといいます。

大量高濃度で浴びた際には、角膜剥離などの重度障害を被ることも確認されています。
目以外にも鼻への刺激感、咳、くしゃみ、胸部圧迫感やよだれ、嘔吐などを催すことが多く、場合によっては数週間続くこともあるといわれています。
さらに、密閉空間での使用の際には、気管支痙攣や肺水腫を患う例もあり、ごく少数ですが死亡例も確認されています。

 

6位 クロロピクリン

引用:https://blog.goo.ne.jp/sekiseikai_2007/e/5f1a1a9a41f4c098d75af837d9ab7c27

①毒性   ★★☆☆☆
②持続性  ★★★☆☆
③安定性  ★★★☆☆
④浸透性  ★★☆☆☆
⑤使用頻度 ★★★★☆(第一次世界大戦・成田空港闘争など)

分類:窒息剤
1847年スコットランドの化学者ジョン・ステンハウスにより合成されました。
1916年、ドイツにより実戦使用されましたが、1918年に燻蒸剤としての有用性が判明して以後、現在まで土壌の殺菌や殺虫用の農薬としても利用されています。

常温では刺激臭を有する無色で粘性のある液体で、水に溶けにくい性質を持っています。空気より重く、その比重は窒息剤のなかで最も重いものとなっています。
揮発性が高く、光や熱に接触することで分解して塩化水素や窒素化合物などの有害な気体を生じ、衝撃や熱で爆発する場合もあることから、取扱の難しさが指摘されています。

毒性は塩素よりは強いもののホスゲンなどに比べると低く、2ppm(空気中1m3に2cm3のクロロピクリン)の低濃度においては、目への強烈な刺激作用が確認されていることから催涙ガス的な使用をする場合もあります。
ただし、4ppm以上になると、対象を数秒で行動不能に陥れること、約300ppm・10分以上の接触で死亡に至ることが知られています。

1966年から現在に至る「成田国際空港反対闘争(三里塚闘争)」では活動家側が凶器として(農薬を詰めた瓶を投擲)使用し、警官隊に少なからぬ被害が出たことが国会での政府役員の答弁で明らかになっています。

浴びた直後は眼痛、流涙、鼻水、咳、息切れ、嘔吐や頭痛などが自覚症状として発生し、重症化したものでは、胸痛や呼吸困難、喘息様発作、咽頭痙攣、気管支肺炎や肺水腫などがあります。皮膚に接触した場合には、水疱やびらん、熱傷を、眼に入ったときには重篤な角膜損傷を引き起こすこともあります。

 

世界最強の化学兵器ランキング(5位~1位)

これまであげてきたものよりさらに強力、まさに「最強」なものがならんでいます。
多くがニュースで名前を聞いたことのあるもの、記憶に残っているもの、だと思います。
現在もなお使用され続け、そして人類を脅かしている5つの化学兵器の「姿」をご紹介します。

 

5位 ホスゲン

引用:https://ameblo.jp/rongdubian/entry-12267871217.html

①毒性   ★★★☆☆
②持続性  ★☆☆☆☆
③安定性  ★★★☆☆
④浸透性  ★★★☆☆
⑤使用頻度 ★★★★☆(第一次世界大戦・エチオピア侵攻・日中戦争など)

分類:窒息剤
1812年英国の化学者ハンフリー・デーヴィにより発見されて以来、現在でもポリウレタンの合成などに使われています。
1915年にドイツが塩素ガスとの混合させる形で初めて実戦使用しました。
旧日本陸軍では「あお剤」と呼称し生産、中国戦線などに配備しました。

常温では気体状態で無色、加圧・冷却すると無色~淡黄色の液体に変化します。
匂いについては、干し草や木材の腐敗臭のような臭気がするとされています。
揮発性が非常に高く、水や湿度の高い土壌では分解が促進され無害化されてしまいますが、空気中ではほとんど分解されることはありません。

吸い込んだときのヒト半数致死量は毎分あたり3200ミリグラム/m3
濃度的には50ppm(空気中1m3に5cm3のホスゲン)以上を浴びたとき、ほぼ即死となるほど毒性が強いのが特徴です。
ただ、このような強い毒性の反面、持続時間は気候条件に関わらず短く、最長でも1時間程度となっています。

ホスゲンは吸入して肺胞などに達すると、加水分解を起こし塩酸を発生させ、それにより肺水腫を引き起こします。
吸入した直後は、高濃度である場合、眼や鼻、気道などの粘膜に刺激症状を感じますが、上気道での加水分解が起こりにくい特性があり、そのため無症状の潜伏期が長く続き、時には24時間以上にもなる場合があります。

