工事現場などで見かけるダンプカーは、「ベッセル」と呼ばれる荷台をもち、これを傾けることで積み荷を一気に降ろすことのできる機械装置を備えたトラックのことを指します。
ちなみにダンプカーというのは和製英語で、ダンプトラック(dump truck)というのが正しい英名です。
日本ではダンプカーの最大積載量は11tまでと決められて、町で見かけるダンプカーは2t~10tほどの大きさのものがほとんどです。
しかし、世界では日本のダンプがまるでオモチャに見えてしまうほどの、何百tもの積載量をもったモンスター級のダンプカーが存在しています。
ここでは、私たちが驚くようなサイズの世界の超巨大ダンプカーをランキング形式で紹介していきます。
マイニングダンプトラック
引用:https://newswitch.jp
マイニングとは、英語で「鉱業」という意味で、マイニングダンプトラックとはその名の通り、鉱山や炭鉱、ダム建設など大規模な土木工事現場などで使用されるダンプカーです。
積載量は小さいものだと20tほどですが、大きいものだと300tを越えるものも存在し、このランキングで紹介するダンプカーも、すべてこのマイニングダンプトラックに分類されます。
マイニングダンプトラックは、オフロードダンプトラックやマンモスダンプとも呼ばれ、基本的に一般公道を走行することはありません。
メーカーや鉱業業界では、マイニングダンプと通常のダンプを明確に別物として扱っていて、アメリカではホウルトラック(haul truck)、ヨーロッパではダンパー(dumper)と呼んでいます。
マイニングダンプトラックは、巨大すぎるため分解して運ばれ、作業現場で組み立てられることもあります。
マイニングダンプトラックの有名なメーカーとしてはアメリカのキャタピラー社、ドイツのリープヘル、スウェーデンのボルボ建設機械、ベラルーシのBelaz、日本メーカーでは小松製作所や日立建機などがあります。
第7位 日立 EH5000AC-3 (最大積載量326t)
引用:http://www.hitachiconstruction.com
日立EH5000AC-3は、日本の建設機械メーカーで、日立グループの1社である日立建機製作所が製造している大規模鉱山向けのダンプトラックです。
EH5000AC-3は、国内最大級のリジッドフレームダンプトラックで、2012年2月から大規模鉱山向けに発売されました。
EH5000AC-3は総重量551t、全長15.51m、全幅9.6m、全高7.41m、最高速度56km/hで、定格出力2850HP(馬力)の4サイクル16気筒低排出カミンズQSKTTA60-CEディーゼルエンジンを搭載しています。
日立建機では、2008年に発売したEH3500ACⅡと2010年のEH4000ACⅡという2種類の大型ダンプカーを販売しており、この2つは世界中で広く使われ、最長稼働時間は2万時間を超え、高い性能を評価されています。
EH5000AC-3は、この2台にも採用された日立製作所製のIGBTインバータを使用したAC(交流)駆動方式をさらに改良したものを搭載しています。
AC駆動方式では、エンジンを使って発電機を動かし、その発電電流をインバータなどを使用して制御し、ACモーターを駆動して装甲するという方式です。
この方式では、高い駆動力と制動力を発揮できる上に、細かな制御を行うことが可能で、EH5000AC-3では日立グループが新開発した駆動制御システム「車体安定化制御」を搭載し、さらに制御力を向上させています。
第6位 キャタピラー 795F AC (最大積載量345t)
引用:https://www.cat.com
795F ACは、キャタピラー社(Caterpillar Inc.)から発売されている大型鉱山用ダンプカーで、アメリカのネヴァダ州で開催されるMINExpoに2016年に初出典されました。
キャタピラー社はアメリカの建設機械メーカーで、戦車などの走行装置で有名なキャタピラーはこの会社の登録商標で、英語で芋虫という意味です。
戦車の履帯はすべてキャタピラーと呼ばれることが多いのですが、正確にはキャタピラーと呼べるのはキャタピラー社の製品だけということになります。
795F ACは、総重量628t、全長15.14m、全幅8.97m、全高7.04m、最高速度64km/hで、出力3400HPのCat C175-16ディーゼルエンジンを搭載しています。
795F ACは、キャタピラー社が独自に設計・開発したAC電気駆動システムを搭載し、登坂路でも高速を発揮することができます。
