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古代最強魚ダンクルオステウス!大きさ・噛む力・サメとの関係など

恐竜が地上で繁栄したよりもはるか昔、まだ陸上に生物が移行し始めて間もない古生代では海こそが生き物たちにとってすべてでした。

この海の中で最大・最強の称号を持った古代魚「ダンクルオステウス」がいました。

ダンクルオステウスは現存する魚類とは全く異なる特徴を持った非常に独特で面白い魚類です。

現代に生きている魚類とは異なる、滅んでしまった魚類であるダンクルオステウス、そんな謎多き彼らについて最近の研究結果を交えてご紹介します。

 

ダンクルオステウスとは

ダンクルオステウスはダンクレオステウスとも呼ばれ、地質時代でいうところの古生代デボン紀(約4億1600万~3億5920万年前)に現れた板皮類(ばんぴるい)という魚の一種です。

ダンクルオステウスは一昔前にはディニクチスと呼ばれていたので、世代によってはこちらの名前で知っている人がいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、研究が進んだことによりかつてディニクチスと呼ばれていた種類はほとんど全て「近縁種ではあるが別の種類」と認められダンクルオステウスとなりました。

現在、ディニクチスはその残った種類とダンクルオステウスの科名となっています。

新生代第三紀に現れたネコ類のディニクチス(ディニクティス)とは全く別物なので注意してください。

さて、このダンクルオステウスは古生代全般の海洋世界において最大・最強と言われる存在で、現在の北アメリカ、ヨーロッパ、北アフリカ、ポーランド、ベルギー、モロッコに生息していました。

引用;https://funnyjunk.com/

 

ダンクルオステウスの名前の由来

ダンクルオステウスはアメリカの古生物学者であるデイビット・ダンクル博士の名前にちなんで付けられました。

博士のファミリーネームである「ダンクル(Dunkle)」と骨を意味するギリシャ語の「オステウス(osteus)」という二つの単語を組み合わせ、「ダンクルオステウス(Dunkleosteus;ダンクルの骨)」と名付けられました。

ちなみにダンクルオステウスは種名ではなく属名で、現在ダンクルオステウス属は10種ほど発見されています。

ダンクルオステウス属で最大・最強と言われ最も知られているのはDunkleosteus telleriで、今回はダンクルオステウス・テレリをダンクルオステウスとし、ダンクルオステウス属全体の話も交えて紹介していきます。

引用;https://en.wikipedia.org/wiki/Dunkleosteus

 

ダンクルオステウスの大きさ

ダンクルオステウスの化石は体がサメ類と同じで軟骨で出来ていたため、大きな顎を持った頭胸部のみが発見されています。

その頭胸部から推測される全長はおよそ8~10m、体重は少なくとも1tはあったといわれています。

これはおよそ4階建てのビル位の大きさで、1mに満たない生物がほとんどの古生代の海の中では最大級の大きさだとされています。

現存する種で海洋生物最強であるホホジロザメは大きい個体でも6m程にしかならず、ダンクルオステウスはホホジロザメの約1.5~2倍の大きさがあった大型の魚類だったということになります。

引用;https://leotrex.artstation.com/projects/12anq

 

ダンクルオステウスは「甲冑魚」

ダンクルオステウスのように「甲冑のような骨の甲羅」をもつ魚を甲冑魚といい、ダンクルオステウスを含む板皮類はすべてこの「甲冑魚」に当てはまります。

ちなみに甲冑魚は分類群ではないので他の種類でこの表現をすることもあります。

ダンクルオステウスは頭部と胸部を骨で出来た鎧で覆っており、顎や口の中に歯はありません。

その代わりに顎の一部が鋭利で歯のような形状になっていて、歯の役割を果たしています。

この顎に生えている「歯のような作り」はあくまで「骨の板」であって歯ではありません。

一方で、骨の板の中に歯のような硬質の組織がある事が指摘されていることから「純粋な骨」とも言えません。

そのためダンクルオステウスの歯のようなものは「歯の祖先」という風に考えるべきでしょう。

ダンクルオステウスはこの歯のようなもので獲物に噛みついていたとされています。

引用;http://prehistoric-life.wikia.com/wiki/Dunkleosteus

 

ダンクルオステウスの噛む力

ダンクルオステウスの最強と言われる所以はその大きな顎の力にあります。

ダンクルオステウスの顎は特殊な構造になっていて、下あごが下がると自然と上あごも上がるようになっています。

つまり、特に力を必要としなくとも口が上下に大きく開くということになります。

2007年、アメリカのシカゴ大学のフィリップ・S・L・アンダーソンとシカゴのフィールド自然史博物館のマーク・W・ウエストニートはダンクルオステウスの噛む力をコンピュータ分析することに成功しました。

