アーサー王のエクスカリバーやジークフリート、ベーオウルフの剣、日本の草薙剣など、世界には聖剣または魔剣と呼ばれる特殊な能力を秘めた剣の伝説が存在しています。
聖剣とは聖なる力を秘めた剣であり、超自然的な能力で持ち主を助け、多くの場合は神や精霊などによって作られたものです。
一方の魔剣は、邪悪な力を宿した剣で、強力な力をもつ代わりに持ち主を不幸にするなどのペナルティが存在することがほとんどです。
こうした剣は、実在したものかどうかは定かではありませんが、ファンタジー作品やゲームなどに登場することも多く、日本でもよく知られた存在になっているものもあります。
しかし、これら有名な剣が実際にどのようなものであったかといわれると、わからないことも多いのではないでしょうか。
ここでは、世界に伝わる聖剣・魔剣の数々について、有名なものからマイナーなものまで紹介していきたいと思います。
エクスカリバー
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最初に紹介するのは、数多くの聖剣のなかでも最も有名といえる、アーサー王の聖剣エクスカリバーです。
アーサー王は、イギリスに伝わるアーサー王伝説に登場する英雄で、かつて多くの国や民族が入り乱れていたブリテン島を統一したといわれる伝説の王です。
元々は、イギリス王家の偉大さを宣伝するための伝説だったといわれますが、中世ヨーロッパでは騎士道精神を謳う物語としてイギリスだけでなくフランスやドイツなど広く知られるようになり、近代以降はファンタジー作品のモチーフとして小説や映画にも取り上げられるようになり、数ある英雄伝説のなかでも最も有名といえるほどになりました。
アーサー王の物語には有名な「円卓の騎士」と呼ばれる部下の騎士団が登場します。
エクスカリバーは、魔法の力が宿るとされ、ブリテン島の正当なる後継者にしか引き抜けない剣であり、使い手であるアーサー王が正統な統治者であることの象徴として描かれます。
アーサー王伝説にはいくつもの写本が存在しますが、エクスカリバーは石に刺さった剣としてアーサー王伝説の初期の段階から登場しています。
エクスカリバーには、エクスカリボール、カリバーン、カリブルヌス、カレトブルッフ、カレドヴールッハなど様々な異称で呼ばれることもあります。
古くは「硬い切っ先」を意味するカレトブルッフや中世ラテン語で「鋼」を意味する言葉からきたとされるカリブルヌスなどの名で呼ばれていました。
エクスカリバーは、たいまつ30本分の輝きを放って敵の目をくらませます。
エクスカリバーの鞘は、魔法の鞘でこれを持っている人間は傷を負うことがありません。
アーサー王は普段は槍など他の武器を使って戦うことが多く、エクスカリバーはピンチのときに持ち出す切り札として使われました。
二本のエクスカリバー
アーサー王物語のなかでも最も有名なのが、アーサー王文学の集大成ともいわれる、15世紀のイギリス人作家トマス・マロリーによって書かれた『アーサー王の死』です。
実は、この物語の中にはエクスカリバーと呼ばれる剣が2本登場します。
1本目は、ロンドンで1番大きな教会の中庭で大理石のような巨大な石に突き刺さっていた剣で、石には金色の文字で「この剣を抜いた者は全イングランドの正統な王として生まれた者である」と記されていました。
この剣を抜いたのが、少年時代のアーサー王です。
彼は多くの高名な騎士たちが抜くことができなかった剣をいたずらで手に取ったところ、軽々と抜いてしまったのです。
実は、アーサー王はかつてイングランドの王だったウーゼル・ペンドラゴンの息子で、魔術師マーリンによって育てられたのでした。
1本目のエクスカリバーは、たいまつ30本分のまばゆい光を放ちますが、鞘を持っていると傷を負わないという能力は備わっておらず、物語の中盤で敵との戦いで折れてしまうとその後は登場しなくなります。
2本目のエクスカリバー
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2本目は、持ち主が傷を負わなくなる魔法の鞘をもった剣で、逆に光を放つという能力はありません。