低濃度の場合には、長い時間に接触していると、肺の障害や繊維症、機能障害を生じることがあり、こうした症状が続いたあと、細菌による二次感染から合併症としての肺炎になり死に至ることもあります。
液体に触れた場合、皮膚には化学傷や目には角膜損傷を引き起こすときもあります。

 

5位 シアン化水素(青酸ガス)

引用:http://markszelistowski.com/day-33-krakowauschwitz/

①毒性   ★★★★☆
②持続性  ★☆☆☆☆
③安定性  ★★★☆☆
④浸透性  ★★★☆☆
⑤使用頻度 ★★★★☆(第一次世界大戦・日中戦争・ホロコースト)

分類:血液剤
常温では液体または気体の状態で、かすかなアーモンドの臭気がすることが知られています。
第一次世界大戦では野戦で使用されましたが、揮発性が高いため、効果が限定的となり、以後は閉鎖空間で使用される方向となっていきます。
これが第二次世界大戦下、ユダヤ人虐殺のために行われたガス室での運用につながっていくことになります。
旧日本陸軍は対戦車用手りゅう弾(「ちゃ弾」)として瓶詰にしたものを製造、配備したとされています。
アメリカでは最近まで死刑執行の手段として用いる州もありましたが、現在では全廃となっています。

毒性は、吸った際のヒト半数致死量が2500~5000ミリグラム/m3、皮膚への吸着では液体状態で約100ミリグラム/m3
空気中に散布した場合の濃度との相関関係は、110~135ppmで30分~1時間、181ppmで10分の接触で致死に至り、270ppmでは即死となります。
持続時間については、風雨などの悪天候時には数分以内、無風の場合でも最長で1日と、揮発性の高さから短めです。

しかし、濃度と毒性の相関関係からもわかるように、短時間でも接触するのは非常に危険な化学兵器です。
症状としては、浴びた当初より呼吸数や換気量が増加しはじめ、頭痛やめまい、嘔吐を繰り返し、症状が進むにつれて、胸部の圧迫感や呼吸困難、意識の消失から痙攣、最後には呼吸停止となります。

 

3位 サリン

引用:https://matome.naver.jp/odai/2145845002577380501/2145845190680515903

①毒性   ★★★★☆
②持続性  ★★☆☆☆
③安定性  ★★☆☆☆
④浸透性  ★★★☆☆
⑤使用頻度 ★★★☆☆(クルド人弾圧・オウム事件・シリア内戦)

分類:神経剤
1938年ドイツで開発されましたが、これもタブン同様第二次世界大戦では実戦使用はされませんでした。
1988年、イラク軍が北部クルド人居住区に対して用いたのが世界初となります。
その後、1994年長野県松本市、1995年東京で起きたオウム真理教によるテロ事件で用いられたことにより世界的にその名が広まりました。

常温では液体状態となっていて、無色かつ無臭。
サリンはその性質上、水により容易に加水分解されてしまい毒性を失うことが知られています。
また神経剤のなかでは最も揮発性が高いため、長くてもおおよそ5日程度でその90%が消失するとされています。

ガスを吸いこんだ時のヒト半数致死量は毎分当たり100ミリグラム/m3、皮膚に付着したときは液体で1.7グラムがヒト半数致死量となっています。
サリンを浴びた際の症状は、ほぼタブンと同様ですが、地下鉄サリン事件の対応から、神経剤の中では唯一おおまかな症状の発現頻度などが把握されています。

 

2位 VX

引用:https://ameblo.jp/hideomurai/entry-12247977110.html

①毒性   ★★★★★
②持続性  ★★★★★
③安定性  ★★★★☆
④浸透性  ★★★★☆
⑤使用頻度 ★☆☆☆☆(オウム事件・金正男氏暗殺)

分類:神経剤
1952年、英国で新型殺虫剤の開発中に発見されました。
英軍の研究機関が分析を進めたものを米軍が改良して、1961年より量産が開始されたのが、このVXです。
実際に使用され死者が出たのは、1994年12月12日。オウム真理教による大阪市の会社員襲撃事件が世界初の案件となりました。
また、2017年2月の北朝鮮現最高指導者・金正恩氏の異母兄、金正男氏暗殺にも用いられたのは記憶に新しいところです。

琥珀色をした油状の液体で、無臭。神経剤の中では最も揮発性が低いこともあり、液体のままかエアロゾル状での使用が想定されています。
吸い込んだ時のヒト半数致死量は毎分当たり10ミリグラム/m3。皮膚に付着したときは毎分当たり6ミリグラム/m3と、サリンのおよそ10倍~283倍にもなり、その毒性は神経剤としては最強といわれます。

また、持続性は風雨など悪天候の状態で1時間~12時間ですが、晴天や無風状態ですと最長で16週間にもなり、これもまた神経剤の中では群を抜いています。

現れる症状としては、他の神経剤と同様ですが、急激な意識障害、痙攣、呼吸困難や涎を垂れ流す(流涎)が特に顕著に表れる反面、他の神経剤では早期に現れる瞳孔の収縮が遅れて出現する、といった特徴があります。

