機能性や利便性よりも美しさや楽しさ、建築物としての挑戦をテーマに作られた建物は世界に数多く存在し、中には地震大国である日本では恐らく見ることが困難だろうと思われるようなものも少なからずあります。
この建物を見るためだけにこの土地を訪れたいと思わせるような独創的な建物を、国外・国内からそれぞれ紹介していきます。
海外の変わった建物・公共施設編
①カンザスシティ公共図書館
カンザスシティ公共図書館の本館は19世紀に建てられた石造りの堅牢な建物ですが、目玉となっているのは隣接する駐車場の建物です。
幅約90mもある大型の駐車場のファザードには本の背表紙がデザインされ、巨大な本棚のような姿をしています。本は1冊辺りが約7.6m×約2.7mのサイズで、合計22冊がずらりと並びます。
本のタイトルは「ハックルベリー・フィンの冒険」や「指輪物語」などで、地域住民から公募された中から選定されており、「地域の本棚」とも呼ばれているそうです。
巨大な本の両サイドにはブックエンドを模した階段や、入り口の階段やベンチも重なった本を模していたりと、細部まで遊び心がある点も見逃せません。
②ブラジリア大聖堂
ブラジルの新しい首都として、飛行機の形を模してつくられた計画都市・ブラジリア。その街のちょうど機首と翼の間の地点に作られたのが、カトリック教会であるブラジリア大聖堂です。
建築家、オスカー・ニーマイヤーによって建てられたブラジリア大聖堂は、従来の左右対称な石造りの教会とは一線を画する、16本の白い支柱が空に向かって集結していくような双曲面構造となっています。
聖堂内に入ると、四方を青、赤、緑、黄のステンドグラスに囲まれた幻想的な空間が広がり、3体の天使象が中空に吊るされています。祈りをささげる手を模したとされる外見だけではなく、内部まで緻密に作りこまれたブラジリアの顔とも言える建造物です。
③シャネルモバイルアート
引用元:http://www.architen.com/
2008年にシャネルのブランドアイコンでもあるキルティングバッグをモチーフに、20組のコンテンポラリー・アーティスト達が現代アートを作成しました。
そしてそれら作品が、香港、東京、ニューヨーク、ロンドン、モスクワ、パリと世界を巡れるようにデザインされた移動式の展示場が、シャネルモバイルアートです。大都市の間を移動する宇宙船のような建物は、約300のパーツに分解可能で、開催地で再構築されて世界各地に姿を見せました。
パビリオンの素材はプラスチックや塩化ビニール、74トンもの鋼板などで、キルティングを思わせるような膨らみと丸みを持ったデザインとなっています。現在は役目を終えたためにアラブ世界研究所に寄贈されており、パリの中心部に設置されています。
④ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ
引用元:https://www.afar.com/
ガーデンズ・バイ・ザ・ベイはシンガポールにある100万㎡を越す巨大な植物園で、景観デザイナーや園芸家、植物の健康管理者などの様々なプロフェッショナルが集まって開発されました。
建築とデザインによって植物をより美しく見せるような工夫が凝らされており、メインとなるのが龍血樹を思わせるような独特な人口の木「スーパーツリー」で、その周囲には本物のグリーンが巻き付けられています。
高さ50mのツリーのほぼ中央部にはつり橋が掛かり、歩けば植物園とベイエリアを見渡せるようになっています。また、マリーナに面して2つのドームが建ち、約24℃に保たれるフラワードームでは地中海などの春の花が咲き、クラウドフォレストと呼ばれるスペースには標高1000~2000mの環境を再現した人口の山が存在し、高山植物を見ることができます。
⑤エラワン博物館
引用元:http://www.emperorkey.co.th/
エラワン美術館はバンコクの中心地から約15km離れた地点にある、タイの富豪レック・ウィリヤパンが建てた博物館です。
タイを始めとするアジアの伝統と文化、宗教、芸術などを世界に紹介することを目的に個人所蔵の仏像や骨董品を展示した施設であり、展示ホールの屋根部分に飾られた29mもの大きさのヒンドゥーの3頭象・エラワンが目を惹きます。
引用元:http://www.emperorkey.co.th/
外観だけではなく建物の内部も混沌としており、緻密な彫刻を施された螺旋階段の周囲には仏教、キリスト教、ヒンドゥー教と様々な宗教の美術品が所狭しと並べられています。
