シカというと、どんなイメージを持つでしょうか。ディズニー映画の「バンビ」や、奈良公園の鹿など、スラッとしていて可愛らしい動物だというイメージを持っている方が多いと思います。
ですが、シカはシカでも、驚くほどデカくて狂暴なシカがいることをご存知でしょうか。
世界最大サイズの規格外なシカについて、詳しく紹介してみましょう。
鹿ってどんな動物?
世界最大のシカと比較するために、一般的なシカとしてニホンジカの基本的な特徴をまず見てみましょう。
ニホンジカは頭胴長が130~160cmで、肩高は80~90cm、体重は40~90kgです。
日本のシカで有名なのが奈良公園のシカです。
万葉集にはすでに、佐伯赤麻呂や大伴家持が奈良の鹿の歌を詠んでいるほど、奈良と鹿の歴史は古く深い関係があり、奈良市一円のシカは「奈良のシカ」として、1957年(昭和32年)に国の天然記念物に指定されています。
奈良のシカは、修学旅行生や外国人客など観光客にも大変親しまれており、愛玩用に与える鹿せんべいを美味しそうに食べるなど、通常は人に危害を加えることはない、愛らしい動物です。
世界最大の鹿 ヘラジカ
世界最大級の鹿はヘラジカといいます。
ヘラジカ(箆鹿、Alces alces)は、北アメリカ、カナダ、北欧、ロシア、中国東北部といった寒い地域に生息しているシカです。
その大きさは体長2メートルから3メートルを超え、体重は200キロから800キロを超えるものまでいます。
角だけで2メートルもあり、陸上動物の中では、ゾウに次いで大きな体を持っています。
英語では、北アメリカのヘラジカをムース(moose)と呼び、ユーラシア大陸のヘラジカをエルク(elk)と呼びます。
スウェーデンやノルウェーなど北欧では、ヘラジカを「森の王」と呼んで、国の動物としています。
ノルウェーでは、自治体の紋章にヘラジカを採用しているところが多くあります。
カナダでも、国を象徴する動物として、ビーバーとヘラジカが選ばれています。
ヘラジカに出会ったら最後、死を覚悟!?
超巨大な体を持つヘラジカは、人間の命を奪ってしまうこともあります。
ヘラジカの生息地域では、車とヘラジカが衝突する交通事故が起こることがあり、人命が奪われることがあるのです。
アメリカでは年間250人もの人間が、ヘラジカとの衝突事故で命を落としているといいます。
ヘラジカが多く生息する地域を車で走っていると、ムース(ヘラジカ)に注意するように促す交通看板がそこかしこで確認できます。
ヘラジカとの接触事故がたいへん多いとされているカナダ・ケベック州では、車と野生動物との衝突事故が年間で2000件以上発生していて、そのうちヘラジカとの事故は年間300件近くになります。
このうちの2%ほどは、人間の死亡事故につながってしまっています。
対人ではなく”対シカ”を想定する自動車メーカーの戦い
ヘラジカは道路に飛び出してしまうことが多くあります。
ヘラジカが大きすぎて車の運転席からは細い脚しか見えず、特に夜間では体色が闇に紛れてしまって発見が遅れてしまうのです。
ヘラジカと車が正面衝突してしまうと、ヘラジカの脚の骨が折れて巨大な体がボンネットに倒れ込みます。
頭部には立派で大きな角も生えています。
その衝撃はすさまじく、フロントガラスは粉々に割れ、エアバッグも衝撃を吸収できずに、車に乗っている人はたいへんなダメージを受けます。
メルセデスベンツやボルボなどの自動車メーカーでは、ヘラジカとの衝突事故を想定した安全評価を行っているほどです。
ボルボでは、開発の段階からヘラジカと衝突しても大丈夫なような車両設計を行います。
近年では、大型野生動物対応自動衝突軽減装置という安全装置が搭載されています。
さすがの”百獣の王”も敵わない!?