この剣は、1本目のエクスカリバーを失ったアーサー王が、マーリンに教えられて「湖の乙女(ヴィヴィアン、ニミュエなど様々な名前で呼ばれます)」と呼ばれる精霊から受け取った剣で、精霊の手によって鍛えられたものです。
義理の魔女モルガン・ル・フェの謀略によって魔法の鞘を失ったアーサー王はその後の戦いで致命傷を負ってしまいます。
瀕死になったアーサー王は、部下に命じてエクスカリバーを湖に投げ入れさせ、剣は元の通り湖の乙女のもとへ還りました。
干将・莫耶(かんしょう・ばくや)
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干将・莫耶は中国の春秋戦国時代に作られた雌雄一対の剣で、干将が雄剣(陽剣)、莫耶が雌剣(陰剣)とされます。
干将はもともと干將、莫耶は鏌鋣とも表記されていて、この剣を鍛えた鍛冶師夫婦の名前から採られました。
この剣を作るにあたって妻である莫耶は、当時はその人の精気が宿るとされていた、自らの髪や爪を切って炉の中に入れました。
干将には亀裂模様(龜文)が、莫耶には水波模様(漫理)が浮かんでいて、あらゆるものを切り裂くことができました。
干将と莫耶は楚の王の命によって作られたもので、鍛冶師夫婦は、出来上がった剣のうち、夫である干将は莫耶のみを王に献上しました。
当時、優れた剣を鍛えることのできる鍛冶師は貴重な存在であり、莫耶を手に入れた楚の王は、夫婦がこれより強力な剣を他国の王に献上することを恐れ、必ず鍛冶師を殺そうとすると考えたからでした。
干将の予感は的中し、干将は王によって殺害されてしまいます。
王はもう一振りの剣を探しますが、干将はすでに莫耶よって松の木の中に隠されていたため見つけることはできませんでした。
やがて莫耶は、干将の子である尺比を生み、尺比は干将を使って父の復讐を誓います。
しかし、楚の王は夢のお告げによって、自分が狙われていることを悟っており、王都には尺比の似顔絵がいたるところに貼られ、懸賞金までかけられていて近づくこともできません。
尺比が悔しさのあまり泣いていると、通りがかった旅の男が、干将とお前の首があれば復讐を遂げることができると告げます。
これを聞いた尺比は喜んで干将で自分の首を切り落とし、自らも楚の王に恨みをもっていた旅の男はこれをもって王城へと向かいます。
男は王に尺比の首をみせ、これを溶けるまで煮込まなければ、この首は妖怪となって王を襲うだろうと言いました。
楚の王は言われたとおりに大釜で尺比の首を煮込みますが、首がいつまでたっても溶けないことが不安になり、鍋の様子を見ようとしたところ、男によって後ろから干将で切り付けられ、鍋に突き落とされてしまいます。
男はすぐに自分の首も斬り落とし、尺比の首と男の首は鍋のなかで7日間にわたって楚の王にかみつき、3人は最後には判別できないほどに溶けて混ざり合ってしまいました。
そのため、3人とも一緒に葬られることになり、この墓は三王墓と呼ばれるようになりました。
三王墓は、現在の中国の汝南県和孝鎮の宜春城にあります。
ズルフィカール
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ズルフィカールは、イスラム教の第4代正統カリフであるアリー・イブン・アビー・ターリブが使っていたとされる伝説の剣です。
カリフとは、イスラム帝国の指導者のことで、アリーは最後の正統カリフとされていて、イスラム教はアリーとその子孫のみを正統な指導者と認めるかどうかでシーア派とスンニ派に分かれています。
形状については諸説ありますが、イスラム圏では一般的に先端が二股に割れた湾曲した剣とされています。
イスラム圏ではよく剣に「アリーに勝る英雄なく、ズルフィカールに勝る剣なし」と刻まれていることがあります。
イスラム圏ではポピュラーな武器であり、人名や地名になっていることがあり、過去にはムガル帝国の宰相やパキスタンの大統領もズルフィカールという名前でしたし、イラン軍の戦車「ゾルファガール」やパキスタン軍のズルフィカル級フリゲートなど兵器の名称としても使われています。
ベーオウルフの剣
