サン・テグジュベリの童話『星の王子様』に出てくる星を壊す巨木・バオバブの木も奇妙な植物ですが、地球上には他にも目を疑うような奇妙な外見を持っていたり、見た目は普通なのに面妖な生態を持っていたりと、個性的な植物が多数存在しています。
この記事では、世界に生息する不思議な植物の中から、特に奇妙な生態を持つもの12選を紹介していきます。
シメコロシノキ
シメコロシノキはマダガスカル島に生息するクワ科の樹木。
物騒な名前が示す通り、他の樹木に絡みつき、寄生することで自らの居場所を確保する恐ろしい性質を持ちます。
そもそもシメコロシノキの種子は地面に落ちても発芽することができず、まず寄生することができる大樹が必要なのです。
そのため、実を食べた鳥に種子を運ばせ、他の木の枝上で糞をしてもらうこと発芽、そこから寄生相手の木の幹に沿って、“気根”と呼ばれる空気中で伸びる細い根を這わせていきます。
何年もかけて幹を抱き込みながら地面に向かって気根を伸ばしていき、地中に届くと養分を吸い上げながらどんどん気根を太く成長させ、やがて大樹の幹を取り囲んでしまいます。
締め付けられた木は陽も届かなくなり、養分も水分も移動できないことから枯れて死に至ります。
こうしてシメコロシノキは枯れた大樹を軸にして、気根を幹とした独立した一本の樹になるのです。
パラミツ
パラミツはミャンマーに生息するクワ科の樹木。
パラミツの実はジャックフルーツと呼ばれ、大きなものでは30kgもあり、世界一大きな実の生る果樹として知られます。
実の中には長さ2cmとこれまた大きい種子が詰まっており、その周囲の白い部分が食用になるのですが、柔らかく甘みがあって歯切れが良いと言われています。また種子も茹でて食べることができるそう。
リンゴやオレンジといった通常の果実は枝に生りますが、面白いことにジャックフルーツの実は幹に直接生ります。
枝を折ってしまいそうなほど大きな果実ですが、太い幹であれば30kgの重さにも耐えられるため、ここまで実が育つことができるわけです。
オオミヤシ
オオミヤシはインド洋に浮かぶセイシェル諸島に生息するヤシ科の樹木。
世界最大の種子を持つ植物として知られており、その種子の長さは30cm、重さは大きいものではなんと1kg近いものまで確認されています。
オオミヤシはセイシェル諸島の深い谷に生えていますが、そこから流れた実がインドの海岸まで運ばれていくことがあり、かつてインドの人々は海の中に巨大なヤシが生えていて、そこからヤシの実がやってくると信じていたそうです。
これ程までに大きな種子を残すオオミヤシは、大きなものでは20m以上まで成長し、葉の直径も2mに及びます。
木は雄と雌に分かれていて、雌の木に生った実が熟すまでは7年もの時間を要するとされており、熟した実の重さも10kg以上になり、その実を剥くと中から巨大な種子が現れるのですが、この種子が2つに分かれていることから“ダブルココナツ”と呼ばれることもあります。
リュウケツジュ
引用:http://www.escapeartist.com/blog/land-dragons-blood-tree/
リュウケツジュは、カナリアの原産地である大西洋に浮かぶカナリー諸島に生息する、リュウゼツラン科の樹木。
漢字では竜血樹と表記し、幹や枝、根を切ると血のような赤い汁を出すことから、この名前が付きました。
しかし何故、“竜”の血なのでしょう?
古代ローマ時代には既にカナリー諸島の存在は知られており、リュウケツジュの樹液も赤い染料としてヨーロッパに運ばれていました。
そして当時は樹液から取った染料であることを伏せ、カナリー諸島に生息するドラゴンの血を固めたものだと偽って流通していたことから、竜の血と結びつくようになったと言われています。
そのため、かつては秘薬のドラゴンの血として止血剤にも使用されていました。
ヨーロッパ人のみならず、カナリー諸島の原住民がミイラを作る際にも使っていたという記録があるリュウケツジュですが、1018年現在は自主株が減少からレッドリストの絶滅危惧種Ⅱ類の指定を受けています。
この背景には種子を運んでいたとされるカナリー諸島固有種の鳥が絶滅したことが挙げられ、野生状態の他にも127箇所の区域で栽培がされています。
ラフレシア
ラフレシアはインドネシアに生息するラフレシア科の植物で、直径が1mを超えることもある世界最大の花として知られています。
1826年に発見された当初には人を食べるのではないか?と恐れられた程、巨大なラフレシアですが、蕾の時期でキャベツ程度の大きさを持ち、キャベツの葉がこすれ合うようなパキパキという音を立てて花が開くと言われています。
茎も葉も持たず、地面から花だけが咲いているという奇妙な外見も特徴的ですが、種子が数mmと小さいうえに、テトラスティグマというブドウ科のつる植物に寄生して育つことから、ラフレシアの花が開くまでの成長過程は殆ど分かっていません。
更にラフレシアは雄花と雌花が別々に存在するうえ、花が咲くまで成長する確率も低く、雄花と雌花が同時期に咲くチャンスもあまりないとも考えられています。
腐った肉の臭いをさせることでも有名なラフレシアですが、これは花が咲いてから3日~4日程で発生するもので、この腐臭に釣られてやってきたハエに花粉を運ばせて結実させます。
オオオニバス
引用:https://www.nybg.org/blogs/plant-talk/tag/victoria-amazonica/
オオオニバスは南アメリカのアマゾン川に生息するスイレン科の植物。
名前が示す通りの大きな蓮なのですが、その直径はなんと2mにもなり、子供が乗っても沈まないとまで言われているのです。
