世の中には、常習性の高いものが数多くあります。
アルコールやタバコなどは日本でも年齢制限こそあれ認められており、国によってはマリファナ(大麻)を合法化しているところもあります。
嗜好品と人間の歴史は長く、依存症などの害はあれ、一概に有害だからといってすべてを切って捨てることはできません。
しかし一方で、身体への害などが大きすぎるために決して公認することができない危険なドラッグも存在しています。
今回は世界で最も危険なドラッグについて紹介します。
ヘロイン
引用元:https://wedge.ismedia.jp/
ヘロインはケシの実から採取されるモルヒネという薬品から精製される薬品です。
ヘロインという名称は、ヘロインが鎮痛剤として利用されていた時代にドイツの医薬品メーカーであるバイエルがつけた商品名で、正式な名前はジアモルヒネと言います。
日本ではモルヒネは薬機法などに基づく医薬品であると同時に麻薬としても扱われる一方、ヘロインは完全に麻薬として所持が違法となっています。
現在はパキスタンやコロンビア、メキシコ、東南アジアなどで原料となるケシが栽培され、世界各国で流通しており、アメリカでは毎年1万人以上がヘロイン中毒が原因で命を落としています。
ヘロインは専門家が身体的依存、精神的依存、快感の3項目ですべて最高評価を下した極めて依存性の高い薬物です。
摂取すると強烈な多幸感がやってくる反面、血圧や心拍数の上昇、血管の損傷、過敏症や妄想、幻覚などの副作用を起こすほか、「コールド・ターキー」と言われる激痛や体温調節機能の異常を伴う離脱症状に見舞われます。
これらの特徴からヘロインは世界で最も危険な薬物、薬物の女王などと呼ばれることもあります。
多くの国でヘロインはその中毒性から麻薬として使用を固く禁じられていますが、スイスでは薬物中毒者などの治療を目的にヘロインを利用する「ヘロイン計画」が行われており、合法で薬物注射を行う「注射室」などが設けられています。
コカイン
引用元:https://www.swissinfo.ch/jpn/
コカインはコカの木から精製される薬物で、麻薬であると共に局所麻酔薬や精神刺激薬として医療分野で用いられています。
日本では、電気グルーヴのピエール瀧が所持していたことでも話題となりました。
一方で精神的な依存性が極めて強く、コカイン中毒者は心疾患や脳卒中などのリスクが高まるほか被害妄想や身体中に虫が這いまわる幻覚などを見たりします。
この虫の這いまわるような幻覚は「コーク・バグ」などと言われるコカイン独特のものです。
現在出回るコカインは中南米などで栽培されるコカの木から抽出されています。
本来のコカインはコカの木から少量精製される白い粉末状のものですが、粉末状では精製量も少なく、精製も困難であり価格も非常に高くなってしまいました。
そこで1980年代ごろから重曹を用いてコカインを岩のようにした「クラック(クラックコカイン)」と言われるものが登場しました。
クラックはアメリカで人気の高いドラッグで、一時その使用者は1000万人もいたと考えられていました。
ちなみに日本で「コカ」と言えば、コカコーラが有名です。
コカコーラにまつわる都市伝説は多く、総称して「コークロア」と言われますが、このコークロアのひとつに「コカコーラの社名の由来は初期のレシピにコカインを含むコカの葉を用いていたからだ」というものがあります。
しかし日本コカコーラ株式会社はこのコークロアを正式に否定しており、社名の由来は「単にゴロがいいためだ」としています。
スコポラミン
引用元:https://ameblo.jp/
スコポラミンは中央アメリカのナス科の植物から精製される薬物の一種で、日本では化合物である「ブチルスコポラミン臭化物」が鎮痙剤や消化管のX線や胃カメラ検査前の処置用の薬品としてよく利用されます。
しかしブチルスコポラミン臭化物も過剰摂取するとせん妄などの症状を引き起こすことがあり、スコポラミンも恐ろしいドラッグのひとつです。
