日本で「闇市」というと太平洋戦争後間もないころに開かれたものを連想する人が多いかもしれません。
ですが世界各地に今も存在し、非合法の物品を数多く取引しています。
そのうえインターネットが発達することで、その形態は多様化しているのです。
今回は世界の闇市、ブラックマーケットで購入できるものとその実態を紹介します。
銃火器
引用元:https://www.jiji.com/
アメリカなど護身用の銃火器の携帯は認められている国ではあまり見られませんが、日本のような銃火器の携帯が禁止されている国や、中東、アフリカのような紛争地域では国外から多くの銃火器が闇市から密輸入されていると言われています。
闇市で出回る銃火器の中心は旧ソビエト連邦製のものです。
例えばかつてソ連軍で制式採用されていたAK-47という自動小銃は、ソ連が健在だったころから東側諸国でライセンス生産を進めていたことに加え、ソ連崩壊後はロシア政府が外貨獲得のために売り払い、中国やパキスタンを中心にコピー品が大量生産されたために非常に多く闇市に出回ることとなりました。
もともとAK-47は厳しいロシアの寒さや雪が溶けたあとのぬかるみに浸かっても稼働するように部品と部品の合間に隙間を空けて、余裕を持たせた構造となっていたうえ、銃火器を使い慣れない人でもすぐに的へ当たるような工夫がされています。
また同様にAK-47はパーツのユニット数が少ないために製造や部品の調達も容易にでき、銃火器に触ったことのない人でも手入れが簡単にできるようになっていました。
さらにAK-47の使う7.62ミリ弾も調達も容易だったうえ同時代の小銃弾の中では威力が高く、重宝されていました。
これらの事実が重なったことでアフリカでの独立戦争や内乱、中東の戦争でもAK-47が大量に使われ、AK-47は「世界で最も多く生使われた軍用銃」としてギネス記録に登録され、「世界最大の殺戮兵器」と言われるようになります。
現在では後継銃も登場しており、かつてAK-47を開発したイズマッシュ社以外のライセンスは失効しており、法的にはAK-47は生産できないようになっています。
しかし中国やパキスタンを中心に現在もコピー品が出回っており、総流通量は1億丁を超えていると言われています。
2002年には少年をAK-47などで武装させた「少年兵」の増加を防ぎ、子どもの権利を守る「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利条約選択議定書」が「児童の権利に関する条約」の一部として採択されています。
日本でもフィリピンや中国、南米、南アフリカなどから銃火器が密輸入されており、年間におよそ300丁の拳銃が押収されていると言われています。
しかし実際はその数百倍の数の拳銃が密輸入されていると言われ、暴力団の資金源などになっていると考えられています。
違法薬物
世界各国の法律で乱用が禁止される違法な薬物、いわゆる麻薬も世界の闇市やダークウェブといった場所で広く流通するもののひとつです。
日本でも「ドヤ街」として名高い大阪府西成区のあいりん地区には、かつて「薬局通り」という一角があり薬物の密売が行われていたと言われています。
現在では行政による「浄化作戦」によってそういった地区もなくなり、外国人観光客向けの施設などが作られているようです。
ただ現在でも暴力団などが薬物の密売などで活動資金を得ていると言われています。
私たちがひとくくりに「麻薬」と呼ぶものは実は脳に与える影響によって大きく3つに分けることができます。
ひとつが脳の中枢神経を興奮させ、「テンションをハイにする」もので、「アッパー」と呼ばれています。
覚醒剤(スピード、エス、アイス、やせ薬とも)やコカイン(スノー、コーク、シーとも)、MDMA(エクスタシー、バツとも)などが該当します。
日本人にはこの興奮させるタイプが人気だと言われています。
もうひとつがアッパーとは反対に脳の中枢神経を麻痺させてリラックス効果や多幸感などを与える「ダウナー」です。
ダウナーにはヘロイン、向精神薬(精神安定剤、睡眠薬など)、シンナー(アンパン、純トロとも)などが該当します。
そして最後が幻視や幻聴など、幻覚症状を見せる「サイケデリック」です。
大麻(マリファナ、グラス、チョコ、ハッパ)やLSDなどが該当します。
このほかにも違法薬物に成分を似せた化学物質を含んだ危険な混合物である「危険ドラッグ」と呼ばれるものも存在しています。
これはドラッグによって症状も変わりますが、いずれも危険なもので死亡事例もあります。
