世界には既に発見された種が約175万種いると言われていますが、世界の生物をすべて解き明かしたわけではありません。
未発見の種も含めると世界には500万から3000万種の生物がいると推測されています。
つまり私たちはまだ世界の生物の半分も把握していない計算になります。
その中には、今はUMAと呼ばれている動物や伝説で語り継がれているような生き物もいるのかもしれません。
今回は、そんなかつて伝説の生物として実在を疑われてきた生き物について紹介します。
イッカク
引用元:http://www.dfo-mpo.gc.ca/
イッカクは主に北極圏の大西洋とロシア側に生息するクジラの一種です。
最大の特徴はイッカク(一角)という名前通り、オスの身体から伸びる大きな一本の角にあります。
オスのイッカクの角を除いた体長はおよそ5mほどですが、角はなんと3mにも及びます。
同じ角状のものでも、シカの角は骨組織が発達したものですがイッカクの角は上あごの左側の切歯が発達したもので、正確には牙と呼ぶべきものです。
シカの角と違い、イッカクの角は中空で脆く、左回りのらせん状の溝が走っています。
イッカクの角は氷を砕くため、獲物を捕るためなど様々な用途が考えられてきましたが近年の研究によって角に感覚器が発達していることが分かり、周囲の環境を確認するために使用しているという説が強くなっています。
またオスのイッカクには群れで角の長さを競う習性があり、角の長いイッカクほど、メスを魅了するそうです。
イッカクは北極圏に生息しているためイヌイットにとっては身近な生物でしたが、生息圏外のヨーロッパの人々にとってはわずかな伝聞でしか存在の語られない伝説の生物でした。
一方ヨーロッパには一角獣であるユニコーンの伝説があります。
ユニコーンの角には解毒作用があると信じられており、長くイッカクの角がユニコーンの角として流通していました。
日本にも江戸時代にオランダ商人経由でイッカクの角が持ち込まれたことがあるほか、中国では漢方薬の材料として使用されました。
現在ではイッカクの個体数は減少しており、イヌイットによる漁のみが解禁されています。
その角は1本数十万円から百万円ほどで取引されているようです。
オカピ
引用元:https://pz-garden.stardust31.com/
オカピはアフリカのコンゴ民主共和国に生息するウマのような体型をした体長2mほどの動物です。
胴体は濃い茶色の毛に覆われていますが、四肢はシマウマのような白黒の毛で覆われており、その不思議で優美な模様から「森の貴婦人」と呼ばれるほか「世界3大珍獣」のひとつに数えられることもあります。
その外見からシマウマの仲間のようにも思えますが、実はオカピは偶蹄目キリン科オカピ属に属するキリンの仲間です。
オカピが発見されたのはつい100年ほど前のことです。
1890年、アメリカの探検家であるヘンリー・スタンレーは当時はベルギー領だったコンゴ民主共和国の「イツリの森」という森林地帯で、ピグミー族から「オアピ」というロバに似た生き物についての話を聞きます。
「オアピ」の存在についてはスタンレーの著書『黒いアフリカ』で紹介され、幻の動物として話題になります。
スタンレーから「オアピ」についての話を聞いたイギリスの探検家ハリー・ジョンストンは1899年にコンゴ民主共和国へ行き、ピグミー族からオカピの皮を利用した装飾品をもらい、シマウマの一種としてオカピの存在をロンドンの動物学協会へ申請します。
一度はシマウマの一種として登録されましたが、その後ジョンストンがオカピの毛皮と頭骨を手に入れて動物学協会へ送ると研究が進み、1902年にはキリン科に属していることが判明しました。
オカピはキリンの仲間ですが、キリンよりも先に出てきた動物であるらしいことが分かっています。
ただ警戒心が強く、その生態には謎が多く残されています。
ダイオウイカ