スコポラミンは歴史の長いドラッグで、中世の時代やコロンブス上陸前のアメリカなどでも記述があります。
スコポラミンは中枢神経に作用し、特定の神経伝達物質を遮断することで人間の正常な判断力を奪ってしまいます。
その結果、服用した人間は機械のようにただ人の言うことを聞くだけの状態となってしまい、犯罪組織によって強盗や殺人、臓器売買などに使われることがあります。
またデートレイプドラッグとして利用されることもあるようです。
この恐ろしい効用からスコポラミンは「ゾンビドラッグ」、「ロボットドラッグ」、中央アメリカの現地語で「悪魔の吐息」を意味する「ブルンダンガ」などとも言われます。
アメリカ中央情報局(CIA)は冷戦時代に自白剤としてスコポラミンを利用していたことを報告しています。
メタンフェタミン
引用元:https://mountainside.com/
メタンフェタミンは、とても多くの名前で呼ばれるドラッグです。
外見が水晶に似ていることから「クリスタルメス」、ほかにも「アイス」、「メス」、「スピード」、「チョーク」などの呼称があります。
日本では広く覚醒剤の一種として扱われるほか「シャブ」などと言われることもあります。
研究用途の販売名として「ヒロポン」という名前もあります。
メタンフェタミンは脳の中枢神経に作用し、一時的に活力を与え、興奮状態にする効用があることからうつ病や精神病などの治療に限定的に用いられることがあります。
また太平洋戦争期の日本ではまだメタンフェタミンの副作用や依存性についての理解が充分でなかったことから、疲労の回復作用や生産性向上を目的にメタンフェタミンが大量生産され、兵士に支給されました。
戦後には戦時中のメタンフェタミンの在庫が闇市に一気に流れ、安価で購入できる薬物として社会に深刻な薬物汚染を引き起こしたことから、1951年に覚せい剤取締法が制定されています。
メタンフェタミンの副作用は興奮作用や不眠、食欲の不振、不安感、動悸、多汗などさまざまです。
長期的に常習していると幻覚や妄想、フラッシュバックなどの症状をもたらす覚醒剤精神病にむしばまれ、脳や心臓、肝臓、腎臓などを傷つけるおそれがあります。
また海外ドラマである『ブレイキング・バッド』では主人公がメタンフェタミンをモデルにした「ブルー・メス」というドラッグを大量に精製し、社会に流します。
作中のブルー・メスの副作用や常習者を襲う症状は非常にリアリティがあります。
メタンフェタミンに限らず、薬物中毒の実態を知るには非常に参考になるでしょう。
ケタミン
引用元:https://drugfree.org/
ケタミンは麻酔薬として広く利用される薬品です。
日本では「ケタラール」という製品名で知られており、筋肉注射ができることから人間だけでなく動物用の麻酔薬としても利用されています。
海外ではうつ病の治療や喘息の発作を抑えるなどの用途で利用されることもあるようです。
他のドラッグと異なり、ケタミンは広く利用されているために比較的規制が緩く、ドラッグとしての乱用が広まりました。
ケタミンを使用すると「スペシャルK」と言われる浮遊感や陶酔感、乖離症状、幻覚作用がもたらされることから、一時期はトランス系の音楽を流すミュージッククラブで流行したことがあります。
また「Kホール」と言われる強い鎮静作用を利用し、デートレイプドラッグとして利用されることもあります。
シンナー
引用元:https://www.kkmamoru-nyshop.com/
シンナーはラッカーや塗料、ニスなどを薄める有機溶剤のひとつです。
有機溶剤は有毒で、揮発したものを吸入することでアルコールと同じように中枢神経に作用し、酩酊状態にします。
一度に多量に吸入すると頭痛や吐き気、悪心などの症状を引き落とし、重度の場合だと呼吸困難などで死に至るケースがあります。