最上階はエラワン象の体内で、ここでは天上界をイメージした貴重な仏像を拝むことができるようになっており、世界の宗教地図を上を歩いているような不思議な体験ができる施設です。
⑥ホセ・ヴァスコンセロス図書館
ホセ・ヴァスコンセロス図書館は、環境汚染が著しいメキシコシティにおいて、都市の再生を目的とするプロジェクトの一環で建てられた施設です。
緑豊かな庭園とセットで作られたこの図書館は、外観はコンクリート造の四角いシンプルなものですが、内部はSF映画の舞台のような近未来的な作りとなっており、見る者を圧倒します。
奥行き250mの通路の両サイドには天井からつるされた書架が並び、まるでコンピューターの内部を思わせるようなレイアウトがされています。書架の間を泳ぐように横たわるクジラの彫像も幻想的な図書館ですが、その挑戦的な構造ゆえに欠陥も多く、2006年に開館したものの吊るされた書架に不具合が見つかる、建築に違法性が見つかるなどのトラブルが発生してやむなく休館。
その後リニューアル工事をした後、2008年に再度オープンをして現在に至ります。
海外の変わった建物・宿泊施設編
①ツリーホテル
引用元:https://www.tumlare.co.jp/
スウェーデンの北部にある北極圏と目と鼻の先にある人口600人程度の小さな村の森の中に、個性的な小屋が点在する「ツリーホテル」。
7つある客室はバーティル・ハグストロム氏などのスカンジナビアの著名な建築家によって設計されており、上の画像の「UFO」は、軽量ながら耐久性のある材質で作られ、床面積は20㎡、ダブルベッド2台とシングルベッド3台が設置されています。
他にも反射ガラスで覆われた「MIRRORCUBE」などの宿泊施設があり、手付かずの自然と現代的で実験的な建造物が見事に融合している様子が見られます。
②グーテ小屋
引用元:https://kairn.com/
グーテ小屋はフランス側からモンブラン頂上を目指すルート上にある山、エギーユ・デュ・グーテ頂上付近に作られた小屋です。稜線のすぐ下に突き出ており、断崖のへりから飛び立とうとしている宇宙船のようにも見えます。
近未来的に見えますが木造の小屋で、内部は完全予約制の宿泊施設となっています。かつては普通の山小屋でしたが、2013年に改装されて現在の姿に。現在では世界有数の最高級クラスの山小屋として知られています。
③クレイジー・ハウス
ベトナム中南部にある避暑地、ダラットにある「クレイジーハウス」は、「トゥリー・ハウス」とも呼ばれる奇妙なホテルです。
このホテルを建設したのはベトナム社会主義共和国2代目国家主席のチュオン・チンの娘であるダン・ベト・ガーで、人間が行った自然と環境破壊へのメッセージが込められていると言います。
巨木をモチーフにした建物には根や空洞、階段、橋などが迷路のように配置されており、探究心と冒険心を刺激する構造となっています。また客室にはキリンやトラなどの動物をモチーフにした暖炉やベッドが置かれ、自然の中にいるような体験が可能です。
昼間は観光客の出入りが自由となっているため賑わいますが、夜間は宿泊客のみ立ち入り可能となっており、ダラットの夜景を見られる展望スポットとしても人気です。
④アトミウム・キッズ・スフィア・ホテル
引用元:https://www.bruzz.be/
直径18mの球体を鋼鉄のチューブで接合した未来的なデザインのアトミウム・キッズ・スフェア・ホテルは、1958年に開催されたブリュッセル万国博覧会で登場した建造物です。
「科学文明とヒューマニズム」という万博のテーマに合わせて、鉄の結晶構造を1650億倍の姿のアトミウムとして再現しています。昼間の姿もインパクトがあるのですが、夜になると球体の表面に青色のライトが灯り、夜空に浮かび上がる姿はまるで宇宙ステーションのようだと人気の高い観光名所です。
チューブの内部にはエスカレーターや階段が設置されていて球体から球体への移動が可能となっており、それぞれの球体の中にはカフェや万博関連のギャラリーなどの施設が入っています。
ホテルと言っても一般客は宿泊できませんが、球体内に設置されたポッド型のベッドに親子が一緒に泊まる教育プログラムが組まれています。
⑤インテル・ホテルズ・アムステルダム・ザーンダム
引用元:https://www.hotels.nl/
インテル・ホテルズ・アムステルダム・ザーンダムは、オランダの首都、アムステルダムに隣接するザーンダムという駅前に立つホテルで、外壁に埋め込まれているように見える家は合計で70軒にもなります。
最上階の左側にだけ1軒、青い外壁の家があり、これはザーンダムの風景画を数多く残した画家・モネへのオマージュです。
