美しい見た目や、ひらひらと優雅に飛ぶ姿が人気のある昆虫のチョウですが、実は危険な性質を持つチョウも存在します。
有名なチョウや身近にいるチョウにも、実は毒があって危険なものもいるのです。
チョウの成虫や幼虫に毒を持つ、危険なチョウやガをご紹介します。
カバマダラ
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オレンジ色のグラデーションに、白い斑のある翅を持つカバマダラは、幼虫の時期にトウワタという植物を食べて育ちます。
トウワタにはアルカロイド系の有毒成分が含まれていて、カバマダラは成虫になってもこの有毒成分を持ちながら生きています。
このカバマダラの翅の色は、毒があることを示す警告色となっていて、ツマグロヒョウモンやメスアカムラサキなど、無毒ながらカバマダラに翅を似せて擬態しているチョウもいます。
このような擬態をベイツ型擬態と言います。
マツカレハ
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マツカレハはカレハガ科で、別名マツケムシと呼ばれています。
マツカレハは幼虫の時に毒を持っているのです。
その名の通り、マツカレハの幼虫が食べるのは松の木で、マツカレハが大量発生すると、松の葉をすっかり食べつくされて木が枯れてしまうという被害もあります。
マツカレハの幼虫が成長すると背面が銀色に光るようになり、胸部の背面には毒針毛が生えるのです。
この毒毛に刺されると激痛に襲われて、その後腫れ上がります。
痛みと腫れはすぐに引くものの、1~2週間ほどかゆみが続くのです。
マツカレハの幼虫は越冬するという習性を持っているため、10月頃に松の木の幹に菰や新聞を巻き付けて、越冬した幼虫をここに集めて早春に焼いて退治するという防除方法があります。
モンシロドクガ
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モンシロドクガはリンゴなどの病害虫としてよく知られている、ドクガ科に属する蛾の一種です。
モンシロドクガの成虫には、体や脚に真っ白な毛がふさふさと生えています。
幼虫は黒地にオレンジの帯と白い紋がある姿をしていて、毒針毛を持っています。
毒針毛に刺さると痛みや痒みが出て、皮膚炎を起こしてしまうこともあります。
モンシロドクガの卵塊や繭、成虫にも毒針毛が付着しています。
サクラ・バラ・ウメ・リンゴ・ナシ・クワ・クヌギ・コナラなど、色々な木の葉を食べて育つので、公園や雑木林、桑畑など、多くの場所で見られるので、刺されないように注意が必要です。
毒針毛が飛んでくることもあるので、家の近くでモンシロドクガの幼虫が大量発生している場合には、洗濯物を外に干さないようにしましょう。
ジャコウアゲハ
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ジャコウアゲハはチョウ目アゲハチョウ科のチョウで、オスの成虫の腹端からジャコウ(ムスク)のような匂いがすることからジャコウアゲハという名前がついています。
ジャコウアゲハの幼虫が餌とするウマノスズクサ類は、アリストロキア酸という毒性のある成分が含まれています。
この毒は成虫になっても体内に残るため、鳥などの捕食者がジャコウアゲハを食べると、中毒を起こしてほとんど吐き出します。
成熟した幼虫は、ライバルが育つのを妨害するためなのか、食草の茎を噛み切ってしまうという習性を持っています。
江戸時代に刊行された書物「絵本百物語」には、於菊虫(おきくむし)という名前の虫が出てきます。
これはジャコウアゲハのサナギに付けられた別名で、サナギの形が後ろ手に縛られた和服の女性に似ていることから、番町皿屋敷のお菊の容姿に見立てられたものとされています。
チャドクガ
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日本で代表的な毒蛾と言えば、チャドクガが挙げられます。
チャドクガの幼虫は淡黄褐色をしていて、ツバキ・サザンカ・チャノキといったツバキ科の植物の葉を食べて育ちます。
チャドクガの2齢幼虫以降の幼虫には0.1~0.2mmほどの毒針毛があって、ヒスタミンなどの毒を有しているのです。
毒針毛の表面には細かなトゲが生えているので、皮膚に付いてしまうと抜けづらいようになっています。
直接幼虫に触れなくても、風に乗って飛散した毒針毛によって被害を受けるケースもあるので注意が必要です。
チャドクガの毒針毛に触れると2~3時間して赤く腫れ上がってきます。
皮膚に付着した後でこすると、毛が皮膚に刺さって毒が皮膚内に注入されるので強い痒みを感じます。
それを掻きむしることで炎症が広がってしまうのです。
