ロボット。
その単語を聞いたとき、皆さんはどんな想像を喚起させられますか?
個人的にはガンダムみたいな戦闘用ロボットが頭に浮かんでしまうのですが、残念なことに、あるいは幸いなことに実用化されている巨大戦闘用ロボット兵器は、今のところ存在していません。
科学技術の進歩により、より強く安価な素材、製造方法の革新、分析技術の向上、機械制御の演算能力の進歩など、ロボット開発に対して必要なテクノロジーは成長をつづけています。
人類に代わり、作業を行ってくれる道具として、ロボットの開発はニーズを得て、本格的な開発に投資と人材が集まるようになりました。
人格を持った自立型ロボットよりも、道具として限定的な作業を高効率で行うロボットが求められています。
今回は、発展が著しいロボットたちの中でも、より小型化されたロボットたちをご紹介していきます。
今回ご紹介する小さなロボットたちが、未来を変えてしまうかも……?
4.5キログラムの超小型6軸産業用ロボットアーム Meca500
https://www.mecademic.com/
総重量にして、わずか4.5キログラムほどにまで小型化された、作業用ロボットアーム。
それがMeca500になります。
実用化されているロボットアームの中でも、最も小型なものであり、オフィスの卓上ツールとしても設置が可能なロボットアームです。
高精度の作業シークエンスを実行することが可能で、ユーザーが設定すべきプログラミングも比較的シンプルであり、用途に合わせた使用をすることが出来ます。
この小型のロボット、Meca500はどれだけの性能を持っているのでしょうか?
プログラミングに従うときに、再現が可能な精度は、最小で0.005ミリメートルになります。これ以下の誤差しかミスしないとも言えますね。
どれぐらいの小ささなのか?
身近な尺度を用いるとすれば、髪の毛の太さでしょうか。
髪の毛の太さはおよそ、0.200ミリメートルです。Meca500は、そのその40分の1の精度をなぞるように動き作業を実行することが可能なのです。
指で髪の毛や、その他の体毛をつまんでみてください。
Meca500は、あなたの指と指のあいだにある距離の、40分の1のサイズを精確に再現する能力を有しているのです。
さて、ロボットアームの小形化にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
デメリットは想像はつきやすいですよね、パワーの大きなダウンです。
支持することが可能な重量は低下しますし、頑丈さも下がるかもしれません。
小型過ぎると、修理を行うサービスマンも不利になるでしょう。修理のための作業スペースが内部には存在しなくなります。
あらゆる器具が有するデメリットは、想定外の失敗でない限り、コンセプトが持つ運命的なものであり、変えることは出来ません。
しかし、そのデメリットを許容するほどのメリットが存在しています。
小型であるために、設置するスペースの確保を機にする必要が無くなるわけです。
Meca500なら、卓上に置いて精密な組み立て作業などを行えるようになります。
つまり、新たに作業空間を増設しなくても、ロボットアームでしか再現することが不可能な精密さを使えるようになるわけです。
従来のロボットアームを置けない場所にも、このMeca500なら設置して、精密なその能力を作業に用いることだって可能になります。
スペースを取らないことは、小型化することの最大の利点です。
地下空間や、あるいは宇宙空間においても、小型化されたロボットアームはその能力を使うことが出来るわけですから。
