オカルト板初期の傑作都市伝説『猿夢(さるゆめ)』。
ある女性が時を隔てて繰り返し見るリアル過ぎる悪夢。
ただの夢なのか?
それとも三度目の正直が起きるの?
全体的に不気味でグロテスクな都市伝説をご紹介します。
都市伝説 猿夢の概要
語り部:私(高校生~大学生)
時期:2000年前後 オカルト板初期
舞台:電車
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私は夢を見ていた。
夢を見ていると自覚している。
私が薄暗い無人駅にいると奇妙なアナウンスが流れる。
「間もなく電車が来ます。その電車に乗るとあなたは怖い目に遭いますよ〜」
入ってきた電車は遊園地などにある『お猿の電車』のようなもので、数人の顔色の悪い男女が一列に座っている。
私夢や睡眠・覚醒をコントロール出来る自信と好奇心から電車に乗った。
電車はお化け屋敷のような雰囲気の中を進むみ、またアナウンスが流れる。
「次は活け造り~活け造りです」
悲鳴に振り向くと、電車の一番後ろに座っていた男に4人のボロを纏った小人が群がり、『活け造り』をこさえていた。
(ここでグロテスクなスプラッタ表現あり)
「次は抉り出し~抉り出しです」
今度は二人の小人がきざきざスプーンで後ろの女の目を抉り出す。
私は怖くなり目を覚まそうと思うも、自分の番にはどのようなアナウンスが流れるのかが気になり、確認してから起き逃げすることに。
「次は挽肉~挽肉です」
私は神経を集中して夢から覚めようとした。
が、その日に限ってなかなか起きれない。
ミンチマシーンの男が近付き風圧を顔に感じ諦めかけた時、ようやく覚醒成功。
翌日学校でその話をするも、友人たちは所詮夢と笑うばかりだった。
それから4年――
大学生になった私は夢のことなど忘れていたのだが、ある晩急にそれが始まる。
「抉り出し~抉り出しです」
忘れもしない『あの場面』からの悪夢再開、近づいて来るミンチマシーンの音。
今度もギリギリ逃げ延び目を開けようとした私の耳にアナウンスが聞こえる。
「また逃げるんですか~次に来た時は最後ですよ〜」
目を開けると、私はもう夢からは完全に覚めて自室にいた。
だが、最後に聞いたアナウンスは絶対に夢ではない。
それから現在まであの夢は見ていないが、次に見た時は心臓麻痺か何かで死ぬと覚悟している。
あちらの世界では挽肉になって。
凶夢伝染
この『猿夢』には、話を聞いた人もまた『猿夢』を見るという噂があります。
以下にご紹介する投稿は『猿夢』が投稿されてから3年後の2003年に書き込まれました。
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遊園地にいる夢を見た。
家族でコースターに乗って、とても心地良い夢だった。
コースターがトンネルを抜けると僕は『五号車』に移動していた。
そこには何人かの顔色の悪い人たちが座っている。
夢の中で僕は気付く。
これは『猿夢』に違いない。
後ろを確認すると何人かがスッと消えた。
驚く僕に後ろの男が言った。
「目が覚めたから消えたんだよ」
驚く僕に、後ろの男が言った。
震えながら目覚めることを祈り、目覚めた時には汗びっしょりだった。
もう一度見たら、今度は本当に死んでしまうかもしれない。
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ひとつの投稿に対し、レスを付けるような形で新たな体験談や考察や類型が書き加えられていくのが、ネット時代の都市伝説の特徴とも言えます。
この伝染した『猿夢』の真偽はわかりませんが、夢は潜在意識のイメージ化でもあるため、オリジナルの『猿夢』を読んで強く頭に焼き付いていればなくもないでしょう。
2019年3月24日16:00に『猿夢』の記事を書いたので、今夜『猿夢』を見るか実験してこちらでご報告します。
明晰夢の登場
スピリチュアルとか霊経験というと語弊がありますが、そうした括りで興味を持たれがちな明晰夢と言う要素がかなり大きく関わっているのが特徴です。
実際に、夢を見ていることを自覚しながら夢を見れる人間、夢の中での行動をかなり明確に自分でコントロール出来る人間は結構いる上に、訓練次第では誰でも出来るとも言われています。
もし興味があればこちらをご覧いただけると詳しくご紹介しています。
都市伝説 猿夢の元ネタ?

