航空機や船舶、自動車など交通手段が広く普及することで、世界の時間的な距離が大きく短縮されています。
わずか半世紀前には一大関心事であった海外旅行、特にヨーロッパやアメリカへの旅行は今やちょっとした贅沢程度の位置付けとなっています。
この交通手段の中でも比較的長い歴史を有し、今でもその中心に位置しているのが鉄道です。
鉄道もまた歴史の中で進化を重ね、安全性や最高速度などを向上させてきました。
今回は世界の鉄道車両の中で最速の車両をランキング形式で紹介していきます。
10位:700T型列車(時速300㎞)
引用元:http://photozou.jp/
台湾の南北端である台北と高雄をつなぐ台湾高速鉄道で走る700T型列車は、日本とも非常に縁の深い車両です。
700T型列車は、700系新幹線を元にJR東海とJR西日本が輸出用新幹線として開発しました。
製造は川崎重工業と日本車輌製造、日立製作所が担当しています。
基本的な設計は700系新幹線と共通していますが、台湾と日本の鉄道事情の差異を考慮した結果、細部に違いが見られます。
例えば台湾では線路の規格が日本と異なるため、車両の先端形状が700系から変更されました。
ほかにも日本の新幹線では乗務員室の側面に乗務員用の扉が設けられ、乗務員はその扉から出入りするのが一般的ですが台湾では客室用扉を利用して乗務員室に入ります。
そのため700T型列車でも乗務員室側面の扉が省略されています。
現在台湾高速鉄道では12両編成の700T型列車を33セット、合計392台を保有しています。
700T型列車の設計最高速度は時速315㎞であり、現在の最高営業速度は時速300㎞です。
南港駅から左営駅を、ノンストップの場合およそ1時間半で走破します。
10位:ETR500 フレッチャロッサ(時速300㎞)
引用元:http://blog.livedoor.jp/
フレッチャロッサ(Frecciarossa)とはイタリア語で「赤い矢」という意味の言葉です。
イタリアのトリノからナポリまでをつなぐユーロスター・イタリアは高速鉄道を優等列車であるフレッチャロッサとそうでないフレッチャルジェント(銀の矢)に分けています。
このうち、フレッチャロッサで用いられるETR500は最高営業時速300㎞を誇ります。
イタリアはヨーロッパで最初に高速鉄道を導入した国でしたが、高速鉄道網自体は長く充分に整備されていませんでした。
そこでフェッロヴィーエ・デッロ・スタート(イタリア国鉄)が最高営業速度時速300㎞を誇る高速鉄道網の整備に着手し、1993年に開発したものがETR500です。
しかし初期型は電化方式などによって最高営業速度が時速250㎞に制限されていました。
現在ETR500を運用するトレニタリアは古い世代のETR500を新しい世代のものに順次更新しています。
時速250kmまでしか出せないものはフレッチャルゼント、300㎞まで出せるものをフレッチャロッサとして区別し、後者は設備面も最新のものが用意されています。
8位:TGV Duplex(時速320㎞)
引用元:http://b767-281.cocolog-nifty.com/
TGVはフランス語の「高速列車(Train à Grande Vitesse)」の略であり、フランスを代表する高速鉄道です。
日本語では「フランス新幹線」などとも言われます。
TGVは営業速度の最速が時速320㎞を誇り、パリを中心にリヨンやアヴィニョン、ストラスブールなどフランス各地をつないでいます。
ほかにもドイツやイタリア、ルクセンブルグなどの近隣諸国にも乗り入れています。
TGVには複数の種類の車両が運用されていますが、中でもTGV Duplexは唯一の2階建車両(ダブルデッカー)です。
1981年にTGVが開業して以来、乗客輸送数は順調に増えていました。
そのため1990年までに抜本的な輸送量を増やすために、TGVの全車両をダブルデッカーとする計画が持ち上がります。
そこで1995年に製造されたのがTGV Duplexです。
Duplexは従来のTGVから大幅な技術革新が進んでおり、車体の軽量化や静粛性の向上などが図られています。
8位:Alstom EuroDuplex(時速320㎞)
引用元:https://www.railway-technology.com/
Alstom EuroDuplexはTGVの中でも、2011年に運行を開始した比較的新しい車両です。
開発元はフランスのサン=トゥアンに本社を置く多国籍企業であるアルストムです。
アルストムはボンバルディア・トランスポーテーション、シーメンスと並ぶ世界三大鉄道車両メーカーのひとつで、世界のおよそ2割強のシェアを占めています。
Alstom EuroDuplexの特徴は主に2点です。
ひとつは最大乗客数です。
旧来のTGV Duplexではわずか512人しか乗客を輸送することができませんでしたが、Alstom EuroDuplexは1000人以上も乗せることができます。
そのうえ台数を減らすことで接続部分の数を減少させ、車体重量の軽量化も図っているため乗客1人あたりの輸送コストも下がっています。
