都市伝説 オカルト

【閲覧注意】本当は怖い有名なグリム童話6選

綺麗なお姫様に素敵な王子様。

可愛い動物たちの住む美しい森。

夢のような海底王国に、宝石箱を開いたようなお城の舞踏会。

誰もが一度は憧れる夢と魔法の世界、それがお伽噺です。

特にここ数十年はディズニーによる素晴らしい作品の影響で、子供たちだけでなく大人たちもファンタジーの世界を楽しむようになりました。

意地悪な継母、恐ろしい魔女、悪い狼、そうした悪役たちによって主人公は途中ピンチに陥いるものの、最後は必ず正しい心の主人公が幸せになれるハッピーエンド。

お子様からお年寄りまで、心してお茶の間で鑑賞できるのが童話の世界――そう思っていませんか?

しかし、それは果たして真実でしょうか?

今回はお子様に話したら間違いなくトラウマになるような、本当は恐ろしくて残酷で時に官能的な『教育に悪い』グリム童話を集めてみました。

目次

グリム童話とは

グリム童話とは、もともとはヤーコブとヴィルヘルムのグリム兄弟によって編集されたドイツの物語集を意味します。

しかも兄弟が話を聞いた相手は主に上流階級の婦人たちであり、彼女らの多くはユグノー(フランス系移民)の子孫であったため、原典がフランスのものも少なからずあります。

ナポレオンによるフランスの支配を嫌ったドイツが、ナショナリズムの一環としてドイツの物語を編纂したつもりが、出所フランスでしたというオチは、童話と同じくらい面白いですね。

つまり、私たちがグリム童話と呼んで親しんでいる物語の数々は、グリム兄弟のオリジナル創作ではなく、ドイツというよりヨーロッパで昔から語り継がれてきた口伝なのです。

そのため、原点となる物語は飾り気がなく文章としては粗野でもあり、子供たちに聞かせるための配慮にも欠けていました。

時代が進むにつれそうした点が改善され、ヴィルヘルムは実母による子供の虐待・妊娠や近親相姦といった性的な部分を神経質なまでに削除していきます。

しかしその一方で刑罰に関する残酷な描写は初版よりむしろ過激になっていたりと、現代日本人の感覚からすると奇妙な部分も多く見られます。

 

白雪姫


引用元:https://item.rakuten.co.jp/

グリム童話の中でも最も有名な物語の一つ『白雪姫』。

美しい姫に素敵な王子様、可愛らしい森の小人たちに動物。

意地の悪い恐ろしい継母魔女に空気過ぎる父王様、実は一番いい人かもしれない狩人。

おそらく現代日本で『白雪姫』と言えば、ディズニーの作り出したファンタジックな物語を大半の人が思い浮かべることでしょう。

しかしこの物語、実にたくさんのバージョンが存在するのです。

子供たちの間でもメジャーなディズニー版(子供向け童話も概ねこれに準じる)、グリム童話原作(こちらのも初版~7版までの間での変遷が非常に激しい)さらにはグリム童話になる前の口伝。

ここでは有名な物語なのであらすじは割愛し、各バージョンから選りすぐりの怖い設定をピックアップします。

 

魔女が実母!

白雪姫が自分より美しいことに嫉妬し、姫を偏執的に殺害しようとする怖い魔女。

ディズニーやグリムの2版移行では継母とされている魔女は、初版では姫の実母でした。

自分が腹を痛めて生んだ我が子を、まだ7歳の幼女の段階で容姿を理由に殺害しようとする鬼畜母

まごうことなき異常者です。

さらにこの異常な嫉妬に対する考察として、夫(つまり姫の父親で王様)の関心が美しく育った娘に傾いたことが理由とする説があります。

この場合、姫を助けるのは王子ではなく父王であり、末永く幸せに暮らすのも父娘です。

これをもって直ちに近親相姦を疑うのは早計に過ぎますが、『千匹側』の物語や当時のヨーロッパでは父親系の近親相姦が多かったとされているので、嫌なリアリティがあります。

 

姫の年齢設定

ディズニーのアニメを見る限り、若くハンサムな王子様に十代後半の美しい姫といった趣があるのですが、実際の姫の年齢は驚くほど幼いのです。

まず、魔女が姫に嫉妬して殺害したのが7歳の頃。

7歳と言えば、小学校の2年生です。

こうなると、王子が一気に変態に見えてきませんか?

ただし、グリム童話には毒林檎で死んだ姫が王子に見初められるまでにはかなりの時間が経過していて、『仮死状態のまま肉体だけは15歳くらいにまで成長していた』というのが暗黙の了解のようです。

さすがに当時のヨーロッパでも、7歳の幼女の死体に一方的に懸想、死体を持ち帰って妻にする王子は微妙だったのでしょう。

しかしよくよく考えてみれば、身体的には適齢期の娘でありながら、精神年齢は7歳で止まっているお姫様というのも如何なものか……。

 

レッツ・カニバル

魔女の姫殺害方法が、グリム以前とグリム初版では異なります。

グリム以前:シンプルに森に捨てるだけ(ただし、当時の森は危険地帯。女子供が入れば基本死ぬしかない)

グリム初版:狩人に殺害を命じた上、肺と肝臓を取ってくるよう命じる。

モツなんかテイクアウトさせてどうするつもりなのかと思いきや、まさかの食用です。

それも調理法は至ってシンプル、素材の味が存分に生きる塩煮。

臭いと思うのですが、しっかり血抜きすれば豚肉のマース煮的な感じになるのでしょうか…。

『水滸伝』では捌く前の生きている食材=人間の腹に水を掛けて肝を冷やし、フレッシュな肝臓を取り出し刺身にして頂くという記述があることを参考までに。

 

小人は人殺し?

初版では7人の小人は7人の殺し屋であった説があります。

ただしこれは信憑性が低く、自分たちの住家に入った少女を手当たり次第に殺してしまう7人の小人の話と混じっているのかもしれません。

また小人に関する感覚も、現代日本と当時のヨーロッパではかなり異なりました。

ディズニーの影響で日本ではすっかり可愛らしい人気者ですが、かつてのヨーロッパでは異形の者、ある種のモンスターのような括りでした。

歴史的にヨーロッパの宮廷では小人症の人間が宮廷道化師としてもてはやされ、半ば迷信のように彼らは性欲が強いとされていたことからも、7人の小人に性的なメタファーがあるとする説もあります。

 

魔女に下される罰

姫が生き返り王子と結ばれ城に帰還、全て解決めでたしめでたし――その後に。

ディズニーや良い子の絵本では暈されている、魔女へのキツイお仕置きタイムがグリムにはしっかりと描かれています。

真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされ、死ぬまで踊り狂う。

なかなか強烈な死に様ではないでしょうか?