フレディ・クルーガー
引用元:https://middle-edge.jp
『エルム街の悪夢』
夢と現実のリンクするダークスプラッタファンタジーの名作です。
フレディに夢の中で殺されると、現実の世界でも死んでしまう。
故に主人公たちは恐怖で眠れなくなっていきます。
天然ジェイソンに対してフレディはお茶目キャラなのですが、その殺しっぷりはスプラッタであるにとどまらず悪趣味な創意工夫に満ち、時に被害者に長く続く拷問のような苦痛を与えます。
活け造り・抉り出し・ミンチ、これらはいずれも即死させない殺し方です。
『猿夢』の殺人者=ボロを纏った小人たちは処刑人であると同時に拷問吏の役割を担っているように思えます。
引用元:https://twitter.com
『ジョジョに奇妙な冒険第三部』に登場する、夢の中に人を引きずり込んで殺すスタンド・デス13。
現実世界で覚醒すると夢の世界からその人物だけ消える描写あり。
夢の世界で殺されかけたキャラがその恐怖を仲間に訴えるも、相手にされず『頭大丈夫?』的な扱いを受けますが、『猿夢』でも私は友達に恐怖を理解してもらえません。
夢モノや自分にしか見えない系は信じてもらえない孤独がジンワリと恐ろしいのです。
引用元:https://www.amazon.co.jp
地獄で罪人が受ける刑罰にも似ています。
特に『活け作り』と『なます地獄』はビジュアル的にも近いモノがあります。
この観点から考えると、『猿夢』の猿は地獄の鬼であり、お猿の電車は地獄へ罪人を運ぶ護送車のようなものなのかもしれません。
ただし、その解釈だと特に何も悪いコトをしていない私が連れていかれる理由がわかりません。
私に問題があるとすれば、無駄に好奇心が強すぎることくらいでしょう。
何故『猿』なの?
都市伝説に付けられた名前は『猿夢』。
しかし、よくよくみるとこの話の中に猿は出てきません。
あえて言うならば、『遊園地とかのお猿の電車』という描写くらいです。
むしろ実際に拷問を執行しているのはボロを着た小人たちなのだから、『拷問小人』とか『地獄電車』とかになっても良さそうに思えます。
内容が分かるようでわからない、それでいて聞いた人の耳に妙に残り、ほとんど本能的に『怖い』と感じさせると言う意味で『猿夢』はシンプルにして秀逸かと思われます。
有名な怪談『猿の手』を連想させるのも理由の一つでしょう。
人は実際に夢で死ぬのか?
普通に考えて怖い夢を見たくらいで心臓発作で死ぬようなことはないと思われますが、繰り返し悪夢を見ることで精神を病み、やがては身体的にも悪影響が出ることは大いにあり得るでしょう。
悪夢が怖くて不眠症にでもなれば、不眠からくる自律神経失調や統合失調症にならないとも限りません。
それらが引き起こす幻覚や幻聴が原因で事故にあったり自殺したりすれば、呪われたようにも感じるのではないでしょうか?
また、人間の思い込みの力は想像以上に強力なものです。
プラシーボ効果(薬と偽って小麦粉嘗めさせたら症状が落ち着く)の逆バージョンであるノーシーボ効果は科学的に存在するとされています。
実験結果報告
残念ながら、現時点においてはまだ『猿夢』は見れていません。
ついでに枕も9回踏んでみましたが、効果なし。
明晰夢は連続して見ましたが、さして珍しいことではないので『猿夢』効果ではないと思われます。
まとめ
前後の脈絡もなく、歴史的背景もなし。
主人公である『私』にも、これといった過失なし。
ただただ不条理な夢に巻き込まれ、怖い思いをする『私』。
原因・怪異の正体が一切わからないために、対処のしようがないのが『猿夢』の怖いところでしょう。
オカ板初期の風潮である短い文章でまとまりながら、原文にはかなり血生臭いスプラッタ描写が繰り返し現れます。
怖い場面だけを切り取ったタイプの物語にありがちな、唐突さや未完成感もなく不安を残す終わり方をするなど、短編小説として良くできた物語と言えます。
『お猿の電車』という単語から、何故かこれを連想する方も多いのではないでしょうか?
引用元:https://ja.pngtree.com
そして、この玩具を何となく不気味だと思う人間は結構います。
そうした共通感覚を敏感に捉えられるか否かが、埋もれてしまう都市伝説と傑作として残る都市伝説の差かもしれません。