世界には人間ですら容易に死に至らしめる猛毒を持った生物がいくつもいます。
それらの多くが自分の身を外敵から守るために猛毒を有しており、人間から積極的に触れようとしない限りはめったに襲われるようなことはありません。
しかし猛毒を持つ生物の中には思わず手を伸ばしたくなるような美しいものもいます。
今回は綺麗だけど手を出すと危険な、猛毒生物を紹介します。
トンボマダラ
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トンボマダラは中南米、メキシコやアメリカのテキサス州からチリにかけての地域に生息する蝶の一種です。
体長は3㎝ほどで透き通った、ガラスのような綺麗な翅を持っています。
この特徴的な翅から、トンボマダラは「エスペヒート(Espejitos)」とも言われます。
エスペヒートはスペイン語で「小さな鏡」という意味です。
トンボマダラは幼虫の頃から毒のある植物を食べることで体内に毒素を蓄えます。
成虫になった後も有毒な花の蜜を吸うことで体内の毒素を強めます。
トンボマダラは毒素を放出して悪臭を放ったり、捕食した鳥に対して毒素を作用させて嘔吐させることで身を守っています。
また同じく南米に生息するツマジロスカシマダラという蝶はトンボマダラに擬態することで自分の身を守っています。
ピトフーイ
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ピトフーイは太平洋南部のニューギニア島に生息する鳥です。
ニューギニア島のマノクワリという都市周辺に住む人々が、鳥の鳴き声を表現する際に用いる擬音から名付けられました。
ピトフーイという名前はニューギニア島に生息するカワリモリモズ、ズグロモリモズ、ムナフモリモズ、サビイロモリモズ、クロモリモズ、カンムリモリモズという6種の鳥の総称です。
1990年、アメリカのシカゴ大学がピトフーイのうち、ズグロモリモズに毒性があることを発見しました。
しかしその後の研究でピトフーイと言われる6種の鳥のうち、ムナフモリモズを除く5種に毒性があることが判明しています。
ピトフーイは筋肉や羽毛に強力な神経毒であるバトラコトキシンを含んでいます。
ピトフーイ自身が毒を生成することはなく、同種の毒を持つ甲虫を捕食することで毒を蓄積させています。
この毒は蛇や猛禽類などの捕食者や寄生虫から身を守るために使われており、人間でもピトフーイの肉を食べると死に至る可能性があります。
ニューギニア島の原住民はピトフーイが猛毒を持っていることから食用にならない「ゴミ鳥」として扱っていますが、飢饉のときなど非常事態の際にはピトフーイでさえ食べることがあるそうです。
ピトフーイを食べる際は羽毛や皮をすべて取り除き、肉を炭火で囲むようにして焼き上げます。
ズアオチメドリ
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ズアオチメドリは南太平洋のニューギニア島にのみ生息する鳥の一種です。
ニューギニア島の中でも熱帯雨林の標高1500m以上の高地に生息しています。
ズアオ(頭青)の名前通りまるで青い帽子を被っているかのように頭部が青いのが特徴的で、飛行能力は高くありません。
スズメの仲間であり、ズアオチメドリ一種でズアオチメドリ属を構成しています。
ズアオチメドリは同じくニューギニア島に生息するピトフーイと同様に、羽毛にバトラコトキシンという猛毒を持っています。
ピトフーイやズアオチメドリのように毒を持つ鳥は他に例がなく、非常に珍しいです。
古代中国の書物には「鴆(チン)」という毒を持つ鳥が伝えられています。
鴆は長く伝説や想像の世界の産物だと思われてきましたが、ズアオチメドリのような毒を持つ鳥が実在することから、もしかしたら本当に昔の中国には鴆がいたのではないかとも言われています。
レッドヘッドクレイト
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世界には非常に数多くの毒蛇が生息しています。
しかし美しく、なおかつ危険な毒蛇というと、レッドヘッドクレイトがあげられます。
レッドヘッドクレイトはミャンマーやタイ、ベトナム、マレーシア、インドネシアなど東南アジアの熱帯雨林に広く生息する蛇です。
頭部と尾部が鮮やかな赤色をしており、黒い体色と見事なコントラストをなしています。
レッドヘッドクレイトに関してはまだ研究が進んでいない部分も多いですが、非常に危険な毒を有していることが分かっています。
レッドヘッドクレイトの毒は強力な神経毒で、咬まれると全身の筋肉の動きが阻害されます。
症状としては瞼の下垂や複視(ものが二重に見える症状)、嚥下障害、嘔吐、頭痛、唾液の分泌障害などがあるほか、重度になると呼吸ができなくなり、死に至ります。
ただレッドヘッドクレイトは夜行性で、日中はほとんど活動しないため、レッドヘッドクレイトよる被害はほとんど報告されていません。
タイマイ
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眼鏡のフレームやかんざし、ボタンなど軽めの質感が求められる工芸品には古来からべっ甲が利用されるケースがあります。