初版では魔女=実母であることを考えると更に凄惨さが増します。

15歳前後の美しい姫(精神年齢7歳?)が、自分を迫害してきた実母を夫となった王子(もしくは助けに来た父親)に訴え、残酷な方法で処刑するのです。

真っ黒な髪に縁どられた雪のように白い顔に、実母を灼く炎が濃い陰影を作る。

悲鳴を上げながら踊り狂う母親を、血のように赤い唇に無邪気な笑みを湛えて見つめる美少女。

何とも倒錯的な美に満ち溢れゾクゾクします。

 

王子の性癖

これは各方面で言われていることですが、王子の性癖がどのバージョンにおいてもかなり異常です。

 

①ロリコン

ディズニーの王子さまは18歳、姫は14歳。

幼馴染で自然な交際~とかならばわかりますが、相手が初対面の死体の女の子となると一気にハードルが上がります。

それをものともせずに実家にテイクアウトした王子、勇者です。

もし仮に姫が7歳のままの姿であったとしたら、更に変態度が増します。

 

②死体愛好疑惑

いくら好みの美少女だからと言って、生前会話したこともない女の子の死体をいきなり欲しがる青年ってどうですか?

しかも、姫が死んでしまったことを小人たちが悲しみ、泣きながら棺を囲んでお葬式をしている最中に。

まったく知らない赤の他人の葬式に上がり込み、無遠慮に棺を覗き込んだ挙句に『何て美しいお嬢さんだ!私にください』とか、普通の神経をしていたら絶対に言えません。

世間知らずの王子様とはいえ、空気が読めないにもほどがあります。

さらにここからの行動もディズニー版、グリム初版ともにオカシイ。

 

ディズニー版

死体と迷わずキス。

大事なことだから何度も言いますが、王子と姫は初対面です。

そして周りには、それまで姫と暮らして来た小人たちもいます。

王族は幼少期から人に囲まれて育つため『人目を憚る』といった感覚が稀薄であるにしても、見知らぬ女の子の死体とキスするというのは、何か一線を越えた性癖の持ち主としか思えません。

 

初版グリム

ある意味、ディズニー版より異常なのがこちら。

姫の死体を棺ごとテイクアウトした王子は、死体を自室に安置。

四六時中死体を眺め、果ては常に側においておかないとご飯も喉を通らないと言い出す始末。

外出時にまで姫の棺を必ず家来に担がせるのだから、もはや筋金入りの変態です。

 

ちなみに、姫が生き返る時のパターンの一つに、この棺運搬係が大活躍するものがあります。

重たい棺を担いで歩くことに嫌気がさした運搬係、ある日棺から姫の身体を持ち上げ『お前のせいだ!』と背中にワンパン。

その弾みに喉に詰まっていた毒林檎の欠片が飛び出し姫復活。

キレたからといって女の子の死体にワンパンくれる運搬係も人としてちょっとどうかと思われますが、馬鹿王子への鬱屈した不満が姫への八つ当たりになったのでしょう。

 

ラプンツェル


引用元:https://www.pinterest.jp/

こちらも比較的最近のディズニー映画で大人気のお姫様。

黄金の滝のように長く美しい髪のディズニー・プリンセスは女の子の憧れでしょう。

ディズニーでのラプンツェルは好奇心旺盛でとてもアクティブ、塔の中で強制ひきこもり生活をしていたとは思えないほど賢い少女です。

しかし、グリム童話の彼女は設定だけを同じくする別人のようなお姫様でした。

 

あらすじ

ようやく子供に恵まれた夫婦がいた。

妊娠中の妻は、どうしてもラプンツェル(野チシャ)が食べたいと言う。

しかし、季節的にそんなものはどこにも売っていない。

困った夫は魔女の庭から盗みを働き、魔女に見つかってしまう。

死を覚悟する夫に、魔女は『ラプンツェルが欲しいならやる。代わりに産まれた子供を寄越せ』と言った。

やがて妻が女の子を産むと、魔女は即座に赤ん坊を連れ去りラプンツェルと名付ける。

魔女はラプンツェルを小さな窓しかない高い塔に閉じ込め、外部との接触を禁じた。

魔女が出入りする時は、ラプンツェルの長い髪を窓から降ろさせてロープ代わりにするのだ。

ある日森の中を歩いていた王子は、美しい歌声に惹かれてて塔の中のラプンツェルを発見。

王子は魔法使いと同じ方法で塔の中に入り、夜毎ラプンツェルと愛し合うようになった。

その結果、ラプンツェルは妊娠する。

妊娠を知った魔女は激怒し、ラプンツェルの髪を切り荒野に放逐した。

何も知らずに訪れた王子は、魔女から罵られ全てを知ると絶望し塔から投身自殺を図り失明。

7年後、盲目のまま荒野を彷徨っていた王子は、双子の男女の母となり暮らしていたラプンツェルと再会する。

ラプンツェルの流した涙で視力を回復した王子は、妻子を伴い帰国し幸せに暮らした。

 

そもそも悪いのは父親

ディズニーでは元々お姫様だったラプンツェルは、グリムでは一般庶民の子供です。

そして、魔女は完全なる悪者でもありません。

妊娠中の妻が食べたがったからといって、他人の家の庭から勝手に農作物を盗んだ父親こそが諸悪の根源でした。

恐ろしい魔女の庭から盗むくらいならば、『売ってください』と頼めば済む話です。

それを一度ならずも二度までも忍び込んで見つかった挙句、『葉物野菜と産まれてくる娘』というアンフェア・トレードを飲まされるのですから、愚かと言うより他にありません。

見つかって交換条件を持ち掛けられた時に、『盗んだ分の代金は働いて返します』の一言が言えない父親の下で暮らすくらいならば、魔女に育てられるのもアリに思えてきます。

 

