約6600万年前、突然の隕石落下によって恐竜たちが絶滅し、生き残った動物たちは支配者が消えた新しい世界で、様々な形に進化しながら、地球全土にその生息域を広げていきました。
恐竜が地上を支配していた頃、小さなネズミのような姿をしていた私たち哺乳類の仲間も生息域に対応する形で巨大化し、馬やサルの祖先など、この時代にたくさんの種が生まれています。
しかしそんな中で、恐竜に代わる新たな強敵が現れていたことをご存知でしょうか?
近年、様々な発見や新たな研究結果などから、恐竜の直系の子孫は鳥類であることが明らかになってきました。
そしてその鳥類の中に、恐竜の中でも特に獲物を狩ることに特化していた獣脚類とよく似た特性を持つ大型の鳥がいました。
「恐鳥」とも呼ばれるそれらの巨大な鳥たちこそが、まさに恐竜が絶滅した直後の時代から、食物連鎖の頂点に君臨し、哺乳類にとって最大の脅威となったのです。
今回はそんな「恐鳥」の中の最大種のひとつ、ディアトリマについてご紹介したいと思います。
ディアトリマとは
引用:https://www.youtube.com/
約6600万年前、隕石衝突による環境破壊という爪跡が少しずつ薄れていった頃から、生き物たちはそれぞれ新たな環境に適応し、様々な進化を遂げていきました。
ディアトリマは、恐竜絶滅後の新生代の始め、古第三紀と言われている中の暁新世(約6600万年前から約5600万年前)から、始新世(約5600万年前から約3390万年前)にかけて生息しており、恐竜直系の子孫である鳥の中でも、特に巨大に進化した肉食の恐鳥です。
主に森林で暮らしていたと考えられており、その強靭な足で獲物を蹴り飛ばして押さえつけ、くちばしでとどめを刺すなどして、馬の祖先であるヒラコテリウムなど、小型の哺乳類たちを捕らえて、食糧としていました。
群れを作らず、単体もしくはつがいで行動していたと考えられています。
ディアトリマの生態
引用:https://www.wired.com/
恐竜絶滅後の世界で食物連鎖の頂点に立っていた巨鳥・ディアトリマ。
体高はおよそ2メートルで体重は200キログラム前後。
現生しているダチョウと同じように、地上を走行する巨大な鳥だったと言われていますが、雑食のダチョウとは違い、ディアトリマは獰猛な肉食動物でした。
鳥と同じように羽毛で覆われていましたが、羽は退化して小さくなり、飛ぶことは出来ませんでした。
ですが、肉食恐竜から受け継いだとも言える、鋭い数本の爪と強靭な筋力を備えた足は頑丈で、現生しているヒクイドリのように、かなりのキック力を持っていたと思われます。
現生しているダチョウで、100平方センチメートルあたり、キック力は4.8トンと言われているので、それ以上の破壊力があったのではないでしょうか。
また筋肉のついた太い脚は、ティラノサウルスを連想させ、走るスピードもかなり速かったのではないかと考えられています。
この当時の哺乳類は、動きもまだ鈍く、それほど素早く走ることは出来なかったため、足の速いディアトリマにとっては恰好の獲物でした。
またディアトリマは頭部が大きく、頑丈なくちばしを持っており、その鋭いくちばしと強靭な足の爪を武器に哺乳類を捕獲していました。
ディアトリマの頭部が巨大なのは、くちばしを使って噛むための発達した筋肉が備わっていたためだと推測されています。
歯は退化して失っていたものの、強力な筋肉から生み出される噛む力の破壊力はすさまじいもので、そのくちばしで肉を引きちぎり、哺乳類たちを次々と獲物にしていたと思われます。
ディアトリマの生息域と肉食哺乳類との闘い
引用:http://edennoori.wikia.com/
ディアトリマの生息域は、化石の発見場所などから主に北アメリカとヨーロッパだと推測されていますが、この時代、南アメリカに生息していたとされるフォルスラコス類や、アフリカ大陸にも同じような巨鳥が数多く生息していたと考えられています。
それらの恐鳥類は各大陸においてそれぞれ食物連鎖の頂点に君臨し、哺乳類たちを獲物として繁栄を続けていました。
ですが、唯一巨鳥の化石が見つかっていないアジア大陸において、そこに生息していた哺乳類たちは独自の進化を続けていました。