引用元:https://dot.asahi.com/
北欧には「クラーケン」と呼ばれる巨大な海の怪物についての伝承があります。
クラーケンはシーサーペント(大海蛇)やドラゴン、クラゲ、ヒトデなど様々な形で伝えられていますが、最も一般的なのが巨大なイカやタコの姿です。
あまりに巨大すぎて島と間違えてクラーケンに上陸してしまうという話や、海の魔物として停止した船を襲う話などが船乗りの間で語り継がれていたと言われています。
もちろんクラーケンは実在しない、伝説の生物であることが判明しています。
しかしそのクラーケンのモデルとして考えられているのが、ダイオウイカです。
ダイオウイカは太平洋の広い範囲に生息するイカの仲間です。
日本近海での発見例だと触腕を含めた体長がおよそ6.5mと非常に大きく、「世界最大の無脊椎動物」だと言われています。
深海で生活しているためあまり目撃例や捕獲例は多くありませんが、漂着例は少なくありません。
大型の個体では体長が18mにも及ぶほか、2016年5月には体長20mを超える個体が深海に潜んでいる可能性も指摘されました。
ダイオウイカは身体が沈まないように体内に海水よりも軽い塩化アンモニアを大量に含んでいます。
そのためとにかくアンモニア臭く、食用には不向きなようです。
ゴリラ
引用元:https://www2.ctv.co.jp/
今や動物園で見られるほかカレー屋さんの看板などでも使われ、すっかりおなじみとなったゴリラですが、実は昔はその存在を疑われていた歴史があります。
人類で最初にゴリラのものだと思われる記述を残したのは紀元前6世紀のカルタゴの航海者ハンノです。
ハンノはアフリカの西海岸を訪れた際に野人の群れと対面したのですが、ゴリラを人間だと思い込み意思疎通を図ろうとしたのですが失敗し、カルタゴへ持ち帰ろうとした野人をやむなく殺害したという記述を残しています。
現地の住人は野人を「ゴリラ」と呼んだそうですが、それが本当に現在のゴリラを指すものかは定かではありません。
その後正式にゴリラが発見されたのは19世紀のことですが、それ以前はゴリラほどの大きさの類人猿の存在は信じられておらず、森の奥に住む毛深い人間だと信じられていました。
ちなみに「ゴリラ(Gorilla)」という言葉は、ギリシャ語で「毛深い部族」という意味だそうです。
ジャイアントパンダ
引用元:https://tenki.jp/
ジャイアントパンダは中国のアバ・チベット族チャン族自治州域内に生息するクマ科の動物です。
現在は中国国内のごく限られた地域にのみ生息しています。
ジャイアントパンダの存在がヨーロッパで知られるようになったのは、19世紀のことです。
1869年、フランス人宣教師のアルマン・ダヴィドが四川省の漁師が持っていたジャイアントパンダの毛皮とパンダの骨をパリの国立自然史博物館へ寄贈したのです。
このことをきっかけにヨーロッパでジャイアントパンダの狩猟ブームが始まり、個体数が激減してしまいます。
ジャイアントパンダの存在は同じ中国の人でもあまり知られておらず、古い文献では呼び名が30種類以上もあるほか「鉄を食べる」などと書かれていることもありました。
ヨーロッパの人のみならず、中国でも伝説の動物だったのです。
ちなみに今日では「パンダ」と言うだけではジャイアントパンダを指すことが多いですが、先に発見されたのはレッサーパンダであり、昔は単に「パンダ」というときにはレッサーパンダを指しました。
中国語でもレッサーパンダは「熊猫」、ジャイアントパンダは「大熊猫」と、レッサーパンダが先に来ています。
リュウグウノツカイ
引用元:http://deepblue-r.com/o
リュウグウノツカイは世界中の外洋の深海で暮らす深海魚です。
全長はおよそ3mほどと大型の魚で、大きな個体では11mほどのものも発見されています。
