日本人は長く働き者だと言われてきました。
しかし近年では「ブラック企業」や「ワークライフバランス」などの言葉が注目され、労働に関する法律も変わってきています。
やはり同じ収入ならなるべく労働時間を短くしたいのが本音に違いありません。
今回はOECDの提供するデータから平均年間労働時間の短い、「世界一働かない国」とその労働制度を紹介します。
10位 フランス(1520時間)
引用元:https://www.travel.co.jp/
日本では1週間の労働時間は40時間(週5日×8時間)に定められています。
しかしフランスでは日本よりも5時間も短い、35時間に設定されています。
フランスの労働時間は段階的に短縮されており、1936年に40時間、1982年に39時間、2002年に35時間になりました。
加えてフランスでは年間に5週間有給休暇が設けられ、すべての労働者が完全に消化しなければなりません。
このように紹介すると夢のようですが、フランスの労働制度にも落とし穴が存在します。
フランスの労働者は高い学歴を持ち、管理職や管理職候補、弁護士や医師などの専門職などの「管理職(キャドゥリ)」と、それ以外の「スタッフ職(ノンキャドゥリ)」に分けることができるのですが、管理職にはなんと35時間労働制が適応されません。
管理職は35時間以上働くことができ、給料も成果主義が適応されるため残業代が発生しません。
そのため管理職は往々にして長時間労働を余儀なくされるうえ、せっかくのバカンスの間にも仕事をすることがあるそうです。
またフランスの35時間労働制は雇用の確保と、余暇を増やすことでの健康状態の改善を目的に導入されたのですが、充分に果されているとは言えないのが実情です。
労働時間を短縮したため、短縮した分の損害の補填を目的に短時間労働者や給与の安い移民の雇用が増え、肝心のフランス人正社員の雇用は増えなかったと言われています。
更に、労働時間を縮めただけでは健康状態も改善しなかったそうです。
9位 オーストリア(1511時間)
引用元:https://www.ab-road.net/
オーストリアでは、日本と同じく週に40時間労働と定められています。
ただオーストリアでは1日の労働時間と時間外労働が10時間を超えると企業が政府に罰金を支払わなくてはならない制度があり、労働者が働き過ぎることを防いでいます。
残業自体は頻繁に行われているようですが、10時間以上働かせるような「ブラック企業」は少ないようです。
有給休暇も日本では平均18.5日付与されるのに対し、オーストリアでは25日付与され、消化率も100%近いです。
8位 ルクセンブルク(1506時間)
引用元:https://s.skygate.co.jp/
ルクセンブルクはヨーロッパの中でも経済的に恵まれた国で、20年以上連続で国民1人当たりのGDP(国内総生産)が世界一に輝いています。
更に首都のルクセンブルクは平均月収が世界一高く、労働時間も少ないため、非常に労働生産性が高くなっています。
国土面積が神奈川県と同程度しかないにも関わらず、ルクセンブルクがこれほどの経済大国となった背景には産業の転換と、地理的な要素に伴う多様性にあります。
20世紀初頭、ルクセンブルクはベルギーから外資が注入され、農業国から鉄鋼業などを中心とする工業国へ転換しました。
後に欧州連合(EU)の中心となる欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の母体となる国際カルテルの一員として経済を発展させましたが、1970年代に発生したオイルショックにより、主要産業を工業から金融サービス業へ転換させます。
現在ではEU圏を対象とする金融サービスがGDPのおよそ9割を占めるほか、現在では仮想通貨や投資サービスなどのフィンテック事業にも力を入れています。
またルクセンブルクは南をフランス、西と北をベルギー、東をドイツに囲まれた内陸国家です。
そのためルクセンブルク語のほかフランス語、ドイツ語が公用語に設定され、英語学習も盛んに行われており、国民は平均して3.6か国語を操ります。
このような多言語国家であるために周辺国を始め、世界中から人材が集まり、ルクセンブルクで働いています。
ルクセンブルクでは労働人口の70%以上が外国籍であると言われ、労働環境も洗練されています。
7位 スウェーデン(1474時間)
引用元:https://job.kiracare.jp/note/article/3078/
