自分とまったく同じ姿をした人間が目の前にいたら、あなたは何を思うでしょうか。
鏡の前にいるようで気味悪く感じるかもしれません。
今回は実際に体験したら気味が悪い、では済まないドッペルゲンガーという現象について解説します。
ドッペルゲンガーとは?
ドッペルゲンガーとは、自分の姿を自分で見てしまう幻覚、超常現象のひとつです。
「自己像幻視」とも言います。
広義には、同じ人物が複数の場所で確認される現象も含みます。
ドッペルゲンガーは自分に関係のある場所に現れ、自分以外の人とは言葉を交わさずに、突然消えてしまうと言われています。
自分が死ぬ前触れとして現れるとも言われ、ドッペルゲンガーを見た人はみな近いうちに死亡するそうです。
古くから自分の姿を見てしまうという現象は知られており、ドイツでは誰もが妖精の世界に自分のドッペルゲンガーを持っているという伝承もあります。
ドッペルゲンガーという言葉もドイツ語の「Doppel(生き写し、二重)」と「gänger(歩行者、影、影武者)」という言葉を合わせたものから来ています。
日本でも『古事記』においてドッペルゲンガーが確認されています。
大国主命と宗像三女神の一柱であるタギリヒメの間に生まれた阿遅鉏高日子根神(アジスキタカヒコネ)は天若日子(アメノワカヒコ)と瓜二つであったほか、アメノワカヒコの葬儀に訪れた際にアメノワカヒコと勘違いされて、アメノワカヒコの父親である天津国玉神(アマツクニタマ)に抱擁されたというエピソードがあります。
このときアジスキタカヒコネは他の登場人物にもアメノワカヒコ本人だと勘違いされていたうえ、後世でもアジスキタカヒコネはアメノワカヒコと同一の存在であるという解釈が存在しています。
アジスキタカヒコネとアメノワカヒコの関係は、まさしくドッペルゲンガーと言えるものです。
『古事記』は8世紀に成立しました。
遅くとも8世紀までには、日本でもドッペルゲンガーという現象が認知されていたことになります。
同一人物が複数ヶ所で存在を確認される現象としては「バイロケーション(一身二ヶ所存在)」というものもありますが、ドッペルゲンガーとバイロケーションの最も大きな違いは、受動的か能動的かによるものです。
ドッペルゲンガーは自分が望まない存在であり、それ故に不幸の前兆として語られています。
ドッペルゲンガーを目撃した有名な人物
ドッペルゲンガーは、歴史上多くの人物が体験していることでも有名な超常現象です。
実際に証言が残されており、確実に見ていることは間違いないようです。
ドッペルゲンガーが実際に存在する証拠となるような目撃談を紹介していきます。
芥川龍之介
引用元:https://curazy.com/
芥川龍之介と言えば『羅生門』、『地獄変』、『蜘蛛の糸』などで知られる、明治期の文豪です。
そんな芥川の最期は「将来に対する唯ぼんやりとした不安」による、睡眠薬を過剰摂取しての自殺でした。
芥川の晩年は作風も変わって、人の生死を扱ったり、自らの半生を振り返るような作品が増えるほか『或旧友へ送る手記』などで計画的に自殺の準備を進めていたと言われています。
なぜ芥川が自殺を選んだのかは定かではありません。
一説には偏頭痛や閃輝暗点を患っていたとも言われていますが、ドッペルゲンガーが自殺の原因となったとする説もあります。
芥川は晩年の作品である『歯車』で自分のドッペルゲンガーに出会う主人公を描いています。
『歯車』は芥川の経験を元に書かれた作品のため、芥川もドッペルゲンガーを見た可能性が指摘されています。
また芥川はとある座談会で自身のドッペルゲンガーが銀座と帝国劇場に表れたと話しているそうです。
エイブラハム・リンカーン
アメリカの第16代大統領として有名なエイブラハム・リンカーンも自身のドッペルゲンガーを見たことがあるそうです。
リンカーンがドッペルゲンガーを見たのは、初めての選挙を翌日に控えた夜のことです。
ソファに寝転がって休んでいると、鏡越しに自分のドッペルゲンガーを見たそうです。