童話で妊娠

世間から隔離され塔の中で暮らしている少女(15歳前後と思われる)の元に、夜毎通ってくる王子様。

ひきこもり生活を強いられていたラプンツェルは、当然異性とお付き合いしたことなどありません。

魔女の教育方針だったのか、性的な知識もまったく持っていなかったようです。

そのことがわかる台詞が、初版には記されていました。

『私、お洋服がきつくなっちゃった』

この言葉により、魔女はラプンツェルが外の男を引き込み密会を繰り返し、妊娠までしてしまったことを知り激怒するのです。

素敵な王子様と美しいお姫様の出会いと恋、そして最後は結婚して幸せに――が基本形である童話において、閉じられた空間の中で逢瀬を重ねた果ての妊娠という生々しさ。

男女交際に厳格であった当時のヨーロッパでこれは教育上よろしくないと考えられたのか、二版以降では性的な部分は大幅に削られ、問題の台詞も『王子さまは軽々と登って来るのに、お母さんはどうしてそんなに重いの?』に差し替えられました。

余談ですが、髪の毛云々以前に、成人男性の体重を支えられるラプンツェルの首の筋力は相当です。

53キロの成人女性を首の力だけでリフト出来る男性はそう珍しくもありませんが、十代の女の子でそれは驚異的です。

 

無知過ぎた少女

ラプンツェルが『お洋服がきつくなっちゃった』発言を、悪びれもせずに魔女にしてしまった理由。

それは彼女があまりにも無知であったからに他なりません。

彼女は性行為とその結果としての妊娠を知らなかったのです。

無知故に望まぬ妊娠を避ける術どころか、妊娠そのものや出産についても何もわかっていません。

こんな状態で妊娠することは、女性にとってどれほどの恐怖でしょう。

ワケもわからず自分の身体が日々変わっていくのです。

年齢相応に必要な知識を与えず、恣意的に世間から隔離することは暴力と同様虐待であり、それは時に残酷な結果を招きます。

 

魔女の歪んだ愛情

グリムの魔女は、実はラプンツェルを非常に深く愛していました。

泥棒親父に条件を持ちかける時も、『娘は可愛がる。母親のように育てる』と約束しているくらいです。

ただ、その愛し方が明らかに歪んでいました。

魔女は12歳になったラプンツェルが非常に美しいことから、世間(男性)から遠ざけるために塔の上に隔離したのです。

娘が『大事だから』『可愛いから』『幸にしたくないから』と、無知なまま世間から隔離して娘を育てた結果が密会からの妊娠。

『お前のためにこんなにしてやったのに裏切られた』と激怒する魔女の姿は、いわゆる毒親そのものです。

 

駄目王子

他所んちの娘さんを孕ませた挙句に、責任も取らずに身投げを図る王子。

ショックなのはわかります。

しかし、妊娠した恋人が荒野に放逐されたのだから、身投げなんぞしてる場合ではないでしょう。

何故城の人間総動員、なんなら懸賞金出して城下の民を駆り出してでも探さないのか?

金と権力の使いどころがわかっていません。

挙句盲目となりながら、荒野をあてどなく7年も彷徨うという無計画さ。

男としても王族としてもだらしのない人間が次期国王、国民にとってこんなに恐ろしい話もないでしょう。

 

シンデレラ


引用元:http://anniversary-r.jp/blogs/

グリム童話で有名と言えば、『白雪姫』と双璧をなすのがこれからご紹介する『シンデレラ』です。

意地悪な継母に姉たち、優しい魔法使い、カボチャの馬車に輝くようなドレス。

そして物語のキーアイテムとなるガラスの靴。

キーワードを並べただけで、名作童話王道の匂いがしますね。

しかし、ディズニーから削除されている残虐性・猟奇性に関しても『シンデレラ』は『白雪姫』に負けていません。

原点の危険度において正に東の横綱と西の横綱といった趣すらあります。

それでは、グリム版『シンデレラ』のホラーポイントを見て行きましょう。

 

魔法使い・カボチャの馬車・ガラスの靴がない

ハシバミと白い鳩

シンデレラと聞いて誰もが連想するこれらのアイテムですが、実はグリム童話には出てきません。

お城の舞踏会に行きたくても、継母たちの意地悪で灰の中にばら撒かれた豆拾いをさせられ、ただでさえみすぼらしい服がさらに灰だらけになって泣いていたシンデレラ。

ディズニーでは心優しい魔女が彼女を助け、魔法の杖を一振りしてカボチャの馬車や上等のドレスを出してあげました。

これがグリム版では、実母の眠るハシバミの木にお願いする形になっており、二羽の白い鳩が何かにつけシンデレラをサポートします。

ちなみにこの鳩たち、平和の象徴どころか結構な攻撃力を持っていることが後ほど明らかになるのでお楽しみに。

 

ガラスならぬ金の靴

ディスに―でお馴染のガラスの靴は、グリム版では金のドレスとセットで出された金の靴でした。

おそらく24金製鉄下駄ハイヒールではなく、贅沢に金糸で編んだ高級な靴かと思われます。

普通に考えて、ガラス製の靴など即割れて危険極まりないので、グリム版の方が現実的です。

 

策略家王子の足フェチ疑惑

ディズニーでは、12時の鐘を聞いて逃げ出したシンデレラが偶然落としていったガラスの靴を王子が拾い、彼は靴を片手に舞踏会で踊った夢のように美しい姫君を探しに行きます。

これに対してグリム版の王子は策略家です。

舞踏会で会った美しい姫君、彼女は12時になると瞬く間に消えてしまう。

初日で学習した王子は、翌日の舞踏会ではシンデレラを城から逃がさぬため、階段にタール(ヤニ・蜜蝋・油とも)を塗っていました。

つまり、シンデレラの靴が脱げたのは偶然ではなく、ゴキブリホイホイ的な粘着力に絡め取られてのことだったのです。

サラリと言いましたが、これは相当に危険な行為です。

階段での悪ふざけは絶対に止めましょう。

おまけにこの王子、こんなしょうもない策略を思いつく程度には頭が回るというのに、何故か踊った相手の顔認証が出来ません。

残された靴とピッタリな足の娘さんを、国中の若い娘のいる家を自ら訪ねて探すという奇行に出ます。

成人女性の足のサイズなど、基本的には似たり寄ったり。

たまたま足のサイズが同じ女性などいくらでもいそうですが、王子は極度の足フェチなのでしょうか?

