人間は科学技術の発展に伴って、自らの生活水準を引き上げることなどを目的に交雑種を作ってきました。
口に入れる食べ物や、可愛がるペットなど、生活のうちに何の違和感もなく交雑種が紛れ込んでいます。
現在では倫理的な問題から動物を使った実験は制限されていますが、それでも多くのハイブリッドが生み出されています。
そして中でも私たちヒトとチンパンジーの交雑種である「ヒューマンジー」という生物の存在が、時々噂されることもあります。
人間の「ハーフ」はあくまで同じヒト同士の話で、交雑種ではありません。
ときにそんな「ハーフ」にすら好奇の目を向ける私たちが、もし正真正銘の交雑種である「ヒューマンジー」と直面するとしたらどういった態度を取るのでしょうか。
今回はフィクションから出てきたような生物「ヒューマンジー」やヒトと他の動物をかけ合わせた例を紹介します。
交雑種とは?
引用元:http://13shoejiu-the.blog.jp/
交雑種(ハイブリッドアニマル)とは、種や品種の異なる動物同士が交雑してできる子孫のことです。
日本語では「雑種」、「かけ合わせ」、「混血」といった表現となります。
交雑種はほとんど自然界では発生しない(輪状種や、ニホンイシガメとクサガメのハイブリッドであるウンキュウなどの例外はある)ため、現在存在するハイブリッドアニマルのほとんどすべてが人為的に作られたものとなっています。
交雑種を作る理由としてはまず優れた種を組み合わせて両親よりも優良な種を作る「雑種強勢」が挙げられます。
メスのウマとオスのロバのハイブリッドである「ラバ」や蚕、ニワトリなどの家畜やF1植物といった栽培作物が「雑種強勢」の主な例です。
ほかにもペットでは異なる品種同士を交配させることでいわゆる「雑種」を作り、そこから新しい品種を生み出す試みが盛んに行われます。
また研究を目的に「ライガー」や「レオポン」、「ゼブロイド」など数多くの雑種が人為的に作られていますが、そのほとんどに繁殖能力はありません。
ヒューマンジーやヒトと動物のハイブリッドにまつわる噂話
引用元:http://timeplat-enstboy.blogspot.com/
私たちには「フランケンシュタイン・コンプレックス」と呼ばれる心理があります。
フランケンシュタイン・コンプレックスとは、メアリー・シェリーの小説『フランケンシュタイン』に因んでSF作家のアイザック・アシモフが作った言葉で、人間が創造主である神に代わって生物を作り出したいと思う憧れと、創造主である人間が被造物によって滅ぼされてしまうのではないかという恐れが入り交じった、複雑な感情を指しています。
そのためいくつものハイブリッドアニマルを作り出してきた人間にも、自分と同種、ヒトと他の動物のハイブリッドアニマルを作ろうという動きはタブー視されています。
ですが実はヒューマンジーをはじめ、世界にはヒトのハイブリッドアニマルを作ろうとする試みが人知れず存在しているのです。
ゴードン・ギャラップ博士の証言
アメリカの心理学者ゴードン・ギャラップ博士は2018年1月29日に、かつてヒューマンジーが実在していたという証言をしています。
ギャラップ博士は動物が鏡に映った自身を自分と認識できるかという「鏡像認知テスト」を考案するなど、心理学者でありながら哺乳類の研究においてもよく知られています。
そんな博士の証言によるとヒューマンジーがいたのは今から約100年前、1920年代のことです。
当時アメリカ合衆国フロリダ州にある霊長類研究センターでは秘密裏に人間の男性の精液を使ってメスのチンパンジーを妊娠させ、ヒューマンジーを作ろうとする試みがなされていたと言うのです。
果たして霊長類研究センターの試みは成功し、チンパンジーは匿名の男性の精液で妊娠、正常な妊娠過程を経て無事にヒューマンジーを出産しました。
ですがヒューマンジーを作り出した科学者はヒューマンジーが生まれた後に倫理や道徳に思い悩み、ついに生まれたヒューマンジーを生後数週間のうちに安楽死させてしまいました。
ギャラップ博士はこのヒューマンジーに関する話を1930年代に高名な科学者から聞いたと証言していますが、物証はありません。