リンカーンのドッペルゲンガーは鏡の中で青白い顔を浮かべており、リンカーンが立ち上がると消え、座るとまた表れたそうです。
リンカーンはその後何度かドッペルゲンガーを出す実験をしたそうですが、一度も現れなかったと言われています。
ギ・ド・モーパッサン
引用元:https://book.asahi.com/
ギ・ド・モーパッサンは19世紀に活躍したフランス自然主義の小説家です。
代表作は『女の一生』などが挙げられ、後に日本の小説家にも影響を与えています。
モーパッサンは晩年に自分のドッペルゲンガーと交信し、時に執筆中の作品の続きをドッペルゲンガーに語ってもらったこともあるそうです。
短編集の『オルラ』はモーパッサンが自分のゴーストに書かせた、と証言しています。
エリザベス1世
引用元:https://www.rekishiwales.com/
イギリスの王室と言えば、噂話や都市伝説が絶えませんが、テューダー朝最後の女王であるエリザベス1世もまたドッペルゲンガーを見たことがあると伝えられています。
エリザベス1世は自らの側近に対しベッドに横たわる、自分の幽霊のようなもの、つまりドッペルゲンガーを見たと打ち明けています。
エリザベス1世は元来現実的で理知的な性格の持ち主として通っていましたが、年を取って精神状態は不安定になっていたと言われています。
全盛期であれば幽霊を見るなどという冗談を口にする人ではなかったので驚かれたでしょうが、晩年では気の迷いか幻覚で片付けられてしまったかもしれません。
ですがドッペルゲンガーを見たすぐ後にエリザベス1世は亡くなっています。
ドッペルゲンガーは死の前兆だとも伝えられています。
もしかしたらエリザベス1世は本当に自分のドッペルゲンガーを見てしまったのかもしれません。
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
引用元:https://meigen.club/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテと言えばドイツを代表する芸術家です。
『若きウェルテルの悩み』、『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』といった小説を始め、『ファウスト』、『ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン』といった戯曲、『ヘルマンとドロテーア』といった詩集を残す文筆業のほかにも自然科学者や哲学者としての顔も持ち合わせていました。
ドイツではゲーテの晩年に、ゲーテの影響を大きく受けたドイツ・ロマン派の作家が多く表れたほか、グリム兄弟はゲーテの作品から多くの文章を引用する形で現代ドイツ語の辞典『ドイツ語辞典』を完成させています。
現代ドイツ語はマルティン・ルターの翻訳したドイツ語版聖書と『ドイツ語辞典』によって普及したため、ゲーテは間接的に現代ドイツ語の発展に力を貸したことになるでしょう。
そんなゲーテは、ドッペルゲンガーと思われる非常に奇妙な体験をしています。
ゲーテはシュトラースブルク大学時代にフリードリケ・ブリオンという女性と交際していたのですが、破局してしまいます。
破局した日、ゲーテは馬に乗って帰路に着いたのですが、本人いわく「心の目」で自分に向かってくる自分の姿を見たと言うのです。
服装は当時のゲーテと異なりましたが間違いなくゲーテ本人であったと言い、ドッペルゲンガーを見たゲーテは不思議と気持ちが落ち着いたと述べています。
その体験から8年後、ゲーテは同じ道を反対方向に通っているときに、自分が8年前の体験で見たドッペルゲンガーと同じ格好をしていることに気がつきます。
更にゲーテは別のときに、当時交流のあったフリードリヒ・ハインリヒ・ヤコービがゲーテの服を着て通りを歩いているのを目撃しました。
不思議に思ったゲーテが自宅へ帰ると、フリードリヒがゲーテが目撃した格好をして自宅にいました。