そしてある時、分断されていたアメリカ大陸とアジア大陸が陸続きとなり、現在のベーリング海峡を渡って、アジア大陸にいた哺乳類たちが次々と北アメリカ大陸に生息域を拡大していきました。
その中には鋭い爪と牙を持つ、肉食哺乳類・ヒアエノドンの仲間も含まれていました。
当時、北アメリカ大陸に進出した頃のヒアエノドンはとても小型で、犬ほどの大きさしかないものもいました。
しかし足の関節部が柔らかく、運動性に優れていたことから、俊敏に動くことを得意としていたのです。
また現生しているライオンなどのように群れで行動していたと言われているため、ディアトリマに対しても数頭でまとまって攻撃を仕掛けていたと考えられています。
体格差では圧倒的優位に立っていたディアトリマですが、動きが鈍いため、俊敏なヒアエノドンに群れで襲われると対抗することが出来ませんでした。
また獲物としていた草食哺乳類を奪われたことや、胎生である哺乳類と違い、ディアトリマは卵を産み落として子孫を増やすため、その卵やヒナをヒアエノドンに食料のひとつとして狙われたことなどから、ディアトリマは徐々に生息域を奪われ数を減らし、ついには絶滅へと追いやられたと言われています。
他の大陸に生息していた恐鳥類も、進化した肉食哺乳類によって同じような時期に絶滅させられたのではないかと考えられています。
ディアトリマの天敵
最強の捕食者として地上に君臨していたディアトリマですが、肉食哺乳類が出現するまでにも、天敵とも言える生物が存在していました。
恐竜が滅びた隕石衝突さえも生き延びて、水辺に君臨し続けた爬虫類・ワニです。
水を飲むために水辺に近付いた際、ワニに襲われ、そのまま捕食されることがあったと考えられています。
水中から飛び出す猛烈なスピードと、獲物に噛みつき水中に引きずり込む強力なあごの力の前には、ディアトリマも為す術が無かったと言われています。
ディアトリマは草食?
引用:https://nwgeology.wordpress.com/
獰猛な肉食動物であったと言われている反面、研究者の中にはディアトリマは草食だったという可能性を唱える人もいます。
鋭いくちばしと強靭なあごの筋肉は、硬い植物の実や種子の殻を割るために進化したもので、肉食ではないというのが、草食動物であると語る研究者たちの持論です。
他にも骨の中の成分の分析などから、肉食動物ではなく、草食の恐竜や動物と類似した特徴がディアトリマにはあるという研究結果なども出ていると言われています。
また走る速度も巨体ゆえに、スピードはそれほど出せなかったのではという説もあります。
しかし、ほぼ同じ体格をしているダチョウが時速50キロメートル以上で走れることを踏まえると、ディアトリマの体重が重い分、多少速度は落ちたとしても、ある程度のスピードで走ることは可能だったと思われます。
また、現生している飛べない大型の鳥・ダチョウやヒクイドリ、絶滅した最大の巨鳥・ジャイアントモアなど、これらは全て植物食または、雑食とされていますが、それらと比較してもディアトリマの頭部は極端に大きく頑丈な作りをしているため、やはりくちばしを武器に獲物を狩っていたと考える肉食説が有力だと考えられています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
どんなに強く巨大な動物でも、小さなものたちが集団となれば絶滅に追いやられてしまうのですね。
ディアトリマも集団で行動していれば、もっと長く繁栄を続けていたのでしょうか。
でも、もしディアトリマが現代に生きていたとしても、森の中でいきなり体長2メートルを超える肉食の鳥に出会うのは、ちょっと遠慮したいところですよね。
体重が重かった分、ダチョウほど早くはないかも知れませんが、走って逃げてもすぐに追いつかれてしまいそうな気がします。
ただディアトリマは飛べないので、木に登ることが出来れば助かるかも知れません。
もしかしたら哺乳類の中でも、木に登れるサルの祖先たちは、危険な森の中でそうやって、ディアトリマからの攻撃をかわして、暮らしていたのではないでしょうか。