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【閲覧注意】本当に怖いマイナーグリム童話8選

グリム童話と言えば、シンデレラや白雪姫など誰もが子供のころから親しんでいる作品が有名です。

【閲覧注意】本当は怖い有名なグリム童話6選

しかし、あまり有名ではない意外と知られていないグリム童話も数多く存在することもまた事実です。

今回はそんなあまり知られていないグリム童話の中から本当に怖い8つの童話を厳選してご紹介します。

目次

グリム童話とは

グリム童話とは、もともとはヤーコブとヴィルヘルムのグリム兄弟によって編集されたドイツの物語集を意味します。

しかも兄弟が話を聞いた相手は主に上流階級の婦人たちであり、彼女らの多くはユグノー(フランス系移民)の子孫であったため、原典がフランスのものも少なからずあります。

ナポレオンによるフランスの支配を嫌ったドイツが、ナショナリズムの一環としてドイツの物語を編纂したつもりが、出所フランスでしたというオチは、童話と同じくらい面白いですね。

つまり、私たちがグリム童話と呼んで親しんでいる物語の数々は、グリム兄弟のオリジナル創作ではなく、ドイツというよりヨーロッパで昔から語り継がれてきた口伝なのです。

そのため、原点となる物語は飾り気がなく文章としては粗野でもあり、子供たちに聞かせるための配慮にも欠けていました。

時代が進むにつれそうした点が改善され、ヴィルヘルムは実母による子供の虐待・妊娠や近親相姦といった性的な部分を神経質なまでに削除していきます。

しかしその一方で刑罰に関する残酷な描写は初版よりむしろ過激になっていたりと、現代日本人の感覚からすると奇妙な部分も多く見られます。

 

手なし娘


引用元:https://twitter.com/

この物語にはあまり改変もなく、初版に近い形で今も語られています。

心の美しい娘が苦労の果てに最後には幸せになるわかりやすいハッピーエンドであり、残酷な刑罰も性的な箇所もありません。

しかし、『手なし娘』という不穏なタイトルからもお察しの通り、娘の経験する苦難が初っ端から強烈にスプラッタなのです。

 

あらすじ

貧乏な粉屋の男がいた。

男には妻と娘があったが、暮らしは働いても働いても楽にならない。

ある日粉屋は呟いた。

「あぁ、金が欲しいな。俺を金持にしてくれるなら、何だってやるのに」

これを耳ざとく聞きつけた悪魔は早速老婆に変身。

悪魔は男の前に現れて言った。

「その願い叶えてやろう。ただし、お前の家の水車小屋の裏にあるものと引き換えにだ」

水車小屋の裏には林檎の木くらいしかないしと、男は老婆に化けた悪魔の提案を飲んだ。

「3年したら約束のモノをもらいに来るぞ」

と言い残し悪魔は立ち去った。

粉屋、うっかり悪魔と契約。

家に帰ってそのことを妻に話すと、妻は青い顔をして震えた。

契約時、水車小屋の裏には美しい粉屋の娘がいたのだ。

 

為す術もなく3年の月日が流れた。

粉屋の娘はますます美しく、信心深い良い子に育っている。

ついに悪魔との約束の日を迎える粉屋ファミリー。

父親から事情を聴いた娘は父親を責めるでもなく、水で身を清めチョークで描いた円の中に入り悪魔から身を守った。

信心深い娘は神と天使によって守られていたのだ。

怒った悪魔は『娘に清めの水を使わせるな』と父親を脅す。

父親、あっさり脅しに屈した。

打つ手を失くした娘は一晩中泣き明かす。

すると娘の両手は流した涙ですっかり清められ、やはり悪魔は娘に近づけなかった。

悪魔は更に激怒して、『お前の娘の両腕を切り落とせ!』と無茶な要求をつきつける。

さすがにこの要求には父親もおいそれとは従えなかったが、『従わないなら代わりにお前を連れて行く』と脅されれば結局折れる。

父親は娘に『困っている私を助けておくれ』と縋った。

娘はそんな駄目親父を責めもせず、『お父さんの思うようにしてください』と両腕を差し出す。

父親は自分の娘の両手を自ら斧で切り落とした。

手を失くした痛みと哀しみで、娘は一晩中泣き明かす。

娘の手首から先のない両腕は涙で清められ、悪魔は3度に渡り娘の奪取に失敗して退散。

両親は悪魔が去ったことを喜び、父親は娘に言った。

「お前のおかげでお宝がどっさり手に入った。一生大事にしてあげる」

しかし娘は手のない両腕を背中に括り付けてもらい家を出て行った。

「いいえ、私はここにはいられません。情け深いお人が、私に必要な物を恵んで下さるでしょう」と言い残し。

***

ここまでが『手なし娘』前半のあらすじです。

後半において可哀想な娘は天使の加護もあって優しい王様の妃となるのですが、執念深い悪魔にストーカー的に狙われ更にもう一苦労します。

最後は悪魔の謀略で生じた王様との行き違いも解決してハッピーエンドを迎えるのですが、とにかく前半部分のインパクトが強くて怖いのです。

 

愚かな父親

この物語で特筆すべきは、悪魔のしつこさでも娘の健気さでもなく、粉屋の親父の馬鹿さ加減と駄目っぷりです。

よくわからん相手が持ち掛けて来た旨すぎる話を、警戒心も持たず鵜呑みにする迂闊さ。

現代に生きていたら、過払い金払い戻し詐欺とかにアッサリ引っかかって実印押しちゃうタイプでしょう。

そもそも妻子ある身でありながら、『金のためなら何でもあげる』という発想になる地点でアウト寄りです。

そして驚愕の事実を知りながら、引っ越すでも教会に相談するでもなくぼーっと3年間を過ごす無能っぷり。

己の失態で娘がエライことになっているというのに、悲しんで過ごすだけの父親――大黒柱どころか割り箸より使えません。

 