フリードリヒは雨に降られたためにゲーテの自宅で雨宿りをしており、自分の服を乾かすためにゲーテの服に着替えていたと言うのです。
エカテリーナ2世
引用元:https://jp.rbth.com/
エカテリーナ2世はロマノフ朝第8代の皇帝で、ロシア帝国の領土をポーランドやウクライナまで広げた功績を評価され、大帝(ヴェリーカヤ)と称されます。
ほかにもロシア帝国の近代化を図った啓蒙専制君主であり、「訓令(ナカース)」と呼ばれる農奴制の緩和などを盛り込んだ政令を発布しています。
残念ながら「訓令」は効果を発揮することはありませんでしたが、エカテリーナ2世が歴史上で評価された女帝なのは間違いありません。
一方エカテリーナ2世は夫であるピョートル3世に対してクーデターを起こし、ピョートル3世の死後に皇帝の座に就きました。
本人はピョートル3世の死に直接関連していないと証言していますが、このような経緯に加えて男性関係も派手であったため「皇位簒奪者」、「王冠を被った娼婦」とも呼ばれ、権力構造は安定せずしばしば反乱を起こされています。
「訓令」が差し止めとなったのも、エカテリーナ2世の方針が急進的だったことに加え、当時のロシア貴族からの支持が集まらなかったためだと言われています。
そんなエカテリーナ2世も、自身のドッペルゲンガーを見たことがあると伝えられています。
ある日エカテリーナ2世が寝室にいると、召使が玉座の間に入るエカテリーナ2世の姿を見たと報告してきました。
エカテリーナ2世が玉座の間へ行くと、そこには幽霊のようなエカテリーナ2世が玉座に腰をかけていました。
すぐに衛兵は幽霊のようなエカテリーナ2世を銃撃したと言われています。
銃撃の結果どうなったかは分かりませんが、その後エカテリーナ2世はすぐに亡くなったそうです。
マリア・デ・ヘスス・デ・アグレダ
引用元:https://www.aciprensa.com/
マリア・デ・ヘスス・デ・アグレダは17世紀のスペインで活躍した尼僧です。
修道院で神に仕える傍ら当時の君主であったフィリップ4世の政治顧問を務めたり、『神秘的な神の都(Mystical city of god)』などの著書も書いています。
この時期、スペインは新大陸へと到達するのですが現地でキリスト教を布教しようとした宣教師はニューメキシコ州のとある先住民族が既にキリスト教を信仰していたことを知ります。
奇妙に思った神父が調べると、なんとマリアがニューメキシコ州で布教活動をしていたことが判明しました。
マリアは自分がスペインの修道院から離れたことはないと主張し、一時は魔女であるという疑いもかけられました。
しかしマリアの証言に矛盾した点はなかったために嫌疑は晴れ、マリアがスペインと新大陸に同時に存在することができたのは神の力であると言われました。
ただ晩年、マリアの証言は変化し、最後には神の力で分身を新大陸へ送ったと言うよう強制されたとも主張しています。
ドッペルゲンガーの正体・原因とは
ドッペルゲンガーは幽体離脱や臨死体験などがもとになって考えられた現象だと言われています。
しかし実際に経験した話がある以上、創作ではなく実際にある現象だと考えるべきです。
ドッペルゲンガーの正体については研究が進められています。
まだ確かなものは見つかっていませんが、いくつか候補となるものはあります。
万が一、自分がドッペルゲンガーに遭遇したらどうすればいいのか、原因が明らかになれば対処もしやすくなるでしょう。
精神疾患説
精神医学の世界では、自我は「能動性」、「単一性」、「同一性」、「自他対立性の意識」の4つの標識によって構成されていると考えられています。
何らかの原因でこの4項目のどれかに異常を来すことを「自我障害」と呼びます。
このうち同一性に異常のある自我障害だと自分が神や霊魂のたぐいに取り憑かれていると思いこむ「憑依体験」や別の自分を自分の外に求める「自己像幻視」、すなわちドッペルゲンガーが症状として表れることがあります。
精神疾患の中でも、統合失調症では自己像幻視の症状が表れることが多いと言われています。
