宇宙最大の謎の一つであるブラックホール。
映画や小説などでもたびたび目にすることはあるもののその全容は未だ謎に包まれています。
今回は誰もが気になるブラックホールの誕生や謎、そして解明されている事実ついてご紹介していきます。
そもそもブラックホールとは?
ブラックホールとは、極めて高密度かつ大質量で、強い重力を持つために物質だけでなく光さえ抜け出すことができない天体のことです。
例えば、ボールを空に向かって投げると、ある高さまで上がります。
ボールを投げる速度が速ければ速いほど高くまで上がりますよね。
では、ボールの速度をどんどん早くしていくとどうなるのでしょう?
地上から秒速11.2km(時速4万km)の速度でボールを上に投げると、地球の重力を振り切り宇宙空間まで届きます。
こうなると、もうボールは地上に戻ってくることはありません。
脱出速度は星の質量と半径で決まります。
星の重さが重いほど、そして大きさが小さいほど脱出速度は大きくなります。
そこで、仮にどんどん脱出速度が大きくなっていき、もしも光速を超えてしまったらどうなるのでしょう?
どんな物でも光速以上の速度は出せないので、その星からは何者も(光ですら)抜け出すことは不可能になってしまいます。
つまり、ブラックホールとはそういう天体なのです。
また、「ブラックホール」という呼び方が定着したのは、1964年1月18日の米「サイエンスニュースレター」の記事で「ブラックホール」という言葉を用いてからで、それ以前は崩壊した星を意味する「コラプサー」などと呼ばれていたそうです。
ブラックホールの誕生と超新星爆発
ブラックホール誕生の鍵になるのは超新星爆発と呼ばれる現象です。
超新星爆発とは、星が死を迎える際に引き起こされる大爆発のことで、地球から肉眼でも確認することができる宇宙の大イベントです。
へびつかい座にあらわれた超新星は他のどの恒星より夜空に明るく輝いたという記録も残っています。
ただし、超新星爆発を起こせばどんな星でもいいと言う訳ではありません。
ブラックホールになる為には、前述したように脱出速度が光速を超える必要があります。
その為には、太陽と同じ重さの星を半径3km以下に縮める必要があります。
これは非常に難しいことです。ほぼ不可能とも言ってもいいかもしれません。
しかし、質量が太陽の30倍以上の重さの星であればそれが出来るのです。
星の死が近づき内部で核融合の燃料となる物質を使い果たすと、星を支えていた圧力が下がり、重力がどんどん強くなっていきます。
すると中心部が大爆発を起こし極限まで圧縮された結果、その中心にブラックホールが形成されます。
ブラックホールとは、超巨大な星の言わば残骸なのです。
ブラックホールはどうやって発見されたのか?
通常、星を観測する為にはその星が発する光を捉える必要があります。
しかし、ブラックホールは光が脱出することができないため、目視で観測することは非常に困難とされています。
では、ブラックホールはどのようにして観測され、発見されたのでしょうか?
1970年に太陽系から約6,000光年離れたところにある「はくちょう座」を観測していたチームが、「はくちょう座X-1」の連星として存在する謎の天体があることを発見しました。
謎の天体は超強烈なX線を放出し続けており、普通の恒星ではないことは明らかでした。そしてこれがブラックホールが史上初めて確認された瞬間でした。
このようにある星を観測している中で、それ以降10個以上のブラックホールが発見されています。
ブラックホールには必ずそのペアとなる恒星が存在しているのです。
ブラックホールのX線はどこから出ているのか?
ここで一つの疑問がでてきます。
ブラックホールは光ですら逃げ出せないはずなのに、X線はどこから出ているのでしょうか?
実はX線はブラックホール本体から出ているわけではありません。
ブラックホールと連星系をなす恒星の一方の質量が巨大だと、もう一方の恒星のガス成分を吸い込み、ブラックホールの周りを高速で回転する降着円盤が形成されます。
X線はブラックホールの周りを高速で回転する降着円盤のガスから放射されているのです。
ブラックホールの性質
ブラックホールの半径をシュバルツシルト半径と呼び、この半径をもつ球面(ブラックホールの黒い所)を「事象の地平面」と呼びます。
事象の地平面の内側からは光ですら脱出することができません。
その為、ブラックホールと降着円盤の間には一定の空間があります。
降着円盤はブラックホールの半径(シュバルツシルト半径)の3倍までしか近づくことができないのです。
それ以上近づくと安定して回転することができず、ブラックホールに吸収されてしまうのです。
ブラックホールの種類
1970年に初めて発見されたブラックホールですが、その大きさ別に3つの種類に分けられています。
小さい順に恒星ブラックホール、中間質量ブラックホール、そして超大質量ブラックホールです。
恒星ブラックホール
恒星ブラックホールは私たちの銀河にも数億個は存在すると言われている最も一般的なブラックホールです。
恒星が一生の最後に起こす超新星爆発により誕生します。
3種類のブラックホールの中では一番小さなものになり、その大きさは直径数10km~数100km程度と一つの都市程度の大きさしかありません。
とても小さなブラックホールですが、誕生するためには太陽の約30倍以上の質量を持つ恒星が超新星爆発を起こす必要があります。
超大質量ブラックホール
太陽の約10の5乗倍(100,000倍)から10の10乗倍(10,000,000,000倍)の質量を持つブラックホールです。