引用:arstechnica.com
イギリスに伝わる『ベーオウルフ』は、ベーオウルフの英雄伝説を描く英文学最古の抒情詩です。
イギリスの伝説ではあるものの、ベーオウルフの舞台はスカンディナビア半島のデンマークです。
物語は大きく2部に分けられ、第一部ではベーオウルフが王の頼みを受けて巨人グレンデルとの戦い、第二部では王となったベーオウルフが民を襲うドラゴンと戦い、相討ちとなりながらもドラゴンを打ち倒すというストーリーです。
ベーオウルフは三十人力といわれる勇敢な戦士で、物語中にはベーオウルフの使う剣が3種類登場します。
フルンティング
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フルンティングは、ベーオウルフがグレンデル退治に際して王の臣下から与えられる剣で、北欧古語で「突き刺す」という意味があり、持つ者は戦いでどのような災難も逃れることができるという言い伝えがあります。
北欧では貴重だった鋼鉄を使用し、毒をもつ枝の煮汁に浸して焼き入れをし、戦場の血糊で鍛え上げたという宝剣で、これまでの何人もの勇者が手柄を立ててきたという剣です。
ところが、フルンティングは作中でも多くの描写で素晴らしい剣であることが語られているにも関わらず、実際のグレンデルとの戦いではまったく役にたたず、戦闘中のベーオウルフに投げ捨てられています。
これについては、フルンティングは名刀だったものの、グレンデルの防御能力がそれを上回ったというものや、ベーオウルフが剣を使って敵を斬りつけたのが問題で、フルンティングの名前の通り突き刺していれば敵を倒すことができたというものなど様々な説があります。
巨人の剣
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フルンティングが役立たずだったため、ベーオウルフはやむなく別の剣を使わなければなりませんでした。
グレンデルの住む洞窟には様々な武器があり、そのなかに天から差し込む太陽の光でひときわ輝く剣がありました。
この剣は、はるか昔にドワーフ族によって巨人のために鍛えられた剣といわれ、黄金の柄にはルーン文字で製作者の名前が刻まれていました。
普通の人間には扱えないような巨大な剣ですが、三十人力のベーオウルフには使うことができ、グレンデルとその母を倒すことができましたが、グレンデルの母の毒交じりの血液を浴びた剣の刃は溶けてしまい、ベーオウルフの手の中には黄金の柄しか残りませんでした。
ネイリング
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ネイリングは、ネァイリング、ナイリングと表記されることもあり、その名は「爪」を意味します。
その外見は詳しく伝わっておらず、ベーオウルフがどのようにしてこの剣を手に入れたのかも不明です。
ネイリングはドラゴンとの戦いで使われ、ベーオウルフはこの剣を手にドラゴンとの一騎打ちに臨みます。
しかし、ネイリングはドラゴンの硬いウロコに弾かれ、ねじれてしまいます。
仕方なく、剣を思い切り叩きつけたところ、ネイリングは真っ二つに折れてしまいました。
ドラゴンに喰いつかれたベーオウルフですが、最後には短剣を使い、ドラゴンを倒すことに成功します。
しかし、噛まれたことによりベーオウルフの体にはドラゴンの血が回っていて、ベーオウルフはネイリングを手に息を引き取ったのでした。
プラハの魔法の剣
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プラハの魔法の剣は、百塔の都とも呼ばれるチェコの首都プラハに伝わる魔法の剣で、使い手の命じた数だけ敵の首を落とすことができるという強力な能力をもっています。
この剣は、かつてチェコの王だったブルンツヴィークが旅をしていたときにアフリカで待宝剣を操る黒い魔法使いを退治して手に入れたとされています。
この魔法の剣は、プラハのカレル橋にあるブルンツヴィークの象の下に隠されているといわれ、もしもチェコが外敵の侵略を受けた時には、白馬に乗った1人の偉大な王が現れ、増から魔法の剣を取り出し、ブルンツヴィークら騎士たちを復活させ、チェコを侵略者から救うという伝説があります。