白雪姫の王子と言いこの方といい、高貴な方の性癖は良くわかりません。

相貌失認証疑惑と言う意味でも、娘の顔がわからない『千匹皮』の父王と良い勝負です。

 

継母の狂気/根性の方向性がクレイジーな姉たち

金の靴を持った王子の家庭訪問が、シンデレラの家にも回って来ました。

もちろんシンデレラは隅に追いやられ、王子の前には着飾った姉たちが。

まずは長女がトライするも、指が靴に収まりません。

すると継母(姉たちにとって実母)がナイフを渡して言いました。

『その指を切っておしまい』……自分の実の娘に向かって。

長女もよほど妃になりたかったと見え、己の指を根性で切り落とします。

江戸時代に遊女がしていた『指切り』を思えば、女の力で出来なくはないのでしょうが、常軌を逸していることは疑いようもありません。

長女は血塗れの足で痛みを堪えながら王子の元に行き、王子もいったんは彼女を馬車に乗せました。

しかし、シンデレラの味方の鳩が『靴の中は血塗れ 小さすぎるよその靴は 本当の花嫁は家の中』と歌ったことで王子は引き返します。

次に挑んだ次女は踵が靴に入りませんでした。

そしてまたしてもナイフを娘に手渡し『踵を削げ』と命令する鬼母。

次女も長女同様、歯を食い縛って己の踵を切り落とします。

しかし、これも鳩の歌によってインチキだとバレてしまいました。

***

結局二人の姉たちは、無駄に己の足を削っただけ。

このあまりにも残酷(とても絵本には出来ない)描写は、ディズニー映画ではアニメでも実写でも完全にカットされています。

というか、これを実写でそのまま表現したら完全に猟奇映画です。

 

さて、このシーンにおいて一番狂っているのは誰でしょう?

もちろん登場人物全員、それぞれ大分頭はオカシイのですが、だんとつ一位でクレイジーなのは母親です。

娘たちにナイフで爪先だの踵だのを切り落とせと命じる実母。

その理由は『お城のお妃様になれば、歩く必要などなくなるから』です。

確かに高貴な身分になれば自分の足で歩く機会は減るでしょうが、それでも不自由になることには違いないというのに。

そこまでして自分の娘を妃の地位に付け、自らは未来の国王の外戚にならんと欲す母親の強欲さが恐ろしいシーンです。

そして目の前で血塗れの大惨事が起きているというのに、事の発端となった靴を片手に淡々と花嫁探しを続行する王子にも闇を感じます。

 

アグレッシブな鳩

シンデレラが王子の花嫁となる結婚式、強欲な姉たちは幸運のおこぼれに預かろうと、散々苛めて来た妹の両サイドを親族面で固めます。

この姉たちの片目を、シンデレラの両肩にとまっていた鳩が突いて抉り出し、二つの目玉がコロコロと転がりました。

それでもおこぼれを諦めきれない姉たちは、教会から出るシンデレラの左右に先程とは逆の配置で寄り添います。

鳩、目玉アタック再び。

二人の姉たちは、盲目となってしまいました。

***

鳩という身近な鳥が、二度に分けて人間の目玉を完全に抉り出すという描写も相当にグロテスクですが、片目を失くしてなお欲を滾らせ、おこぼれを狙う姉たちの異常さが不気味です。

もしかしたら、爪先や踵を自ら切り落とした時に半ば精神崩壊していたのかもしれません。

『ここまでやったんだから、死ぬ思いで頑張ったんだから、何かしら報われないなんてオカシイ』

『報われるはず、報われるべき、報われなきゃいけない』

そんな強迫観念に駆られ最後には視力まで失くしてしまったのだから、考えようによっては哀れな二人です。

 

罰を受けない継母

シンデレラを苛めていた二人の姉たちは、爪先と踵を失い最後には盲目となるという厳しい罰を受けました。

しかし、どういうわけか継母だけは何のペナルティも受けていません。

シンデレラへの苛めも、姉たち以上に率先してやっていたはずなのに。

長女と次女に『足をナイフで切って靴に合わせろ』という狂気の命令を下し、王子を欺く不敬を働いたのに。

勧善懲悪、信賞必罰がモットーのグリムにおいて、この継母の処遇はどうにもアンフェアさが拭えません。

 

シンデレラの足は発育不全?

『靴で花嫁探しなんて無茶だ、同じサイズの娘がいたらどうするんだ?』と先述しましたが、もしかしたらシンデレラの足は個人が特定できるほど極端に小さかった可能性を指摘する説があります。

当時の良ヨーロッパでは、靴の素材は皮・布・木でした。

皮の靴はピンキリとはいえ高級品、布の靴は庶民の靴、そして労働者階級や貧しい人たちは丈夫で長持ちする木靴を履いていたそうです。

引用元:http://holland-kigutsu.jp/

みすぼらしい身なりで一日中こき使われていたシンデレラの靴も、おそらくはこの木靴だったのではないか?

それも身体の成長に合わせた新しい靴を買ってもらえず、いつまでも小さな靴を無理に履き続けた結果、成長期の足が変形して酷く小さくなったという説です。

些か飛躍し過ぎにも思えますが、中国の纏足を考えれば絶対にないとも言い切れないでしょう。

虐待の結果作られた小さな足のおかげで王子と結婚出来たのだとしたら、何とも皮肉な『塞翁が馬』です。

 

赤ずきんちゃん


引用元:https://www.inside-games.jp/

赤い頭巾を被った女の子が、森で一人暮らしをするお婆さんにパンとワインを届けるまでの冒険譚。

悪い狼が出て来るけれど、猟師の助けもあってハッピーエンド。

これが一般的に子供たちが知っている『赤ずきんちゃん』の物語です。

しかし、この地点で生きている狼の腹を掻っ捌いて石を詰めるなど、冷静に考えると結構グロイ…グリム原典への期待が高まります。

 

