ナメクジといえば、雨の日や雨上がりなどに見かけることが多いです。
見かけで悪印象を与える不快害虫であるほか、園芸や農業ではせっかく育てた植物を食い荒らしたり、寄生虫などの媒体となることがあるなど立派な害虫の一種です。
カタツムリから殻がなくなるよう進化した生物の総称で、同じナメクジでも別系統から進化を遂げている場合があります。
今回は世界最大のナメクジを紹介していきます。
パシフィックバナナスラッグ
引用元:http://idtools.org/
ナメクジの中でもAriolimax属といわれる属に分類されるものは俗に「バナナスラッグ(バナナナメクジ)」と言われる、大型のナメクジです。
バナナスラッグはその多くが名前の通り黄色の体色をし、身体に茶色の斑点が見られるなど、熟れたバナナのような外見をしています。
北アメリカに生息しています。
その中でも最大のものがAriolimax columbianus、パシフィックバナナスラッグ(太平洋バナナナメクジ)です。
columbianusといっても南アメリカのコロンビアではなく、カナダのブリティッシュ・コロンビア州やアラスカ、アイダホ州、ワシントン、カリフォルニアにかけて生息しています。
太平洋岸でよく見られることから、パシフィックバナナスラッグと言われます。
パシフィックバナナスラッグは典型的な黄色のほか、黄緑色や赤茶色、茶色、更には白色と様々なバリエーションがあります。
185㎜から、大きな個体では265㎜にまで成長します。
湿気のある林に生息しており、害虫ではありませんがしばしば間違って駆除されてしまうこともあるようです。
カリフォルニアバナナスラッグ
引用元:https://www.flickr.com/
カリフォルニアバナナスラッグはバナナスラッグの中でもカリフォルニアからアラスカにかけて生息しています。
先に紹介したパシフィックバナナスラッグと生息域が重なりますが、パシフィックバナナスラッグはEupulmonata上目に属するカタツムリの殻が退化したもの、カリフォルニアバナナスラッグはPulmonata上目に属するカタツムリの殻が退化したものです。
ナメクジは進化の中でカタツムリの殻が失われたものを指す言葉で、同じ「ナメクジ」であってもこのような違いが出ることは珍しくありません。
ほかにもウミウシなどでも貝殻が退化するような進化が見られ、こうした進化を「ナメクジ化」と言います。
さてEupulmonata上目はカタツムリの中でもわずかに海生の名残があり、海水にも耐えられる種類を指します。
一方Pulmonata上目は完全に陸上生活に対応したものを指します。
カリフォルニアバナナスラッグは175㎜から200㎜、大型のものでは250㎜を超えるサイズにまで成長します。
体色は典型的な黄色をしたものが多いです。
スレンダーバナナスラッグ
引用元:https://calphotos.berkeley.edu/
スレンダーバナナスラッグは名前の通りスレンダー、つまり細長いバナナスラッグです。
カリフォルニアのサンタクルス島にのみ生息し、体長は150㎜から180㎜と他のバナナスラッグよりはやや小さく、細長い身体をしています。
スレンダーバナナスラッグの生態で個性的な点としては、その生殖器にあります。
ナメクジは雌雄同体で、雄性の生殖器と雌性の生殖器を両方有しています。
スレンダーバナナスラッグは雄性の生殖器が非常に大きく、大きなものではなんと体長の2倍に達することがあります。
そのためスレンダーバナナスラッグは身体に対して最大の雄性の生殖器を有する生物のひとつです。
交尾の際には雄性の生殖器が雌性の生殖器へ侵入するのですが、その大きさ故に雄性の生殖器が抜けないことがあります。
すると雌性を担ったスレンダーバナナスラッグは雄性の生殖器をかじり取ってしまうのです。
この生殖器をかじり取る習性はApophallationといい、バナナスラッグに特有のものです。
雄性の生殖器を失ったナメクジは今後雌性として生きていくことになります。
カリフォルニア州のカリフォルニア大学サンタクルス校ではこのスレンダーバナナスラッグがマスコットとして愛され、学校側がアシカのマスコットを作ったときに猛反対し、投票の末に正式なマスコットを廃止したことがありました。
スレンダーバナナスラッグは同校に多く生えるセコイアの樹と共生関係にあり、学生に愛されていたようです。
マダラコウラナメクジ
引用元:https://www.huffingtonpost.jp/
マダラコウラナメクジはヨーロッパ全域やエジプトやアフリカなど地中海沿岸のアフリカ諸国などに生息するナメクジです。
100㎜から200㎜にまで成長する大型のナメクジで、体色は薄い灰色、灰色、茶色、黄色がかった白色をしており黒い斑点があります。
そのため「グレートグレイスラッグ(偉大なる灰色のナメクジ)」や「レオパルドスラッグ(ヒョウ柄のナメクジ)」とも言われます。
マダラコウラナメクジは独特の交尾をします。
2匹のマダラコウラナメクジは交尾の際に樹上や建物のうえなど高いところへ上がり、互いの身を絡ませ合いながら太い粘液を吐き出し、高いところからぶら下がるような形となって交尾をするのです。
マダラコウラナメクジはヨーロッパ原産ですが、現在では世界中に分布を広げています。
アメリカやアフリカの南部、オセアニア地域などで確認されるほか、日本でも2006年に茨城県土浦市で初めて生息が確認されました。
ほかにも島根県や長野県、埼玉県、北海道などでも発見されており、観葉植物などと共に日本国内に侵入したと考えられていますが詳しい生息範囲などはまだ判明していません。
キノコ農家などではマダラコウラナメクジによる食害なども確認されています。
もしマダラコウラナメクジを見つけたら「ナメクジ捜査網」などへ連絡するようにしてください。