レーヴァテイン
引用:ja.wikipedia.org
北欧神話に登場する「傷つける魔の杖」という異名をもち、世界樹ユグドラシルの頂の枝にとまっている黄金の雄鶏ヴィドフニルを殺すことができる能力をもちます。
レーヴァテインは、北欧神話の神の1人であるロキがユグドラシルの下にある死者の国ニヴルヘイムにおいて、魔法文字ルーンを唱えながら鍛えたものとされます。
普段はレーギャルンという巨大な箱の中に収められ、9つの錠によって封印されていて、北欧神話の最終戦争(ラグナロク)で世界を焼き尽くす炎の巨人スルトルの妻シンモラが守番をしています。
箱から出されたことはなく、この剣がどういう姿形をしているのかは誰にもわかりません。
ところで、シンモラにレーヴァテインをもらうには、ヴィドフニルの尾羽を渡さなければなりません。
ところが、ヴィドフニルを殺すにはレーヴァテインが必要なため、つまりは誰もレーヴァテインを手に入れることはできないのです。
この堂々巡りの謎かけのような矛盾は、要するに、選ばれたものでなければこの剣を手にすることはできないということのようです。
ジークフリートの剣
引用:upload.wikimedia.org
ドイツの有名な抒情詩『ニーベルンゲンの歌』は、竜殺しの英雄ジークフリートと、彼の死後の妻クリームヒルトによる復讐劇を描いたもので、このなかにも英雄の使う武器として2本の聖剣が登場します。
ノートゥング
『ニーベルンゲンの指輪』はニーベルンゲンの歌をもとに、19世紀ドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナーによって書かれた4部構成のオペラ作品です。
ノートゥングはこのなかに登場するジークフリートの愛剣で、竜殺しの剣です。ノートゥングは北欧神話に登場する竜殺しの剣「グラム」をモデルにしたと考えられており、似かよった特徴をもっています。
北欧神話ではグラムは最高神オーディンによって巨木に刺され、誰にも引き抜けなかったところを竜殺しの英雄シグルトの父が引き抜いたとされていますが、ノートゥングもジークフリートの父によって引き抜かれました。
このとき、ジークフリートの父によってノートゥングと命名されています。
ほかに、グラムは一度戦いで砕け、それを鍛冶師の手によって打ち直されていますが、ノートゥングの場合はジークフリート自身の手によって、砕けた剣をヤスリで粉々にし、再び溶かして打ち直されました。
バルムンク
バルムンクは『ニーベルンゲンの歌』に登場するジークフリートの愛剣です。
バルムンクは、赤い縁飾りのある幅広の剣で、青い宝石が埋め込まれた金色の柄を持ち、柄頭には碧玉が輝き、金色の打ち紐が巻かれた鞘におさめられています。
バルムンクはもともとニーベルンゲン族という一族が所持していた剣で、この一族の財産分配の調停を任されたジークフリートでしたが、うまくいかず不満を漏らす者がいたため、怒ったジークフリートはバルムンクを奪ってニーベルンゲン族の王子たちを殺してしまいます。
その後、ジークフリートはバルムンクを愛剣として数々の戦いに勝利しますが、その後ジークフリートは殺されてバルムンクを奪われたことを考えると、この剣にもニーベルンゲン族の呪いのようなものがかけられていたのかもしれません。
ジョワユーズ
引用:upload.wikimedia.org
ジョワユーズは、中世フランスで語られたシャルルマーニュ伝説に登場するシャルルマーニュの剣です。
シャルルマーニュはカール大帝とも呼ばれ、フランク王国の王にして神聖ローマ帝国の皇帝になった人物です。
巨大な国を築いた英雄であるシャルルマーニュには、シャルルマーニュ伝説と呼ばれる伝説が語られており、アーサー王の円卓の騎士のように十二勇士といわれる部下の騎士たちも登場します。
ジョワユーズは、刀身が光り輝き一日に30回もその色を変えたという剣で、柄にはかつてキリストの体を貫いたロンギヌスの槍の欠片が入っているといわれ、キリスト教における聖なる剣とされています。