馬鹿な上に駄目な父親

この父親は愚かですが、馬鹿なのはまぁ……仕方ないと言えなくもありません。

だって、馬鹿なんですから。

しかし、度しがたいことに彼は頭が悪い上に根性もないのです。

悪魔に脅されるとすぐに屈してしまう。

それによって困るのは自分ではなく娘であり、元はと言えば全て己の馬鹿さ加減が招いたことだというのに。

挙句『両腕を切れ』と言われれば『困っている私を助けておくれ』と娘に縋る不甲斐なさ。

『従わないならお前を代わりに』と親切な提案をしてくれているのだから、自己責任を取ることもできたはずです。

娘の情に竿をさすような真似をする父親に止めない母親、似た者夫婦かもしれません。

手を失くした娘が不自由な身体のまま親を見限って出て行くのも納得です。

 

『従順さ』の押し付け

父親が娘の手を斧で切り落とすという行為そのものが、もはやRー12の領域で寝る前の子供にするお話ではありません。

しかし、こうした童話が子供に対する『躾教本』として存在していたことを考えると、当時良しとされていた道徳の在り方にも恐怖を覚えます。

馬鹿で無責任で根性のない親でも、子は親のためにその身を犠牲にすることこそが美徳。

『良い子』とはそうあるべき。

そうした圧力を童話を通して親が子に古くは口伝、グリム兄弟が編集してからは読み聞かせていたかと思うとゾッとします。

 

口伝『手なし娘』

グリム童話の『手なし娘』では悪魔との契約となっていますが、もともとの口伝では父親が娘に性的な関係を迫ったという説があります。

年頃になった娘に父親が迫り、娘は当然拒否。

怒った父親が斧で娘の両手を切り飛ばし娘は逃げるように家出。

何とも救いのない話ですが、実際に当時は類似の話があったそうです。

そして驚くべきことに、口伝の物語には近親相姦を扱ったものが少なくないと言われています。

 

千匹皮

引用元:https://piapro.jp/

口伝を児童書として編集する際に、正当でない残虐性と性的な部分――ことにキリスト教で禁忌とされている近親相姦を排除してきたグリム童話において、この『千匹皮』だけは元の形のまま伝えられてきました。

何故ならば、話のテーマそのものが父と娘の結婚でいじりようがなかったからです。

 

あらすじ

ある国にとても美しい金髪の王妃がいた。

王は王妃を深く愛していたが、王妃は一人娘を残し亡くなってしまう。

『再婚するならば、自分と同じほどに美しい金髪の女性でなくては嫌です』と言い遺して。

 

王妃の死後、王は再婚の話が出ても王妃ほど美しい金髪の女性はいないからと断り続けた。

ある時王は、王妃の忘れ形見である娘が母親そっくりの美しい金髪の女性に成長していることに気づき、家臣たちの反対に耳も貸さず『娘と結婚する』と宣言。

王女は父親からのとんでもないプロポーズに驚き、そこから逃れるために王に無理難題をふっかけた。

「月のドレス・星のドレス・太陽のドレス。そして千種類の動物の皮で作った毛皮のコートを作ってくれなければ結婚はしません」

まるでどこかの竹から生まれたお姫様のような無茶振りですが、王は金と権力にものを言わせて実現してしまう。

このままでは禁忌の結婚をしなければならないと悟った姫は、三着のドレスに王からもらった金の指話・金の糸車・金の糸枠を持ち、肌を墨で黒く塗り千匹皮を纏って城から逃げ出した。

 

異様な姿で王所有の森を彷徨っていた姫は、珍獣と間違えられ捉えられるも、変装のおかげで正体はバレずにすんだ。

かくして姫は『千匹皮』と呼ばれ、城の台所で料理番の下働きをするようになった。

そんなある日、お城で舞踏会が開かれることに。

千匹皮は少しの間だけ舞踏会が見たいと料理番に頼み、太陽のドレスを纏った美しい姿で参加する。

美しい姫は王の目に留まりダンスを踊ったが、正体を明かすことなく立ち去った。

姫はみすぼらしい『千匹皮』に戻ると、王のために作ったスープの中に金の指輪を入れる。

王はスープを作った『千匹皮』を呼び出し、指輪について問いただすも姫ははぐらかす。

同じことがドレスとスープに混入するものを変えて三回続く。

三度目に『千匹皮』を呼び出した時、王は炭を塗り忘れた姫の足の白さを見逃さず、彼女を捕らえ毛皮を脱がした。

フードの下から流れ落ちる見事な金髪。

こうして王と姫は結ばれ死ぬまで幸せに暮らした。

 

ハッピーエンド?

何となく最後は『めでたしめでたし』的な雰囲気に流されそうになりますが、結局のところ王と姫は父娘で結婚してしまいました。

そもそも姫は、父親からのとんでもプロポーズにドン引きして城からの脱出劇を繰り広げたはず。

なのに結局は父親所有の土地から抜け出すことすらできずに囚われ、元いた城の台所で働き、挙句よせばいいのに自分から思わせぶりなアピールを三度も繰り返し正体を暴かれています。

これでは一体何のために姫は王に無理難題を要求し、危険な夜の森に千匹皮を纏って飛び出したのかサッパリわかりません。

まるでグルリと一周遠回りをして、最終的にはスタート地点に戻って来たようなものです。

そして奇妙なことに、最初は父王との結婚をあんなに嫌がっていた姫が、最後にはアッサリと近親婚を受け入れてていることも腑に落ちません。

 

矛盾だらけの行動

金髪が美しいからと、実の娘に求婚する父親は明らかに異常です。

『自分と同等の美しい金髪の女性でなければ再婚不可』と遺言して逝く母親も地味に厄介、いわゆるヤンデレです。

しかし、娘である姫の行動も結構な奇行ではないでしょうか。

まず本気で逃げたいならば、身バレするような品物を持ち歩くことは極力避けます。

逃げるにも路銀は必要ですが、それにしても姫が持ち出したものは個人を特定できる代物ばかり。

箱入りお姫様すぎて世故に疎いにしても、さすがに『千匹皮』などという酔狂な毛皮が激レアであることくらいはわかるはずです。

城の台所で働くことは『灯台下暗し』という言葉もあるくらいだからアリとして、そこからの行動がいよいよ加速度的にオカシイ。

どう考えても、自ら見つかろうとしているようにしか見えません。

そのくせ正体がバレそうになれば逃げだし、問いただされても知らぬ存ぜぬと白を切り通します。

逃げたいのか?囚われたいのか?