身体は細長く、普段は海底でほとんど静止させており、移動するときは長い背びれを波立たせて泳ぎます。
普段は人前に姿を表さないですが、まれに海岸に漂着することもあり、西洋ではその独特の姿がシーサーペントのモデルとなったと言われています。
日本ではリュウグウノツカイという名前の通り、竜宮伝説、人魚伝説のモデルとして考えられてきました。
『古今著聞集』などの文献に出てくる人魚は白い肌と赤い瞳をしていることが多いですが、これはリュウグウノツカイの外見と一致します。
日本海側では定置網にしばしばリュウグウノツカイが引っかかり、「シラタキ」や「おいらん」と呼ばれます。
身に締まりはないものの味は甘みがあり、新鮮なうちに食べるとおいしいと言われます。
リュウグウノツカイの漂着は地震の前触れとも考えられており、東日本大震災の前には太平洋側でリュウグウノツカイが数多く確認されたと言われています。
コモドドラゴン
引用元:https://4travel.jp/
ヨーロッパではドラゴン、東洋では竜と、世界各地で蛇やトカゲを模した伝説の生物が語られています。
そんな伝説の生物が、かつてインドネシアにいると報告されたことがありました。
それがコモドドラゴン、正式名称コモドオオトカゲです。
コモドドラゴンは全長およそ2mから3mほどの大型のトカゲで、身体は暗い灰色をしています。
肉食なのですが、のこぎり状の歯の間に出血毒を仕込んだ毒管があり、大型の獲物には毒を注入することで弱らせて捕食します。
四足歩行で鈍足に見えますが、時速20㎞ほどで走ることができるためもし狙われたら人間でも逃げ切るのは容易ではありません。
コモドドラゴンの存在が知られるようになったのは20世紀に入ってからのことです。
1910年にコモド島に不時着したオランダ人パイロットがコモドドラゴンを目撃したのです。
その後調査の手が入ることで、存在が確認されました。
コモドドラゴンについては生息するコモド島の周りでも記録が残されていますが、体長7mにおよぶ個体がいる、大型の水牛を倒す、口から火を噴くなどの真偽のほどが疑問視されるような表現も少なくありません。
シーラカンス
引用元:http://do-butsu.com/
シーラカンスはインド洋から太平洋にかけて生息する魚です。
ヒレが8枚あり、背骨の代わりに中空の「脊柱」という管が背中に走っていることからシーラカンス目を「管椎目」と呼ぶことがあります。
シーラカンス目は古生代のデボン紀(約4億1600年前から約3億5920万年前)に発生した古代魚のひとつで、化石も多く見つかっています。
ただ今から6500万年前に発生した「K-Pg境界」と呼ばれる大量絶滅の際に絶滅してしまったと考えられてきました。
ですが1938年に南アフリカのチャルムナ川沖で現生種が確認されたことで、生き残っていることが分かりました。
シーラカンスの生態は謎が多いですが判明している部分だけでも「生きた化石」と呼ばれるように、独自のものが残っています。
例えば、かつて陸上で生活をしていた名残で、シーラカンスには退化した肺が体内に残っています。
また交尾の過程などは不明ですが、一般的な魚類と同じ卵生ではなく、卵を胎内で孵化させて放流する「卵胎生」という方法で繁殖することが分かっています。
シーラカンスは絶滅の危機に瀕した魚であり、食用として輸入することはできません。
ただシーラカンスの生息する地域の市場では日常的にシーラカンスが流通していたことがあるそうで、魚類学者の末広恭雄博士は実際にシーラカンスを食べ「水に漬けた歯ブラシのような味」と称しています。
日頃積極的に泳ぐ魚ではないので身がしまっておらず、そのくせ筋っぽく、味は淡白だと言われています。
さらにシーラカンスの油は人間には消化できず、下痢となって排出されてしまいます。
シーラカンスの発見されたインド洋のコモロ諸島ではシーラカンスは「食べられない魚」という意味の「ゴンベッサ」と呼ばれているそうです。