1800万時間稼働可能なシャーシ設計と、300万時間稼働可能なパワートレーン(エンジンで発生した回転エネルギーを効率よく駆動輪に伝達する装置類の総称)設計が採用されており、生産性とメンテナンス性を重視した設計となっていて、整備作業のやりやすさはユーザーからも高い評価を得ています。
795F ACは、アメリカの銀鉱山や南米の石炭、銅鉱山など幅広く活躍し、発売当初からその稼働率は90%以上に達しています。
モジュラー設計を特徴とする795F ACは、用途にあわせたオプションもあり、鉱山専用設計である人気のMSDモデルとゲートレスの石炭用車体という2種類が提供されています。
第5位 Belaz 75600 (最大積載量352t)
引用:https://www.miningglobal.com
Belaz75600は、ベラルーシの建設機械メーカーBelaz社が製造している鉱山用ダンプカーで、Belaz社の7560シリーズの第1世代モデルです。
ベラルーシは旧ソ連の時代から機械工業が盛んな地域で、Belaz社はソ連時代の独立国家共同体(CIS)で行われた最大の投資プロジェクトがもとになっている会社で、1958年にBelazに改名されました。
世界中で使われている鉱山用オフロードダンプトラックの3分の1がBelaz社で生産されています。
Belaz75600は、世界中のあらゆる気候条件下で大規模な露天掘り鉱山から岩石の輸送を行うために設計されたダンプカーです。
Belaz75600は、総重量617t、全長14.9m、全幅9.6m、全高7.47m、最高速度64km/hで、出力3500HPの18気筒4サイクルターボチャージディーゼルエンジンのカミンズQSK78を搭載しています。
第4位 Terex MT 5500AC (最大積載量360t)
引用:www.schoolofrockmining.com
第4位には2台のダンプカーがランクインしています。
はじめに紹介するのは、アメリカのTerex社が製造している世界最大級の鉱山用大型ダンプカーTerex MT 5500ACです。
Terex MT 5500ACは、大規模な露天採掘の現場で使用されます。
Terex社は、もとはゼネラルモーターズの一部門からはじまった会社で、建設やインフラなど様々な業界へ向けて機械等を販売しているメーカーです。
現在は、買収されてキャタピラー社の一部門になり、Terex MT 5500ACもUnit Rig MT 5500ACというブランド名で販売されています。
MT 5500ACは、総重量598tで、全長14.87m、全幅9.05m、全高7.67m、最高速度64km/hで、定格出力3000HPの16気筒4ストロークディーゼルエンジンを搭載し、AC電気駆動システムを採用しています。
第4位 コマツ 960E (最大積載量360t)
引用:https://gazoo.com
もう一つの第4位は、日本の建設・鉱山機械メーカー小松製作所が製造する超大型ダンプトラックです。
960Eは、コマツグループで製造される最大のダンプで、コマツアメリカのイリノイ州ビオリア工場で開発設計されました。
日本国内で走行している標準的なトラックの大きさは2t~4tで、この180倍~90倍というと、どれほどの巨大さかがわかります。
960Eは国内メーカーの製造する最大のダンプカーとなっています。
960Eは、総重量635t、全長15.6m、全幅9.60m、全高7.14m、最高速度64km/hで、出力3500HPの18気筒4サイクルディーゼルエンジンを搭載し、コマツIGBT AC電気駆動システムを採用しています。
コマツでは、1995年から世界に先駆けて電気駆動の大型ダンプカー930E(最大積載量290t)を販売し、ベストセラーになりました。
960Eは、930Eの上位機種として開発され、エンジンは930Eのハイパワー仕様930-SEと同じものを搭載していて、このエンジンはアメリカやオーストラリアで25万時間以上の稼働実績という高い信頼性をもっています。
コマツ独自の大型機械管理システムである「VHMS(Vehicle Health Monitoring System)」を標準装備していて、ユーザー企業の本社など遠隔地からリアルタイムでダンプの状態をみることができます。
960Eは鉱山での資源運搬用に使用されるダンプカーのため、国内での導入例はありませんが、石川県小松市にある「こまつの杜」に展示されていて、その姿を実際に見ることができます。
第3位 Belaz 75601 (最大積載量396t)