この研究結果によると、ダンクルオステウスは口先でおよそ4,400N以上、口の奥ではおよそ5,300N以上の力を出していたことが明らかにされました。

このままではわかりづらいので、これをテレビなどで噛む力を示すのによく使われる重量キログラム(kgf)で直して現存する種を並べてみると以下のようになります。

生き物の噛む力

人間…約40~60kgf

オオカミ…約152kgf

アリゲーター…約408kgf

ホホジロザメ…約165kgf(前歯)、約320kgf(口の奥)※1

ダンクルオステウス…約450kgf以上(口先)、約540kgf以上(口の奥)※2

この数値結果はダンクルオステウスが化石種と現存種を含めたすべての魚類の中で見ても最強クラスであることを証明しました。

また、全動物の中であっても上位に食い込める顎の強さの持ち主だったということがわかります。

※1ホホジロザメも最大種であれば約1,900kgfほどの噛む力がありますが、今回は一般的なホホジロザメの平均値を使用しました。

※2一部メディアではニュートンの数値と重量キログラムの数値が混ざってしまい、噛む力が5,000kgfあるという記述がみられますがそれは誤情報です。

引用;https://www.deviantart.com/

 

ダンクルオステウスの食性

ダンクルオステウスはその強靭な顎の化石から積極的な肉食魚類だということがわかっています。

その獲物は主に魚類やエビやカニ仲間である節足動物や貝類だったとされています。

ダンクルオステウスには歯がないので食べた獲物は咀嚼せずに丸呑みし、消化しきれなかった骨などは口から吐き出していました。

いわゆるフクロウのペレットのようなものですね。

また、ダンクルオステウスは同族もお構いなしに捕食していたようで、吐瀉物の化石から他のダンクルオステウスやダンクルオステウス属の骨が見つかっています。

もちろん「食べられっぱなし」というわけでもないので、ダンクルオステウス同士の争いもあったらしく、その甲冑のような化石には「噛み跡」が残っているものもあります。

このことからも、共食いもいとわない獰猛さを持ち合わせた最強の魚類であったと言えます。

引用;https://www.earthtouchnews.com/

 

ダンクルオステウスの弱点

最大・最強と謳われるダンクルオステウスにも弱点がありました。

1つ目は遊泳することです。

ダンクルオステウスは浮袋を持たず甲冑のような甲羅を持っていたため、海底でゆったりとしか泳げなかったとされています。

しかし、遊泳力に特化した素早い生き物がいなかった古生代ではゆっくり泳いでいても問題なく捕食は出来たようです。

2つ目は棘魚類の存在です。

棘魚類は尾びれを除くひれ全てに頑丈な棘をもつ魚類で、天敵でなくとも注意の必要な相手でした。

ダンクルオステウスが棘魚類を捕食してしまうと、鋭い棘がダンクルオステウスの口蓋に深く刺さってしまい喉を詰まらせて死んでしまうのです。

その証拠となる化石が各地で発見されています。

棘魚類は古生代最大・最強の捕食者でも間違えて食べてしまえば命に係わる苦手な相手であったといえます。

引用;https://www.artstation.com/jonnadon

 