未来においては宇宙空間で超精密な製造作業が一般化されて、宇宙空間に工場が作られる日も来るかもしれません。
精密機械を組み立てる機械を組み立てていく機械、ロボットアームの小型化は、その可能性につながっていくかもしれないものです。
人類が宇宙進出を本気で考えるときには、小型化された工業プラントの存在は必須課題になりますが、ロボットアームの小型化はその課題に対する答えに近づいてくれる存在になるかもしれません。
0.26グラムの機械蜂 RoboBee X-Wing
https://wired.jp/
RoboBee X-Wingたち、フライサイズ・ロボットたちの目標は究極の小型化と自律稼働の実現です。
バッテリーという重量物さえも、ハエの大きさや軽さ……最小・最軽量を目指すフライサイズ・ロボットには不適格となります。
最小型のドローンたちと比べても、RoboBee X-Wingの軽さはずば抜けているのは明白。ワイヤーを使った電力供給式ではないマシンのなかでは、RoboBee X-Wingは世界最軽量の地位にあります。
0.26グラム、5.1センチ。
ボタンサイズの電池よりも、この最軽量の飛行ロボットははるかに軽いのです。1円玉のおよそ4分の1の軽さでありながら、空を飛ぶことを実現しました。
このロボットの特徴は最軽量であることと共に、太陽光パネルで電力を発生させているという仕組みです。
太陽光パネルの小型化と効率化が、RoboBee X-Wingを支えてくれているわけですね。
光さえあれば、RoboBee X-Wingは電力を確保して、その小さな4つの羽を動かして、空を飛ぶことが可能となります。
旧式のRoboBeeは有線式であったため、電力供給を考えなくても良かったわけですが、RoboBee X-Wingは自力でエネルギーを確保するという進化を遂げたのです。
より独立したロボットに変貌しました。
とはいえ、現状では機能に限界があります。RoboBee X-Wingの飛行時間は0.5秒ほどになり、しかも風のない室内でしか使えません。
小型であるほどに空気中では風の影響を受けます。というよりも、地球上にある物理法則の大半が、小型化された飛行ロボットに不利な条件として機能することになるのです。
不安定であり、軽すぎるため風に飛ばされてしまいます。
軽量化を目指せば、積載できるシステムが制限され、バッテリーは重すぎます。
蜂やハチドリのように、揚力を耐えず供給しなければ即座に墜落することになります。
困難が山積みですが、軽量化を目指すことにメリットがあるのでしょうか?
十数倍の重さを許容すれば、2センチ四方の小型のドローンも存在しています。それで十分なのでは?……そう考えてしまいがちですが、より軽量化を目指すことで獲得できるメリットも存在します。
重量が軽くした時の最大のメリットは、製作コストを抑えることが可能となることです。
昆虫サイズのロボットたちに科学者が期待していることは、単独での高性能ではありません。
数千、数万、数億あるいはそれ以上の個体による組織的な戦略遂行能力なのです。
環境に対してあまねく存在する労働力を持った個体たちが、同じ目的のもとに協調し、データを採取、あるいは与えられたタスクを実行することも可能となります。
数さえいれば少数の故障でもカバーして、目的を達成することが可能となるわけです。そして、数が多いほど観測されるデータの信頼性が上がります。
一定の地域に無数の小型ロボットを配備することで、地域全体の環境の変化、雨量や風速や気圧の変化などのデータを収集することが可能であれば?