べっ甲は独特の赤みがかった黄色が非常に美しく、古くは正倉院にべっ甲を利用した装飾品が収められていました。
このべっ甲の原料となるのが、ウミガメの一種であるタイマイの甲羅や腹の甲の表面部である鱗板です。
タイマイは太平洋から大西洋、インド洋の幅広い海域に生息していますが、近年ではべっ甲の加工や食用を目的とした乱獲や環境汚染によって個体数が大きく減少しており、環境省が定めるレッドラインでは絶滅危惧1A類に分類されています。
特に日本はべっ甲の人気が高く、タイマイがワシントン条約で保護された後もべっ甲の材料となるタイマイの甲板の輸入を続けたことで国際的に非難され、1993年に輸入が禁止されました。
タイマイは主食として海綿動物を食べます。
海綿動物の多くは毒を持っているため、海綿動物を食べるタイマイの体内に毒素が溜まり、肉が毒性を有します。
2010年にはミクロランドでタイマイの肉を食べた住民のうち6人が死亡、90人以上が体調不良を訴えるという事件が起きました。
タイマイの毒には残念ながら解毒剤がなく、万が一タイマイを食べた場合は毒が分解されるまで苦しみ続けることになります。
ヤドクガエル科
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蛙の中でもヤドクガエル科に属するものの多くはとても危険な毒を持っています。
ヤドクガエル科は北アメリカ大陸南部から南アメリカにかけての熱帯雨林に広く生息しています。
ほかにもハワイでは害虫駆除のために持ち込まれたものが帰化しています。
最大種であるアイゾメヤドクガエルでも最大で体長が6㎝ほどと非常に小型で、種によって体色が鮮やかな赤色や黄色、青色をしています。
そしてヤドクガエル科の多くが、バトラコトキシンなどの猛毒を有しています。
小さい蛙だからといって油断は禁物です。
元々の毒素が強いうえ、ヤドクガエル科の有する毒の量は多く、触れるだけで生命に関わることもあります。
最も毒性の強いモウドクフキヤガエルと言われる種はなんと1匹で成人男性10人を殺害するだけの毒を持っています。
中南米の先住民族はこのフキヤガエル属の強い毒性を利用し、古来から矢じりにヤドクガエル属の体液を塗って毒矢として利用してきました。
このことからヤドクガエル(矢毒蛙)と言われます。
ヤドクガエル科の猛毒はエサとするシロアリなどが体内で蓄積、または化学変化を起こして生成されるものであると考えられており、生育環境が変わると毒性が弱まったり、無毒化することもあります。
この性質や鮮やかな体色からヤドクガエル科の蛙がペットとして流通することもありますが、確実に無毒であるとは言えないため取り扱いには充分な注意が必要です。
ミノカサゴ
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ミノカサゴは太平洋南西部からインド洋にかけて生息する魚の一種です。
日本でも北海道以南の海域に幅広く生息しており、釣りをしていてもよく釣れます。
長く伸びた何本のヒレや縞模様など独特の体色が非常に優美であることから、英語では「ゼブラフィッシュ(シマウマのような模様の魚)」、「ファイアフィッシュ(火のように見える魚)」、「ターキーフィッシュ(七面鳥のような魚)」などと言われます。
和名のミノカサゴも、ヒレが蓑や笠のように見えることからつけられました。
しかしミノカサゴはその優美な外見とは裏腹に、非常に危険な魚です。
ヒレに毒のあるトゲが生えており、刺されると強い痛みや吐き気、発熱、めまい、痙攣などの症状を引き起こし、老人や子どもなど抵抗力の弱い人であれば死に至る可能性もあります。
そのうえミノカサゴは非常に攻撃的な性質をしており、人に襲いかかることもあります。
このミノカサゴの恐ろしさは日本では広く知られており、日本各地にミノカサゴに関する異名が存在しています。
広島県では「ナヌカバシリ(七日走り、刺されると七日間走り回るほどの激痛に襲われることから)」、三重県では「マテシバシ(うっかり触ることがないよう、釣り上げたらしばらく待たないといけない)」、山口県では「キヨモリ(平清盛から。平清盛のように派手な出で立ちの下に危険な武器を隠し持っていることから)」などと言われます。
また危険な魚であり、わざわざミノカサゴを狙った漁などはされていないため流通量はごくわずかですが、ミノカサゴは美味な魚です。
水分の多い白身の魚であり、煮付けや刺身、から揚げ、ソテーなど幅広い調理法に対応するほかアラからは上質なダシが出ます。
ヒョウモンダコ
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ヒョウモンダコは、南太平洋に生息する小型のタコです。
日本でも小笠原諸島沖や南西諸島沖などで
普段は岩などに擬態していますが、刺激を受けると体色が輪のような模様のある鮮やかな青色に変わります。
このときの模様が豹に似ていることから、ヒョウモン(豹紋)と言われます。
ヒョウモンダコは他のタコと異なり、小型であるうえに墨も吐かず、吸盤も退化しており海底をのろのろと這いずるようにしか移動ができません。
しかし唾液や筋肉にフグと同じテトロドトキシンという猛毒を持っており、毒を活かして狩りを行います。