外観は童話の世界観を再現したようなメルヘンさを持ちますが、内装はシンプルモダンなインテリアで統一され、白を基調とした客室にはオランダの伝統家屋の写真や絵画が飾られて居心地の良い空間を提供しています。
⑥ドッグ・バーク・パーク・イン
アメリカ、アイダホ州にある人口1000人に満たない小さな街であるコットンウッド。この街のロードサイドにあるドッグ・バーク・パーク・インは、世界にも類を見ないビーグル犬の形をした宿泊施設で、全米から犬好きが足を運んでいます。
この施設はチェーンソーアーティストの夫婦によって建てられたもので、全て夫妻の手作りなのだとか。外見だけではなく、ポストの上やベッドサイドなどいたるところに犬の彫像が見られ、全部で60もの犬種のアイテムが見られます。犬に関連する珍しい書籍の閲覧も可能で、愛犬と一緒に宿泊することも可能です。
海外の変わった建物・商業施設編
①セルフリッジズ百貨店
引用元:https://www.architravel.com/
イギリス有数の世界都市であるバーミンガムの商業地区、ブル・リングの再開発の目玉として誘致されたのが高級百貨店であるセルフリッジズ百貨店です。
ブルーを下地にした外壁には光沢のある丸いアルミニウムの板が1万5000枚超も貼り付けられ、駐車場とは透明なチューブ状の回廊で繋がっています。この建物はスパンコールのドレスをイメージしてデザインされたもので、地域のシンボルとして愛されています。
②キャピタルゲートビル
アラブ首長国連邦に位置する35階建ての高層ビル、キャピタルゲートビルはピサの斜塔の傾度を4度上回る18度の傾きで建設された、現在世界で最も傾斜した建物です。
アブダビ国立展示場の象徴として企画され、オフィスとハイアットホテルが営業。12階までは鉛直で13階より上層階が傾いており、これは梁を斜めに交差するダイアグリッド構造を採用したもので、従来の水平フレームよりも少ない構造鋼で建てられています。
また、外壁に流れるステンレス鋼の網目はスプラッシュと呼ばれ、日除けとしての効果を持つとともに最上部はビルの19階位置し、ホテルの宮中プールとなっています。
海外の変わった建物・住宅編
①アースハウス
スイスのチューリヒ州ディティコンにある自然と一体化した集合住宅、アースハウス。台地の家と呼ぶに相応しいこの住宅は、夏は強い日差しを遮り、冬は外気温が下がっても地熱で温められるため、冷暖房光熱費が少なくて済むという効率的な構造になっています。
敷地内には人造湖もあり水鳥が暮らし、建材もリサイクルガラスなどを活用。屋上には土が盛られて植物を育てながら屋根を保護する仕組みとなっており、外観の良さと機能を両立させたエコ住宅です。
②デンボスの球形住宅
こちらの建物はオランダ、デンボス郊外に1984年に建てられた単身者~2人暮らし用の公営住宅です。建築家が目指したのは自然に溶け込むような有機的な住宅で、最小外壁面積で最大の容積を得られるように低コスト・省エネを目的として設計されました。
面積7㎡弱の円筒の基礎部分に玄関があり、直径約5.5mの球体の上層部にリビング、中層部にバスとトイレ、下層部に寝室があります。
水辺の平地に50戸同じ球体の住宅が並ぶ様子はまるでSF映画のようですが、工場で大量生産された建材を現地で組むだけで完成するため、1戸あたり2日で施工することが可能です。
③キューブハウス
オランダはロッテルダムのオウデハーフェン地区の再開発計画の一環として1984年に建設されたのが、数十個のキューブが互いにめり込むような構造で建設されたキューブハウスです。
当初は74戸の部屋が入る予定でしたが、実際には38戸の部屋と大きな立方体の空間2戸が作られ、居住空間は上層部がサンルーム、中層部が寝室、下層部がリビングとキッチンになっています。
外観はユニークですが内部はかなり狭く、居住するにあたっては決して快適とは言えないそうです。一部の部屋は改装されて宿泊施設となっているため、住み心地を体験することも可能です。
④バブルハウス
引用元:https://www.smithjournal.com.au/
地中海のリゾート地、コート・ダジュールの高台に建つファッションデザイナーのピエール・カルダン氏の別邸が、このバブルハウスです。
造形は地元の岩礁を模したようなもので、ブラウンベースのもこもこした外壁に泡のような半球のガラスが嵌められ、全体的に直線のない構造となっています。
これはクリエイターのアイディアが流れるように誕生する様子をモチーフにしており、インテリアも前衛的な現代美術家にオーダーしたもので揃えられているそうです。
