世の中には、「○○恐怖症」という言葉が多数存在しています。
高所恐怖症、暗所恐怖症、ピエロ恐怖症、クモ恐怖症、集合体恐怖症等々。
例を挙げるときりがないくらいです。
個人差はあるものの、人間には怖いものがたくさんあるということが暗に示されています。
もちろん、それは自然界に生きる生物たちにも言えることで、天敵に怯えながら生きています。
しかし、皆が恐れて避けるものさえ、ものともせずに向かっていく動物がいます。
ここでは、世界一の怖いもの知らず、ラーテルについてご紹介します。
ラーテルの生態
まずはその姿を見ていただきましょう。
引用:http://swmcoms.com
ラーテルは、食肉目イタチ科ラーテル属に分類される哺乳動物です。
ラーテル属には、この種類しかいません。
ラーテル(Ratel)は英名で、学名はMellivora capensisです。
基本的には雑食性ですが、ハチミツが大好物です。
学名のMellivora capensisには、ケープ地方(南アフリカ周辺)のミツ食いという意味があるとされています。
またこのことから、和名では「ミツ」アナグマと呼ばれています。
他のエサとして、小型の哺乳類や爬虫類、果実なども食べます。
大食漢で、行動範囲内にあるものは手当たり次第に食べてしまいます。
ラーテルは、体長60~80cm、尻尾も含めると最大で110cmほどの大きさです。
体重は7~14kgほどで、中型犬と同じような大きさです。
耳は飛び出しておらず、顔の側面に耳の穴が開いているような感じになっています。
引用:https://ikimono-matome.com
全体的に黒い体毛で覆われていますが、頭から背中、尻尾にかけての白い体毛が特徴的です。
また、四本すべての腕に鋭い爪を持っており、この爪を使って穴を掘ったり、木に登ったりします。
基本的に群れは作らず、単独かパートナーとペアで暮らしています。
夜行性で、昼間は木や岩の隙間で休んでいます。
ラーテルの分布
引用:https://ikimono-matome.com
これは、アナグマの仲間の分布図です。
地図上の黄色の部分が、ラーテルの分布しているところを示しています。
ラーテルは、熱帯から亜熱帯にかけての森林や草原、サバンナや藪地、岩の多い丘陵地帯など、様々な場所に適応して暮らしています。
エチオピアでは、標高4000mという高地でも見ることができます。
また、地中海沿岸やサハラ砂漠の最も乾燥した砂漠地帯では見られませんが、その他の砂漠地帯やその周辺地域には生息しています。
「怖いもの知らず」の理由
ラーテルは、可愛らしい外見とは裏腹に、怖いもの知らずで気性が非常に荒い動物です。
ラーテルの行動範囲内に入ってしまったものは、例外なくラーテルの攻撃の対象となってしまうのです。
自分より何倍も大きなアフリカスイギュウはもちろん、ライオンやコブラなどの獰猛な動物にも挑んでいきます。
ハイエナ3匹に囲まれても、鋭い牙をむき出しにして威嚇し、立ち向かっていくのです。
何にでも挑んでいき、食べようとするその性格から「世界一怖いもの知らずの動物」として、ギネスブックに登録されています。
ここまで怖いもの知らずなのには、もちろん相応の理由があります。
ラーテルは武器を4つも搭載した最強生物なのです。
その武器について以下で詳しく説明します。
武器1:強烈な臭いを出す臭腺
ラーテルはスカンクと同じように、肛門の近くに臭腺を持っています。
威嚇の際には、その臭腺から強烈な臭いの液体を放出します。
その液体の臭いは、服や体などに付着すると1週間は取れないと言われているほどです。
さらに、その液体を相手の顔面めがけて放出するため、液体攻撃を受けた敵は強烈な悪臭で戦意喪失せざるを得ないことでしょう。
また、ラーテルの外見は、毛皮が白黒に分かれていて、スカンクと似ています。
これは、スカンクと同じように「強烈な臭いの液体を出す」と敵に警告する効果があると考えられています。
武器2:分厚い皮膚と毛皮
ラーテルの皮膚はぶよぶよしていて伸縮性があり、とても分厚く硬く、ライオンやハイエナの爪や牙をも簡単には通しません。
特に、頭から背中にかけての皮膚が特に分厚くなっています。
この分厚い皮膚のおかげで、ライオンなどの大きな肉食動物とも互角の戦いができるのです。
ラーテルは防御を最大の武器としてるのです。
その様はまるで装甲車です。
分厚い皮膚で様々な攻撃を跳ね返すラーテルにあやかり、ラーテルの名を冠した戦闘車まで開発されているそうです。
武器3:猛毒への耐性
ラーテルはコブラ科のヘビが持つ神経毒に対して、強い耐性を持っています。
コブラ科のヘビは、ヘビの仲間の中でも気性が荒く、より強い神経毒を持っているヘビです。
人間が咬まれてしまうと死に至る場合が多く、はるかに体の大きい象ですら死に至らしめるほどの猛毒です。
しかし、ラーテルは体内にこの毒が回っても、一時的に体がしびれて、気を失ったような状態になりますが、それもわずか数時間のこと。
時間が経てば何事もなかったかのように起き上がり、普通の状態に戻ります。
このような強い耐性を持っていることで、コブラ科のヘビ最強の武器が通用しないため、コブラ科のヘビはラーテルたちの食糧になってしまうことも多いのです。
武器4:強力なあごと鋭い爪
ラーテルは、強力なあごと大きく発達した鉤爪を持っています。
ライオンやハイエナが存在しない砂漠地帯などでは、生態系ピラミッドの頂点に君臨しています。
最強の防御に加え、強力で攻撃的な武器を持ち合わせているのです。
ラーテルの天敵・弱点は?