コビトカバ
引用元:https://www.kobe-oukoku.com/
コビトカバはジャイアントパンダ、オカピと共に「世界3大珍獣」に数えられる動物です。
名前の通り小型のカバで、普通のカバが体長3.5m、体重は1.5tもあるのに対してコビトカバは体長は1.5m、体重は180㎏ほどしかありません。
普通のカバと違って身体も全体に丸っぽいうえ、目や鼻も顔の前面にあるためカバほど水中に適応できていません。
これはコビトカバがカバよりも原始的な特徴を色濃く引き継いでいるためだと考えられています。
生息地はアフリカのコートジボワール、ギニア、シエラレオネ、リベリアなど西アフリカのごく限られた地域で、このうちリベリアに最も多く生息しているため別名「リベリアカバ」とも呼ばれます。
コビトカバの存在が伝えられたのは1843年のことです。
アメリカ合衆国の医師サミュエル・ジョージ・モートンに、西アフリカ出身の黒人奴隷が「ヤギくらいの大きさのカバがいる」と紹介しました。
1870年代に入ってコビトカバの頭骨がモートンの勤務していたフィラデルフィア・アカデミー(のちのペンシルバニア大学)に運ばれますが実在は認められず、単なるカバの奇形と判断されてしまいます。
その後1913年にドイツの動物商カール・ハーゲンベックがコビトカバの個体を捕獲したことで、存在が明らかとなりました。
コビトカバは生息する西アフリカでもあまり実態が知られておらず、黒いブタの怪物「二ベクヴェ」として伝えられており、角を持つ怪物「センゲ」と共に森に来る生物を殺すと信じられていました。
ツチノコ
引用元:https://www.都市伝説.site/
ツチノコは日本でもとても有名なUMAのひとつです。
漢字で「槌の子」と書き、槌(ハンマー)に似た、胴の太いヘビだと言われています。
北海道と西南諸島を除く日本全土で目撃例があり、ツチノコ以外にもバチヘビ、ノズチ、タテクリカエシなどとも呼ばれます。
伝えられている生態も日本酒やスルメ、味噌、焼いた頭髪の匂いを好む、猛毒がある、シャクトリムシのように這って進む、尾をくわえて身体を丸め、転がるように進むなど様々です。
ツチノコの名が全国に広まったのは1972年に新聞で連載された『すべってころんで』という小説がきっかけとなりました。
ツチノコの正体については諸説あります。
その中でも最も濃厚なのがアオジタトカゲというトカゲと誤認した説です。
アオジタトカゲは胴が太く、四肢の短いトカゲで、遠目から見れば確かにツチノコの外見的特徴と一致します。
現在のツチノコの目撃例は1970年代以後に集中していますが、アオジタトカゲは1970年代に愛玩動物として日本に持ち込まれており、それが逃げ出した、捨てられたと考えると矛盾はありません。
このことからツチノコ=アオジタトカゲ説を主張し、幻の生物ツチノコなどはいない、と主張する人もいます。
ただし反証もあります。
ツチノコは縄文時代の遺跡からもその形を模した土器が出土されるほかツチノコについての記述自体は『古事記』や『日本書紀』にも存在しています。
アオジタトカゲであれば、このようなことはあり得ません。
多くの史料が残されていることから、ツチノコはアオジタトカゲとしてか、はたまた昔の絶滅危惧種か、どういった形かは分かりませんがどうやら実在したことは確かなようです。
現在も生き残っているのかは定かではありません。
まとめ
今回は実在する、かつて伝説の存在だと信じられて生物について紹介しました。
19世紀から20世紀にかけては、噂話に過ぎなかった生物の実在が次々と確認される時代となりました。
現代でもいわゆるUMAを筆頭に、まだ存在の確認されていない生物は数多くいます。
私たちの技術が発展することで、今後再び伝説の生物の実在を確認する時代が来るかどうか非常に楽しみです。