 

1位 イペリット(マスタードガス)

引用:http://karapaia.com/archives/52098374.html

①毒性   ★★★★☆
②持続性  ★★★★★
③安定性  ★★★☆☆
④浸透性  ★★★★★
⑤使用頻度 ★★★★★(第一次世界大戦・エチオピア侵攻・イラン・イラク戦争ほか事例多数)

分類:びらん剤
1886年ドイツの化学者ヴィクトール・マイヤーが合成に成功。
1917年ドイツ軍がイーブル戦で初使用した世界初のびらん剤で、ドイツ軍は使用されたイーブルにちなんでイペリットと名付けましたが、英軍は辛子に似た臭気を持つことからマスタードと呼び、このことから一般的には「マスタードガス」という名で知られています。

常温では気体状態ですが、生成過程で不純物が混入しがちなため、液体化した際に黄色や暗褐色になることが多いのですが、精製された純度の高いものでは無色・無臭という特質があります。
空気に対する比重が重く、揮発性は高い方ではないため、低いところにとどまる傾向があります。

毒性は、吸った際のヒト半数致死量は毎分当たり1500ミリグラム/m3、皮膚に付着した場合は4500ミリグラム/m3
持続時間は風雨など天候が悪い状況でも12時間以上、天候次第では最長8週間と化学兵器の中でも長期間にわたり効果が持続することが確認されています。

浸透性も高く、特にゴムを浸透するため、対応する防護服なども特別な仕様が必要となります。

イペリットは浴びてもすぐにその症状が出ることはまれ(遅効性)で、使用時の濃度や気温、湿度により異なってきますが、初発症状が出るまでに2時間以上かかるといわれています。
浴びた際に最も顕著に症状が現れるのがまず目で、結膜炎による異物感や刺激、涙などの症状が現れ、重症度が高くなるにつれてまぶたが痙攣したり、腫れが現れたりします。
その後角膜に潰瘍ができて失明に至る場合もあります。

皮膚については、数時間以内に接触したところに灼熱感を伴って紅斑が発生。
その後むくみを経て水疱となり、これが破裂して激しい痛みを伴ったびらん状態へと移行します。
高温多湿では症状がさらに増強されて、陰部や頸部などの弱い部分で悪化することが知られています。

吸入した場合には、低濃度であれば上気道を中心とした障害ですみますが、高濃度になるにつれ下気道まで障害が発生します。
鼻汁やくしゃみ、鼻血の他、声がしわがれ、乾いた咳が続くようになり、気管支炎やその二次感染被害としての気管支肺炎や肺水腫を患うこともあります。

これらは致死には至らないものの、治療に長期間を要し、数十年以上も持続して痛みや灼熱感が続いたという症例も報告されています。
イペリットは初使用の第一次世界大戦以降、イタリアによるエチオピア侵攻、日中戦争、イラン・イラク戦争や近年の民族紛争まで、確認・未確認を含めて史上最も大量に使用された化学兵器といわれ、「化学兵器の王様」ともいわれています。

 

まとめ

引用:http://parstoday.com/ja/news/middle_east-i46097

今回ご紹介した化学兵器については、一部で使用されなくなったものもありますが、まだまだ現役のものがほとんどです。
ランキング形式でご紹介してきましたが、究極的には「同率1位」であるといってもいいかもしれません。
それぐらいに化学兵器は恐ろしいものであるということを認識していただければ、と思います。

1995年の地下鉄サリン事件はいうまでもありませんが、2017年の北朝鮮による弾道ミサイル発射の際にも、弾頭部分への化学兵器搭載の可能性とその対策が議論されてきました。

内戦下のシリアやイラク北部ではいまだに大規模な使用疑惑もあり、このことからも使用に対する「ハードルの低さ」があることは否めません。

2018年6月の米朝会談で、金正恩氏が「核放棄」を表明したとされており、一部マスコミはこれをもって平和への第一歩と騒いでいます。
しかし、核兵器に目を囚われがちですが、当の北朝鮮には大量の化学兵器が存在しており、それらをどうするかについては忘れ去られている感すらあります。
化学兵器禁止条約未締結国の一つであり、製造も使用も放棄していないのが現実の姿であるにもかかわらず、です。

核兵器とはまた違った形での脅威が今だ身近に存在し続けていることは認識しておくべきだと思います。

なお、内閣府の「国民保護ポータルサイト」においても、化学兵器に対する対処法が簡単ではありますが掲載されているので、折りにふれて閲覧しておくことをお勧めします。

国民保護ポータルサイト http://www.kokuminhogo.go.jp/pdf/hogo_manual.pdf

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