イリヤ・イワノフ博士の実験
1920年代、ソビエト連邦のヨシフ・スターリン総書記は「無敵の人間」を使った軍隊を作ろうと考えました。
ソ連の科学院はスターリンの構想を実現するために人間と類人猿の力を持った「半人半猿」を生み出すべく1926年、巨額を投じて生物学者のイリヤ・イワノフ博士を責任者とした研究を開始します。
イワノフ博士はシマウマとロバの交配を実証するなど、異種交配の分野で高名な科学者でした。
当時世界では白人よりもアフリカ人のほうがサルに近いという差別的な発想が一般的で、また交配の対象となる類人猿が数多く住んでいたために、博士はアフリカ西部のギニアを拠点に研究を始めました。
半人半猿を作る方法として考えられたのは人間の精子をチンパンジーやオランウータンなどのメスへ受精させるという方法でしたが上手くいきません。
そこで博士はソ連へオスのチンパンジーを持ち帰り、有志の女性を募って、チンパンジーの精子で受精させようとしました。
しかし有志の女性は見つかったのですが、持ち帰ったチンパンジーが病気で死亡して研究は頓挫、1930年にイワノフ博士は逮捕されてカザフスタンに追放され、1932年無念のうちに亡くなってしまいました。
中国での研究
人間とサルを交配させる実験は同じ共産圏である中国でも行われていたらしく、1967年にはメスの霊長類が人間の精子で妊娠したと言われています。
ですが当時の中国は文化大革命の真っ最中であり、霊長類の飼育をしていた研究者が農村へ飛ばされてしまい、結局妊娠していた霊長類は死んでしまったそうです。
イギリスでの人間混合胚の実験
西洋諸国では動物愛護の機運が高く、動物実験を経た化粧品は発売しないなどの法整備がされています。
一方でイギリスでは2008年に「ヒトの受精および胚研究に関する法律」が定められ、人間と動物の胚細胞を混合させた「キメラ胚」や人間の精子で動物の卵子を受精させた、あるいは逆に動物の精子で人間の卵子を受精させた「人間混合胚」の研究を合法化しています。
混合胚は難病の治療法の確立に使われるとされ、作られてから14日以内に処分するよう法律で定められています。
法律制定後3年で155もの混合胚が作られたとされていますがいずれも充分制御され、問題は発生していないと言われています。
ただ人間と動物を組み合わせた「人間混合胚」からは、当然人間と動物のハイブリッドが生まれることになるでしょう。
もし管理が不十分となってしまったらと考えると、不気味に思われてしまいます。
実在するヒューマンジー
ヒトとチンパンジーの交雑種であるヒューマンジーは今のところ生み出されていないと考えられています。
ヒトとチンパンジーの交配自体は自然に行うことはできなくても、最新の遺伝子技術をもってすれば不可能ではないという科学者の意見もあるなど、秘密裏に存在する可能性自体は否定できません。
また過去にはヒューマンジーではないか、という疑いをかけられた生物も実在していました。
オリバー
引用元:http://www.nazotoki.com/
今からおよそ40年前となる1976年7月、「人間とチンパンジーの中間にあたる未知の生物」、「ヒューマンジー」という触れ込みで一匹の類人猿が来日しました。
オリバーは1960年にコンゴ川流域で捕獲されて飼育されていたのをですが、1975年に弁護士のマイケル・ミラーが購入し、興行師の康芳夫が興行の一環として日本へ連れてきたのです。
オリバーが「人間とチンパンジーの中間にあたる未知の生物」とされたのは染色体の数にあります。
通常チンパンジーの染色体数は48本、ヒトの染色体数は46本存在しています。
ですがオリバーの染色体数はその中間である47本存在していたのです。
またオリバーは人間のように直立二足歩行をし、ヒトのように頭髪が薄く、人間の女性に性的な興奮を抱く上ビールやタバコを楽しんでいたと言われています。
チンパンジーと呼ぶにはあまりにも人間に近い、と言うよりも人間臭い前評判に、人間とチンパンジーの中間であるというのもなんとなくうなずけるような気がします。
来日したオリバーは大きな話題を呼び、来日後に出演した「木曜スペシャル」は最大視聴率24.1%をマークしました。