自らを”百獣の王”と表現しているタレントの武井壮は、かつて巨大なヘラジカに遭遇して人生の転機を迎えた経験を持っています。
タイガー・ウッズの影響でプロゴルファーになろうとアメリカへ留学中だった頃のエピソードです。
ダイエットのために住んでいた寮の近くの森をジョギング中に、バカみたいにデカいヘラジカに遭遇したのです。
本気で殺されると感じて腰が抜けてしまい、その瞬間ある考えに思い当たったそうです。
それは、スポーツを頑張っているのはいいけど、その最中に山で鹿に遭遇してたら殺されていたかもしれないという考えで、この経験はとても衝撃を受けたそうです。
その帰りに分厚い動物図鑑を購入して、シカについて調べだしたのが百獣の王を目指すきっかけになったとのことです。
命の危機を感じるほどの圧倒的な動物に遭遇すると、人生観がガラッと変わってしまうほどの衝撃を受けるということでしょう。
森の王ヘラジカの天敵とは?
規格外サイズのヘラジカですが、もちろん天敵も存在します。
それは、トラやクマ、オオカミ、ヒョウ、ピューマ、ヤマネコなどです。
この中で特に手ごわいのはオオカミと言えます。
オオカミは群れをなして狩りを行うので、どこまでも執拗に追い続けます。
長い時には何日も疲れるまで追い回されるため、ヘラジカにとってはかなり厄介です。
人間のハンターもヘラジカを狩ることがあるので、人間もヘラジカの天敵と言えるでしょう。
フィンランドでは、ヘラジカの数が増えすぎてしまわないように、ある程度の数を狩猟することで抑えていると言います。
また、とても意外な敵として”自分自身の角”があります。
ヘラジカのオス同士が戦った際に、オス同士の角が絡まってしまうと共倒れになってしまいます。
角が絡まったまま弱ってしまって他の動物に捕食されてしまったり、湖に落ちてしまったり、そのような不名誉な死を遂げるヘラジカもしばしばいるようです。
神々しいレアキャラのヘラジカ
スウェーデン南西部ベルムランド県で探検家に目撃されたのが、真っ白いヘラジカです。
スウェーデンでは野生のヘラジカが多く生息している国として知られていて、夏の時期には30万から40万頭にもなりますが、白いヘラジカはたったの100頭ほどしか生息していないという、大変希少な個体だといいます。
この白いヘラジカは角までが真っ白になっており、メラニン色素が先天的に欠乏しているアルビノ(先天性白皮症)ではなく、非常にまれな遺伝的の変異(白変種)によるものだと言われています。
白いヘラジカは、カナダやアメリカのアラスカ州でも目撃例があります。
カナダでは、体の50%以上が白くなっているヘラジカを殺すことを禁止しています。
世界最大の鹿「ヘラジカ」は日本で見れる?
巨大なヘラジカを実際に見てみたいという人も多いでしょう。
日本の動物園でヘラジカを見ることはできるのでしょうか?
かつてはヘラジカを飼育している日本の動物園がありました。
それは、神奈川県の横浜市立金沢動物園と、川崎市の夢見ヶ崎動物公園です。
横浜市立金沢動物園には、アメリカのミネソタ動物園からやってきたオスのヘラジカが飼育されていました。
ですが、木の枝が角に絡まってしまって、展示場の外側にある空堀に転落してしまい、それが原因で亡くなってしまいました。
夢見ヶ崎動物公園にも二頭のヘラジカがいましたが、現在は亡くなっています。
現在はワシントン条約により、ヘラジカを海外から輸入することがたいへん難しくなっており、ヘラジカを日本の動物園で見ることは残念ながらできません。
まとめ
いかがだったでしょうか。
まるで恐竜のように巨大な動物が、実際に存在していると思うと、自然の大きさを実感できると思います。
日本ではこのヘラジカの大きさを間近で見ることができませんが、今後もしも条約などが改正されてヘラジカが日本にやってくることができるようになったら、是非見に行ってみて、その規格外の大きさを体感すると良いでしょう。