古今東西、文字通り数え切れないほどの本がこれまで書かれてきました。
Googleが2010年に行った調査によると全世界の本の総数は1億2986万4880冊に上ると言われています。
現在では電子書籍なども増えたのでその数はもっと大きくなっていることでしょう。
しかしその中には私たちの想像を超える、不思議で奇妙なものもあるのです。
今回はそんな不思議な本を紹介していきます。
ヴォイニッチ手稿
引用元:https://occultec.com/
ヴォイニッチ手稿は1912年にイタリアで見つかった古文書です。
ポーランド系アメリカ人であるウィルフリッド・ヴォイニッチが発見したことからヴォイニッチ手稿と名付けられました。
執筆された時期は15世紀ごろであると言われ、240ページにもおよぶ羊皮紙に現代の文字とは異なる特殊な言語と奇妙な挿絵が描かれています。
文章は解明されていませんが、言語学的に解析をした結果デタラメな文字列ではなく意味を持った何らかの言語で書かれているとは判明しています。
また挿絵も植物のスケッチらしきものが多いのですが、そのどれもが類似するもののない架空の植物であると分かっています。
ヴォイニッチ手稿に何が書かれているのかは長らく研究の対象となっており、手稿に使われる言語の元となった言語もヘブライ語からラテン語、シナ・チベット語族まで様々な説が出ています。
第二次世界大戦中、旧日本軍の使用したパープル・コードなど数々の暗号を解読してきたウィリアム・フリードマンもヴォイニッチ手稿の解読を試みましたが、成功はしませんでした。
また解読そのものができない、アウトサイダー・アートの一種であるという説もあります。
現在ヴォイニッチ手稿の原本はアメリカ・イェール大学のバイネキ稀覯本・手稿図書館に収蔵されており、インターネットから閲覧が可能になっています。
死海文書
引用元:http://enigma-calender.blogspot.com/
1947年に死海の北西部にあたるヨルダン川西岸地区のヒルベト・クムランを含む12の洞窟で見つかった972の写本の総称を死海文書と呼びます。
文書は大部分がヘブライ語、一部がアラム語やギリシャ語などで書かれており、その内容は『旧約聖書』の正典本文、もうひとつが『旧約聖書』の外典、偽典、そして最後が「クムラン教団」という宗教団体の文書に分けることができます。
死海文書は第二神殿時代(紀元前516年~紀元前70年)のユダヤ教の実情を伝えるものとして歴史的に大きな価値を有しており、「二十世紀最大の考古学的発見」と呼ばれています。
『旧約聖書』最古のヘブライ語写本は925年ごろに書かれた『アレッポ写本』でしたが死海文書の発見によって1000年以上さかのぼることになりました。
死海文書の内容には現在には残されていない聖書の一節や祝日が書かれているほか、現代への予言が記されているとまことしやかに囁かれています。
オエラ・リンダの書
引用元:http://eden-saga.com/
オエラ・リンダの書(ウラ・リンダ年代記、オエラリンダ年代記)は紀元前2194年から紀元803年までの古代ヨーロッパの歴史や宗教、神話について書かれた写本です。
船大工のコルネリウス・オヴェル・デ・リンデが古フリジア語(オランダ、ドイツの北部沿岸地域で使われていた言語)で書かれた写本の存在を明らかにし、1872年にアマチュア古典研究家のヤン・ゲルハルドゥス・オテマが翻訳して発表しました。
オエラ・リンダの書ではフリーズ人(古フリジア語を使っていた民族)はキリスト教以前に唯一神ヴラルダを讃える独自の宗教を信仰していたことやアトランティスについて触れられています。
コルネリウスは自分を古フリーズの貴族であると思いこんでおり、この書もそんなコルネリウスがフリーズ人の優越性を示すために書いた偽書であるという説が一般的です。
しかしこの書が与えた影響は決して小さくありません。
1933年にはドイツ民族至上主義者のヘルマン・ヴィルトが「北方民族の聖書」としてオエラ・リンドの書のドイツ語版を出版します。
翌1934年にはこの書を巡ってベルリン大学でディスカッションが行われ、これを機にナチスのシンクタンクとして知られるアーネンエルベが設立されました。
また神智学を創始したヘレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキーも根源人種論という考えでこの書に影響を受けたことが示唆されています。