ジョワユーズは「喜び」という意味で、シャルルマーニュの軍隊は戦いに勝利したとき「モンジョワ」という鬨の声を上げる習慣があり、これは「我が喜び」という意味でジョワユーズの名前に由来しています。
ジョワユーズは国王の王権を象徴する剣として、ルイ14世の肖像画をはじめ、歴代のフランス王の肖像画にも多く描かれています。
ナポレオンの戴冠式の絵にも描かれてしますが、これは革命によって消失してしまった本物に代わってナポレオンが作らせたものだといわれます。
現在、ジョワユーズの所在については諸説あり、シャルルマーニュの亡骸とともに埋められているという説や、ナポレオンの戴冠式の後ルーブル美術館に移され保管されているという説、歴代フランス君主の埋葬地であるサン・ドニ大聖堂に保管されているという説などが存在します。
ティルヴィング
引用:ja.wikipedia.org
ティルヴィングは、北欧神話に登場する魔剣で、鉄をも容易に斬ることができる鋭利な切れ味をもち、狙ったものは決して外さず、持ち主に勝利をもたらすのと引き換えに、持ち主に必ず破滅をもたらすとされます。
ティルフィングは北欧神話の主神オーディンの血を引くスウァフルラーメ王がドヴァリンとドゥリンという2人のドワーフを捕まえた時、彼らを逃がす代わりに作らせた剣です。
黄金の柄を持ち、刀身は暗闇の中でも光り輝き、この剣で傷つけられた者はあまりの鋭利さのためにその日を越えて生き延びることはできないというほどの名刀でした。
しかし、ドワーフたちはこの剣に呪いをかけており、去り際に、「この剣は3度まで持ち主の悪しき望みをかなえるが、持ち主もそれによって破滅する」と言い残し逃げていきました。
そして、この言葉は現実となり、スウァフルラーメ王はティルフィングによっていくつもの戦いで勝利を得ますが、国に攻めてきたヴァイキングのアルングリムとの戦いで、振り下ろしたティルヴィングが相手の盾の上を滑り、地面に突き刺さった隙に腕を斬られ、相手に奪われたティルヴィングによって殺されてしまいました。
ティルヴィングには、もう一つの呪いとして、一度鞘から抜くと誰かを殺すまで鞘に戻すことができないという性質をもっていて、不用意に抜いてしまうとその場で誰かを殺さなければならないという悲劇を生み出すのです。
スコヴヌング
引用:www.ancientpages.com
スコヴヌングはかつてデンマークを統治していたという伝説的な王フロールヴ・クラキが愛用していた剣です。
フロールヴ・クラキは寛大な人物で、彼を慕う戦士たちがデンマークの外からも集まってくるほどの名君でした。
勇敢な戦士であったクラキは、戦場でスコヴヌングを振るっていくつもの戦功を立てたということです。
スコヴヌングには、この剣によって斬られた傷は決して治ることはありませんが、剣に付属している「治癒石」でこすると治すことができるという特殊な力が備わっています。
反対に、剣の柄頭を太陽光に当ててはならないという禁忌もあり、そばに女性がいるときにスコヴヌングを抜くこともダメだとされていますが、破った場合になにが起こるのかは不明です。
王の死後、墓から掘り起こされたスコヴヌングは3人の英雄たちの手に渡りましたが、『ラックサー谷のサガ』の物語では、剣は誰のものにもならなかったと結ばれているため、果たしてスコヴヌングが最後にどうなったのかは誰にもわかりません。
村雨
引用:www.kotoya-touken.com
村雨(村雨丸)は、江戸時代後期に滝沢馬琴によって書かれた読本『南総里見八犬伝』に登場する刀です。
村雨は八犬士の1人である犬塚信乃の使う刀で鎌倉公方足利家に伝わる宝刀で、抜くと刀の付け根部分であるなかごから露を発生させるとともに寒気を巻き起こします。
使い手の殺気が高まるほどに水気の増していき、人を斬った時に勢いよく流れて刃から鮮血を洗い流す様子が、葉先を洗う村雨のように見えるためこの名で呼ばれます。
邪を退け、妖怪を治める刀とされ、敵の篝火を消したり、山火事を鎮めたりと持ち主を助けることもあります。
足咬み
引用:stresseffect.wordpress.com
足咬みという一風変わったこの魔剣は、アイスランドに伝わる物語である『ラックサー谷の人々のサガ』に登場します。