たくさんの『赤ずきん』

グリム童話はそもそも民話をグリム兄弟が集めたものですが、その中でも『赤ずきん』の物語には多くの類型が存在します。

***

①スウェーデン・フランスの民話

とにかく容赦なく残酷かつ性的。

赤ずきんはトレードマークとなる赤い頭巾を被っていない。

赤ずきんが実の祖母を食べるカニバリズム描写あり。

お婆さんも赤ずきんも食べられてオシマイのデッド・エンド。

助けてくれる猟師不在。

老婆と少女が狼という捕食者に食われる絶望の物語。

そもそも狼ですらなく人間の男。

***

②ペロー版

赤い頭巾初登場。

赤ずきんもお婆さんも狼に食われる食殺エンド。

悪役はちゃんと狼。

***

③グリム版

赤い頭巾継承。

赤ずきんお婆さん生還。

狼の殺し方は寝ている間に腹を切り開き(何故か狼起きない)赤ずきんとお婆さんを取り出し、代わりに石を詰めておく。

水を飲もうとした狼が、石の重みで川に落ち溺死の自爆エンド。

二匹目の狼を婆孫で罠にかけ殺害するアグレッシブさも見せる。

***

➃現代版

赤い頭巾を被った女の子の冒険物語。

狼一匹以外死人なし。

赤ずきんは狼に食われず、クローゼットに軟禁されるだけなど改変が見られる。

狼の殺し方は基本的にはグリムと同じ。

狼に食われる前に赤ずきんが狼を撃ち殺すものもあり。

***

どのバージョンもそれなりにエグイのがポイントでしょう。

その中でも特に怖いポイントを、以下に挙げて行きます。

 

民話最恐

①狼ではなく…

まず、狼が純粋な野生の狼ではなく、人狼・人食い鬼という表現で語られる『残忍で狡猾な人間の男』であることを念頭においてください。

ここでは混乱を避けるため、人狼と表記します。

 

②強制カニバリズム

赤ずきんの先周りをしてお婆さんを食い殺した人狼。

彼はお婆さんの肉の塊を戸棚に入れ、血は瓶に入れ棚の上に置いた。

お婆さんになりすましてベッドに横たわった人狼は、パンとミルクを持ってやってきた赤ずきんに『戸棚の中の肉をお食べ。棚の上のワインもお飲み』と勧める。

何の疑いも持たず祖母の肉を食いワインを飲む赤ずきん。

それを見た仔猫が『自分のお婆さんの肉を食べて血を飲んだ!何て恐ろしい子なんだ』と言った。

***

何とも残酷な描写ですが、ここで真に恐ろしいのは人狼の持つ猟奇性ではないでしょうか?

彼の目的はお婆さんも赤ずきんも纏めて平らげる=祖母を殺害、孫を強姦(二代に渡り15歳前後で結婚・出産していれば祖母も強姦対象?)です。

その目的達成のために、赤ずきんにカニバリズムを強いる必要性は本来まったくありません。

つまり、彼は単に己の趣味のためにこんなひと手間を掛けたのです。

強姦前の前戯として、何も知らぬ無垢な少女が己の祖母を貪り食う姿を眺めたい。

白雪姫の王子が可愛く見えて来るレベルの特殊性癖です。

 

②ストレートなお誘い

少女のカニバリズムでイイ感じに興奮したら、お次は『服を脱いで私と一緒のベッドにお入り』と、超肉食系らしく直球でベッドへと誘う人狼。

しかも脱いだ服は『もういらないから暖炉で燃やしてしまえ』と指示します。

美味しく頂いた後は始末するつもりなのか、はたまた裸のまま飼育でもしたかったのか…どちらにしろ怖いです。

何処の世界に自分の孫にそんな奇天烈なお願いをする婆がいるんだ!と思いますが、赤ずきんは少し頭が足りないのか素直なのか、言われるがままに服を脱いでしまいます。

この先は裸のまま逃げ出して何とか助かるお話もあれば、そのまま食べられてしまう結末もあります。

いずれにせよ、ペローやグリムでさえカニバリズムを削除し悪役を『狼』にしたことからも、当時の民話の危険度が窺い知れます。

 

ペロー版は教訓話

カニバリズム描写こそなくなったものの、ここでも赤ずきんとお婆さんは依然食殺デッド・エンドを迎えます。

狼が赤ずきんを裸にしてベッドに誘う性的な部分もそのままです。

グリム兄弟が教育上よろしくないとして削った性的な部分、しかしこの部分こそがペローの伝えようとする教訓でした。

誰彼なしに言うことを素直に聞いたら危ない。

調子の良い男に騙され、服を脱いでベッドに入れば強姦されてしまう。

そうした不幸を招かぬように、ペローは童話を通して読者である女の子たちに注意を促したのです。

 

アグレッシブ・グリム

①狼の腹を裂く

カニバリズムや性的要素が削ぎ落とされた代わりに、グリム版は狼への復讐が一気に過激に、見ようによっては陰険なものになりました。

一度は狼に丸飲みにされたお婆さんと赤ずきんは、通りすがりの猟師によって狼の腹の中から救出されます。

大蛇でもあるまいし狼は獲物を丸飲みにはしないだとか、お婆さんが食べられてからの時間の経過を考えたら胃液による消化が始まっている頃合いだとか、そういった細かいツッコミはとりあえず脇に置いて。

この助け方が寝ている狼の腹を鋏でチョキチョキ

絵本のイラストにモザイクが必要です。

 

②赤ずきん、恐ろしい子!

救出された赤ずきんは、急いで外に走って行き大きな石を持ち帰ります。

そしてその石を狼の腹に詰めて縫い合わせ、見事狼を自爆させました。

これ、年端もいかぬ女の子の行動だと思うと怖くありませんか?

泣くでも逃げるでもなく、助かると同時に報復に走る。

前半部分のちょっとオツムの緩い女の子が、短期間にえらく逞しく行動的になったものです。

狼に食われる=処女喪失のメタファーと考えると、その前後での赤ずきんの変わりように生々しいリアリティが出てきます。

 

③楽には殺さない残忍性

単純に害獣駆除が目的ならば、狼が寝ている間に喉笛を掻っ切るなり心臓を一突きにするなり出来たはずです。

しかし、赤ずきんは結構な手間を掛けてまで、狼に苦痛と恐怖に塗れた死を与えました。

この辺りの感覚に、見せしめ拷問からの処刑が当たり前に行われていた時代の匂いを感じます。

実際、ヨーロッパでは罪人を生かしたまま臓器を切除して最後に首を刎ねる解体刑というものがありました。

 

➃狼との第二ラウンド

グリム版には、なんと別の狼とのラウンド2が存在します。

***

二度目ともなると赤ずきんもお婆さんも慣れたもの。

赤ずきんは狼の誘惑を振り切りお婆さんの家に直行、お婆さんに怪しい狼を目撃した旨を伝え、二人して狼を倒すための算段をする。

狼が訪ねて来ても完全に無視するお婆さんと赤ずきん、しつこく屋根の上で待機する狼。

お婆さんは赤ずきんにソーセージの煮汁を家の前の石の餌箱に入れるように指示。

するとソーセージの美味しそうな匂いにつられた狼は屋根から足を滑らせ餌箱の中に落ち、そのまま溺死した。

***

一匹目の狼と比べ二匹目の狼は甚だしく間抜けです。

しかし、それでも狼は狼。

か弱い女子供からすれば、脅威以外の何物でもないはずです。

それを慌てず騒がず逃げ出さず、的確に迎撃してのける祖母と孫。

怖いほどメンタルの強い血統です。

 