レヒニッツ写本
引用元:https://kuippa.com/
レヒニッツ写本は200以上の記号と挿絵で構成された写本です。
ハプスブルク帝国のロホンツという街で発見されており、ロホンツは現在ハンガリーのレヒニッツという名前に変わっているためレヒニッツ写本と呼ばれますが、正式名称としては「レヒニッツ市の写本」を意味する「ロホンツィ・コーデクス」というほうが適切です。
挿絵を見る限り宗教的な内容を記していると考えられているのですが、記号の解読が進んでいないので内容は不明です。
写本に書かれる記号はアルファベットよりもはるかに多いため、日本語のひらがなのような音節文字が使われているとも漢字のような文字が使われているとも言われています。
言語もハンガリー語やダキア語、ヒンディー語など諸説あり、解明されていません。
この本がいつ書かれたかも明らかになっていません。
紙は1530年から1540年ごろに作られたヴェネツィア紙というものだと判明していますが、それよりも後の時代に執筆された可能性もあります。
歴史上明らかになっている中でこの書の最古の所有者はハンガリーの貴族であるバッチャーニ・グスターフ伯爵で、伯爵家による1743年の蔵書目録に「ハンガリー語の祈祷文・12折り判本一巻」という記述で登記されています。
しかしこの記述が果たしてこの本を指すかは不明です。
ハンガリーの学者はこの本をリテラーティ・ネメシュ・シャームエルという悪名高い贋作作家による捏造だとみなしていますがあくまで説のひとつに過ぎません。
現在レヒニッチ写本はハンガリー科学アカデミーに保管され、マイクロフィルムの形で閲覧することができます。
ヒュプネロトマキア・ポリフィリ
引用元:https://blogs.yahoo.co.jp/
ヒュプネロトマキア・ポリフィリ(ポリフィルス狂恋夢、ポリフィロの夢)は1499年にヴェネツィアで出版されたインキュナブラ(揺籃印刷)です。
インキュナブラの中でも初期の作品ですが緻密な木版画の挿絵があり、ルネサンス期を代表する作品となっています。
ヒュプネロトマキアとはギリシャ語でhypnos(夢)+eros(恋)+mache(戦い)を組み合わせたもので、タイトルを直訳すると「ポリフィロの夢の中の恋の戦い」となります。
この本はラテン語とギリシャ語、そしてラテン語に由来するイタリア語と、一部アラビア語やヘブライ語で書かれており、作品の内容は主人公のポリフィロが夢の中で恋人のポーリアを探し求めるというもので、15世紀の貴族に好評だった騎士道精神、宮廷の愛に即したものとなっています。
しかし作中はアレゴリー(寓意)に富んだ幻想的な夢を描き、ポリフィロはエロティックな幻想を追いかけます。
またこの作品は錬金術や建築学など幅広い教養を背景に描かれています。
作者は不明ですが、作中各章の冒頭の文字を通して読むと「POLIAM FRATER FRANCISCVS COLVMNA PERAMAVIT(修道士フランチェスコ・コロンナは心からポーリアを愛する)」となることから修道士のフランチェスコ・コロンナが有力だとされています。
ドグラ・マグラ
引用元:https://honcierge.jp/
ドグラ・マグラは1935年に夢野久作が発表した小説です。
構想・執筆に10年を費やした作品で、その幻想的で複雑怪奇な作風から小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』、中井英夫の『虚無への供物』と並び、「日本3大奇書」に数えられています。
あらすじとしては精神病院の時計の音で目覚め、記憶を失った主人公の「私」が法医学者の若林教授から、「私」が殺人事件に関わっていることを伝えられ、記憶を取り戻そうとするというものです。
筋立て自体はシンプルなものですが、「胎児の夢」、「脳髄論」などの奇怪な用語で肉付けがされており複雑怪奇さが増したうえメタフィクション的な要素も含んでおり、一読したものは精神に異常をきたすとも言われています。
ドグラ・マグラというタイトルはキリシタンの呪術を指す長崎の方言や「戸惑う、面喰う」がなまったものなど様々な説明がされていますが、細かな部分は明らかになっていません。
コデックス・セラフィニアヌス
引用元:http://blog.livedoor.jp/
コデックス・セラフィニアヌスはイタリアの芸術家であるルイジ・セラフィーニが、1976年から1978年にかけて書いた本です。