現在の気象学が有していないデータ収集を手に入れたことになります。
軽量化、低コスト化の目指すゴールのひとつは、大量生産です。個体の能力よりも、数を頼った組織力を使うことが可能なら、低能力の小型機でも問題ありません。
そして、もうひとつのメリットは、小型でなければならないことが実行可能ということです。
小型化の目指す究極のひとつは、ナノマシンです。
血管内や細胞内に入り込み、ヒトの健康に貢献あるいは有害な行いを成せるような、医療用のナノマシンもいつか人類は開発するかもしれません。
道は遠いものですが、ひとつひとつ課題を達成することにより、機械蜂は人類に大きな力を与える発明品になるかもしれないですね。
最も小型な水中撮影ロボット Gnom
https://gnomrov.com/
ノーム、妖精あるいは小人の名前を冠する水中撮影ロボットが、このGnomシリーズになります。
小型で高性能、比較的な低価格というユーザーに対してのセールス・ポイントの多いロボットですね。
性能そのものは同シリーズでも大型機になるほど良いものになりますが、Gnomの最小機体になるベイビーサイズは全長210mm、横幅180mm、高さ150mmの、1.5キログラムでありながら、水深60メートルまで潜っての撮影が可能です。
ロシア科学アカデミー内の企業、インデルパートナー株式会社が製造しています。販売を受け持つディーラーは、十数ヵ国にありますので、日本でも金さえ振り込めば購入が可能なアイテムです。
Gnomシリーズの使用法は多岐に渡ります。
ダイバーと共に水中や海底の探査にも使用されるのはもちろんのこと、船舶の損傷やプロペラのダメージを確認する検査にも用いられています。
水産業での使用例をあげれば、魚類を追跡しての産卵場所の特定にも使われているのです。
漁具を水中から観察し、その性能の向上や設計通りの機能をしているかを評価、研究開発へのフィードバックにも貢献します。
水産資源の評価や研究に対しても、小型機の使用は時に大型機に勝るニーズがあります。狭い岩の裂け目に対しても、進入することが可能となるからです。
他にも水中考古学への使用や、原子炉における燃料棒を保管しているプール内への投入などの放射線測定においても活用されています。
Gnomは多くのオプションを付けることが可能なのも特徴であり、最も高級なグレードでは、期待内・外の高性能ソナーの追加、対象物の大きさを計れるビームポインター、後部カメラ、マニュピレーターの装着などが可能になります。
レーザー照準装置付きのスピア・ガンも装備することが可能で、生物に対する攻撃能力を追加することもGnomには可能なのです。
軍事コンペなどでも受賞実績があり、水中撮影ロボットとして以外の活躍を行える可能性を秘めたロボットと言えるかもしれません。
チリの養殖場においては、特殊な装備をつけられたGnomが5ノットの海流に耐えつつ、生け簀内の病気の魚を発見することに成功しており、病気個体の速やかな捕獲に貢献しています。
5ノットの海流に耐えるとは、どんなことなのでしょうか?
毎秒2.5メートル流されることになり、時速で言えば9キロメートル流されます。世界的な競泳大会の優勝者が泳ぐことの出来る速さは時速で8キロメートル程度ですから、ヒトでは確実に流されてしまいます。
そもそも、0.5ノットを超える時点でダイバーにら危険な環境と言えます。速いダイバーでも、せいぜい1ノットでしか泳げません。
酸素や窒素の影響を受けるダイバーは精神的に不安定になりやすい状態にあり、ルートから離れてしまうなどの、突発的なイベントで容易にパニックになります。
速い海流にもGnomが耐えてくれるのなら、その危険な環境にもヒトの代わりに出動することが出来ます。
この現場では、Gnomに生け簀の清掃を行う装置を搭載しようとする研究も行われており、水中ロボットたちに期待される次世代の作業技術が組み込まれるかもしれません。
生け簀や養殖用池の寿命を改善することは、ユーザーに大きな経済的なメリットとして返って来ます。
小型であり高性能で、ゲーム用ジョイスティックを使うことで高い操作性まであわせ持つGnomには、水中観察能力だけでなく、多用な作業能力を獲得させる企業努力が注がれています。