もうひとつが規格面です。
Alstom EuroDuplexはフランス国内のみでなく、国境を越えて稼働できるようTSI(インターオペラビリティ技術仕様)の認定を受けています。
実際にTGVはドイツやルクセンブルグ、スイス、スペインなど多くの国で運用されています。
8位:新幹線E5系列車(時速320㎞)
引用元:https://www.jreast.co.jp/
新幹線は日本が世界に誇る高速鉄道です。
毎日多くの乗客を輸送しており、2018年のデータでは東京駅から毎日79991人もの人が新幹線に乗車しています。
先に紹介した700T型列車など輸出されたモデルも存在するうえ、新幹線の登場は世界の高速鉄道に大きな影響を与えました。
そんな新幹線の中で、最も営業速度の速いものがE5系車両です。
E5系車両はE2系車両の後継としてJR東日本が開発し、川崎重工業と日立製作所が製造しました。
2011年3月5日に東北新幹線の「はやぶさ」として営業運転を開始します。
当初は最速で時速300㎞でしたが、東日本大震災による運休を挟んで、2年後の2013年3月16日から時速320㎞での営業運転を行っています。
E5系車両は高速性能のほかに、高速運転によって生じる騒音や振動を低減する仕組みを導入するほか「グランクラス」と言われるグレードを用意するなどゆとりあるインテリアデザインを施しています。
余談ですが、従来新幹線は青や白のイメージが強かった中でE5系はメインカラーに「ときわグリーン」と言われる緑色を用い、「つつじピンク」と言われるピンクの帯を配しています。
このカラーリングが音声合成ソフトウェアの「初音ミク」のイメージキャラクター初音ミクのカラーリングに似ていると話題となりました。
そのため現在の「はやぶさ」の愛称を一般公募した際には「はつね」という愛称が得票数2位に輝いています。
結果、愛称に選ばれたのは「はやぶさ」ですが、その後初音ミクはたびたびE5系電車と関連したグッズが作られるようになっています。
5位:タルゴ350(時速350㎞)
引用元:https://www.railway-technology.com/
タルゴ350はレンフェ(スペイン国鉄)がマドリード-バルセロナ線のマドリード―サルゴサ―リェイダ間で運用する高速鉄道の車両です。
1942年にタルゴⅠの試作機が開発されて以来、タルゴはたびたび開発されています。
タルゴ350は客車部分をタルゴ社が、動力車部分をボンバルディア・トランスポーテ―ション社が開発し、2008年から順次製造が開始された、タルゴの最新車両です。
最高運転速度は時速365kmであり、最大運転速度も時速350kmを誇ります。
この車両には、他の車両には見られない特徴がいくつかあります。
ひとつはすべてのタルゴに共通して見られる「一輪独立」というものです。
通常、電車の車輪は左右が車軸と言われる部品でつながっていますが、タルゴには車軸がなく、すべての車輪が独立しています。
そのため車軸の分だけ通路などを確保できるほか、車体の重心も低くなっています。
スペインは他の国と違って線路の幅が広いうえ、レンフェの路線は山岳地帯が多く、急なカーブなども見られます。
車軸を用いて左右の車輪の回転速度を揃えると車輪の摩耗が激しくなるうえ、カーブでの速度減少が激しくなってしまうためタルゴでは車軸を排しているのです。
もうひとつが独特の先端形状です。
タルゴ350は重心が低いため、先端が下側が伸びた独特の形をしています。
この形状から、タルゴ350には「エルパト(El Pato、スペイン語でアヒル)」と言われます。
タルゴ350の先端部分は空気力学に基づき、横風などによる速度のロスが出ないよう設計されているほか、トンネル区間が多いことを考慮し、トンネル微気圧波の影響を低減するようになっています。
これまでタルゴはスペインのほか多くの国に輸出されており、タルゴ350もサウジアラビアから発注され、輸出される予定です。
5位:ヴェラロE(時速350㎞)
引用元:https://trainspo.com/
ヴェラロEはドイツのシーメンスが開発した高速鉄道車両のひとつで、レンフェがAVE(スペインの高速鉄道)での導入のために発注したものです。
最高運転速度が時速350kmを誇るほか、スペイン国内では初めて時速400kmを記録しています。
ヴェラロシリーズはドイツ鉄道で運用されるICE 3という高速鉄道車両をベースに開発され、スペインで運用されるヴェラロEのほかに多くのモデルがさまざまな国で利用されています。
ドイツでは周辺国への乗り入れを拡大するために、相互運用性に優れたヴェラロDが導入されているほかロシアや中国、イギリス、トルコなどでそれぞれの事情に沿ったモデルが運用されています。
3位:AGV イタロ(時速360㎞)
引用元:https://www.pinterest.ch/
イタロはフランスのアルストム社がAGVという車両にイタリアのNTV(ヌオーヴォ・トラスポルト・ヴィアッジャトーリ)がつけたブランド名です。