更に唾液にはもう1種類毒素を含んでおり、テトロドトキシンの効かない甲殻類相手に利用しています。
熱しても毒素を分解できないことから、食用にはされません。
ヒョウモンダコは強力な毒を持っていることから「殺人ダコ」と言われますが、事故件数自体は多くありません。
ただ近年は海水温の上昇によってヒョウモンダコの生息海域が広がっており、九州沖や日本海、浜名湖などでも確認されています。
そのため生息していないだろうと油断をすると大変危険です。
カツオノエボシ
引用元:https://zooing.honpo21.net/
クラゲは透明度の高い独特の外見が非常に人気です。
しかししばしば強力な毒を持っていることがあり、海に入るときには特に注意が求められます。
中でも接する機会が多く、危険なのがカツオノエボシです。
カツオノエボシは太平洋から大西洋にかけての幅広い海域に生息するクラゲの一種です。
青く鮮やかな浮袋が特徴的です。
浮袋が烏帽子の形に似ていることから、和名のカツオノエボシと名付けられました。
海外では同様に浮袋がポルトガルのキャラベル船と言われる帆船に似ていることから、「ポルトギーズ・マノウォー(ポルトガルの軍艦)」と言われます。
実は厳密にはカツオノエボシはクラゲではありません。
カツオノエボシは「ヒドロ虫」と言われる刺胞動物がそれぞれに役割を持って集まった群体であり、個体ではないのです。
カツオノエボシは泳ぐ能力がほとんどなく、海流などに従って漂います。
その結果、しばしば海岸に打ち上げられ、行楽シーズンなどに話題となります。
しかし打ち上げられたカツオノエボシには決して触れてはいけません。
カツオノエボシの触手には強力な毒を持った刺胞があり、刺されると激痛が走ります。
ただ痛いだけならまだしも、人によってはアナフィラキシーショックを引き起こし、死亡する危険もあります。
強力な毒があることから、カツオノエボシは「電気クラゲ」などと言われることもあります。
カツオノエボシに刺されたときには、まずは落ち着いて刺胞を海水で洗い流し、医療機関を受診してください。
刺されたショックで気が動転して溺れてしまうケースがあるため、まずは落ち着く必要があります。
また他のクラゲ咬傷のように酢で洗ったり、砂で揉むなどの民間療法がありますが、カツオノエボシの場合はいずれも効果がないか、刺胞を肌に押し込む形となって逆効果になるおそれもあります。
必ず海水で洗い、医療機関で適切な処理を受けてください。
スズラン
引用元:https://www.miyoshi-group.co.jp/
毒を持った植物は枚挙に暇がありません。
日本三大毒草といえばトリカブト、ドクウツギ、ドクゼリです。
これらはおいしい野草と外見がよく似ているため、誤食事故が後を絶ちません。
ほかにもジギタリスやヒガンバナといった美しい花であっても毒があるケースがあります。
中でもスズランは可憐な外見に反して、非常に強力な毒を持っています。
スズランは「君影草」、「谷間の姫百合」などとも言われる花で、4月から5月に春の訪れを告げるように、小さな白い花を鈴なりに咲かせます。
フランスでは花嫁にスズランを贈る習慣があるなど、世界中で広く愛される花であり、日本でも園芸品種として非常に人気です。
しかしスズランの花や根にはコンバラトキシンやコンバラマリン、コンバロシドなどの強力な毒が含まれており、誤って体内に入れると嘔吐や頭痛、心不全や心臓麻痺を引き起こして死に至る可能性もあります。
まさかスズランを口にする機会なんてないと思うかもしれませんが、スズランは山菜の一種であるギョウジャニンニクに外見が酷似しており、北海道などではしばしば誤食されます。
そうでなくとも葉はニラやネギに、球根はタマネギによく似ており、誤る可能性は否定できません。
ほかにもスズランの中で最も強い毒性を持つ赤い木の実を子どもなどが誤って食べてしまうケースや、スズランを生けておいた花瓶の水にスズランの毒素が溶け込み、その水を誤って飲んでしまうケースなどもあり、いずれも中毒死した事例があります。
またこの毒性を利用し、スズランはモグラよけに利用されることもあります。
田畑のあぜ道などで、スズランが数多く咲いている光景を見たことがある人もいるかもしれませんが、これは球根に強い毒性を持つスズランを植えることでモグラの食害を防いでいるのです。
スズランは外見も可憐で、香りもよく非常に人気の花です。
しかしスズランを栽培する場合は、毒性をよく理解し、特に小さな子どものいる家庭などでは誤食をしないよう注意しなくてはなりません。
また普段世話をするときもスズランを触った場合には必ず手を洗い、スズランを触った手が口元へ行かないよう注意する必要があります。
まとめ
今回は綺麗な外見をした危険な有毒生物を紹介しました。
鮮やかな色合いをしていたり、独特の形状をしている生物に対してはどうしても興味が勝り、近づいてみたい、触れてみたいと思うものです。
しかし「綺麗なバラにはトゲがある」というように、綺麗な生き物もただ綺麗なだけではなく、身を守る術を持っています。
動物と触れ合うときには必ずそれが安全かどうかを確かめる必要があります。
そして安全かどうかを判断するためには、知識が何よりも大切です。
知らないままむやみに触れることは絶対に避けましょう。