近い将来、ダイバーの命を危険にさらす作業の多くが、水中ロボットの技術の進歩により失われて行くことになるでしょう。
北極や南極などの極寒の海であろうとも、放射性廃棄物が漂う原子力事故の現場でも、ダイバーの泳ぎでは生還不可能な海流の速さでも作業を実行することが可能なのですから。
最小の歩行可能ロボット マイクロブリストルボット
https://techable.jp/
アメリカのジョージア工科大学において、そのロボットは作られました。
2019年7月に研究レポートを公開し、世界最小クラスのサイズを謳う、ロボットを開発しました。
そのサイズは長さ約2mm、幅1.8mm、厚さ0.8mmで、重さは約5mg(一円玉のおよそ200分の1)となります。
マイクロブリストルボットは3Dプリンターにより印刷されるようにして作られました。
立体的な構造を最初から作るのではなく、無数に描写を上書きしていくことで生産されています。
マイクロブリストルボットのスペックですが、このサイズになると当然ながらバッテリーは搭載することは不可能です。多くの極小ロボットたちと同じように、外部からのエネルギーに依存することになります。
六本ないし四本の脚をデザインされており、このアリサイズのロボットたちは、超音波やスピーカーなどにより外部から供給される振動をエネルギーにして、小さな脚たちを上下に動かします。
そうすることで、脚にあらかじめ与えられている角度に依存した動きが可能となるわけです。
……振動で揺れて動いているわけではなく、ちゃんと脚が動くことで進んでいるわけですね。
このロボットの移動速度は、秒速で8mmになります。秒間あたりで、自分のサイズの4倍ほどの移動能力を持っています。
マイクロブリストルボットは、振動に依存した動きをするわけですが、その構造に多少の変更を加えることで、任意の動きを実現することが可能になるのです。
反応する固有の周波数と、エネルギーを受け取ったときの移動方向に個性を持たせることで、それぞれのマイクロブリストルボットに、反応する振動と運動の方向を寄与することが出来ます。
1の振動では、aが前に。2の振動ではbが右に。3の振動ではcが左に……という命令応答の個性を持たせることが出来るわけです。
それらの応答性を活かし、マイクロブリストルボット同士を複数接合させることで、より高度な操縦性を持たせられないかという研究が進んでいます。
これらに当てる超音波の周波数を選ぶことで、前や左にこちらの意のままに動いてくれるロボットが誕生するのかもしれません。
シンプルな構造を複数組み合わせることで複雑さを上げていく、というような考え方ですね。
マイクロブリストルボットのアクチュエーターの材質は、チタン酸ジルコン酸鉛です。
これは電圧が加えられると振動し、逆に振動しているときは電圧を回収することも出来ます。
その電圧をマイクロブリストルボットはシステム起動に応用していたりします。
小型ロボットの場合、大きな課題となるのが動力の確保です。
超がつくほど小型のロボットに対して、バッテリーを搭載することは論外であり、有線で電力を送るなどの方法が有効でないサイズまでも小型化してしまうと問題は難易度を高めます。
しかし、極小ロボットにも、動力というテーマにおいては利点も発生しています。
どういう利点なのか?……動くためのエネルギーが少なくて済むということです。
小さいからこそ、小さな力で動けるわけですね。
音波や超音波などの振動をエネルギーに変える試みの他にも、太陽光発電もあれば、磁力を使った動力の供給もあります。
太陽光発電ではパネルが邪魔であり、大きさもある程度必要となってしまいます。
磁力による誘導も有効ですが、課題としては繊細なコントロールが難しいことです。
磁力では、一斉に無数の超小型ロボットたちを同じ方向に動かすことには優れていますが、磁力は大小の加減しかできません。
しかし、振動に動力の根拠を持つマイクロブリストルボットならば、反応する固有の周波数を設定、変更が出来るという点で優れていると言えます。
動力でありながらコントローラーにもなる可能性が、振動には秘められているわけです。