見つかりたくないのか?見つけて欲しいのか?

姫の行動は矛盾だらけで、普通に考えるとワケがわかりません。

 

本音と建前

姫の矛盾に満ちた行動は、実は彼女も父王を愛していたからではないか?という説があります。

父王が姫を異性として求めたように、姫もまた父王を(親を慕うそれとは違った意味で)愛し求めていたとしたらどうでしょう。

『お父様を愛しているけれど、家臣たちが反対しているし……世間もおいそれとは許してくれないだろう』

そこで姫は一計を講じ、建前として件の狂言を演じたというわけです。

まず千匹皮を纏うことでその身に『死』の力を宿し(毛皮とは言い換えれば『死んだ動物の皮』)、夜の森という死を象徴する恐ろしい場所に一人身を潜め自らの死を自作自演。

しかる後、まったくの別人として城に戻り、父王にだけ自分であることをアピール。

そうして世間を欺き、口煩い家臣を黙らせ、望む相手=父王との結婚を叶えた――そう考えれば、姫の行動は全て辻褄が合います。

父王も家臣も全て姫の思惑を理解した上で、それぞれの役割を儀礼的に演じていた可能性もあるでしょう。

近親相姦を巡る壮大な狂言を、父親が小さな娘にベッドで読み聞かせている光景を想像すると、そこはかとなく恐ろしいものを感じます。

 

ねずの木


引用元:https://capuphoto.exblog.jp/

グリムの中で知名度は低いものの、継母による継子イジメがトップクラスでホラーなのがこの作品です。

 

あらすじ

昔あるところに金持ちの夫婦が住んでいた。

夫婦はなかなか子宝に恵まれずに悩んでいたが、妻が柏槙の身を食べたことで懐妊し男の子を授かる。

妻は子を産んですぐに亡くなり、遺体は柏槙の木の下に埋められた。

やがて夫は再婚し、後妻との間に女の子をもうける。

 

さて、継母による継子イジメはグリム童話の定番だが、それにしてもこの後妻の虐待は常軌を逸していた。

男の子に特に理由もなく平手打ちを食らわせる、突き飛ばす、家の中を引きずりまわす、端から端まで蹴り飛ばす――『ヒキコさん』状態だ。

全財産を自分の産んだ娘にだけ与えたいと四六時中考えている内に、彼女の中に悪魔が巣くってしまったのである。

 

男の子が学校に行くようになっても続いていた苛めは、ある日継母による義理息子殺害という凄惨な形で幕を閉じた。

林檎が欲しいと言った娘に、継母は重い蓋のついた箱から林檎を取り出して与える。

兄思いの妹は『お兄ちゃんにも林檎をあげて』と母親にせがんだ。

皮肉なことに、この言葉をきっかけに継母の心に悪魔的な考えが浮かぶ。

学校から帰って来た男の子に継母は『林檎をお食べ』と勧め、『自分で箱の中から取りなさい』と促した。

男の子は素直に継母の言葉に従い、林檎の箱にかがみ込み手を伸ばす。

細い首が箱と蓋の間に来た瞬間、継母は重たい蓋を思い切り叩きつけるようにして閉めた。

コロリと転がる男の子の首。

 

我に返った継母は、急に自分のしたことが恐ろしくなり卑劣な隠蔽工作に走る。

男の子の首と胴を白い布を巻きつけてとりあえず固定し、手に林檎を持たせ生きているかのように椅子に座らせておいたのだ。

兄が死んでいるなどとは思いもしない娘は、いつものように兄に話し掛ける。

当然返事はない、ただの屍だから。

不思議に思って母親に尋ねると、『お兄ちゃんが何も言わないなら顔を叩きなさい』というバイオレンスな解決法が指示された。

幼い娘は母親の言う通りに兄の頭を叩いた。

再びコロリと転がる男の子の頭。

『お兄ちゃんを殺しちゃった!』号泣する娘。

『このことは誰にも知られたらいけないよ。仕方がないことだったんだから、煮込み料理にしてしまおうね』いけしゃぁしゃぁと恐ろしい解決方法を提示する継母。

継母が人肉シチューをこさえているところに父親が帰宅。

息子の不在に疑問を抱くも、妻に『親戚の所に行った』と言われ納得する。

父親は『今夜のチシューは格別美味い』と何杯もお代りをし、自分の息子をすっかり平らげた。

娘は泣きじゃくりながら、兄の骨をテーブルの下から拾い集めて絹のハンカチに包み、柏槙の木の下に埋めた。

 

すると不思議なことが起きた。

男の子は美しい鳥の姿で生まれ変わり、街中いたる所で美声を披露し金の鎖と赤い靴と重たい石臼を手に入れる。

鳥は家に舞い戻り、家族を呼ぶように歌った。

その声に誘われるように出て来た父親には金の鎖を与え、次に出て来た妹には赤い靴をプレゼント。

継母は鳥の歌に怯えて最後まで家から出なかったものの、夫と娘がプレゼントを貰ったのを見て欲が出たのかノコノコと顔を出した。

継母の頭上から石臼落下――継母死亡。

悪魔のような継母を確実に始末し、兄は鳥から人の姿に戻りめでたしめでたし。

 

メルヘンの中のリアリズム

この物語の根底にある怖さは、何といってもメルヘンのなかに潜むリアリズムでしょう。

後妻に入った女性が夫と先妻の間に産まれた長子を虐待し、自分の産んだ子供だけを可愛がる。

これは物語の中だけではなく、現代においても社会問題になっている児童虐待のパターンです。

しかもこの継母は、感情的に『面白くない』『可愛くない』といった単純な話ではなく、財産を実子にだけ継がせたいという明確なビジョンまで持ってます。

更には殺してしまってから急に怖くなり、倫理も何もあったものじゃない隠蔽工作に走る様子など、もはや童話というより『火曜サスペンス劇場』の世界です。

 