先手必勝よりも…

CAPCOM『ヴァンパイア』シリーズより

引用元:http://www.capcom.co.jp/

現代はとかく残虐性や性的要素に過敏です。

そのため、赤ずきんちゃんやお婆さんが狼に食べられる描写すらないものが出てきています。

しかし、だからと言って赤ずきんちゃんが先手必勝とばかりに狼を銃で射殺するのも微妙ではないでしょうか。

『殺られる前に殺れ』そのものは教訓として非常に正しいのですが、世界一加害者に優しく被害者に厳しい法治国家日本では、正当防衛ですら過剰だと騒がれるので『先手必勝』よりも『後の先(カウンター)』が正解かもしれません。

 

ヘンゼルとグレーテル


引用元:http://www.appbank.net/

意地悪な継母に悪い魔法使い、仲良し兄妹にお菓子の家。

このお菓子の家のイメージが強いため、童話の中でもファンタジックな印象の強い『ヘンゼルとグレーテル』。

しかし…グリムは相当怖いです。

幼い子供たちが直接人を焼き殺して金品盗みます。

 

あらすじ

貧しい木こりの四人家族。

父親・継母・兄ヘンゼル・妹グレーテル。

ある飢饉の年に、継母は渋る夫を責め立て口減らしのための子捨てを二度に渡り敢行。

継母の話をコッソリ聞いていた賢いグレーテルは、一度目は光る石を前もって用意し、森に捨てられる道すがら目印として落としていき無事生還。

しかし、二度目は家に閉じ込められ光る石を用意できなかった。

仕方なくパンクズを少しづつ落としていくも、物がパンだけに鳥に食べられ道を見失う。

恐怖に泣き出すグレーテルの手を引き、三日三晩食べるものもなく森を彷徨うヘンゼル。

空腹の限界を迎えた二人の目の前に、突如現れるお菓子の家。

二人が無我夢中でお菓子の家を貪り食っていると、中から一人の老婆が出て来て優し気に話し掛けて来た。

老婆は疲れ切った二人を家の中に招き入れ、タップリの御馳走やフカフカのベッドを気前良く提供する。

だが、この老婆は実は子供が大好物の人食い魔女だったのだ。

優しかった老婆は翌朝早々に恐ろしい魔女へと豹変し、ヘンゼルを檻に閉じ込めグレーテルに兄を肥え太らせるための料理を作るように命じる。

こうして4週間が過ぎた。

そしてついに魔女がヘンゼルを食べる日が来た。

実の兄を調理するための手伝いをさせられるグレーテル。

魔女に『かまどに入って火加減を見ろ』と言われたグレーテルは、魔女は自分のことも殺す気だと悟り大胆な行動に出る。

『やりかたがわからないから見本を見せて』と訴え、魔女が腹這いになってかまどに頭を入れた瞬間――グレーテルは魔女を思い切りかまどの中に突き飛ばし蓋を締めた。

断末魔の悲鳴を上げ、魔女は自宅のかまどで痩せこけた女の子に突き飛ばされ焼死した。

ヘンゼルを助け出したグレーテルは、兄と共に魔女の財宝を見つけ出し意気揚々と帰宅。

更に嬉しいことに、意地悪な継母も病死していたため、その後は親子三人幸せに暮らした。

 

まさかの実母

白雪姫の継母同様、こちらも初版では継母ではなく実母でした。

実の母が渋る夫を責め立てて、一度ならずも二度までも我が子を森に捨てに行く。

それも、普段は子供たちに当たりのキツイ母親が、捨てに行く日だけは妙に優しい

これを残酷と言わずに何と言いましょう。

 

弱い父親

物語の中では『優しい父親』とされていますが、それは母親と比べてマシ、もしくは主張しないだけのように思えます。

実母であれ継母であれ、この父親にとって兄妹は紛れもない実子です。

それを捨てに行くと言われ、最初は反対するも妻に強く言われて押し切られてしまう父親。

世の中には、押し切られて良いコトと悪いコトがあるでしょうに。

当時のヨーロッパは理不尽なまでの男尊女卑社会なのだから、一家の大黒柱が毅然として『NO』と言えばそれが決定事項となります。

夫に従わぬ女は離縁されてやむなしの風潮もあったのだから、『ガタガタ言うならオマエが出てけ!』くらいのことも言える立場です。

それを言わずに結局は子供を捨てるのですから、優しいもとい気の弱い父親も同罪ではないでしょうか。

二度目の子捨ての際も、『一度やってしまったことだから』とやむなく承諾するのですが、二度目だからを理由に罪悪感から都合良く逃げる姿勢からは優しさどころか卑怯さしか感じられません。

 

森を彷徨う兄妹

父親は二人を森に捨てる時『そんなことをしたら子供たちが獣に引き裂かれてしまう』と反対しました。

つまり、兄妹が捨てられたのは大人でも危険な森であることがわかります。

暗闇の中、二度までも親に捨てられた幼い兄妹が、飢えと寒さといつ襲ってくるかわからない獣の恐怖に怯えながら当てもなくさ迷い歩く。

リアルに想像するとかなり可哀想な姿であり、我が身に置き換えて考えると相当に怖い状況です。

 

グルメな魔女

魔女が性質の悪い魔法で人を困らせたり呪ったり殺したりは童話の世界のお約束ですが、わざわざ森の中にお菓子の家まで建てて子供をおびき寄せるケースは珍しいでしょう。

しかも捕まえてすぐには食べず、檻の中に閉じ込めて太らせてから食べるという食への強いこだわりを見せています。

食用児である兄の餌を妹に作らせるのも、この魔女の場合は残虐性・猟奇性故ではなく、ただ単に手近な人間に家畜の世話をさせる感覚かもしれません。

人が豚や鶏を飼育し頃合いをみて潰して食らうことと同じ、食物連鎖の頂点に人間ではなく魔女がいるだけ。

当たり前に座していた頂点の座が脅かされることに、強い恐怖を感じます。

 

