憎い相手に送り付けるだけ。
ただそれだけで、相手の家系を根絶やしにできる恐るべき呪物『コトリバコ』。
その作り方もまた陰惨を極め、やがては作り主すらも蝕む禁断の箱。
とある地域に伝わる危険な呪物についてご紹介します。
コトリバコの概要
語り部:俺(代々神主を務める家系の友人Mの話)
時期:2005年6月
舞台:島根県讃岐の島 山間部/松江市鹿島町・安来市説あり
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俺は時々神主な友人Mと女の子数人で飲み会をすることに。
S(女)が面白いモノを自宅の納屋で見つけたと言って持って来た。
それを見た瞬間、Mは『ヤバイ』と断定。
Sが持って来たのは20㎝四方の寄せ木細工みたいな木箱。
Mは父親に電話をかけた。
『コトリバコを友達が持ってきた。シッポウだ』
俺にはわからないことを言いながら泣いているM29歳。
相当ヤバイものなのだろう。
Mは自分の指を切って血だらけの指をSの口に突っ込み、さらに自分の血をコトリバコと呼んだ箱に密着させるように手をかざし、タオルで自分の手と箱を括って離れないようにしら。
Mの血と一緒に吐瀉物をぶちまけるS。
こうして何とか悪いモノを祓うことができた。
***
この後に、コトリバコとは何か?
何故それがSの家にあったか?
Mの神社とコトリバコの因果関係、部落の闇歴史などがかなりの長文で語られます。
コトリバコの歴史
始まりは江戸か明治とはっきりしません。
罪を犯して被差別部落に逃込んだ男が、庄屋に苦しめられている村人たちに『助けてくれたら恨みを晴らせる箱の作り方を教えてやる』と言ったのが始まり。
村人たちはよほど庄屋を恨みつらんでいたのか、男に出された普通ではない条件を全て飲んで箱の作り方を教わる。
コトリバコは漢字で書くと『子取り箱』。
コトリバコの作り方
①寄せ木細工のような綺麗な箱を作る
②箱を雌の動物の血で満たし一週間待つ
③血が渇き切らぬうちに中身を入れる
動物の血を満たして一週間の地点で引きますが、問題なのはこの中身。
《箱の中身》
嬰児:臍の緒・人差し指の先・腸から絞った血
7歳まで:人差し指の先・腸から絞った血
10歳まで:人差し指の先
つまり、コトリバコを作るには幼い子供を生贄に捧げなければなりません。
水子にしても五体満足で葬られることなく、指を切り落とされ腹を裂かれ腸を引きずり出されるのだから哀れなものです。
子供を殺してでも復讐してやりたい庄屋…どれだけ恨まれていたのやら。
《コトリバコの呼び名》
中身として何体の子供のパーツを入れるかで呼び名が変わります。
当然捧げる子供の数が増えるほど呪力が増しますが、7人を超えると製作者が途中で死ぬため『チッポウ』が限界。
ただし、最初に箱を伝えた男だけは8体使用の『ハッカイ』を所持。
村の子供を犠牲にしてハッカイを作成り、彼に献上することが箱の秘密を教える条件だったのです。
正に悪魔との取引です。
1体 イッポウ
2体 ニホウ
3体 サンポウ
4体 シホウ
5体 ゴホウ
6体 ロッポウ
7体 シッポウ(チッポウ) 原話に出て来るのはこのチッポウ。
8体 ハッカイ
コトリバコは憎い相手の子孫を根絶やしにする呪いなので、相手の子孫が多ければ多いほどコトリバコのグレードもアップする必要がありました。
コトリバコの使い方
贈り物だと言って呪いたい相手に送り付けます。
この箱を側に置いておくだけで、その家の女子供は腸が引き千切れて死に絶えます。
パズルのような寄せ木細工は、女子供が喜んで遊ぶことを見越した上での加工。
爆弾をヌイグルミの腹に仕込み、敵の子供に持ち帰らせるような陰湿さが窺えます。
都市伝説原文でも、Sは呪いの箱とも知らずに『面白い細工箱』で楽しく遊んでいました。
もしパズルの才能があって、箱を開けることに成功してしまったらと思うと恐ろしいですね。
コトリバコの管理
コトリバコは送られた方のみならず、その呪力の強さ故にいずれは作った人間をも祟ります。
そのため、作った人々は難を逃れようと用済みの箱の処分を神社に依頼しました。
しかし、あまりに強すぎる呪いをすぐに解くことは神主にも出来ず、100〜140年近くもそれぞれの家で管理して呪力を薄めてから処分することに取り決めが交わされます。
先に紹介した原話のMはそうした神社の末裔であり、Sはかつてコトリバコを作った家の末裔だったのです。
お話の中では、どの家がどのレベルの箱を持っているか管理台帳をつけて漏れなく処分していったことになっています。
類似した伝承
讃岐には漁師が海で網にかかった綺麗な箱を持ち帰って開けてみたら、綺麗な女性の手首が入っていたという民話があります。
また、日本では故人の爪や髪を箱に入れて保管する習俗が特に呪法とは関係なく存在します。
中でも、もっとも近いと思えるのが岐阜県の壺。
間引いた赤子の臍の緒を壺に入れて山に埋めて処理していたそうです。
仮に間引かれた赤子が恨みを抱いていたとしても、産まれるまでこの世と胎児を繋いでいた臍の緒を隠すことで、赤子が家に戻れないようにするためです。
実際にその山を開発しようとすると、小さな壺がゴロゴロ出て来るとか…。
コトリバコは実在するか?