最大の被害者・娘

童話には意地の悪い継母がお約束のように出てきます。

しかし、彼女らは性格が悪いなら悪いなりに、実子だけはちゃんと可愛がり守ろうとするものです。

たとえその愛の形が歪んでいたとしても。

ところが『ねずの木』に出て来る母親はそれすらしません。

義理息子殺害後に恐怖を覚えれば、子供騙しとしか言えない雑な隠蔽工作を行い、まだ幼い娘に『兄殺し』の罪を擦り付けます。

子供を騙すのだから『子供騙し』で充分だと言わんばかりに。

仮に騙し通せたとしても、娘の心には一生『お兄ちゃんを殺してしまった』という消えない傷が残るというのに、そんなことはまるでお構いなしで。

人肉シチューという恐ろしい料理も、情景描写からして継母は娘の目の前で作っています。

まだ分別もあやふやな娘に殺人の罪を着せ、証拠隠滅に立ち会わせることでより強く『共犯者』に仕立て上げ、父親に告げ口できないように圧力を掛けたのです。

事が露見しても『幼い妹が兄を過失で殺してしまった。母として娘に罪を背負わせるに忍びなく、つい煮込んでしまった』とでも言えば、褒められこそしなくとも、『我が子可愛さの母心が暴走してしまった』で済むでしょう。

当時のヨーロッパだと、『親殺し』は大罪でも『子殺し』には比較的寛容たったのです。

日本でも同じことが言えますが、全体的に貧しかった時代において『間引き』が必要悪と見なされていた影響でしょう。

継子どころか実子すらまともに愛せず、保身のためならば平然と利用してのける母親の性根こそが恐ろしい物語でした。

 

歌う骨


引用元:http://loopdept.larosell.com/

継母による継子イジメに女の嫉妬。

物語のお約束とでも言うべき題材ですが、『歌う骨』では血の繋がった実の兄弟の殺人にまで至る嫉妬が描かれています。

 

あらすじ

貧しい家に息子が二人。

兄はずる賢く抜け目なく、弟はお人好しで少しボンヤリ。

その頃、兄弟の住む国では凶暴な猪が暴れ回り人々を困らせていた。

ある日王様は『猪を退治した者に王女を与える』というお触書を出す。

貧乏兄弟は兄は野心、弟は純粋な善意から猪退治に名乗り出た。

王の提案により、兄は森の西側から、弟は東側から入ることに。

森に入った弟は初対面の小人から、『オマエはイイ奴だから』というフンワリとした理由で対猪必殺の黒槍を授かる。

弟が黒槍を手に猪と対峙すると、猪は槍に向かって猪突猛進。

自ら槍を心臓に突き刺して完全に自爆。

猪を担いで意気揚々と帰還する弟は、途中居酒屋で飲んでいた兄と出会い経緯を話す。

兄の心に湧き上がる羨望と嫉妬とドス黒い計画。

一杯やって共に家路についた橋の上、兄は弟を橋から突き落とし溺死させてしまう。

その後、兄は弟の死体を橋のたもとに埋めて証拠隠滅。

弟の倒した猪を担いで城に向かい、まんまと王女と結婚した。

 

やがて年月が流れ――

一人の羊飼いがあの橋を渡った時、砂の中に小さな白い骨を見つけた。

羊飼いが骨を削って角笛の吹き口(マウスピース)を作って息を吹き込むと、笛は一人でに歌い出したではないか。

『あなたが吹いているのは僕の骨。僕の兄さん僕を殺した。橋の下に埋めたんだ。猪を横取り、王女様と結婚するため』

数年前の兄による弟殺害が歌い上げられるのを聞いた羊飼いは、笛を王様のもとに届け歌を聞かせた。

歌を聞いた王様は全てを察し、橋のたもとを掘り返すよう命じる。

そこから出て来る弟の白骨死体。

兄の悪行を知った王様は、兄を生きたまま袋詰めにして口を縫い、水に沈めて処刑する。

一方弟の骨は教会の墓地に埋葬され、歌うことを止めた。

 

怠惰でサイコな駄目兄貴

貧乏兄弟の猪退治、確かに弟には幸運が味方しました。

初対面の小人が魔法のアイテムをくれるとか、今時RPGでもないようなイージーモードです。

酒場で弟が『親切な小人から魔法の槍をもらったおかげで猪倒せたよ!』と語るのを聞いて、兄は『俺だって魔法の槍さえあれば…不公平だ』とでも思ったのでしょう。

しかし、この兄弟の場合スタート地点で既に差が付いていました。

王様のお触書を見て、『困っている皆のために』といち早く行動を起こし森に入ったのが弟。

何故か森の入り口の居酒屋で、いきなり一杯やり始めてしまったのが兄。

猪退治にかけるモチベーションが違い過ぎます。

努力すれば『必ず』報われる、やる気と根性があれば『全て』なんとかなる。

残念ながらそれは嘘です。

しかし、まずは行動を起こさねば何も始まりません。

買わない宝くじは絶対に当たらないし、釣り糸を降ろさない竿には100%魚はかからないのと同じです。

幸運を掴むチャンスを自ら遊び呆け逃しておいて、弟の成果に嫉妬し殺害にまで及ぶ兄。

衝動的に『ついカッとして』ならまだしも、死体をしっかり埋める・猪を盗む・逆玉セレブ婚を満喫と、身勝手な理由で弟を殺しておきながら、罪の意識がまるで感じられないのがサイコパス的な怖さを醸し出しています。

こんなのが身内にいたらと思うと、背筋が寒くなりませんか?

 

地味に被害者な姫

猪退治の報酬として使われる。

結婚相手は性格の悪い貧乏な家の長男。

結婚数年にして夫の実弟殺害が露見。

父王によって夫は処刑され未亡人に。

全てにおいて受動的で選択の余地もなく不幸に見舞われた姫。

ある意味、殺された弟と同じくらい気の毒です。

 

大らか過ぎる羊飼い

得体の知れない骨で、躊躇いなくマウスピース作る羊飼い。

橋のたもとの砂から露出していた白い骨とか、怪しさ満載では?

