つり橋と聞くと、山の奥に架かっている木でできた簡素な橋をイメージするのではないでしょうか。
グラグラ揺れて、渡るのがいかにも危なっかしそうな橋。
実際、原始的なつり橋というのはそういうものですし、現代でも観光用にそうした橋が残されていることもあります。
しかし、現代では海や川を越え何キロにも及ぶ鉄筋コンクリート製の長大なつり橋が建設されるようになっており、私たちがよく知っている橋も実はつり橋だということがあります。
ここでは、世界最大のつり橋をランキング形式で紹介していきます。
つり橋とは
引用:www.at-s.com
原始的なつり橋は、谷や川に架けられた木や植物でできた簡単な造りのものでした。
現在も、徳島県にあるかずら橋のように、こうした橋が残されているところもあります。
板をつないだだけのこうしたつり橋は吊床板橋とも呼ばれます。
近代的なつり橋の元祖は1883年に完成したアメリカ・ニューヨークのブルックリン橋とされます。
ブルックリン橋は、現代のつり橋の代表的な形式である2本の主塔とそこに渡した2組のメインケーブルをもち、ケーブルから垂直に垂らしたハンガーロープによって桁を支える構造になっていました。
つり橋のなかにはハンガーロープがなく、複数のケーブルによって橋桁を支えているものもあり、こちらは斜張橋と呼ばれます。
ブルックリン橋は、主塔から主塔への斜めのケーブルもあるため、斜張橋との複合構造になっています。
現代のつり橋はほとんどのものが桁は鋼製で、主塔は鋼または鉄筋コンクリート製となっており、多くのつり橋では主塔は2本ですが、なかには3本のものもあります。
つり橋は、構造上、加重や風によって揺れやすいという特徴があり、これが欠点となっています。
つり橋を漢字で書く場合、現在は吊り橋または吊橋と表記するのが一般的ですが、かつては釣り橋または釣橋と表記されていて、今も古いタイプのつり橋については釣り橋表記が使用されることがあります。
つり橋の長さの基準
引用:www.jb-honshi.co.jp
つり橋の長さは、通常の橋と異なり、全長ではなくつり橋の支点間の距離である支間(スパン)のうち、最長となる主塔間の距離である中央径間(センタースパン)を基準にすることが多く、この記事におけるランキングも中央支間長をもとにしています。
主塔と橋の端にあるアンカレイジまでの距離は側径間といわれます。
つり橋のケーブルに使用されるピアノ線は、15000mを越えると自重によって切れてしまうため、理論上、中央支間長の長さの限界は4000mとされています。
つり橋は構造上、長大な橋を架ける場合に向いていて、世界の長い橋の上位にはつり橋が多くランクインしています。
第10位 南京長江第四大橋(中国) 1418m
引用:www.newton.com.tw
南京長江第四大橋は、中国江蘇省南京市にある、長江をわたるつり橋です。
南京には、南京長江大橋、南京長江第二大橋、南京長江第三大橋と長江にかかる橋が全部で4つあり、2020年には南京長江第五大橋が開通する予定です。
全長5.437㎞で、6車線の高速道路が通り、設計速度は100㎞/hで、完成当初は中国で3番目の長さのつり橋でした。
アメリカのサンフランシスコにあるゴールデンゲートブリッジに似ているため、「中国のゴールデンゲートブリッジ」といわれています。
5年の建設期間を経て2012年12月24日に開通し、建設費は68億元(約1000億円)となっています。
第9位 第二東亭湖橋(中国) 1480m
引用:en.wikipedia.org
第二東亭湖橋は、中国湖南省岳陽市にある、洞庭湖にかかるつり橋です。
全長2.39㎞で、6車線の高速道路が通っており、設計速度は100㎞/hです。
洞庭湖は湖南省北東部にある淡水湖で、中国の淡水湖としては2番目の大きさを誇ります。
面積は琵琶湖の4倍となる2820㎢、増水期になると膨大な水と堆積物が流入し、関東平野や四国よりも広い20000㎢もの広さになります。
中国の湖北省、湖南省はそれぞれ洞庭湖の北と南にあることからこの名前がつきました。
岳陽市は洞庭湖の東に位置し、化学工業や家電、製紙、医薬品などを中心とする工業都市です。
2013年に工事が開始され、2018年2月1日に開通し、建設費は37億9300万元(約585億円)となっています。
第8位 潤揚長江公路大橋(中国) 1490m
引用:en.wikipedia.org
潤揚長江公路大橋は、長江を渡り、江蘇省の揚州市繞城公路から、長江の中洲にある世業洲を経て、江蘇省の鎮江市側の滬寧高速公路までを結ぶつり橋です。