このなかで、足咬みは、鋭利な刀身をもち、錆びのつかない名刀として描かれています。
剣の柄はアザラシの牙でできていて、金色の飾りがついています。
この剣に足咬みという名前をつけたのは、ヴァイキングの戦士ゲイルムンドですが、彼がなぜこの剣を足咬みという名前で呼んだのかは明らかにされていません。
ゲイルムンドには、不仲の妻スリーズがおり、あるときスリーズはゲイルムンドが財産をもって自分を捨てようとしているのを知って腹を立て、足咬みを奪って船に乗り彼の元を逃げ出しました。
ゲイルムンドは、逃げるスリーズに向かって「その剣は持ち主の家族のうち、一番かけがえのない者の命を奪うぞ」と言い放ちました。
スリーズは従兄弟のボリに足咬みを渡しますが、ボリは後にスリーズの家族と対立してスリーズの最愛の弟を足咬みで殺害することになります。
デュランダル
引用:www.mahorovacation.tokyo
デュランダルは、フランスの英雄伝説『ローランの歌』に登場する剣で、主人公ローランがもつ聖剣です。
デュランダルはフランス語で「長久の剣」という意味を持ち、シャルルマーニュから与えられた剣で黄金の柄をもち、柄の中にはキリスト教の聖人3人の体の一部や血液、聖母マリアの衣服の一部などの聖遺物が隠されています。
デュランダルは鋭い切れ味を誇り、どのように扱っても刃こぼれすることもなく、戦争に敗れたローランが敵に奪われるのを避けるため剣を折ろうとデュランダルを岩に叩きつけたときには逆に岩を真っ二つに切り裂いてしまいました。
フランスのロット県にある有名な巡礼地であるロカマドゥールの礼拝堂には、岩に突き刺さった剣が今でも残っていて、一説によるとこれが岩に叩きつけられたままこの地に残されたデュランダルだといわれます。
天叢雲剣
引用:ja.wikipedia.org
天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)は日本神話に登場する伝説の剣です。
八咫鏡、八尺瓊勾玉とともに日本の歴代天皇が継承してきた三種の神器の1つとされ、現在も愛知県名古屋市になる熱田神宮の御神体となっていますが、非公開のため一般には見ることはできません。
神話に登場するスサノオノミコトがヤマタノオロチを退治した際に体の中から出てきた剣で、姉の天照大神(アマテラスオオミカミ)に献上され、以後は天皇の位を象徴する神器となりました。
後に皇子であるヤマトタケルノミコトが東方に遠征に出かけた際、敵に囲まれて周囲に火を放たれ、ピンチに陥った時にこの剣を使って草を薙ぎ、難を逃れたことから、別名「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」とも呼ばれます。
エッケザックス
引用:ja.wikipedia.org
エッケザックスは、ドイツの英雄ディートリヒの剣で、小人アルプリスによって鍛えられたもので、数々の戦いを無傷で勝ち抜いてきた剣です。
ディートリヒ・フォン・ベルンはドイツで有名な英雄で、テオドリック大王と呼ばれることもあり、東ローマ帝国の軍人から東ゴート王国の王となった人物で、巨人退治や騎士同士の決闘など様々な伝説が残っています。
エッケザックスは、もとはディートリヒに戦いを挑んだエッケという騎士がもっていたもので、黄金の柄と鞘をもち、柄には宝石が散りばめられていました。
数多くの戦いを経ても刃こぼれ一つおこさず、鋼鉄の盾も一撃で両断するほどの破壊力をもち、ディートリヒにこの剣があればどんなことでもできるといわせるほどでした。
ダーインスレイブ
引用:blog.vkngjewelry.com
「おまえが和解を求めるにしても、もはや遅すぎる。
私がもうダーインスレイブを抜いてしまったからだ。
この剣はドヴェルグたちによって鍛えられ、ひとたび抜かれれば必ず誰かを死に追いやる。
その一閃は的をあやまたず、また決して言えぬ傷を残すのだ」
ダーインスレイブは北欧神話の『エッダ』に登場する魔剣で、架空のデンマーク王であるヘグニ王の剣です。