サラっと流されていますが、彼は人骨を加工して笛を作って吹いているわけで、冷静に考えたら猟奇的です。

 

包丁を持った手


引用元:https://monoco.jp/

様々な困難に見舞われても、最後は幸せになれる主人公。

残酷な罰を受ける意地悪な継母や悪い魔女や強欲な兄。

しかし、この『包丁を持った手』にそういったカタルシスはまったくありません。

 

あらすじ

あるところに母親と三人の兄たちと暮らす娘がいた。

母親は(継母ではない)息子たちばかり可愛がり、娘を酷く邪険に扱いこき使う。

毎日荒れ地に出かけ泥炭を掘る、それが娘の仕事だった。

娘の心のよりどころは、仕事に行く途中の小山に住む妖魔(エルフ)だけ。

妖魔は辛い仕事を強いられている娘のために、何でも真っ二つに切れる包丁を貸してくれるのだ。

おかげで娘は泥炭を簡単に切り出せるようになった。

妖魔の住む岩を娘が二度叩くと、包丁を持った妖魔の手だけが出て来てくる。

毎朝行われるそれが、二人だけのささやかな密会だった。

意地の悪い母親は、娘が余りに簡単に泥炭を運んでくることも、何となく幸せそうなことも面白くない。

ある日、母親は息子たちを引き連れ娘の後をつけ、妖魔と包丁の存在を知る。

母親は娘から包丁を取り上げると、娘のフリをして妖魔の住まう岩を二度叩いた。

そんなこととは露知らず、妖魔は娘が包丁を返しに来たのだろうと、いつものように腕だけを岩の間から差し出した。

差し出された妖魔の手に、母親は何でも真っ二つに出来る包丁を振り下ろす。

血を噴き転がる妖魔の腕。

娘に裏切られたと思った妖魔は姿を消し、二度と現れることはなかった。

 

救いのない話

虐待されながらも健気に働く娘と、彼女を気の毒に思い助けてやっていた優しい妖魔。

片や意地の悪い母親と三人の兄たち。

普通の童話ならば、最後には善人が報われ悪人は罰を受けて(その罰が過剰であったとしても)めでたしめでたし、となります。

しかし、『包丁を持った手』では娘と妖魔は誤解を生じたまま引き裂かれ、母親はまんまと魔法の包丁を手に入れて罰を受けることもなく終ります。

勧善懲悪という童話の基本から逸脱したこの童話には、一体どのような教訓が秘められているのでしょうか?

 

第二版から削除された物語

実はこの『包丁を持った手』、初版のみの掲載で第二版からは『残酷すぎる』という理由で削除されています。

『残酷過ぎる』……?

確かに包丁で生き物の腕を切り落とすという行為は、普通に考えたら残酷でしょう。

しかし、これはグリム童話です。

斧で娘の手を切り落としたり、蓋ギロチンで義理息子の首を落として煮込んで食ったり、娘婿を生きたまま袋に詰めて水に沈めたりがセーフで、包丁で妖魔の片腕落とすのはアウト。

R指定の基準がまるでわかりません。

 

削除の本当の理由

妖魔と娘の『密会』、これこそが削除の本当の理由だったのではないかという考察があります。

・娘が毎朝恋人と小山で会っている。

・しかもその恋人は人間ではない妖魔、異形の存在である。

これらの設定が男女の交際に厳しかった当時のヨーロッパにおいて、教育上よろしくないと問題視されたのではないかというのです。

実母による露骨な兄弟格差やイジメよりも、娘が恋人と束の間の逢瀬を過ごすことが禁忌視される世界。

親兄弟に恵まれなかった娘は、基本的には一生底辺から這い上がれないという現実こそが残酷です。

 

ガチョウ番の娘


引用元:http://gooseygoo.xxxxxxxx.jp/

こちらは非常にわかりやすい因果応報の物語。

そういった意味でのカタルシスはありますが、その方法が『流石グリム!』といった残酷さです。

 

あらすじ

ある国の姫が遠い国に嫁ぐことになった。

姫を可愛がっていた王妃は沢山の嫁入り道具の他に、自分の血を三滴染み込ませたハンカチ、人の言葉を話せる馬ファラダ、そして頭の良い侍女を一人付けた。

ところがこの侍女、とんでもなく野心家だったのだ。

道中で川の水を飲もうと屈んだ姫がお守りのハンカチを流してしまうのを見ると、これで怖い物はないとばかり姫に刃物を突き付け脅迫する。

こうして侍女は姫になりすまし、王子の花嫁として迎えられた。

一方、本物の姫は侍女にせがまれた王子の命令でガチョウ番として雇われることに。

さらに侍女は人語を喋るファラダから秘密が漏れることを危惧し、王子にねだり抜かりなくファラダを斬首にする。

ファラダの斬首を知った姫は皮剥ぎ職人に金を渡して頼み込み、その首をガチョウ番が通る暗い門の下に打ち付けてもらう。

ある日、馬の首から『姫』と呼ばれる不思議な力を持つ娘の噂が国王の耳に入り、興味を持った国王は姫を呼びつけた。

国王は姫の気品ある態度や言葉使いにいよいよ興味を募らせ彼女に事情を尋ねるも、『命と引き換えに誰にも話さないと約束したから』と言うばかり。

そこで国王は、姫に誰もいない部屋の暖炉に向かって話すように促す。

我が身に起こった不幸を洗いざらい語る姫の声を、国王は煙突を通して隣室で全て聞いたのだ。

真実を知った国王と王子は宴を開き、皆が揃うのを待ち問いかけた。

「他人になりすまし主を欺く者には、いかなる罰が相応しいか?」

侍女は得意げに答える。

「服を剥ぎ取り、尖った釘を一面に打ち付けた樽に押し込み、二頭の馬で引き回すべきです」

侍女は自らの下した刑に処され、本物の姫と王子はその場で結婚して末永く幸せに暮らした。

 

強烈なる自業自得

侍女の身でありながら刃物で姫を脅してなりすまし、罪のない馬の首を切り落とした冷酷な侍女。

彼女は最後には自分で自分の首を壮大に締め、悲惨極まりない死を迎えました。

しかしそれにしても、実行された刑罰が子供向けの童話に載せるにはあまりにも苛烈ではないでしょうか?