揚州市は長江下流北の沿岸に位置する都市で、470万人の人口を擁する揚子江デルタ経済圏における主要都市です。
橋が完成するまでは、対岸へ渡るためには船を使わなくてはならず、24時間営業のフェリーがありましたが、揚州から鎮江まで40分かかっていました。
橋の全長は中国最大規模となる35.66㎞で、6車線の道路が通っており、設計速度は100㎞/h、中国の高速道路ネットワークのなかでも重要な位置を占めています。
主塔の高さは217m、橋桁の航路高は50mで、50000トン級の貨物船の通行が可能となっています。
2000年から工事がスタートし、2005年に開通したときには、中国では最大、世界でも3番目に長いつり橋でした。
橋の総工費は58億元(約700億円)とされています。
第7位 李舜臣大橋(韓国) 1545m
引用:ja.wikipedia.org
李舜臣(イスンシン)大橋は、韓国南西部の全羅南道麗水市と光陽市を結んでいるつり橋で、4車線の道路が通っています。
当初は「光陽大橋」と名付けられる予定でしたが、2007年に開催された名称公募によって韓国の英雄・李舜臣の名を冠した「李舜臣大橋」に決まりました。
李舜臣は、李氏朝鮮の将軍で、豊臣秀吉による朝鮮出兵の文禄・慶長の役で活躍したことで知られます。
朝鮮水軍を率いて日本軍と戦い、最後には慶長の役における最大の海戦である露梁海戦(ろりょうかいせん)で島津軍を中心とする日本の水軍を相手に戦死しました。
韓国では今でも救国の英雄として讃えられる存在で、李舜臣大橋の中央支間長1545mは、李舜臣の生誕年とされている1545年にあわせて設計されたもので、当初の計画では1100mとされていました。
主塔の高さは270mで、コンクリート製つり橋の主塔としては世界一の高さを誇ります。
海面から橋の床板までの高さ80mも韓国では最大の高さとなっています。
中央支間長の1545mは、韓国最大で、完成時には世界第4位にランクインしていました。
2007年から工事が開始され、麗水国際博覧会の開催にあわせて2012年5月から8月にかけて暫定開通を行い、2013年2月7日に正式に開通しました。
ところが、完成したばかりだというのに、李舜臣大橋ではいくつものトラブルが起こります。
まず、橋の路面のアスファルトに亀裂が発生しているのが発見されました。
李舜臣大橋の周辺は韓国でも有数の工業地帯で、橋の上を通る大型トラック等の過積載が原因と考えられ、2014年6月から補修工事が行われ、アスファルトの再塗装が行われました。
しかし、補修工事が終わったばかりの2014年10月、またしてもトラブルが起こります。
李舜臣大橋が上下に大きく揺れているという通報により、橋の通行が一時封鎖されるという事件が発生しました。
調査の結果、橋が揺れたのは補修工事のために橋上に設置された防風幕が強風で振動したことによるものとされ、幕の撤去が行われました。
さらに、2017年8月にも、また道路上に亀裂が見つかって橋を封鎖して緊急補修を行うという出来事があり、ネット上では手抜き工事ではないかという不安の声も上がりました。
第6位 オスマン・ガーズィー橋(トルコ) 1550m
引用:www.chodai.co.jp
オスマン・ガーズィー橋は、別名イズミット湾横断橋とも呼ばれ、トルコにあるマルマラ海東端のイズミット湾に架かるつり橋です。
橋の名前はオスマン帝国を築いたトルコの英雄オスマン1世(オスマン・ガーズィー)の名にちなんでつけられました。
2016年7月1日に開通し、全長は2.682㎞で、トルコで一番長いつり橋で、世界でも4番目に長いつり橋となっています。
オスマン・ガーズィー橋には、ゲブゼとブルサを結ぶ高速道路が通っており、これまでフェリーで1時間かかっていたイズミット湾の横断がたったの6分で済むようになりました。
この橋の完成によってトルコ最大の都市イスタンブールからトルコ2番目の大きさの港湾をもつエーゲ海の街イズミルまでの所要時間が6時間半から3時間半へと短縮されました。
物流の大幅な効率化が期待され、1日あたりの交通量は自動車約40000台となっています。
橋の建設は国際入札によってトルコの建設会社5社とイタリアの1社からなる共同企業体に発注されました。
建造費は10億ドル(約1兆800億円)で、建設業者として発注を受けたのは日本のIHIインフラシステム社でした。
2013年3月30日、レジェップ・タイイップ・エルドアン首相が橋の礎石を設置して、工事がスタートしました。
途中、2015年3月21日、建設現場にケーブルで吊るされていた空中足場が風で転落するという事故が起きています。
