直視してはいけない、クネクネと動く白いモノ。
正体も目的もわからぬソレを、直視してはいけません。
見れば狂ってしまうから。
都市伝説クネクネの概要
語り部:私(私が弟から聞いた弟の友人Aの話)
時期:2003年3月
舞台:基本的には田舎・主に水辺
***
Aが彼の兄と田舎に遊びに行った。
外は晴れて緑なす田んぼが広がる。
兄が窓から外を眺めていると、真っ白な服を着た人が有り得ない動きでクネクネと踊り始めた。
二人共最初はそれが何かわからなかったが、やがて兄はわかったらしい。
Aが兄に『あれは何なの?』と尋ねるも、兄は『わからない方がいい』と教えてくれない。
私が『お兄さんにもう一度聞けばいいじゃない』と言うと―
『A君のお兄さん、今知的障碍者になっちゃってるんだよ』という答えが返る。
進化・増殖する内容
元になる上記の『わからないほうがいい』がネット上に投稿されると、ほどなくして短編小説のようにリライトされ『くねくね』誕生、更にはオカルト板などに体験談・目撃談と称するたくさんの投稿・考察が寄せられます。
《共通する話の特徴》
・白い、たまに黒い
・人では有り得ないくねりっぷり
・夏の田んぼや河原など水辺での目撃多数
・遠くから見る程度ならば問題ないが、近くで(双眼鏡含む)詳細を見て正体を理解すると途端に精神に異常をきたす
・被害者は子供
・土地の大人は正体を知っているが教えてくれない
真偽考察
2009年頃まで、2chの『民族・神話学板』では各種の考察が展開されました。
①蜃気楼説
水辺での目撃多数であることから。
直視すると強い光で脳に刺激を受け錯乱するのでは?
天然光でポケモン事件のようなことが起きるのか科学的に検証されたという話は見つけられませんでしたが、蜃気楼で歪んだ何かを見て想像力豊かな子供が恐怖に陥り、一時的に錯乱ならばなくもないような?
②水死体目撃説
何かに引っかかったドザエモンが水に揺られてユラユラしている様を見た説。
思いがけず唐突に水死体などを目にすれば、子供ならずとも一般市民は焦りパニックを起こすでしょう。
ただし、くねくねは都市部での目撃も稀にあるので、その説明がこの説だとつきません。
③見た人が精神を患っていた
見たから狂ったのではなく、患っているから幻覚を見た可能性。
実際に幻覚症状のでる病気は幾つかあるので、有り得なくはないでしょう。
④熱中症説
夏の日差しの強い中、屋外で遊んでいるうちに熱中症にかかって幻覚を見てしまったのではないか。
判断力が極度に低下していると、寝ぼけているようになって可笑しなことを口走ることはあります。
⑤舞踏病(ハンチントン病)説
遺伝子異常から発生する病気。
筋肉が自分の意志に関わらず痙攣し、デタラメに踊っているように見える。
35〜44歳に発病することが多く、治療法はほぼなし。
ただし、この病気は白人に多く東洋人には極めて稀です。
もっとも、極めて稀故に幻の都市伝説的に語られる可能性もあるでしょう。
ここでひとつの仮説を立てます。
日本在住の白人舞踏病患者がノンビリとした田舎で療養、リハビリも兼ねた散歩の最中に激しい発作に見舞われ田んぼに飛び込んでしまったとしたら?
