ネットにより情報が即時共有される現代社会において、都市伝説はその内容を多様化・複雑化させる一方です。
都市伝説とは元々『友達の友達の話』くらいの距離間で囁かれる噂話に尾ひれがついたものや、口伝として民間に伝わる昔話・伝説の類でした。
それが現代では『友達』要素皆無の『どこかの誰か』の物語がメジャーな都市伝説として広く流布しています。
もちろんメジャーな物語にはメジャーになるだけの言霊とでもいうべき力があり、登場するキャラクターたちはどれも甲乙つけがたく印象的で魅力があります。
しかし、それらはあまりにも繰り返し語りつくされ、もはや新鮮味という意味では若干の色落ちが否めません。
そこで、今回は『友達の友達』よりさらに身近な、『執筆者の友人・知人』の体験談を集めてみました。
彼らは全員素人なので、その物語に既存の都市伝説のような洗練度はなく、どんでん返しやオチといった物語としての完成度はありません。
けれども――否、それ故に奇妙なリアルさを伴い迫ってくるものがあるのです。
第1話 ついてくる白い人影
引用元:https://twitter.com
体験者:50代男性Tさん
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相模原在住の男性Tさんは、ある夏の夜愛犬のミニチュア・シュナウザーを連れ散歩に出た。
コースはだいたいいつも同じ。
その夜も16号線沿いの大きな道路脇を、特に問題もなく歩く。
犬の散歩は基本的に妻に任せていたが、喜ぶ愛犬を眺めながら『たまには良いものだ』と、Tさんも少し蒸し暑い夏の夜を気分良く歩いていた。
が、Tさんはふと異変に気付く。
誰かに後ろからつけられている?
いやいや、ないだろう。
若い女の一人歩きでもあるまいし、イイ歳をした恰幅のよいオッサンをつけて何をどうするというのだ。
物盗りにしたって、Tシャツにハーフパンツで犬の散歩をしているオッサンを優先的に狙う道理はない。
きっと気のせいに違いない、たまたま進行方向が同じだけだろう。
Tさんはそう思い直し、愛犬との散歩を続けた。
しかし、かなり歩いてもつけられている感覚はなくならない。
だんだん薄気味が悪くなってきたTさんは、歩くペースを速めてみた。
するとどうだろう。
Tさんをつけて来る足音も、同様にペースを速めるではないか。
つけられている。
Tさんの中で疑惑が確信に変わった。
軽い恐怖を感じながら、Tさんは追跡者の姿を確かめようと恐る恐る振り返る。
100メートルほど離れたところに、白い服を着た誰かがいた。
男か女かは距離と暗さのせいでわからない。
だが、間違いなく何者かが自分をつけている。
強烈な恐怖にかられたTさんは、更に歩くペースを速めた。
ヒタヒタヒタ。
足音はTさんが足を速めれば速めた分だけ、同じペースと距離を保ってついてくる。
一体何がしたいんだ!?
Tさんがもう一度振り返ると、白い人影はけたたましい笑い声を立てた。
その声に、Tさんの恐怖はマックス振り切れた。
一人の時ならば、あるいは腰を抜かしていたかもしれない。
しかし、Tさんには愛犬の生命と安全を守る義務があった。
Tさんは恐怖に駆られながらも愛犬と共に懸命に走り、気が付けば足音は消えていた。
Tさんをつけていた者の正体
普通に考えれば単なる暇を持て余した変人、もしくは時折見かけるちょっとアレな人でしょう。
Tさんをつけていたのも、特に意味はなく何となく目についたから。
ただし、そう考えた場合いくつか不審な点があります。
不審な点
①100メートルという距離
Tさんは白い影との距離を100メートルと言いましたが、実際に100メートルという距離を測ってみるとかなりあります。
25メートルプール2往復と考えると距離感が掴みやすいでしょう。
さて、現実に100メートルも距離が離れた状態で、人はそうも明確に足音を聞き取れるのか?