簡易版アイアン・メイデンとでも言うべき釘樽に、裸という女性として屈辱的な姿で押し込み、さらには民衆の目に触れるよう市中を引き回するのです。

こんなことをされれば、中にいる人間は即死も出来ず徐々に切り刻まれ(ナイフでなく釘というのがポイント)いずれは出血多量で死にます。

身体に釘が刺さる痛みで暴れれば、さらに刺さる。

なるべく動かないようにしたところで、馬が走り続ける限り結局は刺さる。

もはや救われる術は一秒でも早く死を迎えることだけです。

もし仮に、馬のスタミナが切れるまで彼女が生きていたとしても、間違いなく二目と見られぬ姿になっていたことでしょう。

むしろこの場合、死に損うことこそ地獄かもしれません。

 

王子・ザ・ロイヤル・サイコ

今回二人目のサイコさん来ました。

『歌う骨』の兄が庶民的な俗物サイコであるのに対し、こちらは流石の王侯貴族。

下々の輩とは感性が違うのかなぁ…的なサイコっぷりです。

姫だと思って結婚生活を営んでいた女性が、実はなりすましの侍女だった!

この驚愕の事実に対するリアクションが微妙に薄い上に、本物の姫が美人であることを知れば屈託なく大喜び。

そのテンションで宴まで開き、同じ席で少し前まで妻と信じていた侍女が、自業自得とはいえ残酷な刑に処されても特に気にしません。

そして何事もなかったかのように、本物の美しい姫と再婚(?)。

なりすましとはいえ、夫婦として暮らした女性への情がまるで感じられないのは空恐ろしい気がします。

ここで王子が無言で歩み出て、苦しませないように侍女の首を一刀のもとに落としていたらかなりカッコ良いのに勿体ないことです。

 

12人兄弟


引用元:https://www.grimmstories.com/

こちらは特定の個人ではなく、ヨーロッパの風習の残酷さが全面に出ているお話です。

 

あらすじ

ある国に12人の息子を持つ王がいた。

妃が13人目の子供を身ごもると、王は『次に産まれてくる子供が姫であれば、その子に全てを譲る。そのためには12人の息子たちを全員殺す』と妃にだけ告げ、そのことを秘密にするうように命じた。

12個の棺まで作らせ完全に殺る気になっている王を見て、妃は毎日深く悲しんだ。

浮かぬ顔をした母親を心配した末の息子に尋ねられ、妃は王との秘密の話を打ち明ける。

『男の子が産まれたら白い旗を上げるから戻ってきなさい。女の子ならば赤い旗を上げるから、なるべく遠くに逃げなさい』妃は末息子たちにそう言い聞かせた。

森に潜んだ兄弟たちが見たのは、赤い旗。

末息子を除く兄たちの心に、自分たち全員を危機に晒した女の赤ん坊への憎悪が滾り、『必ず殺してやる』と復讐を誓う。

彼らは森の中の魔法の家で助け合って暮らした。

そうして10年の月日が流れた。

赤ん坊だった姫はとても可愛らしく優しい娘に育ち、自分には森に逃げた12人の兄がいることを知る。

姫は兄たちに会うために単身森に入った。

たまたま最初に会えた兄が穏健派の末息子だったため、姫は12人の兄たちとすっかり打ち解け魔法の家で共に暮らす。

しかし、兄妹の楽しい日々は長く続かなかった。

ある日、姫が庭に咲く12本の百合を兄たちのために摘んだ瞬間、兄たちは12羽のカラスにその身を変えて飛んで行ってしまったのだ。

茫然と立ち尽くす姫の前に一人の老婆が現れ、『七年の間口をきかず笑わずにいたら、兄たちは元の姿に戻る』と告げた。

以来、姫は高い木に登り、喋らず笑わなくなった。

 

姫が沈黙の行に入って数年、一人の王様が森で狩りをしていて木の上にいる美しい娘を見つけた。

王が姫に求婚すると、姫は言葉を発することなく頷いて受け入れる。

結婚した姫と王は仲良く暮らしていたが、王の母は無口で二コリともしない不愛想な嫁が気に入らない。

息子である王にあることないこと吹き込んだ姑のせいで、姫は魔女の濡れ衣を着せられ火刑に処されることに。

杭に縛り付けられた姫のスカートを燃え盛る炎が舐めた正にその瞬間、約束の七年が果たされた。

すると12羽のカラスが空から舞い降り、人間の姿に戻った12人の兄たちが妹姫を炎の中から救い出す。

言葉を話せるようになった姫は我が身の事情を全て王に話し、意地悪な姑は煮えたぎった油と毒蛇で満たされた樽に放り込まれ無残な最期を遂げる。

こうして王と姫、12人の兄たちは幸せに暮らした。

 

末子相続故の非情の決断

冒頭の王様の発言が、まず私たち日本人にはピンと来ないのではないでしょうか。

何故末っ子が女児だと、既に産まれ育っている息子を殺さなくてはならないのか?

かつて日本においては産まれの貴賤に関わらず、親の土地・財産を継ぐのは原則的に長男でした。

12人兄弟の最後に産まれた13二人目の女の子など、明治以前の日本の農家であれば完全にオミソ、下手をすれば『おじろく・おばさ』扱いです。

しかし、ヨーロッパには末子相続と言う風習がありました。

長子は戦争に行かねばならぬ故の末子相続。

長子でなくとも男子は戦争に駆り出されることが多い故の娘相続。

それにしても、末娘が産まれたら即座に12人皆殺しリセットは相当極端な例かと思われます。

だったら息子10人くらいで子作りをストップ、内5人程度が無事成人(当時は乳幼児の死亡率がとても高かった)。

末子相続を念頭に上4人を戦争でもなんでもどんどん行かせて、最終的に2〜3人くらいに落ち着けば良かったのではないでしょうか?