無数の小型ロボットに同じ命令を同時発信するだけでなく、複数の命令を同時かつ複合的に送ることが可能となれば、無数の小型ロボットたちが、より効率的な「群れ」としての作業能力を実行することが出来るようになります。
振動による完全なコントロールが可能な超小型ロボットが、組織だって作業を行う……それは革命的な技術革新につながることかもしれません。
しかし、マイクロブリストルボットは製造するために時間がかかり、数千個単位での増産を簡易に行うための研究は始まったところです。
課題は多く存在していますが、高度なコントロール能力を有した超小型ロボットの誕生は未来を想像させてくれます。
マイクロブリストルボットはアリと同じようなサイズであり、寄生虫に比べても大きなサイズのロボットではありません。
体内に埋め込み、超音波を照射することでタスクを実行する能力があれば、医療用のロボットとして活躍してくれる可能性があります。
寄生虫のように体内に埋没し、何かしらの医療行為に関与してくれる機能が搭載されたなら、医学界に革命を起こす可能性だってあるわけですね。
課題を克服する度に、色々な機能が実現されていき、やがては人工的な有益寄生虫型ロボットなどの開発にだってつながるかもしれません。
マイクロブリストルボットの開発チームは、今のところマイクロブリストルボットに歩行能力を与えていますが、バッタのようにジャンプさせるロボットにも興味を持っているようです。
より移動能力を向上させたマイクロブリストルボットが、近い将来に発明されるかもしれませんね。
ロボットと生物の境界線をあやふやにする ナノマシン
https://www.titech.ac.jp/
現在、医療型ナノマシンの開発・研究が進んでいます。
そのサイズは0.1~100ナノメートル……一ミリメートルの百万分の一のサイズがナノメートルなので、恐ろしいほどに小さなものです。
現在は比較的簡単である医療ナノマシンの研究報告が多くなされています。
なぜ、簡単なのかというと、薬品と設計デザインが似ているところにあるわけです。
医療型ナノマシンは小型過ぎて、能動的な移動は不可能です。基本的には分子構造由来の接続能力に依存して行動しています。
飲み薬が幹部に化学物質が届く理由は、分子構造の形がターゲットとして設定されている細胞やウイルスなどに、組みつくことが可能だからです。
分子構造は複雑なパズルと同じ。組み合わさることが出来る場所にしか、組みつくことは出来ません。
ナノマシンも薬と同じように、ターゲットと分子構造レベルで合体することが出来るような形となっています。
だから、ターゲットの細胞に近づくと分子構造のパズルに合致して、そこに止まることが可能となるわけです。
薬と同じ原理ですね。くっつけるところに行くまで、体を流れ続けるわけですね。
正直、ここまで行くと薬物と何が違うのか?という問いに一言で答えることも困難かもしれません。
薬物と大きな違いは、物理反応に応答性を持たせているということでしょうか?
体外から照射される光などの物理的な刺激に対して、活性酸素などを発生させる仕組みを持つことで、任意の場所で、ターゲットを守る生体組織などを破壊、ターゲットに接近することも可能です。
一部のガンなどに抗がん剤の効き目が悪いのは、そういったガン細胞には血管という薬物の宅配路に障害物があるからです。
光刺激で活性酸素を放つナノマシンに抗がん剤をくっつけ、さらにはガンの患部に光を照射すると、患部に接近したナノマシンは、患部でのみ活性酸素を放出します。
通路の障害物を、活性酸素で破壊し、患部に薬物を運び込みやすくする、というデザインのナノマシンもあるわけです。
ナノマシン本体に仕掛けた爆弾を、外部からの信号で選択的に作動させて、薬を届けるのに邪魔な場所を爆破してルートをこじ開けているようなものになります。
薬物の運び屋としての役目が、現実的なナノマシン医療の展望かもしれません。
今のところ、高度な移動能力や、こちらの信号に移動能力を発揮しているナノマシンはありません。
体内では血液などを動力として、作用は分子構造由来にする、という従来の薬物と同じ動きが有効であり、それに逆らってしまうと物理学を敵に回しすぎるかもしれないですね。
……さて、医療用ナノマシンは薬物に似ているのですが、もう一つコンセプトが似た存在がいます。