アッシーグレイスラッグ
引用元:http://www.naturephoto-cz.com/
アッシーグレイスラッグはLimax cinereonigerというナメクジの一般的な呼び方です。
先に紹介したマダラコウラナメクジの仲間で、ヨーロッパに広く分布しています。
ウラル山脈の東側で発生したと言われ、ポルトガルやギリシャなどヨーロッパの西端、南端では生息が確認されていません。
アッシーグレイスラッグは20㎜、最大ではなんと30㎜にまで成長する、世界最大のナメクジのひとつです。
世界最大のカタツムリであるアフリカマイマイは体長が400㎜まで成長すると言われるほか、水生の巻貝の殻が退化した、いわば水生ナメクジであるアメフラシは最大で500㎜にまで成長すると言われるなど、ナメクジは最大のものでもやや小柄になります。
これは乾燥対策です。
水生であるアメフラシは言うまでもなく、カタツムリも殻にこもることで乾燥を防ぐことができますが、ナメクジには乾燥を防ぐ術がありません。
あまり身体を大きくさせてしまうと太陽光の当たる面積が広くなって乾燥しやすくなるほか、身体を日陰に隠すなどの乾燥対策が取りにくくなってしまいます。
そのためさほど大きく成長しないのです。
ヤマナメクジ
引用元:https://www.insects.jp/
日本で「ナメクジ」と言えば、市街地で見られるナメクジやチャコウラナメクジ、キイロナメクジなどが代表的です。
しかし本州、四国、九州の山地にはヤマナメクジという大型のナメクジが生息しています。
ヤマナメクジは日本原産のナメクジで、多くは130㎜から160㎜、大きいものでは200㎜にまで成長します。
背中は灰褐色から黒褐色をしており、身体の側面には黒っぽい色の紋が走っています。
体長が長いうえ、体高や身体の幅も大きいため、見た目に重量感が溢れています。
他のナメクジと違い、山地に生息しているために食害などはありませんが、キノコ農家などでは食害が確認されることもあるようです。
ペットショップなどでも流通していますが、この種に限らずナメクジは危険な寄生虫を持っていることがあるため、取り扱いには注意が必要です。
ダイセンヤマナメクジ
引用元:http://photozou.jp/
ダイセンヤマナメクジは本州から四国、九州にかけて生息する、ヤマナメクジの亜種です。
ヤマナメクジとは違い、体色は黄褐色をしており、触角はやや短いです。
体長はヤマナメクジと同様、100㎜から200㎜ほどにまで成長します。
ダイセンヤマナメクジは漢字で「大仙山蛞蝓」と書きます。
この場合の大仙とは秋田県大仙市のことで、名前の通り、特にこのナメクジは北関東から北陸、東北地方にかけてよく見られるようです。
ヤンバルヤマナメクジ
引用元:https://yanbarucolors.com/
ヤマナメクジは本州や四国、九州に生息していますが、沖縄本島の北部の山原(やんばる)と言われる森林地域にはヤンバルヤマナメクジという別種が生息しています。
ヤンバルヤマナメクジはヤマナメクジよりも大型で、茶褐色の体色をしています。
実はヤンバルヤマナメクジというのは単なる和名で、未だに学名は存在していません。
なので、まだ正式な分類はされていないのです。
マウントカプタルスラッグ
引用元:https://www.pinterest.jp/
オーストラリアはユーラシア大陸やアメリカ大陸から隔絶された環境にあり、独自の生態系が息づいています。
ナメクジも例外ではなく、オーストラリアの東海岸、ニューサウスウェールズ州からクイーンズランド州にはレッドトライアングルスラッグという固有のナメクジが生息しています。
更にオーストラリア東部にあるカプタル山国立公園の中、カプタル山にはレッドトライアングルスラッグの別種であるマウントカプタルスラッグが生息しています。
カプタル山は「スカイアイランド」と言われる、周囲を気候の異なる荒野に囲まれた、孤立した山地です。
降水や積雪によって周囲よりも気温が10℃ほど低く、オーストラリアの中でも更に独自の生態系が築かれています。
マウントカプタルスラッグはカプタル山の山頂付近のみに生息し、体長はレッドトライアングルスラッグよりも大きく、最大で200㎜ほどにまで成長します。
体色は明るい赤色からピンク色という非常に個性的な外見をしています。
ムリロ
引用元:https://www.tokyo-sports.co.jp/
現在存在が確認されている中で最大のナメクジはバナナスラッグやアッシーグレイスラッグで、250㎜から300㎜ほどにまで成長します。
しかしアフリカの湿地帯には「ムリロ」という、これらよりも更に巨大なナメクジが生息していると言われています。
ムリロはなんと1mから1.2mほどにまで成長すると言われており、もし存在が確認されればこれまでの記録を大幅に更新する巨大ナメクジということになります。
ナメクジなどの軟体動物は乾燥に弱く、自重を支えるための骨格がないためあまり大きくなることはできません。
そのためムリロは普段は水中に潜み、必要に応じて地上に上がると言われています。
このような生態のため、ムリロの正体は巨大ナメクジではなくヒルなのではないかという説もあります。
実際、南アメリカには50㎝以上に成長するような大型のヒルもいるため、見間違えてもおかしくはないでしょう。
まとめ
今回は世界最大の巨大ナメクジを紹介しました。
200㎜以上のナメクジというと想像するだけで気持ち悪いですが、ヤマナメクジであれば私たちでも少し遠出をするだけで見つけることができます。
見つけたくはないかもしれませんが、興味を持った人は探してみてもいいかもしれません。
ただナメクジは危険な寄生虫を媒介することもあるので、くれぐれも取り扱いには気をつけてください。
間違っても口にするようなことはしてはいけません。