ダーインスレイブは、一度引き抜くと生き血を浴びて完全に吸うまで鞘に戻ることはありません。
ダーインスレイブとは、「ダーインの遺産」という意味で、ダーインとはドワーフ(ドヴェルグ)の1人のことで、この剣がドワーフによって鍛えられたことがわかります。
ヘグニ王と唯一無二の友人だったヴァイキングのヘディン王はある日、美女ギュンドルにそそのかされ、酔った勢いでヘグニ王といさかいを起こします。
怒ったヘグニ王は、ダーインスレイブを抜いてしまい、冒頭のセリフはこのときヘグニ王が言い放ったものです。
ヘディン王をそそのかしたギュンドルは、実は女神フレイヤが変身した姿で、神々によって仕組まれた2人の争い(ヒャズニングの戦い)は、世界の終焉ラグナロクが訪れるまで続くことになります。
アスカロン
引用:ja.wikipedia.org
アスカロンはキリスト教の聖人の1人である聖ゲオルギウスが使用した剣で、「竜殺しの聖剣」として知られます。
アスカロンは、極上の金属を使ってサイクロプスが生み出した剣で、鋼すらも切り裂く切れ味をもち、柄頭にはどんな裏切りや魔法、暴力からも守ってくれる徳の力の加護が込められています。
ゲオルギウスは、産まれてすぐに魔女カリブに攫われ、カリブによって育てられました。
アスカロンは、カリブから贈られた武器で、ゲオルギウスはこのほかにも、どんな武器をも弾き返す「リディアの純鋼の甲冑」や必勝の加護を持つ魔法の駿馬「ベイヤード」も与えられています。
しかし、カリブの悪事を知ったゲオルギウスは彼女を洞窟に封印しました。
ゲオルギウスは、エジプト王の娘がドラゴンの生け贄にされるという話を聞きつけると、エジプトへ向かい、アスカロンを使ってドラゴンの翼の下にある弱点を攻撃して致命傷を与え、首を刎ねてとどめを刺しました。
ちなみに、このときドラゴンの吐く毒のブレスによってリディアの甲冑は破壊されています。
クラウ・ソラス
引用:aminoapps.com
クラウ・ソラスは、アイルランド語で「光の剣」「輝く剣」を意味し、アイルランド神話に登場する聖剣です。
クラウ・ソラスは、アイルランド島に住むケルト民族が信仰していて神の一族であるダーナ神族の四秘法のうちの1つで、ダーナの王である戦神ヌァザが使っていたためヌァザの剣とも呼ばれます。
ヌァザが一度この剣を抜いて戦えば、相手は何も抵抗することができず、物語によってはまばゆく輝き持ち主の照明となったり、巨人や神殺しの剣として描かれることもあります。
十束剣
引用:the-demonic-paradise.fandom.com
十束剣(とつかのつるぎ)とは、日本神話に登場する剣で、十握剣・十拳剣・十掬剣とも表記されます。
十束剣とは、10束(束とは長さの単位で拳1つ分の幅を意味します)の長さの剣という意味で、様々な場面に登場していることから、固有の剣ではなく、様々な長剣の総称と考えられています。
国を生み出したイザナギが神を生み出す神産みにおいて、カグツチを切り殺す場面に登場して、このときは「天之尾羽張(あめのおはばり)」という名で呼ばれています。
ヤマタノオロチ退治の時にスサノオノミコトが使ったのも十拳剣で、「天羽々斬(あめのはばきり)」という名前で、このときはオロチの腹の中にあった天叢雲剣に当たって刃が欠けています。
ほかにも、「大量(おおはかり)」、「神度剣(かむとのつるぎ)」、「布都御魂(ふつのみたま)」などの名称で神話のなかに登場しています。
アゾット剣
引用:heurbanlegends.blog.fc2.com
錬金術師パラケルススことテオフラステゥム・フォン・ホーエンハイムは、16世紀のヨーロッパに実在した人物で、医師、化学者など様々な肩書きをもっていました。
パラケルススは、バーゼル大学で医学を教えていた1年を除いて、生涯のほとんどを放浪のうちに過ごしました。
アゾット剣はパラケルススが肌身離さず持ち歩いていた剣で、水晶で飾られた柄頭部分に「AZOT(アゾット)」の文字が刻まれていたことからこの名で呼ばれます。
パラケルススの肖像画はたいていアゾット剣とみられる長剣をもった姿で描かれています。