島根付近で実際にコトリバコを探したと言う記事は見かけますが、発見に至ったという報告は今の所上がっていません。
しかし、まだ見つかっていない=そんなものはデタラメと決めつけるのは如何なものでしょう。
コトリバコが都市伝説通りの危険なものであるならば、関係者は必死に隠すでしょう。
このようにネットに流出したら尚更。
また、本物のコトリバコを探すスレを読んでいると、コトリバコ、もしくは同類の禁忌の呪術・宗教・風習があってもおかしくない土壌であることがわかります。
呪術と部落差別
島根の北部・安来のあたりには、歴史的にかなり酷い差別を受けて来た集落が実在するそうです。
貧しさ故に間引きも多く行われていたことは想像に難くありません。
周囲から差別を受ける閉鎖的な村では、人々の心の拠り所・団結を強めるツールとして、独自の宗教・習慣・呪術などが発展しやすいものです。
そして差別の強いところほど、そうした独自の風習を余所者から隠します。
もし仮にコトリバコがどこかの集落にあったとして、彼らがそれを余所者に見せたり、その存在を肯定することはないでしょう。
2006年の噂
コトリバコは江戸もしくは明治初期の話ですが、2006年に島根の神社の倉庫を解体していたら出てきたという噂がありあます。
しかしこのコトリバコ、見た目的には変わった作りの細工箱であったため、何者かに盗まれてしまったそうです。
そのコトリバコがどのグレードだったのか、泥棒がどうなったのか、盗まれたコトリバコが今どこにあるかは不明とされています。
もしかしたら他県の神社や、あるいは個人宅にひっそりと実在しているのかもしれません。
コトリバコの元ネタ異説 ゴイアニ被爆事故
調べる内にある面白い考察を見つけました。
コトリバコが創作怪談だと仮定した場合、元ネタはブラジルのゴイアニで起き被爆事故ではないかというものです。
《事故概要》
二人の若者が廃病院に高価な品があるという噂を聞きつけ忍び込み、放射線源格納容器をそれと知らず窃盗。
二人は容器を解体屋に売却。
買い取った解体屋は放射性物質の入った容器を分解・被爆。
顆粒状のセシウムを取り出し、夜になると青白く発光する性質を面白く思い身内に配る。
カーニバルの衣裳に塗って光らせるつもりだったらしい。
当然セシウムを素手で弄繰り回したのだから、無事で済むはずがない。
また、直接触らずともセシウムを配られ家に置いていただけの者も当然被爆した。
二人の愚かな若者の浅はかな行動から、249人が被爆、20人が急性障害、4名が放射線障害で死亡した。
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大変痛ましく恐ろしい事件です。
ところでこの事件、コトリバコと似てるんじゃないか?
そうした説がネット上に上がっていました。
コバルト⇒コトリバコ
噂を聞いて廃病院から窃盗⇒噂を聞いて神社から窃盗(もしくは自宅・実家の古い納屋から持ち出す)
放射線源格納容器(高価な物が入っていそう)⇒細工箱(面白そう・綺麗)
中身は人を殺す力を持つセシウム⇒子供の身体の一部
触れた者が放射線障害で死ぬ⇒呪いで死ぬ
家族や近所に青白く光る死のプレゼントを配布⇒憎む相手に一見綺麗なコトリバコを送る
体力のない者から死ぬ⇒女子供が死ぬ
放射線障害で酷く苦しんだ果ての死⇒腸が千切れ血を吐いて死ぬ
多用のコジツケ感はなきにしもあらずですが、こうして並べてみると類似した部分が確かにあります。
いずれにせよ他所様の土地に不法侵入したり、モノを盗んだり、良く分からない盗品を好奇心で弄り回さない方が良さそうです。
読むと体調不良になる?
さて、ここまでコトリバコについてご紹介してきましたが、この都市伝説には女性が聞いたり読んだりすると腹痛を起こす、体調を悪くするという噂があります。
箱の本体に触れずとも、言霊によって軽い呪いにかかるということでしょうか。
信じるも信じないもあなたの自由ですが、体調は大丈夫ですか?
まとめ
日本各地、特に差別を受けてきた小さなコミュニティには土着文化・信仰が強く根付きます。
そして、それらの中には鬱屈した人々の思いを具象化したような呪術の類が実在したと言われています。
もしかしたら、コトリバコは『自分とは関係のない日本のどこかで行われていた話』ではなく、あなたの住む地域にも土地の古老が隠したがる何かがあるかもしれません。