こうした違法薬物はコロンビアやメキシコなどの中南米、タイ、ミャンマー、ラオスがメコン川で接する山岳地帯である「黄金の三角地帯」、アフガニスタンのニームルーズ州、パキスタンのバローチスターン州・連邦直轄保護地域(FATA)、イランの国境地帯、アフガニスタン東部のジャラーラーバードから南部のカンダハールへ至る「黄金の三日月地帯」で生産されます。
そして生産されたものは現地で利用されたり、各地のカルテルと呼ばれる勢力や中国などの国を通して拡散したりしました。
動物の身体の一部
引用元:https://toyokeizai.net/
象牙は美しい白色をしていて加工しやすい性質があり、吸湿性に優れて手に馴染みやすいことから古来より高級な印章や刀装具、楽器の部品、「象牙屑(ぞうげしょう)」という漢方薬の材料などに使われました。
ですが20世紀後半に入ると象牙は乱獲が進み、「奴隷海岸」や「胡椒海岸」と並び、象牙の輸出が盛んに行われた「象牙海岸」ができるほどとなり、象の個体数は大きく減少を始めます。
そこで希少な種を乱獲などから保護することを目的に、1973年「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」、通称「ワシントン条約」が採択されました(日本は1980年批准)。
この条約では絶滅の危機にある動植物を3段階にランク分けし、分類に応じた制限を輸出入国が課される仕組みとなっています。
また動植物の生体だけでなく、象牙のように牙、爪、毛皮など生体の一部や、漢方薬のようにそれを加工したものも条約による制限の対象となります。
象牙はワシントン条約制定前からセルロイドやガラリス、ラクト材と言った代用品が出回っており、条約が制定されることで象牙貿易は表向きその役割を消滅させました。
ですがワシントン条約制定後も本物の象牙への需要は残っており、現在も象を密猟して象牙を闇市へ売りさばく例が後を絶たないと言われています。
象のほかにもユキヒョウやホッキョクグマなどの毛皮やセンザンコウのウロコなど、多くの絶滅危惧種が衣類への加工や、漢方薬などに用いるために密猟されていると言われています。
またユニークなところでは蛇の毒、熊の胆嚢といった部位が薬品を作るために高値で取引されているという話もあります。
個人情報
個人情報と一口に言っても、単純に氏名や住所だけでなく、近年では様々なものがあります。
例えばクレジットカード情報や銀行口座なども立派な個人情報であり、より直接的に金銭につながります。
2008年にアメリカのソフトウェア企業であるSymantec社は日本企業向けにインターネットの闇経済の実態を紹介する「Symantec Report on the Underground Economy」を発表しました。
このレポートではインターネットの闇取引が主に行われるIRC(Internet Relay Chat)サーバで、総額2億7600万ドル以上ものクレジットカード情報などが売買されていると明らかにしています。
現代ではキャッシュレス決済なども進出してきており、個人情報、特にカード情報や口座情報をインターネットに預ける機会が増え、流出のリスクも高まっています。
更にダークウェブには直接100枚単位のクレジットカードを販売していたり、電話番号や個人年金番号なども販売されている可能性もあります。
普段、まったくダークウェブや闇市とは無関係だと思っていても、流出した個人情報がきっかけとなって被害に遭ってしまうことだって充分に考えられるでしょう。
幽霊
深層ウェブ、あるいはダークウェブと呼ばれる世界にも、普通のインターネット同様に奇妙な怪談のような話が存在しています。
例えば大量の謎のデータを保存しているだけのウェブサイトであったり、「マリアナ・ウェブ」という深層ウェブの中でも更に最深部に位置するインターネットの噂などが挙げられます。
その中にダークウェブでは幽霊を販売しているという話があります。
それも「この世に生まれることのなかった赤子の幽霊」、つまり水子の霊を小さな彫像に封じ込めたものを1個およそ120ドルから160ドルという価格で販売しているのです。
私たちの感覚ではなぜそんなものを売るのか、果たして需要があるのかも疑わしく思われます。
ただダークウェブの閲覧者の中には人生を好転させるきっかけとして幽霊を買う人もいると言われています。
臓器
引用元:https://leapsmag.com/
日本では1997年に成立した「臓器の移植に関する法律」、通称「臓器移植法」によって脳死した人間から生前の意思決定に基づいて心臓、肺、肝臓、腎臓、すい臓、小腸、眼球(角膜)をすることができます。