と言うのも、オオオニバスの葉のヘリは折れて立ち上がっており、葉の周囲をぐるりと囲むような形をしています。
そのために日本に生息するオニバス科の蓮よりも浮力に優れているのです。
アマゾン川の他にも、インド洋に浮かぶ小さな島国であるモーリシャスには近種のパラグアイオニバスが生息しており、こちらの葉のヘリは平均で20cmの高さを持ちます。
マイハギ
マイハギは中国の熱帯地方に生息するマメ科の植物。
多年草で繁殖力が強いことから中国では雑草として扱われていますが、マイハギの葉の近くで歌を歌うと、風が吹いていなくても先端の葉がひらひらと動き出ことで知られます。
まるで歌に合わせて踊っているような様から“舞草”と名付けられたマイハギですが、面白いことに単なる音には反応しません。
この理由は解明されていませんが、人間の歌声や囁き声に含まれる湿度に反応して、動いているのではないかと考えられています。
フェネストラリア
フェネストラリアは南アフリカに生息するツルナ科の植物。
円筒形の葉を持ち、その内部に水分を溜め込むという多肉植物で、この葉の先端部分が半透明になってレンズのような働きをすることから“レンズ植物”とも呼ばれています。
南アフリカの乾燥地帯では、乾期の間に背の低い植物が砂に埋もれてしまうことがあります。
その際にもフェネストラリアは先端のレンズを使って太陽光を集め、光合成をすることができるのです。
レンズ部分は明り取りの窓にも似ていることから“窓植物”と呼称されることもあり、乾燥地にはフェネストラリアの他にも、厳しい環境を生き残れるようレンズ植物・窓植物へと進化した多肉植物が多数生息しています。
ディスキディア
引用:https://asknature.org/strategy/relationship-provides-nutrients-protection/#.W2fNhNL7TIU
ディスキディアはフィリピンのネグロス島などに生息するガガイモ科の植物。
大樹の幹に蛇のように絡みついて育つ着生植物で、直径5cm程度の裏側がへこんだ葉を持ち、この葉の内側に気根を伸ばすことで寄生先の樹にピッタリと張り付くことが出来るのです。
外見も十分に奇妙なのですが、ディスキディアの葉を捲ると更に驚かされることがあります。なんと葉の一つ一つが蟻の巣になっているのです。
幹に密着しているため、葉の中は薄暗く、湿度も保たれているのでアリの生態に合致しているうえに、葉ごとに住み分けができるので、さながらアリの団地の役目を果たすディスキディアは“アリ植物”とも呼ばれています。
東南アジアには他にも葉の付け根にアリが巣を作るトコカ、幹の内部にアステカアリが生息するセクロピアなど、アリと共に生きる植物が多く見られます。
コパイフェラ
コパイフェラは南アメリカに生息するマメ科の樹木。
コパイフェラの特徴は幹から取れる油。幹の内部に油の管が通っており、それを傷つけることで採取することができます。
大木であれば雨季には1日に数リットルもの油が採れると言われており、穴に栓をして暫く経てば、また油が溜まるため、アマゾンの原住民の間では古くからこの油は外用薬としても利用されていました。
ヒノキに似た香りがすることからも毒消しの効果が期待できるコパイフェラの油ですが、なんと車を走らせる力を秘めていることが分っています。
幹から採った直後の透明な油を酸化させると赤褐色になり、これを精製するとガソリンに似た働きをするようになるのです。
実験的にコパイフェラの油で車を走らせたところ、排気ガスはヒノキのような良い香りがしたとも言われています。
メラリュウカ
引用:http://kplant.biodiv.tw/
メラリュウカはオーストラリアから熱帯アジアに生息するフトモモ科の樹木。
白く美しい樹皮を持ち、幾重にも剥がれて行くことからマレーシアでは“カユプテ(白い木)”、中国では“白千層”とも呼ばれています。
この樹皮は太い幹では10枚以上採ることができ、和紙のような柔らかさを持つことから、昔は荷物を運ぶ際の緩衝材として利用されていたそう。
花が枝に直接付く姿も独特で、昆虫の卵が付着しているようにも見える上に何年も残って咲き続けます。
公害にも強いために台湾では街路樹として活用されており、葉を煎じて作った湿布は蕁麻疹に効果があるとされています。
ユーフォルビア
引用:https://worldofsucculents.com/?common-names=common-tr
ユーフォルビアは南アフリカの砂漠地帯に生息するトウダイグサ科の植物。
ハシラサボテンによく似た2m程もある背の高い多肉植物で、茎を傷つけると白い毒液を出します。
ユーフォルビアは茎には、長いものでは10cm前後、短いものでは2cm前後と2種類の節が付いており、これは降水量の過多で成長の速度が変わることが原因。
降雨量の多い年は節が10cm、逆に少ない年には3cmの節を作るため、ユーフォルビアの年節は“過去の降雨量の記録”として見ることができるのです。
そのため干ばつを記録する植物として知られ、外からユーフォルビアを見ただけで、5年前や8年前に雨がどの程度降ったかを調べることができると言われています。
まとめ
コアラの餌や、花粉症にも効く殺菌力の高い精油などとして有名なユーカリも、バオバブやマンゴーといった他の科の樹木と合体ができるという不思議な能力を持っており、植物も動物同様に面白い生存戦略を持っているものが多数あることが窺えます。
動かないことからどうしても地味な印象が拭えず、外見の美しいものばかりが重宝がられてしまう植物ですが、調べてみると奥深い特性を持つものも多くあり、その逞しさには確かな命を感じることができますよ。