ツマベニチョウ
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サイズが大きくて模様が綺麗なので、コレクターの間でも人気のある蝶のツマベニチョウは、「幸せを呼ぶチョウ」というあだ名も付いています。
そんなツマベニチョウには毒があることが、2012年にわかりました。
毒は、ツマベニチョウの幼虫の体液や成虫の翅から見つかったのですが、その毒はイモガイと同じ成分のコノトキシンという神経毒であり、生物の毒としては最強レベルの強いものだと言います。
この強い毒は、ツマベニチョウを捕食しようとするトカゲ・カエル・アリや鳥などから身を守るのに役立っていると考えられます。
ツマベニチョウの成虫の場合、コノトキシンは翅そのものの成分に含まれているため、翅を食べない限り、翅に触ったくらいで毒に冒されることはありません。
ドルーリーオオアゲハ
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アフリカのシエラレオネからウガンダにかけて生息しているのが、ドルーリーオオアゲハというチョウです。
翅を開いたサイズが24cmにもなり、アフリカ最大のチョウであり、チョウ類全般でも最大級の種類であるチョウです。
このドルーリーオオアゲハの特徴は、オスが数多く発見されるのに対して、メスが滅多に人前に姿を表わさないことにあります。
そのため、生活史については不明な点も多く、体内に持つ毒成分は幼虫時の食草に由来していると推測されていますが、一体何の植物を食べているのかはまだ分かっていません。
そんなドルーリーオオアゲハの持つ毒はたいへん強いもので、オス1匹分の有毒成分で、猫6匹が殺せるほどの強さだと言います。
ニシキオオツバメガ
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ニシキオオツバメガは蛾には見えないほど美しい翅を持っていて、「世界でもっとも美しい蛾」と呼ばれる蛾です。
南アメリカやマダガスカルに生息していて、コレクターにもたいへん人気があります。
翅の持つ鮮やかな色彩は、リボン状になっている鱗粉に彫られている細かな溝に光が当たって屈折することによって見えている色です。
見た目がチョウのようなニシキオオツバメガですが、普通の蛾は夜行性なのに対して、ニシキオオツバメガは普通のチョウのように昼間に活動するという特徴もあります。
このニシキオオツバメガは、幼虫の時に有毒の植物を食べて育つために、成虫になっても体内に毒を保有している毒蛾です。
ニシキオオツバメガのコレクターもこのことをよく知っているため、素手で捕獲しようとする人はいません。
ヒューイットソンミイロタテハ
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青や黄色、赤やオレンジなど、非常に鮮やかで美しい色をした翅を持つチョウが、鱗翅目タテハチョウ科ミイロタテハ属のチョウです。
翅がたいへん綺麗なことや、採集される個体数がとても少ないことなどから、世界中で人気のあるチョウです。
ミイロタテハ属のチョウは6、7種とされ、種数が少ないという特徴があります。
そのミイロタテハの仲間であるヒューイットソンミイロタテハの幼虫は、麻薬としてよく知られているコカの葉を餌として成長します。
そのため、ヒューイットソンミイロタテハの体内には毒があるのです。
ヒューイットソンミイロタテハは全長75mmほどの中型のチョウで、南米ブラジルのアマゾン川上流に生息しています。
モルフォチョウ
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モルフォチョウは、「森の宝石」と呼ばれるほど美しい蝶で、主に中南米に生息しています。
翅の色は光沢のあるブルーで、モルフォチョウの「モルフォ」は、ギリシャ語で「美しい」という意味です。
非常に美しいためファンの多いモルフォチョウですが、毒蝶としてもよく知られています。
モルフォチョウの幼虫が食べるマメ科の植物には毒が含まれているため、毒が体内に取り込まれます。
とはいえ、モルフォチョウに触れる分には全く問題はありません。
モルフォチョウの鮮やかな青色ですが、実は翅そのものは特定の色をもっていません。
鱗粉の構造が、青色の波長だけを反射しているため青く見えるのです。
この発色の仕方は、レクサスの特別仕様車のボディカラーにも応用されています。
まとめ
有毒のチョウやガには、たいへん美しく魅力的なものが多くいます。
まさに「美しいものには毒がある」ということでしょうが、大半の種類は、鳥などの捕食者がチョウを食べると毒となるようなもので、人が触っても特に問題が無いものばかりです。