相手が下駄でも履いていれば話は別ですが、それだけ離れた場所の足音(しかも早足程度の)がハッキリ聞き取れるとなると、Tさんは相当耳が良いということになります。
しかし、実際のTさんは格別耳が良いというわけではありません。
振り返って男女の性別がわからぬほどの距離でありながら、ヒタヒタと等間隔でつけてくる足音が聞こえるというのは些か矛盾しないでしょうか。
②現場検証からくる矛盾
実際にTさんがつけられたという散歩コースを検証してみたのですが、16号線沿いの直線道路の距離と、100メートルの距離を置いてつけられたという証言に矛盾が生じます。
100メートル離れて暫く付けられる→歩を速める→さらに早める→走る。
どう考えても、このプロセスを踏むには実際の道路の距離が足りないように思えるのです。
第2話 お玉が池
引用元:http://bunbun.hatenablog.com
体験者:当時30歳男性 専門学校校長Sさん
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執筆者が20年近く昔通っていたとある専門学校の校長Sさんは、週末ごとに愛犬を連れてドライブに行くのが趣味だった。
そのドライブ先というのが少し変わっていて、彼はいわゆる心霊スポットを巡ることを好んでしていた。
ずいぶんとあちこち行ったそうだが、Sさん曰く――
『どこもどうってことなかったよ。何も感じない』とのこと。
実際に噂だけが先行していて何もありはしないのか、それともSさんに感じる力がなかっただけなのか、それはわからない。
しかし、そんなSさんが『一個だけ、マジにやばいとこあった』と授業の合間に話してくれた。
そのヤバイ場所とは、お玉が池。
物好きにもわざわざ夜のお玉が池に愛犬と共に降り立ったSさんは、なんとも言えない悪寒を背筋に感じ、説明のつかない恐怖に捕らわれた。
そして、普段はあまり吠えるということをしない愛犬のシーズーとプードルが、池に向かって狂ったように吠え続けたという。
犬たちの普通でない様子に驚いたSさんは、彼らを抱き上げ早急にその場を後にした。
お玉が淵とは?
お玉が池とは箱根にある池で、二子山の南西、東海道の八丁坂から六道地蔵へと通じる脇道の途中に位置します。
現在では一帯が箱根の森として整備され、池のほとりにも遊歩道が造られきれいなものですが、そこには池の名前の由来ともなった『お玉の伝説』があります。
お玉の伝説
元禄15年(1702年)春、まだ少女と呼べる年頃のお玉は、江戸の奉公先から逃げ出して箱根までやってきました。
お玉が故郷の伊豆に帰るには、箱根の関所を超えねばなりません。
しかし、当時江戸幕府は『入り鉄砲に出女』と揶揄されるほどに、箱根を抜ける女子供に厳しく目を光らせていました。
人質として江戸に住まわせている外様大名の子女が脱出しないようにするためです。
お玉はただの奉公人に過ぎませんでしたが、通行手形なくしては、如何なる事情を持つ何人たりとも通れないのが箱根の関所。
お玉は関所裏の屏風山を抜けようとして捕らえられました。
子供と言えども、関所破りは重罪。
お玉は刑場ではなく捕まった現場で打ち首となり、哀れに思った者がその首を近くの薺池(なずないけ)で洗ってやりました。
以来、この池は誰が呼ぶともなくお玉が池と呼ばれるようになったのです。
***
Sさんと犬たちは、辛い奉公から逃げ出し故郷の父母の元に帰りたいと願いながら打ち首にされた少女の霊を感じたのでしょうか…
第3話 実家の裏にある墓
引用元:http://say316.blog.fc2.com
体験者:20代女性Jさん 幼少期から数年前にかけて
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Jさんの実家はY県の田舎、山奥にある。
彼女の家――彼女が寝ていた部屋の裏側には、すぐ近くに墓があった。
先祖のきっちりとした墓とは別に、適当な大きさの石が並べられているもの、古い文字で名が書かれたもの、ただ石を積んだだけに見えるものまでが乱立している。
いわゆるお寺が管理しているような、都市近郊の墓所とは明らかに趣が違う。
そこは彼女の曾祖父母とは無関係らしいのだが、管理は彼女の家がしているとのことだった。
彼女は幼い頃からそこで暮らしていたため、墓に対して恐怖や嫌悪はなく、むしろ好きだという。
トイレと部屋が墓に面している上に、直接墓こそ見えぬものの窓も墓側についている。
こうした立地条件のためなのか、彼女は子供のころから幾たびか不思議な経験をしてきた。
人魂を見た
山のすぐ傍にあるJさんの実家は、少し小高くしてある土地に家を建てており、道路が隣接していた。
ただし、車はあまり通らない。
当時小学生だった彼女は、トイレを済ませ手を洗って顔を上げた際、窓に灯りが映っているのを見た。
その灯りはオレンジ色で、山の方に蛇行しながら登って行った。
彼女が親にそのことを話すと、『車のライトじゃないか』と言われたのだが、それにしては動きが妙だった。
あの蛇行する動きは人魂だったのではないか?