引用:www.miningglobal.com
Belaz 75601はBelaz社の7560シリーズの最新モデルで、75600と同じく様々な気象条件のもと露天掘りの採掘現場や地下で採鉱された岩石・鉱物を運搬するために開発された超大型ダンプトラックです。
Belaz 75601は、総重量672.4t、全長14.9m、全幅9.25m、全高7.22m、最高速度64km/hで、出力3750HPのV型20気筒4サイクルディーゼルエンジンMTU20V4000を搭載しています。
Belaz 75601は、電磁式トランスミッションを搭載し、ディーゼルで発電機を回してその電力でモーターを動かすディーゼル・エレクトリック方式の駆動システムを採用しています。
第2位 キャタピラー 797F (最大積載量400t)
引用:www.cat.com
世界最大のダンプカーランキング、2位には同じ積載量の4種類のダンプカーがランクインしています。
はじめに紹介するのは、キャタピラー社が製造する世界で2番目に大きなダンプトラック797Fです。
797Fは、2008年に行われたMINExpoで初めて公開された、採掘現場用のダンプカーで、キャタピラー社の製造する最大のトラックです。
797Fは、総重量687.5トン、全長14.8m、全幅9.75m、全高6.52m、最高速度68km/hで、エンジンは前型である797Bで使用されていた3550HPから最大出力4000HPの24気筒Cat C175-20型 4サイクルターボ過給ディーゼルエンジンのターボチャージャー仕様に換装されています。
これによって、前型と同じ最高速度を維持しながら、さらに重い400tというペイロードを輸送できるようになりました。
強力かつ効率性の高いエンジンを搭載することによって、運搬量を増やしてコストを削減するという顧客のニーズを満たすことができるようになりました。
5300kgのミシュラン製XDRまたはブリヂストン製VRDPラジアルタイヤ6本を使用し、トランスミッション(変速装置)には、油圧トルクコンバーター制御式が採用されています。
他社ではトランスミッションにディーゼル・エレクトリック方式を採用しているため、キャタピラー社は一般車両と同じメカニカルトランスミッションを採用した大型ダンプトラックを製造している唯一のメーカーとなっています。
第2位 Terex MT 6300AC (最大積載量400t)
引用:www.pinterest.jp
2008年にアメリカのメーカーTerex社から発売された MT6300ACも797Fと同じ積載量をもつ最大クラスの鉱山用ダンプカーです。
MT6300ACも、797Fと同じ2008年にデビューしました。
2010年にBucyrus-Erie社がTerexの採掘機器部門を買収した後は、Bucyrus MT6300ACにブランド変更され、2011年にBucyrus-Erie社がキャタピラー社に買収されると、Bucyrus ACシリーズは、CaterpillarのUnitRigシリーズとして販売されることになりました。
MT6300ACは、総重量660t、全長14.63m、全幅9.70m、全高7.92m、最高速度64km/hで、定格出力3750HPの20気筒4サイクルディーゼルエンジンを搭載しています。
このエンジンはACオルタネーター(発電機)を備えていて、ここから供給された電力によって後車軸の両側に取り付けられたトリプル減速ギア付き電動モーターを動かし、これによって高い速度を発揮することができます。
第2位 リープヘル T 282C / T 284 (最大積載量400t)
引用:www.plugon.us
リープヘルT 282Cおよびリープヘル T 284は、リープヘル(Liebherr)社が設計・製造を行った超大型ダンプカーで、それぞれ最大積載量400tを誇る世界第2位の鉱山用ダンプトラックです
リープヘルはドイツのヴュルテンベルクにある建設機械メーカーを母体にした企業体で、世界12か国に生産販売拠点を置き、従業員数33000人のリープヘル・グループを形成しています。
リープヘルの技術の結晶として完成したT 282C / T 284は、どちらも総重量661t、全長15.69m、全幅9.679m、全高7.42m、最大速度64km/hで、出力3750HPの20気筒ディーゼルエンジンを搭載し、リープヘルIGBT AC電気駆動システムを採用しています。
エンジンには最大4023HPのオプションタイプも存在していて、より燃料消費を抑えられるエンジンを選択することができます。