近年、北欧諸国は国民幸福度の高い高福祉国家として日本でも注目を浴びていますが、スウェーデンは労働の面でもワークライフバランスに配慮しています。
まずスウェーデンでは33日の年次有給休暇が用意され、7月には多くの人が夏季休暇として2週間から4週間休み、北欧の短い夏を謳歌します。
更に1日の就業時間の間には、伝統的な「フィーカ」と呼ばれる休憩時間を午前10時と午後3時の2回設けています。
フィーカの間は珈琲とお菓子を楽しみ、仕事のメールの返信ですら遅くなると言われています。
スウェーデンではワークライフバランスを重んじた就業制度が数多く導入されており、育児休業はもちろんのこと、一部の企業では健康づくりのために週3時間ジムに通うことで、1週間の特別休暇をもらえるという一風変わった制度が導入されています。
スウェーデン人労働者はおよそ70%が労働組合に加入しており、企業との対話を積極的に行うことでフレキシブルな労働を実現させているのです。
また2017年、スウェーデン政府は更なるワークライフバランスの追求を目的に、スウェーデン第2の都市であるヨーテボリの老人ホームで試験的に6時間労働を導入しました。
労働時間が2時間減ることで職員の健康状態は上向き、入居者へのケアも改善されるなどの効果が表れた反面、6時間労働でホームを運営するべく追加で職員を雇用する必要があるなど、企業への負担が大きくなるという問題が明らかになりました。
現状ではスウェーデン全土で6時間労働を導入する予定はありませんが、今後働き方の進歩が進めば6時間労働が解禁されることもあるかもしれません。
6位 アイスランド(1469時間)
引用元:https://vacationpack.his-usa.com/
世界経済フォーラムは毎年、男女格差を測るための指標である「ジェンダーギャップ指数」を発表しています。
これは0が完全不平等、1が完全平等を表すもので、最新の「ジェンダーギャップ指数2018」では日本は0.662で、調査対象149ヵ国中110位でした。
このジェンダーギャップ指数において現在8年連続世界一に輝いている、世界一男女格差の少ない国が北欧の島国、アイスランドです。
アイスランドでは国会の議席の半分近くを女性が占め、2009年から2013年まではヨハンナ・シグルザルドッティルという人が、初の女性首相を務めました。
アイスランドでの男女格差は政治だけでなく労働の面でも是正が進められており、産休・育休はもちろん、仕事への復帰もスムーズにできるほか2017年には性別による賃金格差の発生を禁止する法律を施行しています。
25人以上の従業員のいる団体は男女で同一賃金を支払っている証明書を政府に提出する義務を負い、できない場合は罰金が課せられます。
ほかにもアイスランドでは、日本でいう「正社員」の枠組みが存在しません。
給与と各種の福利厚生がつき、1日に8時間働く人はもちろん存在しますが、コアタイム以外は休憩も仕事も自由という場合が少なくありません。
フルタイムで働けない人でも、1日8時間をベースに月給が計算されるなど収入体系に違いがないのも日本とは異なります。
例えば育児などで1日4時間しか働けない人は、各種の福利厚生を受け取ったうえで、1日8時間働く人の半分の給料を受け取ります。
このようにアイスランドの労働環境は一見すると極楽のように思えますが、実力主義がシビアに見られるため、成果を出せない場合は警告の末、クビになってしまうこともあります。
5位 スイス(1459時間)
引用元:https://smlycdn.akamaized.net/
スイスの労働制度はヨーロッパで最も先進的だと言われています。
経営者と労使の関係も良好で、ヨーロッパで最もストライキが少ないです。
スイス全域での1週間の労働時間は平均41時間ほどですが、連邦法で業種によって週に45時間か50時間に設定されているので、超過労働に悩まされている人はいません。
またスイスでは35年以上も前に連邦憲法に男女での同一賃金が規定され、現在では従業員50人以上の企業は定期的に給与を分析し、男女間で差がないか、第三者機関によって審査されます。
一方でスイスの労働者の27%が職場で深刻なストレスを抱えているという調査結果も報告されており、メンタルヘルスが課題として挙げられています。
4位 オランダ(1443時間)
引用元:https://taptrip.jp/
オランダもまた、独自の法律によって労働時間を短く抑えることができている国です。
