第二次大戦中、ナチスドイツによって開発されたミサイル技術はドイツの敗戦後、西側・東側双方に流れ、アメリカやソ連などの大国をはじめとする各国のミサイル開発へとつながっていきました。
巡航ミサイルとは、側面の主翼で揚力を、ジェットエンジンで推進力を得る航空機のような外見のミサイルで、発射地点と目標地点の経度緯度データをもとに自律航行できることが特徴となっています。
その用途は対地攻撃、対艦攻撃、さらには核弾頭の搭載と多岐にわたり、発射に用いられるプラットフォームも陸上をはじめ水上艦や航空機、潜水艦までさまざまです。
もっとも有名なものはアメリカ軍の使うトマホークでしょうが、世界にはほかにもバリエーション豊富な巡航ミサイルが存在しています。
ここでは、世界各国の巡航ミサイルについてご紹介します。
トマホーク(アメリカ)
引用:https://www.youtube.com/watch?v=mXQfx17LFn0
トマホークはアメリカが1970年代に開発した巡航ミサイルで対地、対艦、核弾頭など様々なバリエーションや発展形が開発され、アメリカ軍では現役で運用されています。
巡航ミサイルと聞けばトマホークというイメージがあるのではないでしょうか。
もともと、核兵器の制限を行うための国際条約である第一次戦略兵器制限条約に抵触しない範囲で核戦力を維持するための核兵器運搬手段として開発がはじめられました。
全長は5・56m、重量1490㎏、射距離は1670㎞とされていますが、高度2万フィート(6100m)で飛翔する場合は3000㎞に延伸するといわれています。
飛翔中はミサイルにあらかじめ入力された目標の地形データに加え、飛翔中にもGPSによってデータをアップデートし軌道を修正しながら目標を目指します。
また、トマホークは射程が1000㎞を越えるため、飛翔中に目標が移動するなど状況の変化によりミサイルが無駄撃ちとなることも考えられますが、そういった場合には人工衛星からデータリンクによって目標の変更が可能となっています。
トマホークはアメリカ海軍で140隻以上の水上艦、潜水艦に搭載され、その総数は3600発以上。
さらにはアメリカだけでなく、イギリス海軍でも使用されています。
歴史の古いトマホークは実戦での運用回数も多く、1991年の湾岸戦争が実戦初投入でした。
その後もコソボ紛争やイラク戦争、イスラム国への攻撃やシリア内戦でも多数のトマホークが使用され、これまで発射されたトマホークは2300発以上といわれ、世界で最も実戦使用の多い巡航ミサイルとなっています。
ちなみに、これまで最もトマホークによる攻撃を受けた回数の多い国第1位はイラクで、使用されたトマホークの半数以上にのぼる1500発以上が撃ち込まれたといわれ、2位のセルビア・モンテネグロの230発に7倍以上の大差をつけています。
ブラモス PJ-10(インド)
引用:http://blog.livedoor.jp/corez18c24-mili777/archives/48375006.html
ブラモスはインドとロシアが共同開発している超音速巡航ミサイルです。
陸上、水上、空中、水中など多種類のプラットフォームから発射可能。
ロシアの対艦ミサイル「P-800 ヤーホント」をベースにインドが誘導系のエレクトロニクスなどの開発を行ったとされ、2001年6月にはじめての発射実験が行われました。
ブラモスという名前はインドのブラマプトラ川とロシアのモスクワ川に由来しています。
最大速力はマッハ2・5~2・8で、最大飛翔距離は290m。
固体燃料ブースターで超音速に加速すると、ブースターを切り離し、液体燃料ラムジェットにより15000mという高空を巡行し、終末時には10~15mという低空まで降下して目標を目指します。
YJ(鷹撃)シリーズ(中国)
引用:http://seesaawiki.jp/w/namacha2/d/YJ-8
YJシリーズは中国の対艦巡航ミサイルです。
YJ-8(鷹撃―8)は1980年代に開発された対艦巡航ミサイルで、西側諸国のNATOコードネームでは「サーディン」と呼ばれていました。
YJ-8ではまだ固体燃料ロケット推進で射距離も100を下回っていましたが、第2世代にあたるYJ-83(輸出名C-802、NATOコードネーム「サッケード」)では動力にターボジェットを採用し、射距離も延長されました。
YJ-62はYJ-83から発展した対艦ミサイルで対地攻撃も可能となり、弾頭も大型化。
射距離も400㎞まで延伸されており、中国軍の標準装備の対艦ミサイルとして駆逐艦等に搭載されています。
さらには、YJ-12、YJ-18などの後継ミサイルも運用が開始され、大量建造が開始された「旅洋Ⅲ」級駆逐艦に搭載されています。
HNシリーズ(中国)
引用:https://missilethreat.csis.org/missile/hong-niao/
かねてより対艦攻撃に重点を置いてきた中国では近年、対地攻撃の可能な巡航ミサイルが登場しています。
HNシリーズはアメリカのトマホークに匹敵する射距離1000㎞を越える巡航ミサイルですが、いまだ不明な部分も多くあります。
1990年代にHN-1、2000年代にHN-2が開発され、開発にあたってはアメリカ海軍が実戦で使用し不発となったトマホークなどを中国が入手し、参考にしたともいわれています。
最新機種となるHN-3は発射重量1800㎏と大型化し、射距離も3000㎞になり、潜水艦からの発射も可能となっています。
さらに中国海軍では第四世代の巡航ミサイルHN-2000も開発中とされており、超音速で最大射距離4000㎞ともいわれるが、その実態は真偽も含めて謎に包まれています。