百科事典のような体裁で章立てされており、超現実的ななイラストをこの世界にない新しい言語で説明しています。
記数法が21進法の変種であること以外言語の解読は進んでおらず、内容は不明です。
異世界や平行世界のことが書かれているとも言われていますが、作者のセラフィーニはこの本について「ロールシャッハテストのようなもの」と解説しています。
この本はアマゾンなどの通販サイトで買うことができるほか、世界中の祭典を保存できるHolyBooks.comで無料でダウンロードすることが可能です。。
金瓶梅
引用元:https://www.kosho.or.jp/
金瓶梅は『水滸伝』の登場人物のひとりである武松のエピソードから派生して描かれる、『水滸伝』のスピンオフに当たる作品です。
パロディ元となった『水滸伝』、『西遊記』、『三国志演義』と並んで中国の四大奇書と称されますが、他の3つを見れば分かるように、この場合の「奇書」とは「奇妙な本」ではなく「世にまれなほど卓抜した本」という意味となります。
中心人物である潘金蓮、李瓶児、龐春梅からそれぞれ一字取ったものがタイトルの由来となっています。
金瓶梅は西門慶という豪商の生活を通して人間の愛欲や欲望などを描いた官能小説であり、たびたび発禁処分になるほどでした。
しかし衣食住や風俗に関する描写が非常に緻密で、金瓶梅の執筆された当時、すなわち明代後期の社会風俗を知ることのできる資料となっています。
赤の書
引用元:https://urag.exblog.jp/
カール・グスタフ・ユングと言えば、「コンプレックス」や「集合的無意識」といった概念やユング心理学(分析心理学)を創始した高名な心理学者です。
ユングは1914年から1930年の間ひどく精神が不安定になることがあり、そのときに見た幻覚や夢をノートに書き映し、自分自身を研究対象としていました。
この体験がユング心理学で言う「無意識との対決」、「自己実験」につながるのですが、このときの研究ノートに注釈やイラストなどを加え、新たにアレンジしたものが赤の書です。
赤の書には後のユング心理学のもととなる概念のほかにも文学や美術、宗教に関する内容が書かれています。
2009年から各国語版が出版され、日本では創元社が日本語版赤の書を刊行しています。
亞書
引用元:https://matome.naver.jp/
亞書は東京都墨田区の出版社「りすの書房」が2015年2月からインターネット通販サイトのアマゾンで販売していた本です。
A5版の480ページで、全132巻刊行予定、著者は「アレクサンドル・ミャスコフスキー」となっています。
1冊6万4800円もするこの亞書はハードカバーで装丁され、無作為にギリシャ文字やローマ字が並べられたページが延々と続きます。
この本は国立国会図書館が亞書の42冊分、合計136万円余りをりすの書房へと支払っていると判明したことがきっかけで話題となりました。
国立国会図書館には文化財の保護を目的に国内で流通するすべての図書を収蔵する制度があり、収蔵に際して出版元に本の定価の50%を代償金として支払うようになっています。
収蔵に際して内容を確かめることは検閲へとつながるためにできないため、でたらめに文字が綴られただけの亞書をオンデマンド出版することで国立国会図書館に収蔵させ、代償金で利益を得ることが可能になってしまいました。
りすの書房の代表は亞書を「パソコンでギリシャ文字をランダムに即興的に打ち込んだものなので、意味はない」としており、本そのものが立体的な美術品であるとしています。
著者のアレクサンドル・ミャスコフスキーも架空の人物で、すべてりすの書房の代表が書いたものだそうです。
国立国会図書館は亞書に文献としての価値がないと考え2016年2月2日にりすの書房へ代償金の返金請求をしており、2月4日までに返金が実施されました。
まとめ
今回は世界の不思議な本を紹介しました。
世界にはなぜ書かれたのか、どのようなことが書かれたのか分からない本が確かに存在しています。
読み解くことができない本には、いったいどのような内容やメッセージが書かれているのでしょうか。
あるいはもしかしたら、読み解くことができないもの、例えば未知の言語や文字に意味があるのかもしれません。
現在では未知の言語も言語学や人工知能によって解読が試みられています。
もし解読できたなら、私たちの常識がまたひとつ改められてしまうような大きな発見が待っているのかもしれません。