不思議なキューブパズルを見つけた女性は、取り憑かれたかのようにパズルを解きます。
しかし、パズルが完成に近づくにつれ、彼女の身辺では不可解なことが起き始め――
【都市伝説】リンフォンの概要
語部:俺(俺の彼女の話)
時期:2006年
舞台:始まりはアンティークショップ
***
先日、俺はアンティーク好きな彼女とドライブがてら、骨董店などを回った。
お互い掘り出し物を見つけご機嫌で車を走らせていると、一軒のボロイ店が目に留まる。
店は小さく品揃えも大したことがなく、俺が出ようかと思ったその時、彼女が声を上げた。
彼女は興奮した様子で、雑多に品物が詰め込まれたバスケットケースの一番下から、正20面体の置物を引っ張り出す。
今思えば、何故一番底にあって外から見えないはずのモノを彼女が一発で見つけたのかも不思議だ。
彼女はその置物をレジに持って行った。
店の爺さんは、置物を見た途端驚愕の表情を一瞬だがハッキリと浮かべた。
爺さんは値段を確かめるからと奥の自宅に一度引き上げた。
奥さんらしき女性と言い合う声が断片的に聞こえて来た。
やがて爺さんは黄ばんだ説明書を持って戻って来た。
爺さんによると、置物はリンフォンという玩具だという。
ラテン語と英語で書かれているという説明書には、リンフォンが『熊』⇒『鷹』⇒『魚』に変形する経緯が図説されていた。
リンフォンとは、あちこち引っ張ったり押したりすると変形し、動物の形になるキューブパズルなのだ。
彼女は6500円でリンフォンを購入し、とても喜んでいた。
―月曜日―
仕事から帰宅すると彼女から電話があった。
彼女はすっかりリンフォンの虜で、その面白さを興奮して一方的に語る。
送られてきた写メには、途中まで熊が出来たリンフォンが映っていた。
―火曜日―
翌日も彼女から連絡が来た。
リンフォンを徹夜でいじっていたら熊が出来たから見に来いという。
俺は苦笑しつつも彼女の家に行った。
―水曜日―
23:00頃
彼女は今度は鷹を完成させた。
素人目にも素晴らしく精巧な作りであることがわかる。
―木曜日―
彼女から電話が来た。
リンフォンの報告ではなかった。
5分前から30秒間隔くらいで着信が来る。
出てもザワザワするだけですぐ切れる。
着信に登録もしていない『彼方』と出る(普通は番号表示・非通知・公衆など)
彼女は気味悪いからもう電源切って寝ると言う。
この地点でリンフォンの魚は完成間近。
―金曜日―
奇妙な電話のことも気になり、俺は彼女の家に行った。
リンフォンはほぼ魚の形になっている。
この日の昼にも彼女の元には奇妙な電話があった。
『非通知』の携帯に出たら、『出して』という大勢の男女の声が聞こえて切れた。
やはり気味が悪いが、混線か悪戯だろう。
明日一緒にド○モに行こうと話し、それから俺と彼女はリンフォンで遊んで過ごした。
魚はなかなか完成せず、眠くなってきたので俺は彼女の家に泊まることに。
嫌な夢を見た。
暗い谷底から大勢の裸の男女が這い登って来る。
俺は必死に崖を登って逃げ、もう少しで頂上というところで女に足を掴まれた。
「連れてってよぉ!」
俺は汗だくで目覚めた。
―土曜日―
携帯ショップに行くも原因は不明。
気分転換に占いに行こうかとなる。
人気占い師の店だから、アポが必要で日曜に行くことになった。
―日曜―
占い師の家に行く。
俺たちが入った瞬間、占い師宅にたくさんいる猫が一斉に威嚇し逃げて行った。
彼女と顔を見合わせていると、『帰ってください』と占い師に言われる。
ムッとして理由を尋ねると、『猫たちはそういうモノがわかるから、占って良い人と悪い人を選り分けてくれる。こんな反応は初めてだ』と言う。
俺は何故か閃くものがあり、夢の話、奇妙な電話の話をした。
すると占い師は青い顔で『彼女の後ろに動物のオブジェのようなものが見える。今すぐ捨てなさい』と言い、それ以上は関わりたくない帰れと繰り返す。
俺は食い下がった。
すると占い師は立ち上がり『あれは凝縮された獄窓サイズの地獄です!地獄の門です、捨てなさい!帰りなさい!』と絶叫した。
俺たちは彼女の家に帰ると、すぐにリンフォンと説明書をゴミ捨て場に投げ捨てた。
以来、怪異は起きていない。
数週間後、アナグラムを好む彼女がこんなことを言った。
リンフォンの綴りはRINFONE。
並べ替えるとINFERNO(地獄)
偶然だと思うが、魚が完成していたらどうなっていたのか。
俺は二つ目のリンフォンがないことを願うばかりだ。
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今回紹介した伝説の中では若干知名度は低いかもしれませんが、個人的に面白い要素がしっかりと詰まった良い話だと思います。
・しっかりとした起承転結
・無理のない舞台設定と話の流れ
・呪いのアイテム、何か知ってそうな店の老夫婦、霊感のある占い師と、都市伝説を彩るスパイスが揃っている
・リンフォンを手にしてから日ごとに可笑しくなっていく彼女の周辺事情が、日記のように綴られているのが珍しい
・携帯の表示という小道具が効いている
・最後のアナグラムで謎解き的なオチをシッカリと締めている
特にグロテスクな描写はなく、モンスターも登場せず、死人も出ていません。
それでも、不気味さや這い登って来る恐怖は『ヒサルキ』に劣らぬモノを感じます。
【都市伝説】リンフォンの正体
リンフォンは誰が何の目的で作ったのか?