ほぼ全ての銀河の中心に超大質量ブラックホールが有ると考えられており、2002年に宇宙物理学者 Steven H. Rainwater が率いるチームがヨーロッパ南天天文台とW・M・ケック天文台による観測データから、銀河系の中心にある「いて座A*」が超大質量ブラックホールであることを発見しました。
現時点ではどのように誕生するのかそのメカニズムは解明されていませんが、恒星ブラックホールから徐々に成長することで誕生するのではないかなどと考えられています。
中間質量ブラックホール
その質量が恒星質量ブラックホール(質量が太陽の10~数十倍)よりも著しく大きく、かつ超大質量ブラックホール(質量が太陽の100万倍以上)よりも遥かに小さいブラックホールが2014年に発見された中間質量ブラックホールです。
中間質量ブラックホールは発見されたばかりの新しいブラックホールであることから、形成されるメカニズムには不明確な点が多く現時点では解明されていません。
恒星ブラックホールが他の天体と衝突・結合しながら周囲のガスやちりを吸収して成長するのでは?とか、ビックバン直後の宇宙の草創期に密集したガスから誕生した太陽質量の1万倍以上の質量を持つ巨大な恒星がブラックホールになったものでは?などと考えられています。
また、中間質量ブラックホールは恒星ブラックホールや超大質量ブラックホールに比べて数が少ないのですが、その理由も未だ謎に包まれています。
ブラックホールの内部は
「ブラックホールの内部がどうなっているのか?」それはブラックホールの最大の謎の一つといえます。
ブラックホールの中心部は真っ黒な円(事象の地平面)になっています。事象の地平面の更に内部には、特異点と呼ばれる場所が存在します。
そこでは重力と密度が無限大に発散しており、時空は無限に捻じ曲げられてしまいます。
もちろん現在の科学力では観測・解明することは不可能な場所です。
ブラックホールの内部である特異点はあらゆる物理法則や常識が当てはまらない未知の世界であり、宇宙最大の謎の一つであり、宇宙の神秘とも言える場所なのです。
ブラックホールに吸い込まれるとどうなる?
ブラックホールに吸い込まれるものを観測した場合
ブラックホールに近づくと、その超強力な重力に引かれ、事象の地平面に向かってどんどん加速しながら吸い込まれていきます。
ブラックホールに近づくにつれ徐々に原型を留める事ができなくなり、激しく歪んだり、長く伸びたように見えるようになります。
さらに内部まで吸い込まれると、徐々に速度がスローになってきて、事象の地平面に到達すると歪んだまま完全に停止したように見えます。
最後にホーキング放射の熱によって、ほとんど停止したまま超スローモーションでゆっくりと灰のように消えていく様子を観測することができます。
ブラックホールに吸い込まれた人の目線の場合
もしもあなた自身がブラックホールに吸い込まれてしまった場合はどうなるのでしょうか?
ブラックホールに向かって近づいていく場合、外から吸い込まれていくものを見ていた時とは違い自分自身の体がグニャグニャ歪んだり、伸びたりすることはありません。
時間がスローに感じることもなければ、衝撃を感じたり、ホーミング放射の熱で体が燃えてしまうこともありません。
ただブラックホールの中心に向かってどこまでも落下していくだけです。
ブラックホールには光さえ脱出不能な事象の地平面という壁があります。
外から見ると、事象の地平面がハッキリ見えますが、実際に地面や壁が存在するわけではありません。
小さなブラックホールの場合には、事象の地平面に到達したあなたは、頭と足にかかる重力が大きく異なるため、パスタの麺のように体が引き伸ばされてしまいます。
しかし、大きさが太陽の何百万倍も大きなブラックホールの場合には、頭と足にかかる重力にほぼ違いはありません。
その為、身体が伸びたり歪んだりすることなく、身体には何の変化も起こらずにブラックホールの特異点まで落下していくことが可能です。
ブラックホール情報パラドックス
上記の通り、ブラックホールに「吸い込まれる人を外から見た時」と「自分が吸い込まれた時」に起こる事象はハッキリと矛盾しています。
しかし、この2つの仮説は量子力学と一般相対性理論によってどちらも正しいことが証明されているのです。
これは「ブラックホール情報パラドックス」と呼ばれ、長年にわたって世界中の学者たちの頭を悩ませていました。
それが1990年代になって、ついにブラックホール情報パラドックスが解明されました。
解明したのはレナード・ジュースキントという学者で「誰もブラックホールの中のもうひとりの自分」を見ることはできないので、パラドックスは生じないというものだそうです。
ブラックホールの寿命は?
全てを吸い込み、何物も脱出は不可能なことから、ブラックホールはエネルギーをひたすら吸収するのみと考えられていました。
しかし、1974年にイギリスの物理学者・スティーブン・ホーキング博士がブラックホールが事象の地平面周囲にエネルギー粒子を放出する「ホーキング放射」という現象が起こっていることを証明しました。
ホーキング放射により粒子を放出し続け、長い時間をかけてエネルギーを失ことで、ブラックホールはやがて消滅してしまうと考えられています
まとめ
ブラックホールについては科学の進歩により多くのことが解明されてきています。
しかし、ブラックホールの謎を解明すればするほど新たな謎が生まれており、結局のところ、現在もなおブラックホールに関しては謎だらけであり、ブラックホールに吸い込まれると何が起こるのかはまだ誰にも分かっておりません。