建物の一部はファッションショーや結婚式に利用できるようになっており、宿泊施設にもなっています。
日本国内で見られる変わった建物
①八王子セミナーハウス
八王子大学セミナーハウスは学生運動の真っただ中の1965年に吉岡隆正氏によって設計された、都内の複数の大学で設立した研修施設です。東京都八王子市下柚木にあるこの施設は、小高い山の頂に位置し、1階と2階は施設管理室、3階はロビーと90室の宿泊施設、4階は大食堂という構成になっています。
上階に行くにつれて空間が広がり、コンパクトながら食堂からの眺めは解放感に溢れるこの建物では様々なワークショップも行われており、大学関係者以外でも立ち入りが可能になっています。
②中銀カプセルタワービル
引用元:https://newsphere.jp/
東京都中央区銀座に位置する鳥の巣箱が重なったような建物、中銀カプセルタワービル。1972年に黒川紀章氏によって設計されたこのビルは、ビジネス用のセカンドハウスとして計画されたマンションで、エレベーターシャフトとパイプスペースを含む2本の塔に140のボックスがボルト留めされています。
1戸が2.5m×2.5m×6mのボックスはカプセルと呼べれる部屋で、老朽化した部屋は交換することを前提にしています。各部屋にはユニットバスやベッド、折り畳み机、テレビ、オープンリールのテープデッキなどが組み込まれており、レトロフューチャー感満載。
何度も建て替えの話が持ちあがっているのですが、保存運動もあってまとまらず、内装は変えられるも建物自体は手付かずの状態です。現在では1ヶ月契約で家具付きで賃貸に出される部屋もあり、狭小ながらも人気の高い物件となっています。
③丘の上APT
東京都国分寺市泉町にある丘の上APTは、洋画家・児島善三郎氏のアトリエ跡地に建てられた、アートと人の出会いの場です。内部はほぼワンルームとなっており、左手側はロフトとなっています。
外壁を覆うトタン板は人の手で1枚ずつ折り曲げられ、鱗状にビスで留められています。そのため無機質な工業製品のトタンが、キルティングのような温かさを感じさせているのです。
隣接するオーナーの私邸である通称「チョコレートの家」は銅板で屋根から壁、軒裏まで覆われており、「現代の工業製品を使いながら、どこまで毛深く、陰影を濃く残せるか」というテーマで建設されたと言われています。
④成田山東京別院・深川不動堂新本堂
引用元:https://4travel.jp/
東京都江東区門前仲町の近くにある深川不動堂。この不動堂の開創310年にあたる2011年に新本堂が建立されました。木造の旧本堂を保存して既存建物に接続し、不動明王の本尊の真下を通るように回廊が巡らされています。
その壁面を埋め尽くすのがクリスタル製の五輪塔で、下から明かりが照らされると幻想的な雰囲気を醸し出し、まるで無限の中にいるような感覚が味わえるのが醍醐味です。
引用元:https://4travel.jp/
回廊の長さは75m、五輪塔の数は1万と言われており、本堂の外壁には不動明王のお念仏である24の梵字をアルミに鋳造にして包みこんであり、異彩を放っています。
⑤青山製図専門学校一号館
東京都渋谷区鶯谷町にある青山製図専門学校の一号館は、渋谷の雑多な街中でも目立つ外観をしており、通称・ガンダムビルと呼ばれています。
長く伸びる赤い突起物は避雷針で、屋上にのっかるシルバーの回転楕円体は高架水槽。1階には専門学校の事務室と図書室、その他の階は教室が入っています。
最上階はギャラリーとなっているのですが、これは法規制に合わせて生み出された形で、外装に使われたアルミとステンレスの3次元形状パネルは約200枚。同じ形のものは使用されていないというこだわりの詰まった建造物です。
まとめ
2020年の東京オリンピックに際して、新国立競技場のデザイン案として支持を集めていた、ザハ・ハディド氏の建造物。
資金が掛かり過ぎるとの理由からハディド氏の案は大幅に縮小、デザインにかなりの変更がされたことで「面白みがなくなった」「良さが薄れた」と物議を醸しました。
しかも近日の報道では結果的に当初の案と同じ程度に建築費が掛かっていることも明かされ、ますます縮小した意味も疑問視されています。
「完成!ドリームハウス」に出てくるような個性的な家に自分が住むのは遠慮したい、という方は多いでしょうが、特徴的な建物を見たり、短期的な滞在をするのは心が躍る体験です。
そう考えると新国立競技場が当初より縮小、簡略化されたデザインになってしまったのは寂しい感じがしますね。