初版にだけ描かれたグレーテルの心

物語前半部分において、泣き虫で兄に頼りがちだったグレーテル。

賢く責任感の強い能動的なヘンゼルの陰に隠れて目立たなかった彼女が、最後には単身魔女を焼き殺し兄を救うという大活躍を果たします。

絵本の挿絵に描かれているグレーテルは10歳前後の幼い少女。

そんな小さな子供が、理由はどうあれ直接手を下して人を殺すという衝撃のラストではありますが、これは殺らなければ殺られていたのだから仕方がありません。

ここで興味深いのは、魔女を焼き殺す際のグレーテルの心情が初版にのみ描かれていることです。

『老婆の顔に母親が重なった。自分たちを森に捨てた残酷な女の顔が』

幼い少女は人生初の人殺しの真っ最中に、実母の顔を思い描いていました。

実母への強烈な恨みが、内気で泣き虫な女の子の内に潜む殺意を開花させたのです。

ハッピーエンドとはいえ、早過ぎる大人の階段を段飛ばしで登らざるを得なかったグレーテルに哀れさを感じました。

 

この世は無情、弱肉強食

罠を張って弱った子供たちを狩る魔女、その魔女を逆に焼き殺した子供たち。

しかし、兄妹はただでは帰りません。

人の焼けた臭い漂う魔女の家を漁り、宝石をタンマリ手に入れてから帰宅。

なんとも逞しいことです。

 

失踪した母親

兄妹が財宝を持って帰宅すると、意地悪な母親は都合良く病死していた。

これが一般的な継母の最期です。

しかし、初版では『母はいなくなった』とだけ記され、明確な理由は明かされていません。

このことから、母親=魔女ではないかという説があります。

実子を二度も捨て、さらに罠を張って捕え食い殺そうとする母親。

憎き母親を思いながら、姿を変えた実母を焼き殺す娘。

一気に凄惨さが増しませんか?

 

眠れる森の美女


引用元:https://castel.jp/

『いばら姫』『ねむり姫』の名でも知られる物語。

魔女の呪いで眠り続けるお姫様は王子様のキスで目覚め…と、ロマンティックなプリンセス・ストーリーの王道です。

しかし、これはあくまでディズニーによる優しく美しい健全な物語。

グリムやペローやイタリアの類話は『ラプンツェル』『白雪姫』に劣らず性的に生々しく、悪者に容赦がありません。

 

複数存在する『眠れる森』の美女

この物語も『赤ずきん』と同様多くのバリエーションがあるので、ペロー版・グリム版・ディズニー版とにわけ特色をまとめてみました。

***

①ペロー版

・呪う理由が性質悪過ぎ

姫の誕生に7人の仙女が招かれるも、50年以上引き籠っていて既に他界したものと思われていた8人目は招かれなかった。

押しかけて来た婆さん仙女に食事は都合できても、食器を入れるための金の箱が用意できない。

『馬鹿にして!』婆さん仙女ブチ切れて呪う。

 

・王子様のキスがない

『姫は百年の眠りに落ちた後、王子が現れ眠りから起こすでしょう』

つまり、王子の出現までが魔女による予定調和。

 

・王子と姫の結婚後が語られる

王子との間に二人の子供をもうけるも、姑が人食い鬼。

***

②グリム版(『いばら姫』)

・呪う理由がそれなりにわからなくもない

姫の誕生を祝い、『予知能力を持つ賢い女たち』が招かれた。

しかし、御馳走を盛り付ける金の皿が12枚しかないという理由で13人いる女たちの一人が招かれない。

ハブられた魔女がキレて呪う。

 

・やはり王子のキスはない

『王女は百年の眠りに落ちるでしょう』

百年後に姫が自動的に目覚めるタイプの呪いで、王子については言及なし。

***

③ディズニー版

・呪いたくなる気持ちがとても良く分かる

姫の誕生を祝し国中の人が城に招待されたと言うのに、マレフィセントという魔女だけが仲間外れにされた。

 

・王子様のキスは必須

『姫は眠りに落ち、運命の相手からのキスにより目覚める』

眠る期間は決めず、王子のキスだけが必要条件。

***

それぞれに異なった残酷さはありますが、特筆すべきは波乱万丈の結婚生活が描かれるペロー版でしょう。

 

人食い鬼登場・ペロー版

ペロー版の最大の特徴は、目覚めた姫は王子と結婚してめでたしめでたしで終わらずに、その後の結婚生活が描かれていることです。

***

可愛い二人の子供に優しい夫、百年の時を眠って浦島太郎状態ながらも姫の結婚生活は幸せなものだった。

ただ一つ、同居の姑が人食い鬼であることを除けば。

姑は二人の愛らしく美味しそうな孫たちを食べたくて仕方がない。

いよいよ我慢できなくなった姑は、料理長に命じて最初は上の孫、次は下の孫、最後には姫までも食わせろと無茶な要求を突きつける。

優しい料理長は母子を自宅にかくまい、姑には獣の肉を偽って供した。

しかし、姑に料理長の嘘がバレてしまう。

怒り狂った姑は毒蛇やガマで満たした大桶に、姫・孫たち・料理長夫婦・果ては完全にとばっちりな料理番の女までも放り込もうとする。

妻子その他が絶体絶命の危機に陥ったまさにその時、出かけていた王子が帰って来た。

一体何がどうなっているのだと驚く王子を前にして、姑は己の不利を悟り自ら大桶に身を投げて自害した。

***

もはや何に対しどの角度から突っ込んでいいのかわからないほど全体的に怖い話ですが、特に恐怖を感じるポイントをいくつか挙げてみます。

 

・姑が人食い鬼

厳しい姑を鬼トメなどと言いますが、比喩表現でなく義母がリアル鬼

しかもカニバリズムを嗜むタイプの鬼。

王子の母親といえば現国王の妻であり、一国の王妃です。

そんな高い地位にある女性が人食い鬼であり、血の繋がった自分の孫たちを食べようとしたのです。

 

・殺害方法がエグイ

大桶にガマや毒蛇を満たして身内その他を放り込むという発想が怖いです。

普通に殺すだけでは飽き足らず、恐怖と苦痛をタップリ与えてからという陰湿さを感じます。

結局自分で用意したこの大桶に飛び込んで自害する羽目になるのですから、まさに『人を呪わば穴二つ』を姑は地で行きました。

魔女として民衆の面前で焼かれるよりは幾らかマシという判断だったのかもしれませんが……。

 