この日は工事がなかったためにけが人はいませんでしたが、後に工事の責任者だった日本人技術者が自殺を図り、宿舎の近くで死亡しているのを発見されるという事態にまで発展しています。
この事故で橋の開通は半年ほど遅れ、復旧にかかった費用は21億円ほどといわれます。
橋の完成に先立ち、竣工の日には、スーパースポーツ世界選手権での優勝経験もあるオートバイレーサーのケナン・ソフォーグルによるバイクでの速度記録挑戦のショーが行われました。
第5位 グレートベルト橋(デンマーク) 1624m
引用:en.wikipedia.org
グレートベルト橋(大ベルト橋)は、デンマークにあるグレートベルト(大ベルト海峡、ストア海峡、ストアベルトともいわれる)に架かるつり橋で、デンマークで一番大きく首都コペンハーゲンのあるシェラン島と2番目にフュン島を結んでいるグレートベルト・リンクと呼ばれる交通路の一部です。
グレートベルト・リンクができる以前、西にあるフュン島はもともと西にあるユトランド半島と橋で結ばれ、西デンマークと呼ばれる地域で、一方東のシェラン島は風力発電の島として知られるローラン島などとともに東デンマークと呼ばれており、海峡を渡って東西デンマークをつなぐ交通手段はフェリーだけでした。
グレートベルト・リンクは海峡の最も狭い場所である、フュン島のクヌズホエとシェラン島のハルスコウの間のおよそ18㎞の地点を通っています。
海峡の中央には、スプロウエ島があり、グレートベルト・リンクを西ベルトと東ベルトに分けています。
西ベルトはウエストブリッジと呼ばれ、全長6.611㎞で、併走する道路橋と鉄道橋の2本からなり、小型船のみが橋の下を通ることができます。
イーストブリッジは全長6.79㎞で中央部分がスパン1624mのつり橋となっています。
つり橋部分の橋桁は65mで船も通ることが可能で、橋の設計にあたっては橋脚によって水流が妨げられる分を補うだけ海底を掘削し、海峡の断面積を変えない「ゼロ解」という手法が採用されました。
これによって橋がバルト海を出入りする水流に与える影響を最小限に抑えることができるようになっています。
東ベルトでは、鉄道はイーストブリッジの北にある全長8.024㎞のイーストトンネルと呼ばれる海底トンネルを通行します。
イーストブリッジは最初の工事計画では1993年に完成して、当時の世界最長だったイギリスのハンバー橋を抜いて世界最長のつり橋となる予定でした。
しかし、工事の遅れにより実際に完成したのは1998年のことでした。
その頃に、日本の明石海峡大橋が完成していたため、世界最長の座もとられてしまっていて、イーストブリッジは完成当初から世界第2位に甘んじるという不遇な橋になってしまいました。
第4位 舟山西候門大橋(中国) 1650m
引用:en.wikipedia.org
舟山西候門(シーホーメン)大橋は中国の長江河口付近にある舟山群島に架かるつり橋で、2009年12月25日に開通しました。
舟山西候門大橋は、中国最大の水揚げ高を誇る舟山本島から近年大きく発展している本土の都市・寧波市を結ぶ舟山大陸連島架橋プロジェクトの1つであり、舟山本島と金塘島のあいだに架けられた橋です。
全長約50㎞の橋で、完成当初は中国国内最長で、世界第2位の長さを誇る吊り橋でした。
台風が頻繁に通過する地域にあるため、橋全体で126個もの鋼製桁を使っており、耐用年数は100年とされます。
舟山西候門大橋は、約430億円もの費用が投じられ、中国における台風地域での海上橋梁建設の先駆けになるものとして大きな期待がかけられた橋です。
第3位 南沙大橋(中国) 1688m
引用:www.hkcd.com
南沙大橋は、中国広東省広州市南沙区と東莞市沙田鎮を結ぶつり橋で、2019年4月2日に開通すると、一気に世界3位のつり橋になりました。
南沙大橋は、中国南部を流れる河である珠江(旧称:粤江)にかかる橋です。珠江は、香港とマカオのあいだを通り、南シナ海へと注ぎ、河口には大きな三角江が広がっています。
長江や黄河に次ぐ大河で、流域面積では長江に次いで中国第2位となっています。
南沙大橋は、粤港澳大湾区(広東・香港・マカオビッグベイエリア)内に建設され、全長は12.89㎞に及びます。
珠江に架けられた2本目の橋であり、建設中は虎門二橋プロジェクトと呼ばれていました。広州市南沙区東涌鎮から虎門港を通過し東莞市沙田鎮までを結び、広州-龍川高速道路の始まりの地点でもあります。
南沙大橋には双方向で片側4車線、計8車線の道路が通っていて、最高速度は100㎞/hとなっています。