健康な家族から肺や肝臓、腎臓などの部分移植を受けることもできます。
ほかにも1948年に発足した「採血および供血斡旋業取締法」によって血液銀行(現:血液センター)が作られ、血液の移植(輸血)も公的に管理されています。
ですが世界規模では臓器や血液の移植への需要に対して供給が完全に対応しているわけではありません。
そのため人間の臓器や血液を違法に摘出し、闇市などで流通させています。
闇市は英語で「ブラックマーケット」と呼ばれますが、闇市の中でも内臓を流通させる市場は血液や臓器の色になぞらえて「レッドマーケット」と呼ばれます。
闇市では人の血液が500㏄でおよそ3万円、腎臓や肝臓がおよそ1900万円、角膜や眼球がおよそ150万円から300万円、一対の肺がおよそ3000万円、心臓はなんと7000万円から1億円もするそうです。
肺はきれいなもののほうが高く売れ、喫煙者の肺は非喫煙者のものの90分の1ほどの価格になってしまうと言われています。
このほかに骨や靭帯、精子なども違法に取引されているようです。
闇市で流通する内臓は借金のかたとして違法に摘出をされたり、お金欲しさに売られてしまうものが多いと言われています。
なかには臓器ハンターと呼ばれる人が中国やフィリピンのスラム街などで子どもたちの内臓を違法に摘出する場合もあるそうです。
食料品
引用元:http://atamatote.blog119.fc2.com/
日本における闇市の背景には、1946年に成立した物価統制令による配給制度が国内物資の窮乏によって麻痺状態に陥ったことがあります。
実際に日本の闇市で最初に流通したのは、現在主流となるような違法薬物や銃火器などではなく、米やサツマイモなどの「ヤミ配給」と言われるものや、うどんやおでんなどの出所不明の食料品でした。
中には進駐軍の食事から出た残飯を煮込んだ「残飯シチュー」というものも流通していました。
朝の連続ドラマ小説「まんぷく」で取り上げられたインスタントラーメンも闇市の屋台で売られていたラーメンに多くの人が並んでいた風景が原点にあると言われています。
現在でもイタリアの闇市では、食品安全上の問題から販売の禁止された「カース・マルツゥ」というチーズが売られています。
カース・マルツゥは羊の乳で作ったチーズをチーズバエの幼虫(うじ虫)を使って熟成させたもので、イタリアでは高級珍味として知られていますが、食べるとうじ虫が生きたまま腸壁に辿り着いて、腸壁を食い破る「蠅蛆症」にかかる恐れがあります。
コンピュータウイルス
ダークウェブではハッキングに遣うコンピュータウイルスやマルチウェアなどが販売されていると言われています。
サイバー犯罪者にはコンピュータウイルスを販売することで生計を立てるものもいると言われ、中にはあらかじめ被害額の30%が開発者に入るようになっているランサムウェアもあるそうです。
売る方は悪意を持ってなくても、買う方は明確に悪意や計画を持ってコンピュータウイルスを入手していることは間違いありません。
殺し屋の雇用
引用元:https://www.cinra.net/
殺し屋と言えば、『ゴルゴ13』や『レオン』など昔から映画や漫画などでもよくモチーフにされるものです。
そのため高額な報酬で依頼を請け負い、狙撃銃などで人知れず殺す、といったイメージがあるかもしれません。
ですが実は殺し屋の実態はもっと違うものです。
2014年に発表された『The Howard Journal of Criminal Justice』によると1974年から2013年にかけて契約殺人(殺し屋に依頼して代わりに殺してもらう殺人事件)は27件あり、全体でヒットマンが35人、ヒットウーマン(女性の殺し屋)が1人存在しました。
殺し屋のパターンは元軍人のような背景を持つ人や、土着の犯罪組織とつながりのある人から単に金銭問題から殺しを引き受けた素人まで実に多様に分かれており、報酬も200ポンド(約34000円)から10万ポンド(1700万円)まで幅広く分布しています。
現代では殺し屋はダークウェブ上にウェブサイトを置いて依頼を受ける場合もあるようです。
サイトには対象となる人物像や料金などについて記載されており、閲覧者は自分の殺して欲しい人に合わせて適した殺し屋に依頼をすることが可能です。
ほかにもハッカーもダークウェブにサイトを構え、依頼に応じてハッキングをしてデータを盗んだり破壊することがあります。
しかし偽物のサイトも多く、本物を見つけるのはやや大変な作業だそうです。