人数が少なければ誰と誰が手を組んで~と政治的に複雑にもなりにくいし、暗殺なども比較的スムーズなはずです。

 

『子供』に対する感覚

王は12人の息子たちに親としての愛情がなかったのでしょうか。

そして、もし本当に息子たちを皆殺しにして娘だけを残したとして。

上のも述べましたが、当時は現代とは比較にならぬほど乳幼児の死亡率が高かったのですから、姫が財産を継ぐ年齢に達するまで無事に育つ保証はありません。

何らかの障害が後から発現する可能性だってあります。

もしそうなった時、王はどうするつもりだったのか…答えは簡単。

『子供などまた作れば良い』です。

16世紀イタリアの女領主カテリーナは人質の子供を殺すと脅されても動じず、城壁の上でスカートをまくり上げ『子供などここからいくらでも出て来る』と叫んだ逸話があります。

この逸話が真実かは定かでありませんが、当時のヨーロッパには子供に関してドライな一面があったことが窺えるでしょう。

 

憎しみの方向

父王から殺されかけた12人の兄たち(末息子覗く)は復讐を誓います。

父親ではなく、産まれて来た妹姫をターゲットにして。

あまりにも理不尽な扱いを受けた彼らが、何かや誰かを憎み恨まずにいられなかった気持ちはわかりますが、何故父親でなく妹に対して負の感情が向かってしまったのか。

どう考えても、悪いのは何もわからぬ赤ん坊の妹姫ではなく父親です。

父親に命を狙われるほど疎まれたと思うよりは、産まれて来た女児が一時的に父親を狂わせたと思いたかったのでしょうか。

気性の穏やかな末息子が取りなしていなければ、姫は兄たちに森で殺されていたかもしれません。

 

メンタル最強妹姫

末娘として産まれ、王国を継ぐ未来が約束されていた見た目にも可愛らしいお姫様。

さぞやチヤホヤと甘やかされてきたことでしょう。

しかしこのお姫様、行動力と意志の強さが半端じゃありません。

 

・兄の存在を知れば、10歳にして単身森に入る

・兄たちに会えるなら、死んでもいいと末の兄に言い切る

・魔法の家では10歳の子供でありながら、兄たちのために家事を引き受ける

・烏になった兄たちのためならば、10〜17歳まで喋らず・笑わず

・王様と出会ったのが14〜15歳、その年齢で初対面の相手との結婚を即断即決

無言のまま2〜3年の結婚生活を送る

・魔女疑惑で火炙りになりかかっても無言を貫く

 

正に鋼のメンタルです。

父王は全体的に間違いだらけですが、この娘に跡目を継がせようとしたことだけは大正解でした。

 

極端すぎる王様

父王もたいがい極端な行動に出る人ですが、姫の夫となった王様も極端ということでは負けていません。

まず、木の上にいた娘に一目惚れすれば、その素性も調べず求婚。

若い女性の身で森の中に一人住み、まったく喋らず笑わない娘など明らかにワケありです。

人を差別するのは良くないことですが、やはりこういった娘さんと一国の王がいきなり結婚するのは軽率と言わざるを得ません。

次に、母親(妹姫にとっては姑)が『あの嫁はオカシイ、喋れなくても笑うくらい出来るはずだ。笑わない人間はやましいところがある悪人だ』と再三言い募れば、母親の押しに負けてまだ17歳の自分の妻を火刑に処すといった、わけのわからない思い切りの良さがあります。

王自身が普通ではない妹姫にいい加減嫌気がさしていて、ぶっちゃけ『再婚したいなぁ…』と思っていたならば話はわかります。

酷い話ではありますが、母親の口車にあえて乗り、自身が悪者にならないという選択肢も立場上ありかもしれません。

しかし、王自身はまだ妹姫を深く愛していて、火刑の日も城壁から涙を流して見守っているのです。

母親からヤイヤイ言われることにウンザリしたからという理由で、愛する妻を魔女として火炙りにする選択を自らしておいて、泣きながら遠くから見ているだけの夫。

妻の立場からすれば、これは恐ろしい裏切りではないでしょうか。

そして最後に、自分の母親が妹姫に罪を擦り付けていたと知れば、実母を容赦なく煮えた油と毒蛇で満たされた壺にブチ込みます。

情緒不意安定なのかと心配になるほど、やることなすこと極端から極端に走る人間が王様の国…あまり住みたくありませんね。

 

極端な女たち

王様たちほどではないにしろ、妹姫と王の母親もなかなかに極端です。

姑にしてみれば、王位を継いだ息子の嫁が得体の知れない薄気味の悪い女とうのは、どう転んでも良い気分はしません。

だからといって魔女に仕立て上げて火刑にまでしようとするのは、明らかに行き過ぎです。

適当に盗みの罪でも着せて国外追放とかでは駄目だったのでしょうか?

感情が高まると行くとこまで行ってしまうのは、母と息子二代にわたる遺伝に思えてきます。

 

妹姫は全体を通してとても頑張った良い子なのですが、話せないならば筆談などで諸事情を夫に伝えなかったのが痛恨のミスです。

謎の老婆(おそらく魔女)は『話しても笑ってもいけない』とは言いましたが、『他者とコミュニケーションを取ってはいけない』とは言っていません。

国を継ぐ者として厳しく躾けられていた姫ならば、10歳で城を飛び出していても基礎的な読み書きくらいは出来るはずです。

詭弁に聞こえるかもしれませんが、大人の喧嘩は重箱の隅の突き合い、網の目の探り合いだということを知らなかったが故の悲劇でしょう。

子供の純粋さが招くとんでもない事態、これもまた怖い話の一つです。

 

青ひげ


引用元:http://ita-logos.blogspot.com/

最後にご紹介するのは、あまりの危険度にグリムから削除された問題作『青ひげ』。

実在する最恐の少年愛好家ジル・ド・レがモデルとされているだけで猟奇の匂いがプンプンします。

 

あらすじ

とんでもない資産家だが、恐ろしい青い髭を生やした男『青髭』。

彼は何度も結婚しながら、歴代の妻たちはことごとく行方不明といういわくつきの男だ。

青髭は4兄妹の末妹と何度目かの再婚をする。

結婚後しばらくして、青髭は6週間ほど留守をすることに。

彼は妻に鍵束を渡しながら言った。

『私の留守中はのんびりと過ごすと良い。どこでも好きな部屋に入って構わない。ただし、この鍵束の中の小さな鍵の小部屋にだけは絶対に入ってはいけない。それだけは禁止する。もし言いつけに背けばどんなことになるか知らないぞ』