また常習性もあり、長期の吸入を続けると幻覚や妄想、意識障害などを引き起こし、脳を萎縮させてしまうこともあります。
縮んでしまった脳はもう戻ることはありません。
日本では1960年代ごろから「シンナー遊び」と称してシンナーの乱用が社会問題となり、袋詰めにして吸入しやすくしたシンナーが「アンパン」、「チャンソリ」などという名前で密売されるようになりました。
現在では乱用の防止や安全性の確保を目的に法整備が進んでおり、有機溶剤を使う現場は換気やガスマスクの利用を徹底すること、必ず有機溶剤の扱いに長けた有機溶剤作業主任者の資格を持った人間を置くこと、作業員は毎年特殊な健康診断を受けることなどが義務付けられています。
ほかにも有機溶剤は販売が一部規制され、正規の用途以外での販売が禁止されています。
ウーンガ
引用元:https://vryheidherald.co.za/
アフリカでは衛生状態の問題から多くの感染症が問題となっており、治療薬が広く出回っています。
しかしこの治療薬を用いたウーンガ、ウォーンガ、ニャオペと言われるドラッグが南アフリカでは問題となっています。
ウーンガはアフリカに出回るドラッグであり、その製法は長く謎に満ちていました。
一説にはヘロインやコカイン、LSDなどあらゆる違法薬物が混ぜられたものであり、他の薬物とは比べものにならないほどの多幸感をもたらしてくれると言われました。
またHIVの治療薬が混ぜられたドラッグであるという説もありました。
ウーンガは2010年代に初めて登場したドラッグで、絶えずその製法が変化しており、その実態はつかみにくいものです。
近年の調査により、ウーンガはヘロインにストリキニーネ、HIV治療薬を混ぜたものであることが判明しました。
先に紹介したようにヘロインは麻酔薬としても利用されるほど強力な鎮静作用がありますが、ストリキニーネは殺鼠剤に用いられるほど強力な毒性があり、万が一体内に入れば激痛が走ります。
一見相反するようにも思えますが、ストリキニーネを服用することで発生する激痛をヘロインによって鎮静化するようになっています。
そしてヘロインの持続時間よりもストリキニーネの持続時間のほうが長いため、ウーンガの利用者は苦痛から逃れるためにウーンガを繰り返し服用してしまうという寸法です。
ほかにもHIVが問題となっている地域では、HIV治療薬は大きな力を持つと信じられています。
ドラッグであってもHIV治療薬を混ぜることで大きな信用を得ることができるのです。
バスソルト
引用元:https://www.rightstep.com/
バスソルトといっても、入浴剤として用いるバスソルトのことではありません。
ドラッグでバスソルトというと、元来は東アフリカやアラビア半島南部に自生するチャットという植物から精製されるカチノンという物質のことでした。
カチノンは1920年代から精製されはじめ、21世紀には化学物質の合成によって類似した薬物であるMDPVやメフェドロンなどを作ることが可能となり、2010年代には欧米諸国で流行し始めました。
バスソルトはMDPVをはじめに複数のドラッグを混ぜたもので、その症状も様々です。
MDPV自体は幻覚剤として知られるMDMAと似ており、脳の中枢神経を刺激し、興奮や幻覚、頭痛、動悸、吐き気などの症状があります。
またバスソルトは「ゾンビドラッグ」とも言われ、利用すると強い侵略性や暴力傾向、人に噛みつきたいという強い欲求を人に与えると言われています。
2012年5月26日、アメリカ合衆国フロリダ州マイアミのマッカーサー・コーズウェイで全裸の男性が被害者の顔に噛みつき、警察官に射殺される事件が発生しました。
加害者の男性は数発発砲されても噛みつくのをやめず、被害者は左目や鼻、顔の皮膚の大部分を失う重傷を負いました。
この事件はその異常性から「マイアミゾンビ事件」、「コーズウェイの食人鬼」などと言われ、事件当初は加害者男性がバスソルトを利用していると報道されました。