さらに、エンジンがアイドリングしているときに燃料を節約することができ、燃料消費を最小限に抑えてパフォーマンスを最大化できるLitronic Plusシステムを搭載しています。
T 282C / T 284は、大容量タイヤに対応していて、耐久性のある軽量フレームを採用することにより、軽量化を実現しつつ高い最大積載量を実現しています。
第2位 コマツ980E-4 (最大積載量400t)
引用:www.directindustry.com
ランキング2位最後の1台は、2016年にコマツアメリカによって発売された、最新型モデルでコマツ史上最大機種となる980E-4です。
コマツ製最大となるダンプカーで、最大積載量400tを誇り、最大容量76㎥の巨大ベッセル(ダンプカーの荷物を積載する部分)を装備していて、大規模な採掘作業に適しています。
980E-4は、総重量625t、全幅10.01m、全高7.09m、最大速度61km/hで、出力3500HPの18気筒4サイクルディーゼルエンジンのコマツSSDA18V170を搭載し、GEデュアル絶縁ゲートバイポーラトランジスタIGBT)AC電気駆動システムを採用しています。
980E-4は、コマツアメリカのピオリア工場で生産され、この車両を導入することで鉱山開発の大規模化や経営の効率かに貢献することが可能になります。
980E-4は、カナダのオイルサンド(高い粘性をもつ鉱物油分を含む砂岩)地帯など過酷な環境下でも使用できることを目的に登坂性の向上など高い稼働能力を実現していて、無人運行システムを搭載することもできます。
第1位 Belaz 75710 (最大積載量496t)
引用:www.belaz.by
Belaz 75710は、大規模露天掘り鉱山などでの使用を目的に、ベラルーシのBelaz社が製造する世界最大のダンプカーです。
2013年10月に、ロシアの鉱山会社SDS-Ugolからの発注に基づいて開発されたもので、キャタピラー797FやリープヘルT 282C / T 284を抜いて積載量世界最大の座に輝きました。
Belaz社は75710を生産するために新工場を立ち上げ、最初の生産分はシベリア南西部にあるロシア最大の炭鉱地帯であるクズネツク盆地のチェルニゴヴィッツ鉱山に送られました。
正式な販売は2014年から開始されていて、Belaz社はこのプロジェクトのために総額6億4400万ドルを投入しています。
Belaz 75710は、総重量360t、全長20.6m、全幅9.87m、全高8.16m、最高速度64km/h価格は600万ドル(約6億3500万円)というまさにモンスター級のダンプトラックです。
Belaz 75710は、出力2300HPのターボコンプレッサー付き16気筒ディーゼルエンジンMTU DD16V4000を2基搭載し、シーメンス製MMT500ドライブシステムと2基のACオルタネーター、4基のACトラクションモーターによって接続するという駆動システムを採用しています。
燃料消費量は100㎞あたり1300ℓとされていますが、燃料を節約するために1つのエンジンだけで走行することも可能です。
引用:www.belaz.by
ミシュラン製スーパーサイズ・タイヤを8個装備し、交流電力を動力とする電気機械式トランスミッションを採用しています。
いくら巨大なダンプカーをもっていても、運転が難しければ意味はないといわれますが、ドライバーがその巨大さに慣れるのに時間がかかるものの、Belaz 75710の運転操作は比較的簡といわれています。
Belaz 75710は、重量の重さからくる燃費の低下や、複雑な駆動システム、ベッセルが比較的浅いために大きさの割には積載量が限られることなど、いくつかの問題点も指摘されています。
しかし、世界最大のBelaz 75710がもつ驚異的なペイロードにはやはり大きな魅力があり、本家のベラルーシでは切手のモチーフになるなど人気も高く、これからも世界で活躍していくダンプカーです。
まとめ
以上、世界最大のダンプカーを紹介してきました。
多くの人にとって、ダンプカーは工事現場などで見るだけで、自分で運転したり乗ったりすることは一生ない乗り物です。
さらに、ここで紹介した超巨大ダンプトラックになると、国内では目にする機会もなかなかありません。
私たちにとっては遠い世界の存在であるこうしたダンプカーも、世界の鉱業地帯ではなくてはならない存在ですし、こうした車両たちの活躍が巡り巡って私たちの生活に関わっていることもあるかもしれません。