最強と思えるラーテルですが、もちろん弱点もあります。
それは、お腹と顔。
ラーテルは背中に比べて、腹部と顔は毛や皮膚が薄いので、その分相手からの攻撃に弱くなっています。
そのため、上や背中からの攻撃には強いですが、顔やお腹を噛まれてしまうことがあれば、致命傷になってしまうこともあります。
自然界に生きる生物にとっては付き物の天敵についてですが、ラーテルの天敵はあえて挙げるとするならばライオンやハイエナ、ヒョウと言われています。
しかし、天敵と言っても、これらの肉食獣たちは滅多なことではラーテルを襲いません。
最大の防御を持っているだけに、いくらライオンでも無傷でラーテルを倒すことは困難です。
戦うにはリスクが大きすぎるため、ライオンでも諦めて立ち去っていく場合がほとんどのようです。
引用:https://ikimono-matome.com
実質的なところ、ラーテルの天敵はほぼいないと言えます。
ラーテルの相棒
ラーテルは雑食性ですが、その中でもハチミツとハチが大好物です。
そのため、英名では別名「Honey badger」と呼ばれています。
しかし、蜂の巣は地上からではなかなか見つけることができません。
そんなラーテルには協力者がいます。
ノドグロミツオシエやウロコミツオシエなどのミツオシエ科の鳥たちです。
引用:http://news.livedoor.com
ミツオシエ科の鳥たちは、蜂の巣を見つけると、ラーテルの周りでけたたましく鳴き声を上げ、蜂の巣までラーテルを先導するのです。
ラーテルには分厚い毛皮と皮膚があるので、ハチに刺されようともハチの毒針はラーテルには効果がありません。
ラーテルがハチミツやハチを食べ終えた後、ミツオシエ科の鳥たちは、ラーテルが食べ残したハチミツを美味しく食べるのです。
ハチミツを食べたいけれど蜂の巣を見つけられないラーテルと、蜂の巣を見つけることは出来るけれど巣を襲うことができないミツオシエ科の鳥たちは利害関係が一致しています。
ラーテルにとって、ミツオシエ科の鳥たちは最高の相棒と言えます。
ラーテルと人間の関係
ラーテルは、家畜や蜂の巣を襲うことがあるため、生息地付近の農家や養蜂業者からは害獣として認識されています。
また、住宅街などに出没することもあるようです。
そのため、ラーテルは駆除の対象とされている地域もあり、多くの罠が仕掛けられ、駆除されています。
また、一部の地域ではラーテルの肉を食用としていたり、皮膚や内臓、手足などが薬として効能があると考えられています。
そのため、捕獲されるラーテルも一定数いると考えられます。
現在、絶滅が危惧されている動物ではありませんが、他の絶滅が危惧される動物たちと同じく、現在の状況が続いてしまうと、個体数が大幅に減少してしまうと考えられています。
国内で唯一ラーテルと会える場所
日本国内で唯一、ラーテルに会うことができるのが、名古屋にある「東山動植物園」です。
日本の気候がラーテルたちに合わないうえ、飼育自体も大変なので、ラーテルを飼育・展示している動物園はあまりありません。
日本で唯一ラーテルを見られる東山動植物園は貴重な場所であると言えます。
引用:https://www.museum.or.jp
まとめ
いかがだったでしょうか?
ラーテルが、世界一怖いもの知らずと言われる所以が分かったでしょうか。
それにしても、ギネスブックに掲載されるくらいの怖いもの知らずというのも驚きです。
ラーテルを見習って怖いと思うものを1つでも克服したいところですが、ラーテルを見習うためには、たくさんの武器を搭載する必要がありそうですね。
鋭い爪を生やしたり、分厚い毛皮を常に纏うことはできないので、怖いものにでも恐れず立ち向かっていく姿勢だけでも真似したいところです。
ラーテルの最強っぷりに感服。
ラーテルに会ってみたい!、と思った方は、ぜひ東山動植物園へ!