AGVはフランス語で高速鉄道車両を意味する「Automotrice à Grande Vitesse」の略称です。
2008年から製造が開始され、2012年からNTVで営業運転を開始しています。
当初アルストム社はフランス国鉄の運用するAGVの後継車両としてTGVを開発しました。
AGVはヨーロッパで最も先進的な鉄道車両と言われ、最新の技術を凝らした高速性能や環境性能を有しています。
しかしフランス国鉄での当面の導入は見送られており、NTVが最初の導入事例となっています。
フランス国鉄で導入されない背景には、まずAGVのバリアフリー化が困難な点があります。
AGVは床下に機器類を配置しており、バリアフリーに欠かせない低床化が不可能です。
加えてフランス国鉄では年々旅客輸送量が増加しており、より多くの人数を乗せることができるダブルデッカーを欠かすことができません。
そのためフランス国鉄はTGVから車両を更新できないでいるのです。
2位:和諧号 CRH380A(時速380㎞)
引用元:https://ja.wikinews.org/
和諧号 CRH380Aは2008年に開発が開始され、2010年に営業運転を開始した中国の鉄道車両です。
現在は上海―南京高速鉄道、上海―杭州高速鉄道、上海―南京高速鉄道など、中国国内の多くの高速鉄道路線で運行しており、特に北京広州間2296kmを結ぶ路線は、世界最長の高速鉄道路線だと言われています。
従来、中国の高速鉄道は他の国からライセンス契約を結んで製造していました。
例えばCRH1はボンバルディア・トランスポーテ―ションの開発したZefiro 250が、CRH2はJR東日本のE2系新幹線がベースとなっています。
これらの他国からの技術供与によって作られた高速鉄道は「和諧号(和諧とは「ハーモニー、調和」という意味の中国語)」と言われました。
しかし2008年、中国の鉄道省は各国の技術供与を受けずに時速380kmを出せる次世代高速鉄道の研究を開始、中国国内の多くの大学を動員し、わずか2年でテスト走行へこぎ着けました。
このようにCRH380Aは表向きは初めて完全な国産に成功した和諧号であるとされていますが、日本の新幹線の技術を秘密裏に盗用したのではないかという疑問も呈されています。
2010年から順次営業運転が始まりましたが、2011年には温州で事故を起こしてしまい、配備の拡大は一時凍結してしまいますが、2012年から再び配備を拡大させています。
CRH380Aは度重なる空力実験などを経て、テスト走行で最高時速486kmを出す高速性能と、高速時の振動を抑え込むことに成功しています。
今後中国はCRH380Aの運用実績を蓄積し、CRH380Aの輸出を計画していると言われています。
1位:上海マグレブトレイン(時速431㎞)
引用元:https://nl.pinterest.com/
磁気浮上鉄道は、現在の鉄道に代わる新しい仕組みとして実用化が期待されています。
磁気浮上鉄道には様々な技術が研究されていますが、概ね従来の鉄道よりもより高速で運行することが可能です。
従来の鉄道ではどうしても車輪と線路が接触し、摩擦を起こすため、加速性能などに限度があり、騒音が生じます。
その点、磁気浮上鉄道は車体と線路が接触しないために加速性能をより高くすることができ、騒音も風切り音しか発生しません。
加えて車体の加重に耐える必要がない分、線路の強度なども小さくて済みます。
消費エネルギーなど、磁気浮上鉄道の完全な実用化にはまだまだ問題もあり、現状では部分的な実用化が限度となっています。
日本ではJR東海などが将来的に超電導リニアを利用した新幹線の開業を計画しているほか、愛知県で愛知高速交通東部丘陵線(リニモ)が運行されています。
上海マグレブトレインは、期間限定の路線を含めれば世界で9番目に実用化された磁気浮上鉄道路線です。
2002年に上海浦東国際空港と上海の竜陽路駅を結ぶ路線として開通しています。
車体はシーメンスとティッセンクルップが合弁で製作し、浦東新区の沖積した軟弱な地盤が線路の敷設に耐えられるよう柱が通常よりも密に打ち込まれるなど苦心の末に開業に至りました。
上海マグレブトレインの最大の特徴は、なんといっても現在の鉄道で最も大きな速度を出す高速性です。
日本のリニモなど世界のほかの常設型の磁気浮上鉄道路線は、さほど長い距離を運行しないこともあり、最高でも時速100km程度しか速度を出すことはありません。
しかし上海マグレブトレインはわずか30kmほどの走行区間であるにもかかわらず、最高時速430kmも出して運行しています。
平均時速も251kmと非常に速く、30kmの区間をわずか8分10秒で走ります。
上海の竜陽路駅は上海の中でもやや郊外に位置しており、今後は線路を延伸し、杭州まで到達する計画があります。
まとめ
今回は世界で最も高速の鉄道を紹介しました。
日本でいえば新幹線のように、世界にはその国を代表する高速鉄道が存在しています。
鉄道は公共交通の要であり、世界各国が力を入れています。
鉄道は多くのファンを魅了していますが、最高時速という観点から見ても興味深いでしょう。