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地下12km!世界一深い穴『コラ半島超深度掘削坑』の全て

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人類が到達した領域に関して言えば、地底のそれは宇宙には及びません。

現在、宇宙ではボイジャー1号が太陽系外に達し、地球からおよそ200億キロメートル先を漂っています。

しかし、地球の奥深くに目を向けてみれば、人間の到達域は僅か12キロメートルでしかないのです。

今回は世界一深い人口の穴、コラ半島超深度掘削坑をご紹介します。

 

世界一深い穴が掘られたコラ半島超深度掘削坑とは?

セミが真冬の雪景色を知らないように、私たち人類も地底のことを殆ど知りません。

1970年、ソ連は地球の表面を覆う厚さ30キロメートル程の地殻と呼ばれる層を調査する為、フィンランドとの国境付近のムルマンスク州コラ郊外に掘削坑施設を建設しました。

この地が選ばれた理由として、この一帯は非常に古い岩で構成されており、先カンブリア紀の結晶質火成岩が表面に露出していて、掘削が進めば地球の歴史をさらに深く見ることができると地球物理学者や地質学者が判断した為です。

一般的に、私たち人間が地下を掘る目的は鉱物や石油、ガスを抽出する為、ひいてはお金の為であることがほとんどです。

一方、このプロジェクトは油田開発や金鉱掘削のような、金銭の利益獲得を目的としたビジネスの為のものではなく、研究を目的にしたものでした。

1970年はレーニン生誕100周年に当たる年でもあるので、当時アメリカが持っていた最も深い掘削穴の記録を打ち破ることをソ連人民が熱望していたこともあり国威発揚という側面もありましたが、地殻の深部の岩石を調べることで、地震波の変化の原因や地球の歴史に迫る地質学的研究の為の科学プロジェクトとして発足したのです。

最初の10年は掘削が順調に進み、1979年、コラ半島超深度掘削坑はついにアメリカの記録である掘削深度9583メートルを塗り替え、1984年には深さ12000メートルに達します。

そして掘削開始から約20年後、1989年には穴は12キロ262メートルに達し、世界で最も深い人口の穴となり、1997年にはギネス登録されるにまで至りました。この記録は現在も破られていません。

12キロメートル強の穴はマリアナ海溝最深部よりも深く、かつて恐竜を滅ぼしたとされる隕石の直径を上回ります。

しかし、ソ連の崩壊や度重なる計画の中断、超深部の採掘の困難さ、資金不足等により1994年にプロジェクトは終焉を迎えました。

 

プロジェクトが頓挫した最大の原因

当時、ソ連は家電に代表される軽工業では西側諸国に後れをとっていたものの、ロケット打ち上げ成功率や優秀な兵器を思えばわかるように、重工業やエンジニアリングにおいては世界屈指の技術力を誇っていました。アメリカが持っていた記録を抜き、更なる深みを探索する――その壮大な理想のもと、高い技術力を背景に、深度目標は15キロメートルに設定されたのです。

先述の通り、掘削はペースを落としつつも粘り強く続けられていました。1989年、現在の深さまで掘り進めた時点で、1993年には深度15キロメートルに達すると技術者は予測していました。

しかし、彼らは深刻な困難に直面していました。掘れば掘るほど地熱で熱くなるという問題が解決されていなかったのです。

プロジェクト発足当初、掘削が進んで深部に迫るほど地熱により高温になることは予想されていて、地質学者は12キロメートルに至る深さでは摂氏100度程度であると予測していました。しかしながら、実際には12キロメートル地点で摂氏180度を上回っていました。

標準的な掘削装置はそのような高温に耐えられる仕様ではなく、度々掘削ドリルが損傷し、中断を余儀なくされました。

また、目標の15キロメートルに達する頃には温度は300度前後になると予想され、工学的な理由で掘削はより困難になると予想されました。

地中の高い温度がプロジェクト瓦解の最大の原因であることは間違いありませんが、他にも予算の縮小やソ連崩壊といった政治的要因も少なからず影響しています。

80年代後半当時の米ソ軍拡競争の激化に伴い、ソ連の経済は逼迫し、地質研究に割く予算は削減され続けていました。民衆はパンを求めて店の前に列を作り、年金は現在の日本円で月に3000円程度にまで落ち込んでいたことを考えるとさもありなんといったところでしょう。

 

掘削プロジェクトの成果、新真実の発見

コラの掘削口は12キロメートルに達した際、プロジェクトの責任者であった地質学者のユーリ・スミルノフ博士(2018年6月にお亡くなりになりました。謹んでご冥福をお祈り致します)により、掘り出した岩石の解析がなされました。

その深度から掘削された岩石は、およそ27億年前のものでした。27億年前と言えば始生代後期で、細菌やバクテリアといった原始的な生物しか地球にいなかった時代です。

逆に、浅い地点に遡れば地球の歴史をより身近に感じる発見がありました。

およそ7キロメートルほどの地点で岩石を分析したところ、複数のプランクトンの化石が見つかりました。このプランクトンの化石は花崗岩に埋もれていたもので、地中の高温高圧下にあったことから窒素や炭素で保護されていた為、極めて保存状態が良いサンプルとなりました。