歴史の中でも、ドッペルゲンガーを見た人の中には精神を病んでいたケースは少なくありません。
また文学作品ではしばしば、ドッペルゲンガーは自らの罪の意識の表れ、罪悪感の象徴として描かれています。
脳疾患説
脳の側頭葉と頭頂葉の境界部にある「側頭頭頂接合部」は自他の区別に関する役割を担っています。
ここに腫瘍ができると、体外離脱体験(幽体離脱)や自己像幻視に似た症状が出ることがあると言われています。
芥川龍之介は晩年偏頭痛や偏頭痛の前兆として知られる閃輝暗点などに悩まされていたそうです。
また1996年にはスイス、チューリッヒでドッペルゲンガーに悩まされていた陶芸家の脳から腫瘍が見つかり、手術で腫瘍を取り除いた結果、ドッペルゲンガーが見えなくなったという症例もあります。
「ドッペルゲンガーを見た人間は死ぬ」という話もありますが、脳に腫瘍ができていると考えるとあながち嘘だとも言えないのかもしれません。
パラレルワールド説
精神疾患説と脳疾患説は実際にドッペルゲンガーを見る症状があるという点で、ドッペルゲンガーの正体としては非常に濃厚なものです。
ただこの2つの説では、自分のドッペルゲンガーを他人が見る例などを説明することができません。
そこで考えられたのが、ドッペルゲンガーはパラレルワールドや未来の自分であるという説です。
パラレルワールドは量子力学における多世界解釈や宇宙論などの分野で盛んに語られており、必ずしも荒唐無稽な話ではありません。
何らかの原因で時空間が乱れ、別の世界の自分が、自分のいる世界に表れたものがドッペルゲンガーだと言うのです。
単なるそっくりさん説
身も蓋もない話になってしまいますが、ドッペルゲンガーは単なるそっくりさんを見てしまっただけという考え方もできるでしょう。
2018年にはお笑いコンビサンドイッチマンの伊達みきおさんのドッペルゲンガーの目撃情報が伊達さんの出身地である宮城県で多発しました。
ただその正体は宮城県石巻市で漁師をしている人でした。
2人はとてもよく似ており、遠目では確かに間違えてしまうかもしれないほどです。
このように、とてもよく似た人をドッペルゲンガーと誤認してしまう可能性は否定できません。
また「世界には自分に似ている人が3人いる」という言葉があります。
この言葉自体は3人だったり7人だったりと微妙に表現は異なりますが、世界中に見られます。
実はこの言葉もあながち嘘だとは言えないのです。
人間の顔は遺伝子によって決まりますが、そのパターンには限りがあります。
世界のどこかには、同じ遺伝子のパターンで顔が決められた人もいるかもしれないということです。
アメリカのコーネル大学で遺伝子の多様性を研究するマイケル・シーハン氏はこの事実を「カードのデッキをシャッフルすれば、どこかで同じ手札が再度配られる」と例えています。
もちろんそのパターンは非常に多様で、似たパターンでも表現が微妙に変化することもあると言われていますが、人種は世界中に均等に配分されているわけではありません。
国や地域の地理的な条件によって人種はアジア系やヨーロッパ系などに分かれるため、理論上のパターンより実際のパターンは少なくなる可能性もあります。
現代では髪の毛などから犯人の顔を割り出すことができるほか、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)ではデータベースから発現パターンの似た細胞や組織を検索する「Cell Montage」というソフトを開発しています。
遺伝子レベルで一致したそっくりさんであれば、ドッペルゲンガーと間違えることもあるでしょう。
まとめ
今回はもうひとりの自分と出会ってしまう超常現象であるドッペルゲンガーについて紹介しました。
その正体にはいくつか説があり、未だに原因は判明していませんが、もし見る機会があれば病院に行ったほうがいいのはどうやら間違いないようです。
ドッペルゲンガーを見た人の多くは、近々死亡しています。
もし見てしまったら、何かしらのサインと考えるのが安全なのではないでしょうか。