人間
引用元:http://www.wisebk.com/
人身売買とは「人身や行動範囲を強く拘束するような契約を、当人の了承を要さずに他人間で勝手に売買し、それが人道的に悪質であるもの」のことを指します。
分かりやすく言うのなら「経済的な利益のために、誰か人間の自由を奪うこと」となります。
日本の刑法では刑法226条で「人身売買罪」、刑法182条で「淫行勧誘罪」を定めて人身売買を禁じています。
非先進国や政情の不安定な地域では人身売買を生業とするブローカーが暴力や借金を使って被害者を拘束し、銀行口座を管理して被害者を働かせます。
被害者はいくら稼いでも収入のほとんどを家賃などに使われ、借金を返すことができずにいつまでも労働力を提供し続けることになります。
また人身売買の被害者は暴行や強要、強姦などの対象となることも多く、大怪我を負ったりHIVなどに罹ってしまうこともあります。
「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」によると「東南アジアの売春宿から救出された子どもの50%から90%はHIVに感染している」と言われています。
一方人身売買は先進国でも無縁の話ではありません。
特に日本は2005年に発表した「日本における人身取引対策の現状と課題」で「我が国は、10年以上前から国際社会から批判されている」とされており、先進国の中でも人身売買対策が進んでいない国であるとされています。
日本には地下鉄や若者のたまり場、学校、インターネットなどで組織的な売春ネットワークが存在すると言われており、家出をした女子高生や外国人の子どもなどが「援助交際」、「JKビジネス」と称した人身売買の被害に遭っています。
また歌舞伎町などに代表される「青線(非公認で売春が行われていた地域)」では今でも多様な性産業の店舗が経営され、その収入のいくらかが「シノギ」として暴力団の懐に入っていると言われています。
番外編・闇市で使われる通貨とは?
2018年の「ユーキャン新語流行語大賞」にノミネートされた言葉の中に「仮想通貨/ダークウェブ」というものがありました。
日本では仮想通貨取引所Coincheckが2018年1月26日に仮想通貨NEMなどを流出させる事件を起こし、流出した仮想通貨のうち5億円ほどがダークウェブで別の仮想通貨へ換金されたことがニュースとなりました。
仮想通貨とはP2Pネットワーク(Peer to Peer Network、中央管理者を介さず、Peerと呼ばれる2者間を直接つなぐネットワーク)を用いて電子的な決済を行う媒体を指す言葉です。
その性質上、中央銀行などの管理が及ばず、国境を越えて使うことができるため仮想通貨、中でも代表的なビットコインはダークウェブでモノを売買するときの通貨としてよく使われています。
2013年にはダークウェブ上のウェブサイト「シルクロード」の管理者ロス・ウルブリヒトが逮捕されました。
「シルクロード」は大麻やヘロイン、LSDなどの禁止薬物を中心にマルウェアやクレジットカード、様々なメディアの海賊版など幅広い商品を販売していたことから「ドラッグのeBay」と呼ばれており、商品はすべてビットコインで決済されていました。
2018年にはダークウェブで麻薬取引をしていたディーラー「ヴァレリウス」が逮捕されています。
ヴァレリウスは逮捕時には100BTC(BTCは仮想通貨ビットコインの単位、100BTCは約4000万円に相当)と121BCH(BCHは仮想通貨ビットコインキャッシュの単位、121BCHは約170万円に相当)を所持していたと言われています。
このようにダークウェブと仮想通貨は密接な関係にあり、数々のネット犯罪を取り締まるFBIは押収したビットコインでビットコイン長者になっているという話もあります。
ただ現在ではビットコインの取引履歴を追跡するツールなども導入が進められており、以前のように非合法な目的で使うことは難しくなりました。
まとめ
今回は世界の闇市(ブラックマーケット)やダークウェブで取引されているものを紹介しました。
インターネット技術が身近になることで、闇市も私たちの存在と完全に無縁なものではなくなりました。
私たちの手を離れて管理されるものに対しては注意をするというにも限度はあります。
ただセキュリティなどには注意を払い、万が一何かあってもすぐ対処ができるように日ごろから対策をしておくことが、何よりも大切なのではないでしょうか。
私たちひとりひとりの行動が世界から闇市の影響力やその存在をなくす手立てとなるのです。