2013年から着工し、約6年の工期を経て完成し、耐用年数は100年で、建設費用は約180億円とされています。
橋の完成により、珠江河口部の東西両岸で交通渋滞が大幅に緩和できると見込まれています。
第2位 武漢楊泗港長江大橋(中国) 1700m
引用:www.afpbb.com
武漢楊泗港長江大橋は、中国湖北省武漢市に2019年10月8日に開通したばかりのつり橋で、長江にかかる橋としては初めてとなる2層式道路橋です。
武漢市は、長江とその最大の支流である漢口の交わる点として栄え、かつて武漢三鎮と呼ばれた漢口、漢陽、武昌の3つの街が統合してできた都市です。
武漢楊泗港長江大橋は漢陽区と武昌区を結ぶ全長4.13㎞の橋で、世界で最も長い2層式の橋となっています。
上層部は片側3車線の都市高速道路で設計速度は80㎞/h、下層部は片側3車線の都市艦船道路で設計速度は60㎞/hとなっています。
橋の両側には幅2mの歩道も備わっていて、下層部の道路にはこれに加えて自転車などが通行できる幅2.5mの車線もあります。
武漢楊泗港長江大橋は2015年から工事が開始され、およそ4年の期間を経て完成し、建設費用は12億ドル(約85億円)となっています。
第1位 明石海峡大橋(中国) 1991m
引用:ja.wikipedia.org
明石海峡大橋は、兵庫県神戸市垂水区東舞子町と海を隔てた淡路島の淡路氏岩屋とを明石海峡を横断してつなぐ世界最大のつり橋です。
本州と四国を結ぶ3本の本州四国連絡橋(本四架橋)の1つで、神戸淡路鳴門自動車道が通っています。
全長3911m、中央支間長1991mで、1998年に完成した時からギネス世界記録でも世界最長のつり橋として認定されています。
建設当初は全長3910m、中央支間長1990mとキリのいい数字になる予定でしたが、1995年に起きた阪神淡路大震災によって地盤に1mのずれが発生したため、全長が1m延長されることになりました。
明石海峡大橋には2基の主塔があり、橋を吊るワイヤーを支えています。
主塔の高さは298.3mで、あべのハルカスの300mに次ぎ、横浜ランドマークタワーの296.3mを越える高さの構造物になっています。
メインケーブルに使われているワイヤーを合計した長さは約30万㎞となり、これは地球7周半に相当します。
明石海峡大橋では、海を渡ってケーブルを架設するために世界で初めてヘリコプターが使われました。
明石海峡大橋には、片側3車線、6車線の道路が通っていて、設計速度は100㎞/hですが、通常の最高速度は80㎞/hとなっています。
橋桁の内部には水道管や高圧送電線、通信ケーブルなどが入っていて、それまで水不足に悩まされることの多かった淡路島では、明石海峡大橋によって水の安定的な供給が実現しました。
本州四国連絡橋の中では交通量が最も多く、本州と四国を結ぶ交通の要所で、明石海峡大橋の完成によって本州と四国の交通は船から自動車へとシフトしました。
明石海峡大橋の完成によって本州と四国を結んでいたフェリーの航路がいくつも休止することになり、代わりに京阪神と淡路島を結ぶ高速バスが何本も開設されました。
明石海峡に橋を架けるという構想は戦前から存在しましたが、当時は技術的な問題や、大型の軍艦が明石海峡を航行できなくなるという軍事的な要因のために実現することはありませんでした。
明石海峡大橋は、1970年に設立された本州四国連絡橋公団により、本州四国連絡橋の1つとして建設が始められ、1986年に着工し、1998年4月5日に開通しました。
投じられた予算は5000億円で、当初は道路と鉄道を併設した橋にする予定でしたが、予算の関係や地震による地盤への影響などから道路単独橋としての完成となりました。
明石海峡大橋には、完成時に公募によって「パールブリッジ」という愛称がつけられています。
神戸側の橋桁内には舞子海上プロムナードという遊歩道が設けられていて、ここでは海面から高さ47mのところまで上がることができ、通路の一部では床が透明になっていて、はるか下の海面を眺めることができます。
まとめ
以上、世界最大のつり橋ランキングでした。
近年、成長著しい中国のつり橋が多くランクインしていたのが印象的でした。
そんななかで、世界最大のつり橋としてランキングされているのが、私たちにも身近な日本の明石海峡大橋でした。
海を越えるつり橋を施工できる国は世界でもアメリカ、日本、イギリス、中国、ドイツなど限られた数か国しかありません。
日本のつり橋が世界最大であることはそれだけ日本の建設技術の高さを表しているもので、日本人としては誇らしい気持ちになりますね。