・鬼の遺伝子

姑が死んでめでたしめでたしと言いたいところですが、血統的に王子は人食い鬼と人間のハーフであり、子供たちはクォーターということになります。

彼らとて、いつ鬼としての本能に目覚めカニバルの衝動に駆られるとも知れず、姫の暮らしは常に食殺されるスリルと隣り合わせと言えましょう。

 

・姑が人食い鬼と化したワケ

ペロー番ではあたかも先天的に人食い鬼であったかのように描かれている姑ですが、もともとは普通の女性であり、とある事件をきっかけに嫉妬に狂い鬼と化したという説があります。

イタリアのバジーレ版『太陽と月とターリア』にはその理由が明確に記されていますが、あまりにも性的にインモラルであるため、ペローはあえて丸ごとその部分のエピソードをカットしました。

 

王様、それは犯罪です!バジーレ版

グリム兄弟に比べて性的要素に寛容であるペローでさえ削除した問題エピソードが特色です。

というか、そこが強烈過ぎて他が頭に入ってきません。

***

姫が眠る城にたまたま立ち寄った王様。

王子ではなく王様であり、彼は既に妻帯しています。

王は眠ったままの姫の美しさに我慢が効かず、その場で行為に及びました。

ことに及んでも姫が目覚めなかったので、王はそのまま帰国。

姫は眠ったまま男女の双子を出産し、やがて百年目を迎えて目覚める。

王も我が子の誕生を喜び、国元から姫の元に戻る。

王の正妻である王妃は夫の浮気に怒り狂い、王を装って二人の子供たちを国に呼びつけた。

そして料理長に子供らをスープにするように命じる。

 

***

前半の仙女仲間外れ事件は別として、後半に起きる問題の元凶は全て王の浮気でした。

そもそも、眠ったままの姫を合意もなく犯しているのだから、完全に強姦です。

何をしても反応しない初対面の少女(15〜16歳くらい)相手に、妊娠するような行為を最後まで致す成人男性。

この方も白雪姫の王子に近いベクトルで性癖が拗れているのかもしれません。

互いの性癖について語り合ったら、楽しい夜を過ごせそうな二人です。

このように、王妃が狂気の人食い鬼と化すには仄暗い大人の事情がありました。

もっとも、だからと言って何の罪もない幼子たちをスープにするという発想も、だいぶエキセントリックに病んでます。

 

無責任さが目立つグリム版

・呪いが無責任

姫に掛けられた呪いが『百年眠って目覚める』自動目覚まし型なのがグリムの特色です。

地味に無責任ではないでしょうか?

人を勝手に浦島太郎にしておいて、百年後に目覚めたら放置。

たまたま運良く王子様に出会えたから良かったものの、間が悪ければ一人で起きてワケもわからず、時代に取り残されてポカーンです。

火炙・食殺・両手切断・蓋ギロチンなどが当たり前のグリムワールドでは、百年後の浦島ボッチくらいは大した呪いではないのかもしれませんが、当事者になったら相当キツイ話です。

 

・姫の両親が無責任

皿が足りないという理由で、13人の内一人を招待しなかった。

そんなことくらいで呪う方も呪う方ですが、妊娠期間中に食器の在庫をチェックさせ、何なら予備セットくらい用意させなかったのは両親のミスです。

明らかに怒らせると厄介な連中を招待するならば、そうした気配りは必要でしょう。

しかも姫が眠りに落ちると両親は魔法使いと相談し、召使や料理番は姫と同じく百年の眠りにつかせ、自分たちは城を離れ普通に暮らし一生を負えます。

酷くないですか?

自分たちの落ち度で呪いを掛けられた娘を百年後の未来に放り出し、自分たちだけ普通の生活をし普通に死んでいくとか……正直引きます。

目覚めた姫の世話係として、いきなり百年眠るハメになった召使や料理番こそとんだトバッチリです。

彼らにだって家族や恋人や友人がいて、その時代に生きてやりたかったことがある。

そんな当たり前のことを、姫の両親は考えていません。

彼らが殊更残虐非道な人柄だったというよりは、身分の高い人間と下々の人間の関係がナチュラルに表現されていて残酷です。

 

実はシビア?ディズニー版

・流石にマレフィセントが可哀想

国中の人間を招待するのに彼女一人だけ爪弾き。

これはさすがに駄目でしょう。

出来るだけリアルに想像してみてください。

クラスメイト全員がお呼ばれする人気者のお誕生日会、自分だけが呼ばれずポツンと残る惨めさを。

その手の話は当日だけじゃすみません。

その後もその話題が出る度に、クスクス笑いや気まずい気遣いなどで場の空気が可笑しくなるんですよ?!

そんな残酷なことを、一国の王と王妃がやらかすなど軽率の極みです。

 

・特殊性癖or超面食いの呪い

運命の相手とのキスで目覚める。

こう聞くとロマンティックだし、運次第では翌日にでも姫が目覚めるチャンスもあるため、比較的『マイルドな呪い』っぽく思えます。

しかし、本当にそうでしょうか?

会話したこともない初対面の眠っている少女を、美しいからというだけで心底愛しキスする男性。

死体とキスするよりはハードルが低いものの、やはり多少なり特殊性癖のニオイがします。

仮に性癖がノーマルでも、この条件で女性を愛す男性は完全に面食いです。

むしろ容姿しか見ていません。

寝ている間に勝手に運命の相手が決る(相手は特殊性癖寄りか超面食い)呪い。

いっそ百年熟睡してから一人で気楽に起き出して、気心知れた召使たちと暮らしつつ、自己責任で相手を探すほうがマシに思えてきました。

 

まとめ

今回は有名なグリム童話の怖い一面をご紹介しました。

子供の頃からアニメや絵本でしたしんできた物語の原点は、どれもなかなかに強烈です。

虐待や性的なモノを排除しながら、『刑罰』に属するいわば『正当な残虐性』に関しては寛容であったグリム兄弟や当時のヨーロッパの人々。

この背景にはヨーロッパにおける童話が『子供の娯楽』であるだけでなく『躾のための教本』という役割を持っていたからだと考えられます。

さすがは異端審問と派手な拷問を繰り広げて来たヨーロッパ、子供向けの童話にもその息吹がしっかりと感じ取れます。

文化とは、こうして受け継がれていくのでしょう。

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