白い・クネクネしている。
見た者がくねくねと同じ動きをした際の表情が笑っている(顔の筋肉の痙攣で笑ったように見える)。
これらの特徴に当てはまります。
病気を理由とする差別はあってはならぬことですが、もし事情を知らずに田舎道を歩いていて、見知らぬ外人が田んぼの中で激しくクネっていたらとりあえず逃げます。
『May I help you?』とか言えません、怖過ぎて。
ちなみに人間の防衛機構の一つに、極度に恐ろしいモノを目にすると、恐怖を紛らわすために対象の動きをトレースして同化しようとするものがあるそうです。
⑥ドッペルゲンガー説
もう一人の自分と会うと死んでしまうというドッペルゲンガーと、直視すると精神的な死を迎えてしまうくねくね。
白い姿をしているのは、見る人によって姿が変わるから。
ボンヤリ見えている内はセーフだが、明確に自分のドッペルゲンガーを見るとアウト。
⑦地方に伝わる妖怪
福島県の『あんちょ』:白くてうにょうにょしている。
見たらすぐに帰るべし。
東北の『タンモノ様』:見るとボケる目が潰れる。
いずれも『見る』がキーワードとなっているのがクネクネと共通してします。
⑧人柱説
ある農村では働かない(働けない)者や精神障碍者の片足を切り落とし、木に括り付けて生き案山子にする習慣があった。
括られた者は虫や烏につつかれながら、痛みと恐怖から逃げようともがきクネクネと身体を捩り続ける。
クネクネとはつまり、そうした者たちの怨霊である。
胡散臭いけれど『ちょっとありそう』な匙加減が素晴らしいです。
『大人は知っているけれど子供には語らない』『見てはいけない(ないものとして扱う』理由も見事に回収されています。
⑨村八分説
⑧と似ているのですが、知的障害や精神異常を持つ村人をごく潰しだからと村から追放。
わけもわからずに田畑をうろつき奇妙な踊りのような動きをする追放者を、村人は『見て見ぬふり』。
追放した人間はもう村に存在しない人間だから、『見て』はいけない。
ことの経緯を知る大人たちは、小さな子供たちに『見たらいけない。あれを見たらオマエもおかしくなるぞ』と言い聞かせ村の秩序を守った。
こうした風習が貧しかった頃の農村にはあり、それがひっそりと昔話のように伝えられ都市伝説として甦ったのではないか。
日本の村社会におけるローカル・ルールの効力を考えると、説得力があります。
明治まで(あるいはそれ以降も)閉鎖された村では庄屋や地主の力は絶大で、その取り決めは国の法律以上に遵守されていたといいます。
何故なら、背けば公正な裁判に掛けてもらえる国の法に対し、村の掟は背けば有無を言わさず村八分だからです。
⑩とあるブログで見つけた新説
とある田舎の山間部に、『ばちかぶり』(漢字にすると罰被りだろうか?)というくねくねに似た話があると記されていました。
庄屋の命令で村八分にされた者は、強制的に酒を飲まされ棒で殴られ着物を剥がれ、全身に蜂蜜を混ぜたどぶろくを塗りたくられた状態で蚊柱の立つ野に放り出される。
すると一斉に虫が群がり、痛みと痒みで悶える犠牲者の姿が遠目からは踊り狂っているように見える。
村民は誰も助けず飯も与えぬため、ついには衰弱死してしまう。
こんなことが庄屋を中心として戦前まで行われていたというのです。
真偽のほどはわかりませんが、白いモノが踊り狂う、見てはいけない(見たことを口外してはいけない)など、辻褄は合わせられています。
くねくね撃退法
一緒にいる友人・知人がクネクネしだしたら、腹に一発渾身のボディブローをブチかますべし。
荒っぽい方法ですが、この方法で友人の危機を救ったという投稿を見つけました。
山菜を二人で取りに行った時、後輩がクネクネし始めたのを見てショック療法を行ったとのこと。
この殴った方の方は3年間陸上自衛隊で勤め、鉄拳による撃退法は先輩から習ったそうです。
拝む祈るではなく拳を握ってぶん殴る、実に男らしい解決手段が爽快です。
しかし、陸自並のパンチ力がないと撃退できないとしたら、一般人には難しいでしょう。
まとめ
短くシンプルにまとまった都市伝説ながら、数多の派生エピソードを生んだのが『くねくね』です。
作りこみすぎないエピソード、結局謎なまま各種推論が囁かれる正体。
逆にそれらがリアルです。
もしかしたら、自分もいつかどこかの田舎のあぜ道で、くねくねと動く白いモノと遭遇できるかもしれない。
退屈な田舎の風景に、少しの夢を見させてくれる面白い都市伝説です。