そんな言われ方をしたら、逆に気になる。

めちゃくちゃ気になる。

妻は好奇心に負け、禁断の扉を開けてしまう。

暗い室内に目が慣れると、そこには恐ろしいものがあった。

壁に吊るされた、かつて青髭の妻であった女たちの死体。

床の上には彼女らから流れ、ところどころ凝結した夥しい量の血。

妻は恐怖と驚きで小さな鍵を血だまりの中に落としてしまった。

すぐに拾い上げたものの、鍵には魔法がかかっていて付着した血がどう足掻いても落ちない。

まずい、このままでは夫の言いつけに背いたことがバレる。

焦る妻の元に、6週間留守をするはずであった青髭が、用事が早く片付いたからと最悪のタイミングで帰宅。

青髭は妻に預けて置いた鍵束を返すように命じ、例の小さな鍵に血が着いているのを見つけた。

言いつけに背いた妻が青髭に殺されかけた時、訪問の約束をしていた兄たちがギリギリ間に合い青髭は殺された。

未亡人となった妻は青髭の莫大な財産を全て相続し、その一部を兄姉のために使った。

 

ペロー版・グリム版

『青ひげ』に関しては、ペロー版もグリム版も大差ありません。

兄の数が違ったり、姉が出て来たり来なかったりと、些細な違いはありますがどれも物語の大筋には関わってきません。

どちらがより残酷ということもなく、誰が書いても猟奇な話なのです。

 

青髭のモデルたち

ヘンリー8世

6回も結婚したイングランド王。

最初の妻は兄の元妻。

障害となる人間は反逆罪を理由に処分する癖がある。

王妃キャサリンの侍女メアリー・ブーリンと不倫、更にメアリーの妹アン・ブーリンに興味を持ち、教会に逆らってまでキャサリンと離婚しアンと再婚。

アン・ブーリンを姦淫・近親相姦の罪にてロンドン塔に幽閉、後に斬首。

裁判の正当性は当時ですら疑問視され、冤罪であると考えられている。

***

ジル・ド・レ

ジャンヌ・ダルクの戦友であり救国の英雄ともてはやされた優秀な騎士。

ジャンヌが火刑に処されてから人生が180度転換。

彼女を救わなかった神への憎悪から悪魔との契約にはまり、錬金術に資産を費やす。

儀式の生贄として手下に150〜1500人の美しい少年たちを集めさせ、そのことごとくを嬲り殺した。

悪魔との契約・錬金術の成功という本来の目的とは別に、彼は少年たちを凌辱・虐殺することそのものに性的興奮を得ていたと言われている。

***

シャフリヤール王

『千夜一夜物語』の粋話に登場する、性的な好奇心の強い妻への復讐を発端とし、後妻を次々と切り捨てた暴君。

***

結婚と離婚を繰り返し、時に不要になった妻やその子供たちに冷酷な扱いをしたヘンリー8世。

自らの城に少年たちを囲い、凌辱と拷問と猟奇的な殺人を繰り返したジル・ド・レ。

妻の一人が持っていた『好奇心』に嫌悪を感じるあまり、後妻を次々に害したシャフリヤール。

三者三様に『青ひげ』要素を持っています。

この中の誰か一人がモデルなのではなく、彼らやそれに類する歴史上の人物の『拗れた部分』を抽出し、ペローやグリムが創り上げた人物像こそが『青髭』なのかもしれません。

いずれにせよ、子供むけの健全なキャラクターには絶対になりません。

 

青髭の目的

『絶対に開けるな!』と言いつつ、何故部屋の鍵を妻に渡したのか?

この物語の最大の謎であり、読者の興味を駆り立てるポイントがこれです。

残念ながら、この答えは作中では語られていません。

ここでは一般的な二つの考察をご紹介します。

 

①裏切りのないパートナーシップが欲しかった

夫の言いつけを従順に守り、与えられる幸福(豊かで安全な生活)に満足するような出来た妻が欲しい。

『気になる小部屋』への浅ましい好奇心を理性で抑えられる上品で慎みのある女性が好み。

次々に殺しておいて何を言っているのだという感じですね。

子供の試し行動にも似ていますが、実際にとんでもないことをやらかしているだけに微笑ましいでは済みません。

それにこういうタイプは何度も同じことを繰り返すでしょう。

『一回は我慢できたようだが、二度目は?三度目は?』と、際限なく妻への試し行動をエスカレートさせてウザがられる典型。

彼は夫の留守中に小部屋を開かずの間仕様にして、『あなたはこの部屋を開けられるのがものすごく嫌みたいだから、私が塞いでおきましたよ』くらいの天然妻と暮らすべきです。

 

②妻殺しの口実が欲しかった

わざと好奇心を煽るような言い方をし、妻に言いつけを破らせることこそが目的。

『警告を無視したおまえが悪い』『これは罰だ』という大義名分のもと、趣味の猟奇殺人を罪悪感なく悠々と愉しみたい。

①よりはこちらの方がしっくりきます。

鍵を渡す。

用意周到に鍵に魔法をかけておく。

6週間の留守と言いながら絶妙のタイミングで帰宅。

こうした行動が、②の考察だと全て説明がつきます。

サイコパスのくせにもっともらしい口実を求めるのが、不謹慎ながら面白いキャラクターです。

善悪の区別がつかないのではなく、悪を悪と認識した上で背徳感を愉しみたい上級者でしょうか。

 

悪いのは妻?!

グリム初版以降削除された『青ひげ』ですが、作品としての面白さは非常に高く人気もあります。

青髭が真に求めていたものは何か?

その答えは読者の数だけあって良く、舞台や映画を作る際にも様々な表現が可能です。

グリムから削除された当時ですら、ドイツでは評価の高い作品でした。

ただし、『妻の不従順を罰する物語』『女性の好奇心を戒める教育物語』として。

どう考えても、妻による『不従順』『好奇心』よりも夫による『連続妻殺し』『死体損壊』の方が大問題です。

 

まとめ

今回はあまり知られていないグリム童話をご紹介しましたが知っていた話はありましたか?

グリム童話の原点を調べていくと残酷で怖い物語が数多く存在しています。

今では子供に読み聞かせる童話になっていますが、元ネタは大人が楽しむための話だったのかもしれませんね。



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