しかし加害者男性からはマリファナの反応しか検出されず、バスソルトを利用していた痕跡はありませんでした。
バスソルトは多くの名称を持っており、日本では「ハーブ」、「スパイス」という名称で流通するケースが多いようです。
欧米諸国とは異なり、日本は法整備を進めることで本格的な流入は食い止めていますが、今後ますます流通量が増える可能性もあるでしょう。
クロコダイル
クロコダイルはあのタイム誌が「世界最悪の麻薬」と称したドラッグです。
正式名称は「デゾモルヒネ」と言い、1932年にスイスの製薬企業であるロシュ社が開発した鎮痛剤の一種です。
デゾモルヒネはモルヒネよりも強い鎮静作用があり、世界各国で規制されています。
しかしロシアでは市販の咳止め薬などに含まれるコデインと言われるものをベースにした、粗悪なデゾモルヒネであるクロコダイルが大流行しています。
2012年には、新たに麻薬の常習者となった人の90%以上がクロコダイルの中毒者だという統計が出ています。
クロコダイルの恐ろしい点は、入手の難易度が極めて低い点にあります。
通常、ドラッグは裏社会やダークウェブなどを介して、決して安くない費用を費やして購入するケースが多いです。
ドラッグはマフィアなどの収入源となることが多いためです。
ですがクロコダイルはそうではありません。
ロシアのインターネットには、クロコダイルの「レシピ」が流通しており、ロシアの若者はレシピを用いてクロコダイルを自作します。
そしてクロコダイルの材料はコデインをベースにガソリンや塗料の溶剤、アルコールなど、規制のされていないごく当たり前のものばかりであるため、簡単に、かつ安価で作ることができてしまうのです。
クロコダイルは粗悪なデゾモルヒネであり、モルヒネと似た高揚感などの作用を使用者にもたらします。
一方クロコダイルには強い腐食性があり、血管などを傷つけ、皮膚の壊疽を引き起こしてしまいます。
この腐食した皮膚が黒や緑がかった色に変色し、ワニの表皮のように見えることからクロコダイルという名前がつけられました。
クロコダイルの常習者は注射部位を中心に皮膚が激しい壊疽を起こして骨が露出し、平均寿命もわずか2、3年ほどになってしまうと言われています。
そのため「人食い薬物」、「生身を食い尽くす薬物」などという異名がつけられています。
モルヒネの常用者の平均寿命が約5年だと言われていることからも、その恐ろしさは分かります。
またクロコダイルの副作用はデゾモルヒネの持つものに限らず、混合物に含まれた有毒な物質や重金属、劣悪な環境で作成したことで混入した有害物質によるものもあるそうです。
ロシアでは2000年代にクロコダイルが上陸したほか、2010年代にはドイツなどでも確認されていると言われています。
フラッカ
フラッカはα―PVPと言う薬物の別名で、グラベルとも言われます。
「ゾンビドラッグ」と言われる合成麻薬のひとつで、利用者は激しい幻覚や幻聴、妄想、攻撃性、発熱が2週間ほども続き、ひどい場合には他人を攻撃してしまったり、常軌を逸した行動に出てしまうこともあります。
フラッカは中国から麻薬ブローカーを経てアメリカやヨーロッパ諸国に入ってきました。
1㎏1500ドル(約16万円ほど)ほどで、1度の服用分はわずか5ドル(約530円ほど)と極めて安価です。
そのため低所得者層を中心にフラッカによる汚染が進んでいます。
アメリカ合衆国フロリダ州のブロワード郡は、フラッカ汚染が特に激しい地域です。
ブロワード郡の報告書によると、複数の中国企業がインターネット上で広告を展開し、自宅へフラッカを届けると広言しているそうです。
まとめ
今回は世界一危険なドラッグを紹介しました。
ドラッグは常習性も高いうえ、心身をむしばみ、二度とまともな生活を送れなくしてしまいます。
一時の快楽に身を任せ、安易な決断をしてしまうと、多くの人を悲しませてしまいかねません。
万が一甘い誘いがあっても、絶対にドラッグに手を出さないようにしましょう。