オランダでは1週間の労働時間は60時間を上限に設定されています。
1日(週5日)に換算すると、残業なども含めて12時間労働であり、他の国と比べればあまり厳しく設定されているとは言えません。
その代わりオランダではデジタル機器を利用したテレワークが普及しており、オフィスに拘束されない働き方をすることができます。
更にオランダの法律では産前産後の休暇や育児休暇のほか、短期介護休暇、変わったところでは父親休暇(配偶者の産後すぐにその生活をサポートするために父親の取る休暇)や養子休暇(養子を受け入れる準備や、やってきた子どもが家庭になじむまでに必要な期間を確保するための休暇)など多くの種類の休暇が制度として整備されています。
多くの場合、企業は労働者の申請を拒否することができません。
またオランダではパートタイムもひとつの働き方として認められており、パートタイム労働者と正社員の間の賃金格差が小さくなっています。
社会保障でも正社員とパートタイム労働者の間に差がありません。
3位 ノルウェー(1416時間)
引用元:https://www.peak-experience-europe.com/
ノルウェーと言えば、北欧の国の中でも特に国民の幸福度が世界一だということで有名かもしれません。
実は労働生産性も世界で2位と言う高水準です。
そんなノルウェーの1週間の労働時間などは、実は日本の労働基準法と大きく変わりません。
ただ残業時間などは日本よりも短く設定されているうえ、フレックスタイム制やコアタイムの設定されていないフルフレックス制などが普及しているため、ライフスタイルに合わせて労働時間を自由に設定することができます。
日本では労働時間の上限まで働くことが一般的ですが、ノルウェーではライフスタイルに合わせて労働時間を余すように使うこともあります。
2位 デンマーク(1392時間)
引用元:https://www.newsweekjapan.jp/
デンマークも他の北欧の国々と同様に、労働生産性と国民幸福度が高いことで知られています。
デンマークでは日本よりも短い、週37時間労働が義務付けられており、残業もあまりしません。
企業は多くが8時に始業し、16時に終業するほかフレックスタイムによって朝早くから働き、午後早いうちに仕事を終える人もいます。
仕事はさっさと終わらせて、午後は家族サービスなどの時間に当てるという考え方がデンマークでは主流のようです。
労働組合の力も強く、初任給からある程度の高給が保証されているため、日本のように残業代目当てで職場に残る人も少ないです。
デンマークでは最低時給がおよそ2000円と非常に高いにも関わらず、法律が整備されているために世界でシンガポールやニュージーランドに次いで3番目に起業しやすい国だという統計も出ているそうです。
1位 ドイツ(1363時間)
引用元:https://toyokeizai.net/
OECD加盟国の中で最も労働時間の短いドイツでは、労働時間に対して厳しい制約をかけています。
ドイツでは1日8時間の労働時間をベースに、1日で最大10時間、6か月平均1日8時間を超えてはいけないことになっています。
もし超えてしまった場合、経営者には最大で200万円の罰金が、1年以下の禁固刑に処せられます。
1日で10時間まで仕事ができるのに、6か月平均で8時間を超えてはいけないというのは一見して矛盾しているように思えるかもしれませんが、ドイツでは超過した労働時間を貯めることのできる「労働時間貯蓄制度」というものが整備されているためこの矛盾した状態が受け入れられています。
例えばある日に普段の2時間多く、10時間働いた場合、別の日に通常の8時間より2時間少ない、6時間の勤務で帰ることができます。
ドイツではこの労働時間貯蓄制度があるために、残業も積極的に行われています。
ほかにもドイツではほとんどの会社が30日の有給休暇が付与され、消化率も100%近いです。
労働時間は短いですが、ドイツの職場では合理主義と個人主義が徹底されているために、高い労働生産性が確保されています。
一方ドイツでは人材の確保のために1960年代から移民の受け入れを積極的に行ってきました。
ヨーロッパではドイツのほかにもフランスやイギリスなどが移民の受け入れを行ってきましたが、これらの国ではかつて植民地だった地域からの受容を中心としてきたのに対し、ドイツではトルコ系の移民を中心に受け入れてきました。