大人になってからJさんはそう思うようになった。
深夜三時の訪問者
3~4年前、Jさんは夏のある時期限定で毎日必ず深夜3時に目覚めるようになった。
彼女が寝ていたのはリビングやキッチンのある母屋。
日中は母屋に人が集まるものの、夜はそれぞれ離れの家で寝るため、夜間はJさんと彼女の妹だけとなる。
就寝後数時間、Jさんは必ず物音で目を覚ました。
そして時計を確認すると、きまって御前3時なのだ。
物音は風呂場でゴトリといったりいろいろだったのだが、山奥の家であるため彼女は『どうせネズミか何かだろう』とさして気にも留めなかった。
ある時からその物音が、天井をズリズリと這いずる音に変わる。
それでも彼女は蛇か何かだと思い寝直していた。
特に怖いとは思わなかったそうだ。
だがある日、彼女は翌朝5時起きせねばならぬというのに、どうにも寝つきが悪かった。
それでも何とか寝付けたかと思えば、天井からまたもや例の音。
寝入りばなを起こされた彼女は苛立ちのあまり天井に向かって『やかましい!』と怒鳴りつけた。
すると音がピタリと止まったのだ。
静かになったのは結構だが、あまりにピタリと止むものだから、さすがに彼女も少し怖くなった。
さりとて夜中に天井を調べるわけにいかないし、翌日は早朝から仕事だし…と、彼女はその日はそのまま眠った。
そして不意議なことに、彼女はその日から午前3時に目を覚まさなくなりひと夏の怪異は終わりを告げた。
繰り返される訪問
ひと夏の怪異は終わったのだが、翌年も彼女は午前3時の訪問者に起こされる時期を迎えた。
去年に引き続き、天井をズリズリと這いずる何か。
去年のことで学習した彼女は、『明日早いから日中にきてくれ』と言ってみた。
するとまた、謎の訪問はピタリと止まった。
さらに次の年。
その年の彼女は寝酒を覚えていて、午前3時まで飲んでいることも珍しくなかった。
そのためか、その年の訪問者は少し趣向を変えて、コンコンとノックするように窓を叩いてくる。
カーテンを捲ってみても、そこには何も誰もいない。
しばらく放置した後、彼女は試しに『ここには酒しかないぞ』と言ってみた。
すると訪問はまたピタリと止まった。
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結局、謎の訪問者の正体は彼女にもわからないそうです。
ただ、あまり怖いという感覚はなく、『かまってちゃん』程度に彼女が認識しているのが印象的でした。
現在彼女は実家を離れているため、かつて彼女が使っていた部屋は彼女の祖母が使っているそうです。
そして彼女はこうも言っています。
『もしあれが幽霊だとしたら、何となくだけれど先祖ではなくて集合墓地の誰かだと思う』と。
山奥の名もなき墓
Jさんの話を聞いて最も惹かれたのが、この山奥にひっそりと隠すように作られた名もなき墓という存在です。
彼女が言うには、身寄りのない人たちの集合墓地らしいのですが、それにしても名前も刻まずに石を積んだだけのお墓が長く守られているというのは奇異な印象を受けます。
通常お墓というものは、遠くとも血縁者が守るか、寺社教会といった宗教法人が管理するものではないでしょうか?
それを何故か、関係のない彼女の家が管理していること自体が、都会生まれの都会育ちからすると不思議に思えます。
落武者、伝染病による死亡など、名を刻めない理由があったのかもしれません。
あるいは遺体を埋めるのが精一杯の状況で、せめてもの供養に石を積んだのか…その場合、土葬されている可能性も高いように思われます。
ちなみに、山の中には道がふさがり行くこともできなくなったところに、管理されていない墓が点在しているそうです。
その中には北朝鮮の家族の墓もあるとかないとか――
第4話 ホテルで謎の発光体
引用元:https://www.expedia.co.jp
体験者:Jさん(同上)
その日Jさんは観光に来た友人(仮にAとする)とホテルに宿泊した。
ダブルベッドが壁に寄せられ、通路側だけがあけてあるような非常に狭いビジネスホテルだった。
そこに並んで寝ていると、Jさんは夜中にAに起こされた。
A「今携帯触ってた?」
J「は?私Aに起こされたじゃん」
頓珍漢なやり取りを交わした後、AはJさんに次のような話をした。
『目を覚ましたら、通路側の方でぼんやり何か光っていて、ドアの方に行った。
携帯の光だと思ったけど、隣にJがいるからすごいビビッて起こした』
光の正体はわからなかったが、とりあえずそれがありえない現象であることだけは判明した。
JさんとAは怖くてそのまま眠らずに朝を迎えた。
ホテルの都市伝説
ホテルの額縁の裏にお札があったらヤバイ。
昔から囁かれている定番の都市伝説ですが、不特定多数の人が寝泊まりするするホテルには全国からいろいろ集まりやすいのかもしれません。
第5話 ホテルのプチ不思議
引用元:https://filmaga.filmarks.com
情報元:ホテル勤務のTさん
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残念ながらTさん自身はまだ何も見ていないのですが、彼女の同僚たちは結構な人数が様々な怪異を経験しているそうです。
①小さな子供が廊下を走っている
②顔を横にブンブン振りながら歩いている人がいる
③足元に誰かが立っている
④クーラーもないのにドアを開けた瞬間水をかけられた
特に事故や人死になどはないはずなのに、そういった話がいろいろと出てくるとのこと。
特に実害はなく、どれも子供の悪戯レベルであるため怖いというか不思議なお話ですね。
ホテルの怪異というと、S・キングの名作『シャイニング』を思い出しますが、こちらは最終的にボイラー大爆発なのでシャレになりません。