これに関し、非常に興味深い考察を見つけました。
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リンフォンの最終形態は門である。
少しづつ動物の形を取りながら、地獄の門の完成に近づき、完成の暁には地獄の蓋が開く。
変化していく動物の形は、弱肉強食を意味している。
熊>鷹>魚。
門になる前の最後の形『魚』とは、キリストを意味する。
かつてローマ帝国がキリスト教を迫害していた時代、信者たちはシンボルとして『魚』の印を使っていた。
何故『魚』かと言うと、ギリシャ語の綴りで『魚』は イエス キリスト 神の子 救世主を意味する頭文字を並べたモノグラムなのだ。
こうしたことから、リンフォンの作成者は弾圧されていたキリスト教徒ではないかと思われる。
信仰のために多くを犠牲にした人物が、キリスト教徒=『魚』を食らう熊や鷲に復讐したいと思った時、悪魔が知恵を貸して生み出されたのが超絶技巧の産物リンフォン。
そうして弾圧された多くのキリスト教徒が悪魔の導きのままにリンフォンを作り続け、いつしかそれは大量生産の玩具となって世に流通している。
おそらくリンフォンを完成させた人間は、極小の地獄に閉じ込められてしまう。
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インフェルノ(地獄)とキリスト教弾圧を結び付けた、理論的に面白い考察。
使用法が『コトリバコ』に似ているのも特徴的です。
地獄に封じ込めてやりたいくらい憎い相手に魔性の玩具リンフォン(彼女も徹夜でのめり込んだ)を送り付け、自らが堕ちる地獄の門を当の本人に開けさせるのだから陰湿です。
ちなみにこの素晴らしい考察をした方は、島根の松江城近くの土産店で似た玩具を見つけたと記述しています。
島根と言えば『コトリバコ』、ますます類似性が浮き立ちます。
俺の見た夢=地獄
俺が見た嫌な夢が、完全に地獄の風景です。
登って逃げる俺の脚を引っ張る女は、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』でカンダタの足に縋る亡者を思わせます。
猫と霊感
占い師が動物を客の選定目的で飼っているという設定は、恐らくリンフォンくらいではないでしょうか?
猫と限らず、動物は人間には見聞きできないモノに敏感と言われているので、この設定もまた物語にリアリティを与えています。
新しいスタイルの霊能力者
リンフォンに登場する占い師のスタイルが非常に斬新です。
『コトリバコ』あたりから僧侶や霊能力者といったお祓いのエキスパートが出て来て、取憑かれた主人公を助けるパターンが確立しました。
しかし、この占い師は『猫が反応してヤバイから帰れ!』と、保身第一で俺と彼女を追い返します。
考えてみれば、これが普通の反応でしょう。
金も取らずに自らも危ない橋を渡って怪異と戦ってくれる赤の他人など、そうそういるわけがありません。
映画『ヘル・レイザ―』
開けてはいけない禁断の箱を開けると地獄の門が開く。
この設定そそのままの映画があります。
引用元:http://www.tigerhouse.com
それがこちら『ヘル・レイザー』。
ちなみにこのイケメンはピン・ヘッド。
彼の手にするパズルボックスを解くと、『究極の快楽の扉』が開くとされているのですが、実際に現れるのは地獄の魔導士たち。
彼らはパズルを解いたものを引き裂き拷問します。
究極の快楽=最高の苦痛という、SMの最終形態的世界観の不思議な作品です。
まとめ
最近減ってきた、完全巻き込まれがた被害の都市伝説。
特に彼女も彼も悪いことはしていないのに、たまたま見つけたリンフォンのおかげでワケのわからないことに巻き込まれていきました。
相当危ないギリギリまで行きながら、実際には大きな被害を受けずに済んでいるのも特徴。
骨董品屋の怪しげな玩具。
あなたの街にもリンフォンが眠っているかも?