そのためドイツでは他の国と違い、言語的、文化的に共通のバックグラウンドを持たない人々が定住したことで社会の分断と衝突を招きました。
現在も少子高齢化を背景に2015年に行った100万人規模を筆頭にトルコ系移民の受け入れを行っていることが国内問題として議論され、AfD(Alternative für Deutschland, ドイツのための選択肢)などの右派政党の台頭を許しています。
番外編:世界一働く国 メキシコ(2148時間)
引用元:https://www.travel.co.jp/
日本の労働時間は長いというイメージがあるかもしれませんが、2018年の統計では全38か国中22位の1680時間と決して長いほうではありません。
1980年代に発生した貿易摩擦によって働き過ぎが社会問題となったことを背景に、時短促進法および労働基準法の改正によって労働時間自体は年々短くなっています。
ブラック企業やサービス残業などの悪いイメージが先行していますが、労働環境自体は改善されていると言えるでしょう。
一方、OECD加盟国で最も労働時間が長い国がメキシコです。
その労働時間は2148時間と、日本よりもおよそ500時間も長いというデータが出ています。
1日換算では、1時間から2時間ほど日本より長い計算であり、私たちからしてみれば想像するだけでゾッとするかもしれません。
メキシコでは1週間の労働時間は日本よりも8時間も長い48時間と決められています。
ほかに祝祭日が年に7日しかないうえ、無給の労働時間も他の国より長いと言われています。
ただメキシコでは働く日には朝早くから夜遅くまで仕事をしますが、国民的な関心事であるワールドカップの試合があるときなどはスパッと仕事を切り上げるなど、いい意味でメリハリが効いています。
ほかにもタスクを配分し、どうしても無理なことは無理せず翌日に回す「マニャーニャ」と呼ばれる考え方が浸透しており、時間外労働自体は少なくありませんが納期のために無理をするような事態はあまりありません。
メキシコは国民幸福度も8位と高く、労働時間が長い一方で、プライベートも充実させているようです。
番外編:誰も働かない国 ナウル
引用元:https://www.newsweekjapan.jp/
今回のランキングはOECD加盟国全38か国を対象としているのでランキング外になりますが、ナウルは国民の失業率が90%に達する、「誰も働かない国」です。
ナウルは太平洋南西部にある島国で、1968年の独立以来、化学肥料の材料となるリン鉱石の輸出を主要産業としてきました。
ナウルの国土を占めるナウル島は珊瑚礁にアホウドリの糞が堆積して形成されたのですが、珊瑚礁とアホウドリの糞が反応して大量のリン鉱石の鉱床ができたのです。
ナウルはリン鉱石の輸出で経済的に大きく発展し、長く世界で最も高い生活水準を維持してきました。
税金は徴収されず、教育や医療は無料で提供され、政府が国民全員にベーシックインカム(基礎所得保障)を支給していたため国民のほとんどは労働する必要すらありませんでした。
ナウル島は国土のほとんどが珊瑚礁のため、耕作には不向きでしたが伝統的には漁業が行われてきましたが経済が発展し、レストランが軒を連ねることでいつでも新鮮な魚を食べられるようになったため、いつのまにか漁業の習慣がなくなってしまいました。
しかし20世紀初頭、国土のリン鉱石が枯渇したことで状況は一変します。
経済状況が一挙に悪化し、不動産、マネーロンダリングなどの手で外貨を獲得しようとしましたが失敗してしまいます。
大統領官邸が火災で焼失し、国にあった唯一の国際電話が失われたために、国全体が国際的に消息不明となったこともあります。
このような状況を見かねてオーストラリアへの移住計画が立案されたこともありましたが、頓挫しています。
現在ナウルは日本やオーストラリア、ニュージーランドなどの援助によって経済を成り立たせています。
余談ですが2013年から現在までナウルの大統領を務めるバロン・ディヴァヴェシ・ワカは大統領のかたわら作曲家としても活動しており、加山雄三のファンだそうです。
まとめ
今回はOECD加盟国の中でも世界一労働時間の短い、「世界一働かない国」を紹介しました。
日本でも労働時間は短くなっていますが、世界ではワークライフバランスに考慮した、より合理的な方法を採用している国がいくつもあります。
上を見ていてもキリはありませんが、今後はそういった国のいいところを見習って、生産性の高い働き方を模索できる社会を築く必要があるでしょう。