そのうえオリバーの花嫁を募集し、オリバーの子どもを産んだら1000万円という報奨金まで設定されたために日本中から数十人の女性が花嫁に応募、実際にひとり選ばれると言った事態まで発生しました。
ですが来日に際して日本の放射線医学総合研究所が行った検査ではオリバーの染色体数は普通のチンパンジーと変わらない48本であることが判明、腰椎や血清蛋白もチンパンジーのパターンと一致しました。
つまりオリバーは普通のチンパンジーだったのです。
染色体数の異常はアメリカで検査を受けたときに染色体標本の一部が失われてしまったこと、やたらと人間臭い所作はもともと飼育されていたコンゴ川流域地域にチンパンジーと共生する習慣があったことによるものではないかと推測されています。
普通のチンパンジーであると判明後、オリバーは売却され、サーカスや見世物小屋を転々とします。
サーカスや見世物小屋が流行らなくなると次は化粧品会社の実験動物として狭い檻の中で暮らし、1996年にテキサス州の保護区へ移住、2008年にはレーズンというメスとつがいになりました。
オリバーは晩年視力のほとんどを失い、歯も抜け、関節炎に苦しんだと言い、2012年に死亡しました。
ボノボ(ピグミーチンパンジー)
引用元:https://news.yahoo.co.jp/
人間とチンパンジーの交雑が噂されるのは、人間とチンパンジーが非常に近しい種であるためです。
生物の分化を樹状図に示した系統樹ではゴリラやオランウータン、テナガザルといった類人猿はチンパンジーよりも早い段階でヒトから分化し、独自の進化を遂げていることが分かります。
実際にヒトとチンパンジーは遺伝子情報が酷似しており、なんとヒトとチンパンジーの間では、ゲノムと呼ばれる遺伝子情報の総体が98.7%も一致しています。
ただ実はチンパンジーよりも更に後にヒトと分化した類人猿として、ボノボと呼ばれる動物がいます。
ボノボはアフリカ中央部、コンゴ民主共和国に棲息する類人猿で、チンパンジーより体長が小さく、四肢が長いのが特徴的です。
チンパンジーよりもヒトゲノムとの一致度が更に高くなっており、世界で最もヒトに近い生物だと言われています。
ボノボで特徴的なのは、他の類人猿と違い女性優位の群れを作り上げる点です。
群れは複数頭の異性を含む、およそ6から15体の集団でメスが中心となります。
ボノボの群れは争いを好まず、互いに気遣いができると言われる一方他の類人猿で言う喧嘩、示威行為の代わりに疑似的な性的行動を用いて個体間の緊張を弛緩したり友好関係を築く、変わった習性があります。
中にはオスの持つ食糧を分けてもらうためにメスが自らの性的魅力をアピールする、いわゆる売春行為に近いような行動まで見られるなどボノボの群れにおいては性的行動が非常に大きなウェイトを占めています。
ボノボの社会は非常に高度なもので、人間社会の分析をするためにボノボの社会が用いられることもあります。
またボノボは非常に高い知性を有しており、野生では道具を使わないのですが、多くの道具を使えるほか特殊なキーボードを用いて人間と会話をしたり、なんと「パックマン」のルールを覚えて遊ぶことができるという実験結果が出ています。
ヒューマンジーを人間と言えるかというのは恐らく論争を招くでしょうが、少なくともチンパンジーをより人間に近づけたものと言うことができるでしょう。
そういった意味では、ボノボもまた広義の「ヒューマンジー」に含まれると言ってもいいのかもしれません。
まとめ
この記事では人間とチンパンジーの交雑種である「ヒューマンジー」について、交雑種とはそもそも何か、ヒューマンジーを作ったとされる噂話、実在するヒューマンジーについて紹介しました。
バイオテクノロジーが発展することで、人はいわゆる唯一神と同じく、生命を新たに作り出すことが可能になりました。
ヒューマンジーも今は『猿の惑星』のような想像の産物に過ぎませんが近い将来、突如として私たちの隣に表れるかもしれません。
今はそうした問題には、いわば「ふた」をした状態です。
しかしいざ表れたとき、どういった認識をするのか、どういった態度でヒューマンジーと接するのかというのは考えておいたほうがいいのかもしれません。