何かと言うと、病原体です。
とくにウイルスなどにそっくりと言えます。本体そのものは自己増殖の機能はなく、自分の表面と適合する場所に食らいつく作用がある。
そして、化学物質を細胞内に送り込む。
ウイルスの場合は、化学物質というか遺伝物質を送り込み、占領した細胞に自分のクローンを製造させることで増殖します。
よく似ていますね。医療用ナノマシンの多くはウイルス型ロボットと言えるかもしれませんし、一つの事実として、遺伝物質の運び屋としてデザインされた医療用ナノマシンも多数います。
これらは局所の細胞に、遺伝物質を送り込むことで、遺伝物質にコードされた作戦を強制的に起動させることが可能です。
遺伝物質は、細胞に仕事をさせるコードですからね。これを細胞に届ければ、細胞はこちらの思惑通りに、免疫物質を作ったり、細胞分裂を早めたりすることになります。
ウイルスそのものですね。
医療用ナノマシンの理解は、人工ウイルスという認識していることと間違いではないと思います。
ちなみに、サイボーグみたいなナノマシンも研究が行われています。
これは、遺伝物質などの、体内のタンバク質をナノマシンの素材に組み込んでしまえという理屈です。
ナノマシンは分子構造に従う力しかありませんので、体内で出会えば予定された分子構造に結び付きます。
ナノマシン材料aとbを、体内にそれぞれ注いだとしても、分子構造の運命に従い、やがて合体することも計画出来るのです。
ならば、生体組織をナノマシンの素材にすることも不可能ではありませんね。
DNAなどの可動式の螺旋構造物に、ナノマシン素材をくっつけることで、任意の形状に変えることも可能です。材料として選べるわけです。
細胞のサイボーグ化みたいなイメージですね。研究が進めば、弱った細胞を元気にするにナノマシン・パーツを細胞に送り込み、デザイン通りの機能の変化を与えられるかもしれません。
薬物ともウイルスにも似ている存在ですからね……悪用することも可能です。ナノマシンによる暗殺を、法医学が見つけることは現状では不可能でしょうから、有罪に問えない殺人も、毒ナノマシンがあれば容易いかもしれません。
そして、肉体能力の強化なども行えます。筋力増強効果のあるホルモンを過剰に分泌する遺伝子を乗せたナノマシンが、細胞にその遺伝子を導入するかもしれませんね。
オリンピックなどでは各国のナショナリズが作用することもあり、アマチュア・スポーツのアスリートの多くはプロと異なり資金難です。
だからこそ金や名誉を動機としたドーピングが提供され、それにアマチュア・アスリートも飛び付くわけです。
近い将来に、ナノマシンによる、遺伝子ドーピングでメダルを剥奪される選手たちを何百人目撃する時代は絶対に来るでしょうね。
もしかしたら、すでにナノマシンにより遺伝子を変異させられたアスリートたちを、我々は目撃しているのかもしれません……。
まとめ
グレイグーという言葉があります。
簡単に言えば、分子ナノテクノロジーが失敗したシナリオで、制御不能な自己複製ナノロボットが生態系全体を消費してしまうという、今のところ架空の事象です。
小型ロボットは、複製のコストが少なく、技術的な環境がそろえば資源がある限り無数に増産することが可能かもしれません。
世界を埋めつくすほどの小型ロボットは作れないかもしれませんが、遺伝子を組み替えるウイルスとも機械とも呼べないナノマシンを、生態系に不可逆的な破壊を与える量ほど産み出すことは、近未来において不可能ではなさそうです。
……温暖化や大気・海洋汚染など、環境の破壊が深刻化する現代では、ロボット技術に依存度を深めることになって行きます。
環境破壊と環境維持のコストの増加で滅びた古代国家や都市は多く、それを回避あるいは遠ざけるシナリオは、冗談みたいなことにロボット技術しかないのかもしれません。
破滅的な自然環境に、高度なロボットたちが黙々と作業で対処する時代も遠くない可能性があります。
ロボットの小型化や進化はニーズを得て、投資が注がれ、経済的な動機に促されて進み続けていくことになります。
いつか経済性重視で、無限大に増殖する機能を持たされたロボットたちが、環境に解き放たれ、グレイグーを起こす……そんな日は来ないで欲しいものですね。