アゾット剣の中には霊薬が仕込まれていて、パラケルススはこの薬を医療行為に使っていて、全身麻痺の少女を一晩で治してしまったという話があります。
一説にはパラケルススは悪魔使いだったともいわれ、アゾット剣には使い魔である悪魔が封じられていたともいわれます。
村正
引用:rocketnews24.com
村正は室町時代に伊勢国(現在の三重県)で活躍した刀工・千子村正によって鍛えられた刀で、最も有名な日本刀の一つとしても知られます。
凄絶無比な切れ味をもつとされ、三河武士や豊臣秀吉にも気に入られ、伊藤博文などコレクターも多かったとされる村正ですが、同時に妖刀伝説でも知られています。
その多くは江戸時代になってから語られるようになったもので、持ち主や周囲の人間に対して災いをもたらすとされ、徳川家康にも不幸をもたらしたため、徳川家では村正を所持することが禁止されたといったものです。
千子村正には常軌を逸した暴力的な面があったとされ、作り手の性質が刀にも乗り移り、使う者を狂わせ、破壊的な人間へと変えてしまうのだといいます。
ですが、こうした伝説はすべて後世の創作であり、家康が村正を忌避していたという事実もありませんし、家康自身も村正を所持していました。
当時、普及率の高かった刀である村正は、刀を用いた事件に使用されることも多く、そのためこうした妖刀伝説が生まれたのではないかとも考えられます。
家康が嫌った刀ということで、幕末には討幕の象徴とされて西郷隆盛など、討幕派の志士たちが好んで使用していました。
アル・マヒク
引用:ja.wikipedia.org
イスラム世界の説話集『千夜一夜物語』は、英語名である『アラビアンナイト』で世界的に知られ、ペルシャ王に妻が毎夜語る物語という形式で様々な物語が描かれます。
アル・マヒクはこのうちの「クンダミル王子の子アジーブとガリーブの物語」に登場する剣です。
アル・マヒクとは、「破壊者」「敵を皆殺しにするもの」という意味で、はるか昔ジルムードという賢者によって鍛えられたものです。
アル・マヒクは、巨大な剣で一振りで山をも砕き、魔神やモンスターすら倒してしまう力をもっています。
アル・マヒクの刀身は妖しい光を放ち、刃の上を死神が這い、相手の目をくらませると同時に恐怖心を植え付けます。
アル・マヒクは最初、ノアの箱舟で有名なノアの息子が所持していたもので、武器庫に保管されていたところをイラク王の息子であるガリーブが手に入れ、物語の中ではこの剣を使って怪物や魔神、異教徒と戦いイスラム教に改宗させていくガリーブの活躍が描かれます。
ストームブリンガー
引用:stormbringer.fandom.com
ストームブリンガーは、イギリスのファンタジー・SF作家であるマイケル・ムアコックの『エターナル・チャンピオン』シリーズに登場する架空の剣です。
エターナル・チャンピオン(永遠の戦士)は、世界の法と秩序のバランスが崩れたときにバランスをとるために戦う戦死で、ストームブリンガーはシリーズの1つ『エルリック・サーガ』に出てきます。
ストームブリンガーとは「嵐をもたらすもの」という意味で、法と混沌のバランスをとるために法によって鍛えられた剣で、刀身までびっしりとルーン文字が刻まれた黒い広刃の剣です。
ほとんどあらゆるものを斬ることのできるこの剣は、自我をもっていて、最大の特徴は斬った相手の魂を吸い取り持ち主に与えることです。
虚弱体質だったエルリックは、この剣に魂をもらうことで軽々とストームブリンガーを使うことができるようになります。
しかし、ストームブリンガーは、血を求める魔剣であり、しばしばエルリックの手から離れて彼の大切な友人や恋人を殺して持ち主を苦しめ、最後にはエルリック自身も殺してしまいます。
まとめ
以上、世界の聖剣・魔剣を紹介してきました。
それぞれの国には、いくつもの伝説や英雄譚が存在していて、こうした聖剣や魔剣は、そうした英雄たちの凄さを描写する道具としての役割も担っています。
こうした剣や英雄の活躍を描くことは、その国や民族にとっての誇りにもなっていたのでしょう。
長い時を経て語り継がれ、様々な伝説によって彩られた個性豊かな剣たちは、現代の私たちも引きつける強い魅力をもっているのです。