ダンクルオステウスの絶滅理由

古生代デボン紀で最大・最強を誇ったダンクルオステウスはなぜ絶滅してしまったのでしょうか。

その理由は3つ挙げられます。

F/F境界絶滅事変

一番大きな理由は今から約3億7,200万年前のデボン紀後期に起きたとされるこの「F/F境界絶滅事変」※3です。

F/F境界絶滅事変はいまだ不明なことが多いですが、何らかの原因で地球規模の寒冷化が起きたとされています。

寒冷化の理由は大規模な氷河の発達による説、温室効果ガスである二酸化炭素が激変した説、隕石衝突説など様々な説がありますが、どれも証拠不十分で解明はされていません。

しかしこのF/F境界絶滅事変は海洋世界の82%、ダンクルオステウス含む板皮類は約65%を絶滅させてしまいました。

こういった絶滅事件は生態系の頂点に近ければ近いほど滅びやすいと言われていますので、ダンクルオステウスはここで大きくその数を減らしてしまったと考えられています。

しかし残ったダンクルオステウスもいるはずですが絶滅してしましまいました。

ではなぜダンクルオステウスたちは生き残れなかったのでしょうか。

獲物の減少

前述した通り、海水温低下によって海洋世界の82%が絶滅してしまいました。

そのため食料が著しく減ってしまい、ダンクルオステウスたちはその大きな体を保てなくなってしまいました。

獲物がいなくなってしまった海洋世界では索餌することも一苦労、必要な栄養を取ることができなかったと考えられます。

サメ類のライバル化

この大規模な餌の減少による食糧難下で、ダンクルオステウスは機動力の差でサメ類に生存競争で負けてしまったと考えられています。

ダンクルオステウスと同じ時代に生きていた初期のサメ類は既にダンクルオステウスよりも高い機動力を持っていました。

そのため、遊泳力の乏しい巨大魚ダンクルオステウスよりも、遊泳力があり小回りもきいた体のサメ類の方が有利となりました。

これによってダンクルオステウスは減った獲物を捕食する機会をさらに失ってしまい、結果完全に絶滅してしまったと考えられています。

※3「F/F境界絶滅事変」とは地質年代のデボン紀後期にあったもっと細かい時代である「フラスニアン(Frasnian)」と「ファメニアン(Famennian)」の間で起こったのでその頭文字をとって呼ばれます。

 引用;http://itsmth.wikia.com/wiki/Dunkleosteus

 

ダンクルオステウスの雑学

ダンクルオステウスはまだまだ謎の多い古代魚で、わかっていることの方が少ないです。

そんなダンクルオステウスに関する、まだ研究過程の最近の面白い仮説を少しご紹介します。

ダンクルオステウスは、実は人間の直系の祖先?

ダンクルオステウスを含む板皮類は、甲冑部分は硬い骨で出来ていますが、体の部分はサメ類と同じ軟骨で出来ています。

そのため分類学において、ダンクルオステウスを含む板皮類は軟骨魚類であるサメ類の近縁グループだとされてきました。

しかし、2013年の中国科学院の朱敏は硬骨魚類の特徴を持った板皮類を報告し、板皮類は硬骨魚類の祖先であると位置づけました。

私たち人間を含む陸棲脊椎動物は硬骨魚類の仲間から進化し、その硬骨魚類は板皮類から進化したということになるわけです。

つまり、板皮類が人間の直系の祖先で、ダンクルオステウスも私たちの先祖だったというわけです。

この発見は、これまで信じられていた常識を覆すレベルの大事件です。

しかし、この考えはまだ根拠や証拠が足りていないので確信にまで至っていません。

ダンクルオステウスは河川に行ける?

本記事ではダンクルオステウス・テレリをダンクルオステウスとして紹介してきました。

ダンクルオステウス・テレリは確かに海洋世界に棲んでいましたが、その仲間である他のダンクルオステウス属は河川でも猛威を振るっていたことが明らかにされています。

淡水性のダンクルオステウス属がいたということです。

しかし海水性のダンクルオステウス属も河川へ遡上していたのではないかともいわれています。

それが本当であれば、古生代デボン紀の陸上を除く水の世界は、ことごとくダンクルオステウス属によって支配されていたことになります。

ダンクルオステウスは体内受精?

最近の研究で、ダンクルオステウス属は脊椎動物で初めて体内受精に成功していたのではないかと言われています。

それは同じ板皮類であるマテルピスキスが体内受精に成功し「へその緒」をもっていたことから、同じ分類のダンクルオステウス属も出来ていたのではないかということです。

体内受精とは私たち哺乳類のように交尾によりメスの体内で精子と卵を受精させる方法です。

そして多くの魚類はこの反対の体外受精を行うので、ダンクルオステウスは古代魚にも関わらず非常に先進的だったといえるでしょう。

しかし、ダンクルオステウスの体内受精においてはまだ決定的な証拠が見つかっていません。

今後の研究・発見に期待しましょう。

引用;http://pravekysvet.blog.cz/1001/dunkleosteus-terelli

 

まとめ

いかがでしたか?

古生代の海を支配していた古代魚ダンクルオステウスは絶滅事件によって滅びてしまいましたが、その驚異的な大きさとパワーは現代の魚類に全く後れを取りません。

ダンクルオステウスがこの絶滅事件を乗り越え現代まで生き延びていたならば間違いなく脅威的な存在になっていたことでしょう。

もしかしたら、この時代の絶滅を免れ現存しているラティメリア(シーラカンス)のように深海でひっそりと生き残っているのかもしれません。

浮袋がない彼らにとって深海へ移動することは苦ではないはず、様々な課題はありつつも深海に上手に適応することができればあるいは…

まだまだ分かり始めたばかりの古代魚ダンクルオステウス、化石の発見・研究だけでなく生きた新発見があることも今後に期待したいものです。



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