玄武(ヒョンム)-3(韓国)
引用:http://nabe3rr.blog21.fc2.com/page-80.html
玄武は韓国の対地ミサイルシリーズで、弾道ミサイルである「玄武-1」・「玄武-2」シリーズと巡航ミサイルの「玄武-3」シリーズが開発されています。
玄武-3はA~Cの3タイプが存在し、現在は射距離1500㎞の玄武-3Cが実戦配備されています。
ソウルから北朝鮮の全域までは500㎞であり、中国の首都北京までの距離も920㎞となることから玄武はこれらも射程におさめていることになり、また日本の主要都市も射程圏内となっています。
派生形として艦対地巡航ミサイル「天竜(チョンリョン)」、空対地巡航ミサイル「若鷹(ポラメ)」が存在します。
RBS-15(スウェーデン)
引用:https://blog.goo.ne.jp/hosyo1922_1946/
スウェーデン海軍での対艦ミサイル運用の歴史は古く、西側諸国の海軍としては最もはやい1960年代から駆逐艦に装備されていました。
RBS-15シリーズはスウェーデンのサーブ社が開発し、1980年代から魚雷艇などに搭載されている対艦巡航ミサイルです。
全長4・35m、重量800㎏、射距離250㎞(現在開発中のタイプでは1000㎞超に延伸予定)。
誘導系にはGPSを導入し、北欧特有の複雑な海岸線に対応するため特定の地域や島嶼を中間通過点として利用しており、高分解能レーダーにより多目標への対処も可能で、さらには目標からの電波妨害(ECM)、チャフ、デコイ等にも対処可能となっています。
速度はマッハ0・9の亜音速であり、分類上は巡航ミサイルなのですが、スウェーデン海軍も開発元のサーブ社もなぜか巡航ミサイルとは呼ばずに亜音速巡行「型」ミサイルや単に対艦ミサイルと呼んでいるのはなんらかの事情があるのでしょうか。
フィンランド、ポーランド、クロアチア海軍等でも採用されています。
NSM(ナーヴァル・ストライク・ミサイル)(ノルウェー)
引用:http://newshangat.blogspot.com/2016/10/mekah-cuba-dibom-dengan-peluru-berpandu.html
ノルウェーのコングスベルグ・ディフェンス&エアロスペーズ社が開発した対艦巡航ミサイルです。
全長3・96m、重量407㎏、速度マッハ0・7~0・95、最大射距離185㎞超。
固体燃料ブースターで発射後にターボジェットで亜音速巡行に達し、航行中はGPSにより軌道修正を行い、また発射艦とのデータリンクも行います。
対艦ミサイルで一般的に使用されているアクティブ・レーダー・シーカーを使用していないため目標に電波探知されにくく、外形のステルス形状とあいまって、極めて探知されにくいステルスミサイルです。
現在、NSMをベースとして総合攻撃ミサイルJSMが開発中であり、これはアメリカ海軍での採用が決まっており、最新戦闘機であるF-35ライトニングの兵装として搭載予定となっています。
MdCN(フランス)
引用:https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/
MdCNはフランスが自国開発したヨーロッパで最初の本格的な巡航ミサイルです。
MdCNとはフランス語で「海軍巡航ミサイル」という意味を縮めたもの。
開発のきっかけは、イラク戦争の開戦是非をめぐってアメリカとフランスの関係が悪化していた時にアメリカからトマホークの購入を断られたことでした。
全長5・5m、重量1400㎏、最大速力マッハ0・8で、水上、水中から発射可能。
推進系はターボジェットでミサイル側面の前翼は、機体内に収納されていて、発射後に左右に展開される。最大射距離は最初500㎞の予定でしたが、フランス海軍から1000㎞以上でアメリカのトマホークに匹敵する1400㎞を目標にするという要求が出され、開発努力がされたものの、実際には数百㎞程度とみられています(正式な数値は非公表)。
2018年4月14日、内戦が続くシリアで英米仏によるアサド政権への共同攻撃により初めて実戦投入されました。
カリブル(クラブ)(ロシア)
引用:http://rybachii.blog84.fc2.com/blog-entry-376.html
カリブルはソ連海軍末期に開発開始され、ロシア海軍時代になって実用化された巡航ミサイルです。
輸出名は「クラブ」と呼ばれ、中国やインド海軍などに輸出されています。
水上、水中から発射され、対地、対艦、また潜水艦も攻撃可能です。
発射後は所定高度でブースターを切り離し、水平翼を展開、速度マッハ0・5~0・7で巡行し、巡航高度は海上で20m、陸上で50~150mとなります。
飛翔中はロシア版GPSである衛星航法装置GLONASSによってデータをアップロードし、軌道に修正を加えながら目標に向かいます。
ロシア軍向けのカリブルと輸出用のクラブでは性能差がつけられていて、クラブのほうが性能的に劣っています。
特に最大射距離ではカリブルの対艦用66㎞、対地用900㎞に対して、クラブの場合対艦用220㎞、対地用300㎞と3分の1になっています。
まとめ
以上、世界の巡航ミサイルを紹介してまいりました。
最近では自衛隊でも、敵基地攻撃能力として巡航ミサイルの運用を検討しているようです。
近々、ここで紹介したミサイルを輸入するのか、それとも、もしかすると、日本独自の巡航ミサイル開発が行われ、このラインナップに加わることになるかもしれません。