また、地質学的な発見としては、地球内部に窒素や水素、ヘリウムの等が地球の深部に存在していたことが新たにわかりました。当時、それらは地中には存在しないと世界中の学会で認識されており、その学術上の認識を塗り替えたのです。

その他にも、地震に関する新たな発見もありました。

当時、花崗岩、玄武岩、そして堆積物の3つの層がすべてマントルの上にあると考えられていました。

これは地震波の連続性が失われることを根拠とした地質学的な仮説に過ぎず、実証されてはいなかったのです。

コラの研究チームは、花崗岩の玄武岩への変移が予想された深さに、それまでの仮説のような岩石の変移はなかったということを掘削した岩石のサンプルで証明しました。それは地震波の常識を覆す、非常に重要な発見でした。

その他にも、地下深くに水で充溢した層があることが発見されました。

この水は地上を循環している水とは完全に隔絶された、いわば地下由来の水であり、高圧下で水素や地殻の鉱物により発生し、岩石の層に阻まれて地上の水の循環システムに飲み込まれなかったのであるとされています。

 

コラ半島超深度掘削坑から生まれた都市伝説

この大プロジェクトは有名な都市伝説を生みだし、宗教的な意味合いを持たせられ、一部では信じられています。

そのうちの一つは、実際に録音された音声が元になっている、地獄の声というものです。

動画が始まって30秒後あたりから音声が流れてきます。

この音声はコラ半島超深度掘削坑へ高感度マイクを投下して録音されたもので、まるで幾千もの苦痛の叫びが耳をつんざくように聞こえます。

地中深くで録音された、人々の叫び声のようなこの音声は世界中の人々、特に地面より下を悪い世界と考える宗教を信奉する国々や文化圏で、地獄の扉が開いたというイメージを掻き立てました(動画をアップした男性も、自分には人々が苦しんでいるように聞こえると話しています)。

また、1995年には井戸の深い地点で爆発が起きています。科学者は調査を行いましたが、どんなに調べても原因を究明することはできませんでした。

これに対し、ディレクターとして掘削坑の採掘を指揮していたダヴィド・ミロノヴィチ・グバーマン氏は次のように述べています。

「この不思議な話を人々から聞くと、私は答えに窮してしまいます。地獄についての物語――これは突飛なものであるように思います。その一方で、一人の科学者として、爆発については何が起こったのか、正直なところ皆目見当もつかないのです。確かに、世の中で地獄の叫び声と呼ばれる奇妙な音声が記録された後、爆発がありました。数日後、同じ深さを調査したのですが、何も見つからなかったのです!」

ごく一部では、地獄の穴を開いてしまったことにより、研究者や従業員が恐れをなして逃げてしまったことでコラ超深度掘削坑の計画は中止されたとまことしやかに語られていますが、関係者は全面的に否定しています。

 

プロジェクト瓦解から現在

地下を掘り進めるというエンジニアリングにおける偉大な挑戦は1995年に掘削断念という形で終わりを迎えました。

プロジェクトの研究者の一人だったフーバーマン博士は現場の研究所で、規模や資金を縮小しつつも研究を継続しました。しかしながらソ連を継承したロシア新政府は超深度掘削への関心がなく、経済的困窮に疲弊していたロシア国民にとっても地質調査プロジェクトなど過去の遺産に過ぎなくなっていたのです。

国際社会はこのプロジェクトに資金を提供したものの、かつての勢いを取り戻すにまでは至らず、フーバーマン博士が細々と運営していた、プロジェクトのウェブサイトは2008年に閉鎖されてしまいました。

今はラボは放棄され、廃墟と化し、かつての威容を伺うことはできません。採掘塔がかつての夢の跡を物語るかのように荒野に佇み、荒廃した跡地が残るだけです。

プロジェクトの面影をかろうじて残しているその採掘塔も、風雨に晒され続けていることで崩壊の可能性があり、そこに残っているのは鉄で溶接された掘削口と瓦礫ばかりです。

 

まとめ

コラ半島超深度掘削坑プロジェクトの挑戦は終わり、数々の新たな真実を私たちにもたらしてくれました。

現在の技術では地下15キロメートル付近が掘削の限界域であり、人類がマントルに達するにはまだ時間が必要かと思われます。

しかし、科学的、技術的な進歩は試行と検証、失敗と挑戦の反復により確実に前進します。

先述のスミルノフ博士は生前、天上世界とコラ採掘坑、そして地獄の悪魔をモチーフとした絵画を部屋に飾っていながら、地獄の入り口だと妄信的に物事を結論付けることは非常に愚かしいことだと皮肉っぽく語っていました。

彼は大学で地質学を学んだ科学者であり、より多くの真実を発見する科学の喜び、人類全体が共有できる基礎研究の可能性を信じていたのです。

未だ謎が多いこの大地でさえも、ひたむきに向き合い続ければいつか地震や火山の活動を予測できるようになるかもしれませんね。




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