5位 フォーラーネグリア
引用:https://www.nbcdfw.com
フォーラーネグリアは25℃~30℃の暖かい水を好む原生生物で、湖や川といった淡水域に広く生息します。
この寄生虫は川などで泳いでいる時に鼻から人間の体内に侵入します。そしてにおいを伝える神経に沿って脳へ入り込み大脳や小脳を餌としながら大増殖をすることで、原発性アメーバ性髄膜脳炎という脳の炎症を引き起こすのです。
原発性アメーバ性髄膜脳炎に罹った患者は、突然激しい頭痛と発熱に襲われた後、意識の混濁を起こし、やがて昏睡状態になって発症から1ヶ月以内に死に至ります。1962年以降に確認された128件の感染例のうち生存者は1名のみというほど生存率が低いことも、フォーラーネグリアの恐ろしい特徴の一つです。
また人間への感染は死後に骨髄液からフォーラーネグリアが検出されたことで判明することも多く、生前に感染が判明した例が少ないことから、治療法の確立が難しいことも問題とされています。
危険性の高い寄生虫ですがフォーラーネグリアが存在する水域で泳いでも感染しない人も多く存在し、何が感染者と非感染者を分けるのかは不明です。
4位 ドノバンリーシュマニア
ドノバンリーシュマニアはアジアとアフリカに分布するリーシュマニアの一種で、他のリーシュマニア同様にサシチョウバエに刺されることで人間へ感染します。
リーシュマニアの中でも最も凶悪とされるこの変異体の寄生虫は、白血球の流れに紛れて脾臓や肝臓、腸壁、心臓と様々な臓器の中で増殖して、しばしば死を招くこともあるのです。
感染すると顔や手足、腹部などの皮膚が黒く変色することから黒い熱病“カラ・アザール”と呼ばれることもあり、骨髄を破壊して白血球と血小板を作れなくするという恐ろしい性質を持ちます。
しかし数年前までは猛威を振るっていたこの変異体のリーシュマニアに対しても、現在では発熱を伴う初期症状の段階であっても診断と治療が可能なほど研究が進められているため、早期に治療を開始することで被害の拡大を防ぐことが可能です。
3位 クルーズトリパノソーマ
クルーズトリパノソーマは中南米に分布する寄生虫で、同地域に生息する吸血昆虫のサシガメを媒介して人間に感染します。
サシガメに皮膚を刺されると1週間ほどして患部の周辺が腫れあがり、発熱や発疹が見られるようになります。この症状は数ヶ月で収まるのですが、トリパノソーマは無症状の時期にも体内に寄生し活動を続けているのです。
クルーズトリパノソーマは白血球や筋肉に侵入し、周辺の細胞を破壊しながら分裂と増殖を繰り返していきます。また心臓や消化器官に入り込むこともあり、心臓へ寄生が拡大して心臓病を発症した場合は患者の10%が死に至るとされます。
『種の起源』で知られるチャールズ・ダーウィンも南米での調査を終えてイギリスへ帰国した後に心臓病を発症しており、この原因はクルーズトリパノソーマだったのではないかという説も存在します。
2位 アフリカトリパノソーマ
引用:http://parasitewonders.blogspot.com/
中部と西部にはガンビアトリパノソーマ、東部にと南部にはローデシアトリパノソーマとアフリカには2種類のトリパノソーマが分布しています。
この2種は通称ゾンビ蠅とも呼ばれるツェツェバエに刺されることによって人間に感染し、刺された場所は数日後に炎症を起こして硬化するという特徴が見られます。
この症状は1週間~2週間で消えますが、血液中やリンパ節でトリパノソーマが増殖すると発熱、頭痛、筋肉痛などの症状が現れるのです。
トリパノソーマの体表は特殊な糖タンパク質で覆われており、宿主の体内でこれを変化させて免疫機能を騙すという特質を持ちます。
特にアフリカトリパノソーマは人間の免疫システムが抗体を作る前に別の1000個の遺伝子を使ってアイデンティティを変化させ、更に新しい抗体を作らせるという方法で免疫システムを攪乱させる性質を持つことから、体に与えるダメージも大きいとされているのです。
トリパノソーマが免疫システムを騙して宿主の脳や脊髄にまで感染が進むと意識の低下が見られるようになり、更に症状が進むとそのまま昏睡状態になって、やがて意識が回復することなく痩せ細って死に至ります。
死に至るまでの期間はローデシアトリパノソーマは感染から数日、ガンビアトリパノソーマでは1日中眠いという状態が何ヶ月も続いたのちに衰弱していくという違いがあり、共に睡眠病として恐れられています。
またローデシアトリパノソーマは初期症状として首の後ろのリンパ節に特徴的な腫れが見られ、かつて奴隷船の船長はこの腫れが見られたものはアメリカ大陸まで生き残れない、商品価値のない奴隷としてただちに海に投げ込んでいたという記録も存在します。
1位 熱帯熱マラリア原虫
引用:https://www.scidev.net
熱帯熱マラリア原虫は他のマラリア原虫同様に、ハマダラカに刺されることで人間の体内に入り込んできます。
ハマダラカの体内にいる熱帯熱マラリア原虫は、唾液腺の中に体長10㎛~15㎛のスポロゾイドと呼ばれる状態で集まっており、人間の肝臓で急激に増殖します。そして肝細胞を破壊することで血液中に流れ出て赤血球に寄生し、形を変えて増殖を続けながら赤血球を破壊して回るようになります。
この寄生虫に感染した場合は刺されてから7日~10日程度で発熱が見られ、39℃~41℃の高熱が何日も続くのです。病気の進行はとても早く、発病から5日以内に治療を開始しないと重症化して、ほとんどのケースで死に至ります。
マラリア原虫は人間の免疫をかいくぐるため、抗原を作る遺伝子も様々なバリエーションを持っています。そのため1度マラリアに感染して完治しても、別のマラリア原虫に対する免疫は持っていないため、再度マラリアに感染するのです。
この遺伝子バリエーションの多さがマラリアのワクチン開発を困難なものにしており、更に薬剤への耐性を持つ熱帯熱マラリア原虫が世界各地に広がっていることから、感染の拡大が起きています。
2005年には遂に白血球を利用した熱帯熱マラリア原虫のワクチンが開発されましたが、後に動物実験では効果があったものの人間には効かなかったことが判明しました。
しかし2008年には人間に感染するマラリア原虫のゲノム情報が初めて完全に解読されたことから、マラリア根絶の日は近いとも期待されています。
まとめ
現生する寄生虫の中で一番凶悪なものと考えられる熱帯熱マラリア原虫と人間の闘いの歴史は古く、紀元前300年代に東方遠征に出たアレキサンダー大王もユーフラテス川でこの寄生虫に感染して命を落としたとも考えられています。
またこれまでに発見された便の化石のうち最も古いとされる5万年前のネアンデルタール人の便からも、寄生虫の卵と思われるものが存在します。
人類が完全に寄生虫を根絶するのは不可能とも言われており、寄生虫の脅威から逃れるためには体内に侵入されてからどうするかを考えるより、寄生虫の危険性を理解して感染を予防することが望ましいとされています。